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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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校外学習 ②

 ノックによって配られたプリントに書かれていたのは纏めるとこんな感じである。


 ―――先ず、テイムした獣は、相棒とはいえ決して下に見てはいけない。

 そもそもノックがテイムした若い赤竜も、年齢は既に300歳を超えているし、知能だって人間より高い。更にその硬い鱗に覆われた巨大な体には、一国の魔術師全員を集めた魔力ですら及ばないマナと生命力が詰まっている。到底、ひとりの人間に扱えるものではない、と。


 ノックはそこに書かれた事項に添って講義を進めた。


「まぁSSと呼ばれるクラスの彼等にとってあっし等人間なんて、基本小バエや小蟻と同等でさぁね。外にいる分にはまるで気にも止めないし、踏み殺しちまったって気付きやしねぇ。……だが、もしあっし等が間違っても彼等の領域を侵しちまった場合、彼等は持てる叡智の全てを使って全力であっし等を排除しに来やすよ。だから死にたくねぇなら、あっし等は彼等の住処には絶対に近づいちゃいけねぇ。絶対ですぜ?」


 と、生徒達の中からヒソヒソと怪訝な囁きが起こる。


「えー、知らずに通りかかるとかも駄目なの?」

「あ、薬草取りに行った人とかよく行方不明になったって新聞とかでよく載ってるよね。もしかしてあれもそうじゃない?」

「うわ、マジかよ。知能高いとか言っときながら考えなしの無差別攻撃じゃん」


 そんな囁きにノックは笑いながら注釈を入れた。


「ヒヒ、無差別と言いやすか……ま、あっし等がハエ叩きやら殺虫粉やらを握り締めて、家に入ってきた虫を何処までも追い回すのと何ら違いねぇやって話なんですがねぃ。皆さんも経験ございやせんか?」

「……あ」


 その例えに生徒達は納得したように深く頷いた。

 再び静まり返った教室で、ノックは生徒達を見渡し話を続ける。


「本来、そんだけ違いあるあっし等が、彼等と並び立つなんざ不可能な話。まぁ出来る事といえば、彼等の領域を侵さないように注意することくらいでやしょうね。事実、古来よりあっし等はそうして彼等と距離を取って同じ世界で生きてきやした。……だが、たまぁにそんな箸にも棒にも掛かんねぇ羽虫のようなあっし等を“近くで観察してみようか”なんて思い立った変わり者が出てくるようでしてね」


 と、そう言ったノックがシアンの方に目を向け、ヒヒっと笑った。


「それがシアン先生の相棒の黒麒麟であり、あっしの相棒の赤竜であり、今日ここにやってくるキメラというわけでさぁ」


 シアンは自分の相棒を思い浮かべ、苦笑しつつも「ま、確かに変わり者だよ」と納得したように頷いた。


「まぁそんな訳で、当たり前でやすが、あっし等が彼ら全てと仲良くなれるなんて事はありゃしやせん。いや、彼等の99.9%は、あっし等を何とも思わねぇ恐ろしい存在でさぁ。……だが変わり者もいて、極々稀ぇに仲良くなれる機会があることも確かなんでさぁね。んじゃ、もしそんな機会に巡り合った時はどうすりゃいいかってのが、今日の話の纏めでさぁね」


 ノックはそう言ってプリントを弾くと、トントンと自分の額を指で突いた。


「あっし等は彼らから見れば羽虫のような存在。だが幸いなことに、あっし等はそこいらの羽虫よりゃ少しだけマシな脳みそを持ってやさぁね。それで、ちいとばかり考えてみてくだせえ」


 生徒達はもう囁きあう事もなく、じっとノックの話に耳を傾けている。


「あっし等が彼等と関係を築きたいなら、まずは彼等を認め、共に過ごしてくれるその気遣いに感謝をすること。間違ってもテイムしてるからと言って従僕してるなんて思っちゃなんねぇ。そんで次に彼等に飽きられねぇ様に、常に恥ずかしくねぇ生き方ってもんを自分もする事。そうすりゃ無駄に彼等を崇めるなんてこともしねぇでしょうや。で、後は彼らの所作や声によく耳を傾けりゃ……ま、彼等もあっし等を羽虫の中でも“てんとう虫”や“カブト虫”位には思ってくれやさぁね」


 そう冗談を交えてノックは話しを締め括った。

 因みにてんとう虫とはいわゆる農家やガーデナーの皆さんから愛される益虫であり、カブトムシは言わずと知れた子供達の真夏の正義である。

 そしてこのネタは、ノックが近年書き上げた赤竜との共同生活を綴った“新常識(ニューノーマル)”というベストセラー本の帯に書かれている有名なネタの一つなのだった。


 やがて、ノックの穏やかでありながらも熱意の籠もった話しの後、誰からともなく教室の中には自然と拍手が湧き上がってきた。

 そして、その拍手を贈る者達の中でも取り分け大きく手を叩いているのがユウヒだった。

 ユウヒは頬を紅潮させ、目を輝かせながら懸命にノックに拍手を贈っている。


 ―――実はこの時ノックが語った“相手を尊重しつつ自らを高めて相手と並び立ち、そして真摯に相手の言葉に耳を傾け共に同じ時を謳歌するということ”とは、まさに過去に生きたドラゴンライダーのウィルや、ビーストクイーンのジュリ、そしてもふもふパラダイスを設立したジャックが掲げた理念そのものだった。

