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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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校外学習 ①

 

 ケントが無事に帰還したその翌日。

 シアンは一限目からクロを含めた全員に、その日行われる予定の校外授業について説明を行っていた。

 この校外授業とは、一昨日にシアンが急遽本来の授業内容を変更して計画したものである。


「―――という訳で皆。本日クロが魔獣の中でも最上位と言われるSSクラスのキメラと契約することになり、今後このクラスに連れてくる事もあるそうだ。教室スペースに関してはぶち抜き突貫工事で何とでもなるが、SSクラスともなれば接し方を一歩間違えば即死案件にも……ってそこ! 爪をいじってないでちゃんと聞け!」

「はぁーい」


 シアンの説明には鬼気迫るものがあるのだが、生徒達の反応は薄い。

 それでもシアンは根気強く話しを続けた。


「SSクラスで皆がよく知っている者を挙ると黒麒麟のルドルフもそのランクになる」


 と、その説明にリンタロウ辺りの表情が引き締まる。


「マジかよ。ルドルフさんとタメ張るとか、相当気合入った奴じゃねぇか」


 いつも理解が遅めのリンタロウだが、今回ばかりは誰よりも早く事の重大さに気付いたようだ。

 シアンも神妙な顔で頷く。


「そうだ。SSクラスの奴らとは、皆の予想を遥かに越える馬鹿強さなんだ。因みにそんな強さを持ちながら、こうして人間と普通に暮らせているルドルフは、寧ろ例外的存在だと言っておこう。というのもルドルフは大昔から人の営みにある程度共存をしてきた。更には過去にジュ……いや、まぁ人間の乙女を伴侶に迎えたこともあり、本来の性質から考えれば、驚異的なほど人間に寄り添ってくれている聖獣なんだ」


 シアンの説明に、ルドルフに指一本触れたことのない生徒達がざわつき始めた。


「あれで……寄り添うだと? シアン先生以外じゃクワトロとイヴちゃんしか触らせてないぞ?」

「いっつも凄い上から目線だし、多分僕等の事なんて部屋の角に溜まった掃き残しのホコリ程度にしか思ってないよね……」

「当たり前だろ。ルドルフさんにとって俺やお前らなんかゴミ同然だっ」


 シアンはそんな生徒達をを手で制し鎮めると、低い声で釘を差した。


「そう。リンタロウの言う通り、人間なんてどう足掻いても個人で出せる力はCランク程度。敵う相手ではないのだよ。ただ本来彼らは自身の持つ縄張りから出て来ることはないから、オレ達は今日まで安心して暮らしていた。―――だがしかし!」


 と、頬杖を突いたユメが、尚も爪を弄りながらあまり興味なさげにシアンを遮る。


「でもぉ、シアン先生ー。キメラって人間に造られた人造魔獣なんでしょ? 人間から生み出されて育てられたなら、案外人間に懐いてたりしてー?」

「甘いぃっ!」

「っ?!」


 突然のシアンの喝に、一瞬ユメの肩がビクリと跳ねた。

 爪を弄ることも忘れ、呆気に取られて黙り込むユメに、シアンは厳かな声で問い質す。


「主、曰く。“キメラには肉を裂かれ骨を砕かれた哀れな獣達の怨念が宿っている”と。―――なぁ、ユメ。キメラが誕生し自我を手に入れたその時。キメラは先ず何をしたと思う?」

「な、何って……? 知らないし……」


 シアンは恐怖心を煽る歪んだ笑みを浮かべながら、深い溜め息とともに震える声で言った。


「―――キメラはな。まっ先に、自分を世に生み出した人間()の頭を噛み砕いたんだ」


 まぁ間違ってはいないが、ちょっとしたホラーばなしのようだ。……いや、そもそもその噛み砕かれた親が幽霊だった時点でホラーだったか。

 ともかく。生徒達もその無慈悲な結末にドン引き気味に黙り込んだ。

 ここにきて漸くことの重大さを理解し始めた生徒達の様子にシアンは若干満足したようで、険しかった表情を緩めると話しを続けた。


「それに今のお前達レベルじゃあ、キメラの苛立ち程度の怒気でも失神する奴が出るだろう。勿論、クロを始め平気な奴も居るだろうが」


 その一部とは言わずもがなのイヴにユウヒだ。

 それからミアとグレイと後はケントもそうだね。まぁ無意味な争い事がないとはいえ、聖域には日常的にSS級と呼ばれる仔達がそこいら中を闊歩しているから、そこで5年を過ごしたケントはごくごく自然に、そちら側になっていたのである。


「と、いう訳で。今日は野生のSS級生物との正しい接し方について校外授業で学ぼうと思う。そしてその為に本日は特別講師をお呼びしました。はい皆、拍手〜っ!」


 そう言って妙なテンションのシアンが教室の扉を指差すと、生徒達の間からは乾いた拍手と「シアン先生、また授業別の人にぶん投げてる。……本当にあの人、伝説の教師なのか?」等という囁きが聞こえてきた。

