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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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異次元女子会1



 ―――夕闇迫る黄昏時。


 その日、一人の女生徒が今は使われていない旧校舎にそっと忍び込んでいった。

 女生徒の名はソラリス。

 学生達はとっくに寮に戻り、元々人気のない校舎は、まるで別世界のようにシンと静まり返っている。

 そんな中、古い木目の廊下を踏みしめるソラリスの足音だけが、旧校舎の中でキシキシと異様な響き音を立てていた。

 灯りのついていない校舎は暗く、ソラリスは目を凝らして前に進む。

 廊下を抜け、階段を登り、大きな姿見が掛けられた踊り場を通り過ぎ、そしてやってきたのは古い二階の女子トイレだった。


 ソラリスは緊張気味に一つ大きな深呼吸をしてトイレに入ると、奥から3番目にある“開かずのトイレ”と呼ばれる個室の扉を3回ノックした。


コンッ、コンッ、コンッ……



「マ~リィ〜ちゃん。あそびましょ……」



 すると固く閉じられていたトイレの扉が勝手にギィ……とゆっくり開いた。そして……


「はーあーいっ! お待ちしてましたソラリスさん。いらっしゃいです!」


 トイレの個室の中から、相変わらず小さい姿のマリーが元気に声を上げて姿を現した。


 ……お気付きいただけただろうか。

 そう。ここはダンジョンの入り口。そして本日開かれる女子会の集合場所なのである。

 まぁ、ダンジョンを開けるためのキー(手順)は如何なものかと思わないでもないが……。


 ソラリスは手土産に持ってきたお菓子の詰め合わせ袋をマリーに渡しながら尋ねた。


「今晩はお邪魔するわ。みんなはもう来てる?」

「うん、いつものメンバーは皆来てるよ!」


 マリーがそう言ってソラリスを招き入れたと同時に、中から他のメンバーが顔を覗かせた。


「あ、きたきた。ソラリス! 久しぶりだねぇ」


 とイヴ。

 続いて目元に布を充てた盲目のエルフ、クリスティーも笑顔を浮かべた。


「先に始めてたよ。剣術クラブお疲れ様、どうだった?」

「ふっ。顧問のライアン先生に完勝してきたわ。まぁ、昔はよくシアンやクワトロを相手にしてたから、余裕って感じね」


 そう言ってソラリスは腰に下げていた白銀の美しいレイピアを引き抜き、ピリッと構えてみせた。

 因みにソラリスが手にしているこのレイピアだが、以前ドワーフの旅先を訪れた際、ドワーフの長ギリクから譲り受けたものだった。

 好感度を上げ、長話を最後まで聞いたことによる特別報酬。所謂“隠しミッション”をクリアしたというやつである。

 目の前で澄んだ輝きを放つレイピアに、戦闘フェチのイヴは目をキラキラさせて魅入った。


「はぁー、やっぱりギリクさんのミスリル製のレイピアはいつ見てもキレイだねぇ」

「ふふん。そうでしょ。ローレン姉様とお揃いの武器だし、私の生涯の宝物だもの」

「あはは、ソラリスちゃんはローレンさんが好きだもんね。―――あ、そうだ。この前ローレンさんに会ったんだけど、近々こっちに来るからまたソラリスちゃんと手合わせしたいって言ってたよ」

「え!? 姉様が!? 本当にっ!」


 あれからもソラリスはローレンを慕い、手紙のやり取りを続けて良好な関係を築いていた。

 そしてローレンと遠い親類関係にあるというクリスティーとも、すぐに仲良くなったのである。

 ソラリスはほくほくと嬉しそうな笑顔を浮かべ、チャッとレイピアを仕舞うと、なんの迷いもなくその和の中に入っていった。


 ―――因みにこの女子会。訳を知る者からすれば「やべぇ」集まりとのことだった。

 それはかの世界を震撼させた大魔王や、古の悪魔長達の王ですらドン引く程の最強女子の集い。

 そしてそんな中に違和感なく溶け込めるソラリスは、シアンの見出した人材の中でも“史上類を見ない限界胆力女子”として、最近囁かれるようになっていた。


 そんな彼女らが集まっているダンジョン内は8畳ほどの小部屋で、真ん中にはお菓子やジュースが置かれた白い丸テーブルが置かれている。

 テーブルの周りには、形や大きさが様々なパステルカラーのクッションが、積み重ねられるように可愛らしく敷き詰められていた。……うん。女子だなぁ。


 ソラリスはイヴの隣にドカリと腰を下ろすと、慣れた手付きで新しいグラスに自分のジュースを注ぎつつ、イヴに近況を尋ねた。


「で、最近学校はどう? 楽しい?」


 イヴとソラリスは組が違う。更に言えば聖騎士を目指すソラリスは、シアンの勧めによって飛び級をした為学年も変わり、今は【正教会専修高等科・剣術専攻部】という学科で教会の教えと騎士の様々な基礎技量を学んでいた。

