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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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校外学習④

 

 ―――リーン…… 


 クロが錫を鳴らし赤竜に語りかけた。


「お前、頑張って姿を現してくれたんだな。ありがとう、赤竜。大丈夫だから落ち着いて」

「グルルル……フーッ」


 錫の音につられ、落ち着きを取り戻していく赤竜。

 やがて赤竜が大きく息を吐いて目を瞑り、完全に気を取り直した所で、何とか攻撃を寸止めでやり過ごしていたユウヒがクロに駆け寄ってきた。


「クロ! 大丈夫か?!」

「あぁ。少し驚いただけ。元々敵意なんかなかったからね。もう大丈夫」

「いや、赤竜じゃなくてクロの心配してるの!」


 思わず突っ込むユウヒにクロはキョトンと目を瞬かせる。

 それから直ぐに、障壁展開を解いたケントもクロに駆け寄ってきた。


「流石だね、クワトロ君! あの炎を周囲の空気を真空にして消すなんて! もし水球でもぶつけて相殺していたら周囲が高温の蒸気に満たされて被害が拡大しているところだったよ。よく思いついたね」


 と、それにはイヴが何故か得意げに答えた。


「ふふん。クロはね、動物達の住処を壊すことが嫌いなの! ―――だけどクロ、真空を作り出すことなんてできたっけ……?」

「あぁ、昨日生まれたレイにお願いしたんだ。レイは(空気)の魔法が得意なんだ」

「へぇー! そうなんだ。ありがとね、レイちゃん」

「ピチュん」


 クロの肩に止まったリリマリス(レイ)は羽を揺らせ、無害な小鳥のフリで頷いた。

 その時、ふとクロが振り返りケントに目を向け、若干ふてぶてしい口調で言い放った。


「あと、ケント。“君”付けされんのウザイから“クロ”って呼べよ」

「……え?」


 クロは親しい者にしか愛称で呼ばせない。

 そして“設定”としてそれを知るケントは困惑し、クロの性格を知るイヴとユウヒはニンマリと笑った。


「や~良かったなぁ、ケントっ! このクラスでクロ呼びできるのって僕たち以外じゃマオちゃんくらいなんだよー」

「そーだよ! クロはこういうの不器用でね、通訳するとケントと仲良くしたいんだって。クロをよろしくね!」

「ちょっ、イヴ! 俺そんなこと言ってないっ!」

「え、いやでも待って……? 僕、昨日ここに戻ったばかりだし、クワトロ君……いや、クロとそんな接点なんて……?」


 困惑しながら記憶を探るケントに、クロは口を尖らせ同意を見せる。


「そーだよ。昨日肉持ってきてくれたくらいしか接点ないしっ」


 途端、クロを取り囲む三人がハッと大きく目を見開いたかと思うと、憐れみの眼差しをクロに向けた。


「―――……そっか。お腹減ってたんだねクロ」

「ごめんねクロ。不参加って聞いてたから、なにか自分で準備したかと思ってたの。まさか部屋でじっと我慢してたなんて……」

「餌付け、か……まさかクロにそんな攻略法があったとは」

「餌付け違げぇし!」


 クロがムキになってケントに言い返す中、三人はおかしそうに笑い声を上げる。

 それからもクロは拳を握り締めて抗議をしていたが、その間も赤竜を撫で続けるクロの手付きは優しく、騒がしい中で目を閉じたままの赤竜は何処か嬉しそうだった。


 一方、何もしなかった大人陣のシアンとノックは、赤竜のそばではしゃぐ子供達を眺めながら、何処か誇らしげな顔で成長した子供達について感想を言い合っていた。


「ヒヒ、小っちぇえ頃から見込みあるとは思ってやしたが、とんでもねえ大物に成長しやしたねぇ。あの錫は何なんすか? そういや、ジャック・グラウンドで手荷物検査した時から持ってやしたねぇ」

「あぁ、あれは禊ぎの錫と言ってな、森の番人達が築き上げた信頼の音を奏でる事ができる代物だ。強い願いを込めで鳴らせば、獣達のバフ上げ効果もあるらしい」

「へぇ、そんなもんが……。それにしても、ああもあっさりあっしの赤竜を鎮めちまうとはねぃ。流石シアン先生の息子ってとこでやしょうか」


 そう褒めるノックの言葉に、ふとシアンの顔が曇る。


「いや、あの道を選んであそこまで進んだのは他でもないクロの力だよ。―――それにオレ、昨日からクロに“クソ親父”呼びされてて口も聞いてもらえなくなったんだ……。オレなんか……」