 更にそれは、大きな対戦の後に束の間に実現した“理想郷(アルカディア)”が在る為に守らなければいけなかったの絶対条件でもある。

 そして“理想郷(アルカディア)”とは、類を見ない大戦の終局といったような特殊な条件下でなければ叶うことのない幻夢だと言われていた。


 勇者アーサーや暁のライラの様な多くの英雄達が夢見ては、結局実現させることは叶わず諦めた“理想郷(アルカディア)”。

 なのにそれを、なんでもない一般人が幾つもの奇跡的な偶然を重ね、なんでもない平時のこの時に理想郷(アルカディア)を出現させようとしている。


 ノックと赤竜の友情の実績と、かつてシアンを扱き使い倒して集めた圧倒的資料での裏打ちで、ノックの提案する“新常識(ニューノーマル)”は、今や世界中の人々から注目を集め賛同されているのだった。


 その勇者ですら成し得なかった功績と揺るがぬ理念に、ユウヒが称賛を贈らない筈がなかった。


 ―――だけどまぁ、俺はこう思うわけだ。

 奇跡的な偶然が重なったとはいえ、そもそも奇跡とは既に存在するピースが神すら予測しなかった嵌り方をしたに過ぎない。

 つまりこの奇跡もまた、勇者や魔王、そして沢山の仔達が願い続けてここまで世界が成長出来たからこそ、起こるべくして起きた奇跡なんだ。


 そう。世界は今日も緩やかに、そして確実に成長し続けているのだった。




 ◆




 その後ノックによる座学を終えた生徒達は、3台の3頭立ての馬車に別れて乗り込み、広大な敷地を持つノルマン学園の校外へと向けて走り出した。


 3台の馬車は列を作ってガタゴトと郊外の森へと続く道を進む。

 先頭の馬車の御者台に座るノックの隣にはクロが陣取り、久しぶりに再開した気の合う友人と、獣達についての話しに花を咲かせていた。

 続く馬車を御するメリーも鼻歌交じりに繋がれた3頭の馬を操っている。

 まぁ、一国の王ですらそう安々と見ることのできない赤竜を、自分達の授業の一環として間近で見られるのだ。

 テイマーでなくともこんな機会、ワクワクしないはずがなかった。

 因みに今更だが、このメリーという教員。シアンが学園に復帰した当時、700名を越えるシアンのクラスの副担志願者の中から選出された超エリート天才新人講師なのである。

 馬車の操者資格は勿論、思いつく大抵の資格は取得しているし、文武に秀でた彼女に出来ないことは殆どなかった……―――のだが、このクラスの一員としてはそんなスーパースキルすら“常識範囲内”の一言に収まってしまうのであった。


 そして最後尾の馬車を御すのは当然シアン。

 そんなシアンの隣には、さも付き人であるかのようにケントが陣取り背筋を伸ばして座っていた。


「シアン先生。お疲れではないでしょうか? 手綱なら僕も握れますので代わらせてください」


 嬉しそうにそう言って手を差し出すケントに、シアンは爽やかな笑顔を浮かべて頷く。


「おう、ありがとな。だが断るっ」

「何故です?!」

「オレがお前を含めた生徒を引率するってことに給料が発生しているからだ」


 そのあまりに真面目で隙のない理由に、ケントは目を見開きシアンに詰め寄った。


「そ、そんな……。僕にはシアン先生の生徒という枠を超えることはできないのでしょうか? 僕はもっとシアン先生のお力になりたいのに!」

「うん。とりあえず卒業するまでは超えられないかな。……後、モエがすげぇ嬉しそうな顔でこっち見てるから、あんまりオレに近づかない方がいいぞ」


 シアンはそう言って馬車の覗き小窓を後手に指差す。

 ケントがハッと振り向くと、馬車の小窓からモエが無言でサムズアップを決めていた。

 賢者としての覚醒を果たしたケントはそれで全てを悟り、渋々シアンとの距離を取るとしょんぼりと押し黙る。

 と、メンタル起伏の激しいケントの様子を横目に、シアンがクスリと笑い呟いた。


「―――あいつも昔は憎まれ口を叩きながらも、そんくらいの可愛げはあったんだかなぁ……」


 そんなシアンの独り言を耳聡く拾い上げたケントが、不思議そうにシアンを見上げる。


「“あいつ”とは?」


 ケントの視線にシアンは一瞬ギクリと表情を強張らせ、慌てて話題を逸した。


「あぁ、いや気にすんな。あ、そだ。それよりさ、お前に聞きたかったことがあるんだが」

「はい! 何なりとっ」


 ケントはそれは嬉しそうに目を輝かせながら答えたのだが、次に投げかけられたシアンの質問によってその口は重く閉ざされてしまった。


「昨日話してたことなんだが、イヴが“暗い森”に行くと一体何が起こるんだ?」


 ケントは突然サァッと顔を青褪めさせ、あからさまにシアンから顔を背け目を泳がせる。

 馬車がゴトゴトと揺れる音を聞きながらシアンがじっと答えを待っていると、ケントは何度もどもり閊えつつシラを切り始めたのだった。


「っ……は、ぇ? いい、い、ィヴチャンちゃんが森に? ななっ、な、な何の事でしょぉかねぇー?」

「……おい。嘘下手か。何って、昨日お前が教員室で寝落ちる前に自分で言ってたんだろ?」


 シアンのツッコミにケントは頭を抱える。


「まさかそんなっ、き、記憶にないっ! ……いや、でもシアン先生がそこまで具体的に僕を問い詰められるからには、きっと何か言ってしまったんでしょう。―――あ、あの……その時僕はなんと言ってましたか……?」


 真っ青な顔でそう尋ねてくる尋常でない様子のケントに、シアンは首を傾げた。


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