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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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校外学習⑤

 

 そしてそれから、すっかり落ち着いた赤竜を確認したノックは、他の生徒達にも馬車から降りていいと合図を出した。

 目を綴じじっと動かない赤竜を、生徒達は恐る恐るに遠巻きに見ている。

 落ち着いているとはいえ、流石に触れられるのはクロだけのようだった。


 ノックはそんな光景に目をやりながらポツリと呟く。


「……しかし不思議な子っすね、クロくんは」

「そうか?」


 シアンも首を傾げ、クロの方を見る。


「ええ。あっしの目がおかしいんでしょうかね? あっしにはクロくんが人間ってぇより、どうも気位の高い獣に見えて仕方ねえんでやさぁ」


 シアンは一瞬ギクリと顔を強張らせたが、直ぐにはぐらかすように笑った。


「まぁ、誰ともつるもうとせず、気まぐれなとこなんかは猫っぽいかもなぁ。ならイヴやケントは誰にでも懐く子犬系か?」

「いえ、そういう意味ではなく」


 ノックはシアンの軽口を切り捨てる。


「あっしの赤竜もそうでやすが、気位の高い獣ってのは自分の気に入った奴しか名を呼ばせやせんし、ちかずかせやしねぇ。ただそれにも理由があって、別に高慢な訳じゃなく、他の奴らより敏感に周囲からの敵意や危険を察知してしまうんでさぁ。そのせいで大勢との共同生活に馴染みたくとも馴染めない……ま、理性より本能が勝っちまうんでさぁな」


 シアンは尚も首を傾げてみせた。


「ふーん? だがクロには仲のいい奴らもちゃんといるぞ?」

「だがシアン先生顔の広さに比べりゃ、驚く程少ねぇ。で、さっきクロくんと馬車でその話しをしてたんですがね? あっしはふとこう思ったんでさぁ。―――この子は、気に入った奴以外にはまるで関心がない。そりゃもう“敵”か“餌程度”にしか見てねぇ獣の子……」


 と、その指摘にシアンが突然声を荒らげた。


「っんなわけ無いだろ! クロがオレ達を喰うわけねぇ!」

「ひっ?! んなっ、んなこたぁ当たり前でさぁ。ただ、そんな“獣”に似てるなって話で……」


 悲鳴を上げつつ慌てて取り繕うノックに、シアンはフンと鼻を鳴らし苛立たしげに腕を組んだ。

 まぁ実際のところ、その勘のよさに内心で青褪めていたのだけれど。


「す、すまねえ。変な事言っちやいやしたっ」

「全くだ。口に気をつけろよ」

「へぇ……」


 それから二人の間には暫し沈黙が流れた。

 やがて、じっとクロを見つめるノックにシアンが“ふぅ”と小さな息を吐きポツリと言った。


「……いきなり大声出して悪かったよ。クロの話しを聞いて心配してやってくれたんだよな」

「いやぁ、あっしの言い方も悪かったんでさぁ。クロくんが本当にいい子だってことは間違いねぇのに」


 シアンは謙遜することなくコクリと頷いた。

 例えクソ親父と呼ばれようが、シアンにとってはかけがえのない大切な息子なのである。


「―――ただねぃ、赤竜とクロくんがあまりに被って見えたんでさぁ」

「そうか? どこが?」

「外見じゃねぇっす」


 目を細め、赤竜とクロを見比べるシアンにノックは思わず突っ込んだ。


「まぁ例えば、自分がどこの群れにも属せないことを自覚してるとこっすかね。赤竜はあの強すぎる力で群れから弾かれたそうでやすが、クロくんにも何かあるようですねぃ。とはいえ、話してはくれなかったんで、それが何かあっしは知りやせんが」


 それからノックは、ピクリとも動こうとしない赤竜を優しい眼差しで見詰めながら言った。


「だけど赤竜はここに来て、かなり無理な我慢をしながら必死に自分を押し殺し、なんとか窮屈なこの居場所に収まろうと足掻いているんでさ。―――あっしには今のクロくんがそんな風に見えるんっす」


 獣達か一部の人間にしか心を許そうとしないクロ。

 シアンはそんなクロを見つめながら一人納得したように頷いた。


「そっか。……あぁ、そうなのかもな」


 ノックは赤竜に目を向けたまま肩を揺らせて笑う。


「ヒヒ、広い森で一人自由に生きた方が楽でしょうにな」

「あぁ、楽だろうな」


 シアンもクロから目を離さず頷いた。


 シアンも、なんとなく気付いていたのだ。

 ジャックグラウンドを出てから、クロがあまり笑わなくなったこと。そしてクロが今も学園生活に、どうやっても馴染めずにいることに。

 だがクロは一度だって“ノルマンを出ていきたい”とは言わなかった。

 だからシアンも、一度だって他の場所に行くよう促すことはしなかった。

 何故なら他の誰でもなく、シアン自身がクロにここに居て欲しいと望んでいたから。


「―――けど、それでもあいつがここに居てくれるんなら、オレはあいつが少しでも居心地が良くなるように何でもする。オレはその為にここにいるんだからな」


 そんな独りごちたシアンの言葉に、ノックも赤竜を見つめたまま頷いた。


「あっしもでさぁ」


 ―――この世界には今、懸命に何かを堪える者達がいて、命懸けでその想いを受け止める者達がいる。


「なぁノック。今度一緒に飲みに行こうぜ」

「あ、すいやせん。あっし酒はテンでダメでして」

「じゃあお茶でもしよっか」

「……女子っすか?」

「ちょ、それ偏見っ」

「いや、といいやすかメシとかでいいんじゃ……」

「え……お前オレの手料理が食いたいの? そっちの方がヤバくね?」

「いや、ですからねぃ……あぁもうメンドクセぃ」

「!?」


 こうして今日も調和の取れた平和な世界は、穏やかに時を刻むのであった。




 ◆◆◆ 



 余談になるが、その後クロと契約をする為やってきたキメラを見て、赤竜が再び興奮状態に陥り、駆けつけたルドルフに「頭冷やせこのバカ造が」と蹴り飛ばされるという事件や、キメラと初対面したルドルフが、挨拶がてら喧嘩を売ろうとしてイヴに怒られるなどという出来事もあったが、その日特殊クラスは死傷者を出すことなく無事学園に帰還したのだった。


 そして帰還後、シアンは常識人のメリーから「―――というか、あんなに危険な授業なら先に言っといてくださいよっ! 心の準備とか遺書の準備とか、あと身辺整理とか色々用意があるんですからね! シアン先生は教師としての、そして生命維持に対しての意識が低すぎますっ!!」などと数時間に渡る説教を受けたのは言うまでもない。








校外学習はここ迄です!



長々と読んで頂きありがとうございます



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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も楽しく読ませていただきました!! ケントくん… いいですね… マスターの捻くれが好きな僕としては物足りなかったですが、マスターもこうなる可能性があったのかと思うと、感慨深いです…
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