 そう言ってドンヨリと俯くシアンに、ノックはワタワタとフォローを入れた。


「い、今はそんな時期なんでさぁ! えっと14歳でやしたか? 寧ろ反抗期なんざ無事正常に成長してる証でさぁ!」


 シアンはドンヨリとしたままその気遣いに「ありがとう」とだけ返す。

 とその時、シアンとノックの所に副担任のメリーが駆け寄って来た。


「シアン先生、ノック会長! すみませんでした、私のせいであんなことになってしまいましてっ!」


 生徒達の命を危険に晒した大失態により、メリーは涙目で二人に謝罪してくる。


「本校に戻り次第、始末書の作成及び辞任の願い出を……」

「あぁ、いいですいいですそんなのは」

「は?」


 だがシアンのノリは凄まじく軽かった。

 いつも通りの笑顔を浮かべ、ひらひらと手を振るシアンにメリーは言い募る。


「いやでも、会長にあれほど言われていたのに私は……それに一歩間違えば全滅だったんですよ?!」

「でも馬が倒れたのなんて仕方ないでしょう。あ、馬の調子はどうです? 帰り走れそうですか?」

「ええ。気付け薬を飲ませ、目隠しを装着させましたので」

「へぇ、完璧な処置でさぁ。流石シアン先生のクラスの副担任を任される御方でさぁね」


 責めるどころか褒められる始末に、メリーは目をぐるぐるとさせながら二人に向かって叫びだした。


「な、何を呑気に……だからっ、皆死にかけたんですよ?! 授業! なのに赤竜に焼かれて!! せ、責任とか、せめて謹慎とか……なんかあるでしょう?!」


 だがシアンとノックはキョトンと目を瞬かせ、互いの顔を見合わせるだけ。


「……と言われましても、そもそもSSランクの魔獣なんか普通、遭遇したらまず生きて帰れないような奴ですからねぇ。こうして結果ちゃんと生きてますし、生徒達のいい経験になったってことで。ねぇ?」

「そっすねぇ、シアン先生から話が来た時から、生徒達の安全は保証できねぇって話しはしてたんでさぁ。体部損壊レベル3以上(※致死に至らぬが、自己修復不可能な部位欠損傷)程度は確実だろうとは言ってたんでやすがね、五体満足なんてラッキーっしたねぃ」

「ぇ? そんなの聞いてな……」


ぎょっとしてメリーはシアンを見るが、得意気なノックの話は止まらない。


「ヒヒ、あっしも今はまだ何とかどうにか生きてやすが、赤竜と暮らすようになってからはそりゃあ毎日が命がけなんでさぁ。まぁ、それでも大事な相棒との契約解除はしやしませんけどねぃ」

「ははは。確かに赤竜に認めてもらえたのに解除なんか勿体なすぎますよねぇ」

「そう! なのに、そんなことも知らないで見学申し込んで来る奴が多すぎるのは困りやさぁね。こっちはちゃんと警告してるのに怪我して文句を言うなんて……興味本位の奴が多すぎるんでさぁな」

「分かるぞ。大体そんな安全に寿命を全うしたいなら、そもそも始めっからSS級になんか近づくな! てゆうなー?」

「ヒヒ、っすね」

「そそ、そんな危険な授業だったんです?! これぇ!」


 シアンとノックがワハハと朗らかに笑い合う中、そんな二人をメリーは青褪めた顔で愕然と見詰めていたのだった。


 ……ノックによって語られたように、人間と共に在ろうとしてくれるこの赤竜が稀有な存在である事は間違いない。

 ただそれを笑って受け入れる側もまた“まとも”じゃないのだと、賢いメリーは誰から教えられたわけでもなく悟ったのだった。


 そして、事故とはいえ生徒達の命を危険に晒しながら何の罪にも問われることのなかったメリーは、そっと拳を握り一人心に強く誓う。


(―――私が生徒達を守ろう。もっと強くなって私が必ずあの子達を守らなくちゃ! この人達に任せてたら絶っっ対ヤバいからっっ!)


 こうして今日もまた、この悪魔のような男に魅入られた人間が己の無力を嘆いては、より強い力を求め深淵の縁にて人外なる力に手を伸ばそうとする。


 ―――そしてこれが12年後、僅か34歳で過去最年少のノルマン学園長となった伝説の天才熱血教師の物語の序章となったのであった。


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