 シアンがそれらを完全に無視して自らも拍手をしている。

 すると教室の扉がガラリと開き、背を丸めた小男がどうにも気不味そうに俯きながら、ひょこひょこと教室に入ってきたのだった。


 曲がった鼻に大きなコブのついたその男の顔を見て、生徒たちがヒソヒソと囁く。


「何? あの人。まさかゴブリンのハーフとか?」

「いや、でもゴブリンならSS級なわけ無いだろ……。誰?」


 そんな囁きに男は余計居辛そうに背を丸めたが、ふと視界の片隅でクロが自分に手を降っていることに気付き顔を上げた。

 そして一瞬驚いた様な表情でクロを見つめた後、歯並びの悪い黄ばんだ歯を見せ笑ったのだった。

 男が教壇の前に立つとシアンは男の紹介を始める。


「じゃあ皆、今日の講師を紹介する。こちらは我等ノルマン学園と研究開発に於ける共同提携を結んでいるテイマー協会の現会長、ノックさんだ」


 と、生徒達の間から今度は大きな拍手と驚きに満ちた囁きが上がった。


「え。テイマー協会の会長って言ったら、飛竜種最強の赤竜をテイムしたって人だよね?」

「そう、ニュースでやってた。すっごい有名人だよ!」

「映像には赤竜ばっかり映って会長さんはでてこなかったからね。全然気付かなかった。へぇー、こんな人だったんだ〜」


 同時にノックを見る生徒達の目から、奇異を見るような好奇心や警戒が消え、ノックはホッとしたように話しをしだした。


「へぇ。あっしが今紹介に預かったノックでさぁ。あっしもまだまだ赤竜との付き合い方については勉強中っすが、答えられることは何でも答えまさぁ。何でも聞いてやってくだせぇ」


 有名人……の割に腰が低く気さくなその話し方に、若い生徒達は早速口々に質問を始めた。


「はい! 赤竜との出会いは何処ですか?」

「森の中でさぁね。神の裁判所と呼ばれる関所に突然赤竜が現れたんでさ」

「赤竜に名前はありますか?」

「あるが教えられねぇっす。なんせ竜は人間より優れ、プライドの高い生物でやさぁ。気に入った者にしか名前を呼ばせねぇんす」

「成程、分かるぜ。ジャリ後輩共がいきなりタメグチできたらとりあえずシメる。そんな感じだろ?」

「うーん……? まぁ、そうなんっすかねぇ」

「ふむ。ノック先生はシアン先生とはどのような御関係にござるか?」

「あっし? ジャックグラウンドで調査研究をしてた頃、いろんな依頼を出してたっす。まぁ、仕事仲間っすかねえ」

「成程。しかしノック先生はテイマー協会の会長である上、有名人として多忙を極めているのでは? いくらシアン先生といえど、昨日一昨日に決めた授業の為に時間が割けるとは考え難い。……本当に? ただの仕事仲間?」


 モエのテイマーに関係のない追及に、ノックは観念したようにぶっちゃけた。


「いやぁ。ま、昔の話なんすけどね? 何でも器用にこなしちまうシアン先生に、あっしが調子に乗って訴えられるレベルの量の仕事を振っちまったことがあったんでさぁ。それで一昨日連絡が来た時に“受けてくれなきゃあの時の事を当時の依頼受諾完了証明(証拠)と共に労基に報告する”と言われやしてねぇ。今のあっしの立場や知名度を考慮すると、それはちょいと不味いなと思いやして……あ、これはオフレコでお願いしやすよ?」


 一瞬、生徒達の冷たい視線がシアンに集まる。


「……シアン先生って結構そういうトコあるよな」

「あるある。何でもホイホイ解決したり聞いてくれたりすれけど、後で代わりになんかさせられたり……」


 大いなる力には大いなる代償をというわけである。

 シアンは生徒達の視線を避けながら、話題を逸らそうと自らも挙手しノックに質問を投げ掛けた。


「はい! 伝説の魔獣ドラゴンをテイム出来た際の決めてはなんだったんでしょうか?」

「ひひ、またまたぁ。シアン教授もお人が悪い。そりゃあ歯磨きに決まってやさぁ」


 苦笑をこぼしながらそう答えたノックの答えに、シアンは目を瞬かせながら“はて?”と首を傾げた。


「……歯磨き?」

「そうでさぁ。シアン教授から“歯を磨くと獣達と仲良くなれる”とアドバイスを貰って直ぐの事でやした。このことについては態々恩を売ろうなんてされなくとも、あっしはちゃんと感謝してやさぁね」

「…………ん?」


 シアンは混乱した。

 歯磨きしてもドラゴンをテイム出来る訳ない事くらい、多分4歳児でも知っている。

 訳が解らず首を傾げたまま固まるシアンに、ノックは肩を竦めてやれやれと首を振った。


「全くこの人は。本当に無自覚に大層な事をしでかしてくれるんっすねぃ。―――いいですかい、クラスの皆さん。テイマーとは歯が命。よい子の皆さんは食事の後はしっかり歯を磨くんですぜぃ。さぁご一緒に“80歳まで20本以上の歯を残そう”!」

「「はい! “80歳まで20本以上の歯を残そう”」」

「……は、えっと“80歳まで20本以上の歯をのこそぅ”」

「……あれ? これ、なんの授業だっけ……?」


 生徒達の間にも混乱し始める者がちらほらいる。

 こうして、ノックの話しは全く的外れな纏め方に終わったが、まぁ大切なことであるのは間違いないからよしとしよう。

 そしてかくいう俺には葉しかないけどね!


 それからノックは持参した書類鞄から紙の束を取り出し、生徒達に配り始めた。


「それじゃあ生徒の皆さん、これからSSランクの獣に近づく際の警告事項について纏めたプリントを配りやす。これで基礎知識を学んだ後、校外に待機させているあっしの相棒、赤竜を皆で見に行きやしょうか」


 その校外授業の内容に、生徒達から歓声があがる。

 そしてその生徒達の中には、当然獣好きのクロの姿もあるのだった。





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