 そうすると、この広いノルマンでは校舎も寮も完全に違ってしまい、会う機会はまずない。 


 イヴはソラリスに、自分的にお勧めのお菓子を取り分けながら答えた。


「普通だよ。でも先生達は優しいし、楽しいよりの普通」

「そ。いじめられたりはしてない? 物を隠されたり、破かれたりは……?」


 ソラリスの指摘にイヴの表情に苦笑が浮かぶ。


「それはあるけど、皆がしてくるわけじゃないから平気だよ」


 イヴの答えに、お菓子にてを伸ばそうとしていたソラリスは指をゴキリと鳴らし、額に青筋を浮き上がらせた。


「アイツら……っ。こっちがやり返してこないと思って調子に乗って! イヴ、まさか我慢してるんじゃないでしょうね!? クラスが違うからって余計な気は使わずに、相談なさい? シアンに反撃が禁止されてるからって言うんなら、この私が返り討ちにしてあげるからね!」


 そう意気込むソラリスだったが、イヴはプレッツェルを噛りながらひらひらと手を振った。


「んーん、いーよ。だって物を隠されても索敵探知できるし、破かれても燃やされても、再生の魔法使えばどってことないよ。ねぇ? クーちゃん」

「そうだね。ハイエルフ(私の親戚)達は魔法を使わずにせっせと修復したりすることが多いけど、あれは趣味というか芸術の域だからね……。そこまで求めないなら、魔法の公式を組み上げる方が楽で間違いないよね」


 話を振られ、うんうんと頷くクリスティー。

 念の為一応は追記しておくと、普通の学生は再生の魔法の公式など組み立てられはしない。

 ソラリスは目の前の別次元のトークを「そう。ならいいわ」と言ってスルーした。


 イヴは新たなプレッツェルにチョコクリームをディップしながら付け加える。


「だから私物にいたずらされる分には全然問題ないの。ま、敢えて言うならトイレに入ってる時とか個室に水掛けらる方のやつあるじゃない?」


 イヴの口から溢れた質の悪い嫌がらせ内容に、ピクリとソラリスの眉が寄る。

 イヴは深い深いため息を吐いた。


「何ていうか、水圧足りないっていうか? 攻撃性皆無でつまんないんだよ。―――この前マリーちゃんが撃ってくれた超高圧ハイドロキャノンくらいの威力があればなぁ……っていつも思う」


 イヴの悲痛な声に、場がしんと静まり返る。

 そして数秒後、慰めるようにマリーがおずおずと声を掛けた。


「……イヴちゃん。そんなに気に入ってたなら後でまたやったげようか?」

「え、いいの!? やってやって! この前凄く楽しかった!」


 因みにその超高圧ハイドロキャノンというのは、マリーが編み出した、シアン程度なら簡単に圧死してしまう威力を持つ広範囲殲滅魔法の事だ。

 そんな二人のやり取り、ソラリスは勿論クリスティーも苦笑を浮かべた。


「そりゃイヴちゃんにバケツの水かけたって効かないのは分かっかるけど……ほら、主にメンタル的には大丈夫なのかなー……なんて?」

「んー。気にてないよ。だって学校ってこんなに人がいるんだもん。なんかしてくるのはその内の10人くらいでしょ?」


 ノルマン学園は学生総数だけで8739名が在学している中、高、大学迄の一貫校である。

 教員や研究員を含めればその人数は、更にその2倍近くまで膨れ上がるのだ。


「ならもうそれって、たまたまそういう人と目があっちゃったってだけなんだよ。それに、沢山の中には仲良くしてくれる子もいるから全然平気。気にしてない」


 ―――かつてはただ殻に閉じこもり、外界との繋がりを断ち切る事しかできなかった子は、今やずっと広い世界を見渡せるようになっていた。

 その成長への感慨深さに、俺の幹から樹液がホロリと溢れる。……後でマスターに回収してもらわなきゃ。

 そしてそんなイヴの成長を嬉しく見詰めるのは、集まった三人の女子達も同じだった。

 3人に見つめられ、イヴは照れ臭そうにこめかみを擦る。


「そ、それに私には、家族みたいに仲良くなった親友のマリーちゃんやクーちゃん、それにソラリスもいるからね。そんなみんなに逢えた事に比べたら、ちょっと絡まれるくらいの不運なんて十分打ち消されてるし……って、何恥ずかしいこと言わせてるんだよぅ?!」


 そう言ってイヴは自爆すると、顔を真っ赤にしながらソラリスの肩に顔を埋めた。

 そんなイヴを周りの女子達は嬉しそうに笑い、頭をこねくり回しながら口々に言う。


「ま、気にしてないならいいよ。イヴちゃんは可愛いなぁ」

「でも困ったときは絶対相談するのよ! 今だって私はイヴのお守り役なんだからっ」

「私達、イヴちゃんの味方だよ」


 髪をクシャクシャにされたイヴが漸く顔を上げた時、ふとソラリスが思い出したようにポツリと呟い。


「だけどイヴが気にしてないなら、クワトロのあれってどうなの? 最近別棟にいてもあいつの噂が聞こえてくるんだけど」


 ソラリスの言葉に、笑顔を浮かべていたイヴの顔がふと曇った。


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