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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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ノルマン学園 1年特殊組の日常4

 

 それはクロ達が入学して間もなく。まだ部活もなにもない頃。

 学校のルールなどまだよく分かっていなかったクロは、当然のように学食堂の調理場に立ち入り、ガラムに調理や製菓のノウハウを教えてもらっていた。

 昔からの付き合いもあり、ガラムも当然のように広い調理場にクロ一人増えるくらい問題ないと受け入れていた。……傍から見れば、入学したての一学生が保険医ならぬ、食堂のおじちゃんと仲良くしているだけの微笑ましい光景。―――だが、スキル【シェフLe1】を持つマオは、その光景に目を疑った……! というのが、事の起こりである。

 以来、マオは二人に「私も仲間に入れてほしい!」と、頼み込み同好会が出来、その後「そんなのズルい! だったらオレも仲間に入れてほしい!」と、何故かシアンがやってきて、ガラムを顧問とした、マオ、クロ、シアンの三人の部員を有する部活として、晴れて設立されたわけである。

 完全自由参加型。活動内容は家事仕事全般の研究・実践をするだけ。

 だが知る人はその部活を、この学園内で最もハードでコアな部活だと語る。

 また、一部の教師及び生徒達から『シアンは部員じゃなくてせめて副顧問だろう』というツッコミが入ったが、シアンは『ガラム先生に並び立とうなど畏れ多すぎます!』と、断固として譲らず、ノルマンから与えられた【自由】の特権すら利用し、部員枠に収まったのであった。


 そんな部員が部員な部活なので、事実活動しているのはマオ一人。

 マオはお盆に乗せていたグラスを二人の前に並べながら、少し寂しそうにクロに言った。


「ま、部長として活動しろとは言わないけど、たまには活動にも顔だしてよね。私だって結構頑張ってるってとこ、クロにも見てほしいよ」


 マオの言葉に、クロは小さく息を吐き目の前に置かれたグラスをじっと見つめた。

 シャンパングラスの中にはレモン味のソーダが注がれていて、ブドウと桃のコンポートに、ブルーリーにラズベリー、ブラックベリーが沈められている。そのフルーツの配置具合といえば、最早芸術的なハーバリウムのようだ。

 値踏みするようにそれをじっと見つめるクロを、マオは緊張した面持ちで見詰める。

 やがてクロは及第点だとでも言うように頷くと、フッと笑いマオに軽口を叩き始めた。


「……まだモヤシの根取りしてるのかと思ってたら、マシなやつ作るようになったじゃん」


 途端、マオもホッとしたように破顔すると、可笑しそうに笑いだした。


「根取りねー! 懐かしいわ。新入部員入ってもそこですぐ辞めちゃう“根取り地獄”! 素材の良し悪しを見極める為の目を鍛える特訓とはいえ、毎日200百袋のモヤシとの格闘は辛かったわぁ……」

「あははー、あの頃のマオ、マジで泣きそうだったもんな」

「あの根取り見て、クロのこと“マジ師匠!”って思ったもんねぇ」


 モヤシで盛り上がる二人の話についていけないユウヒは、若干引き気味に沈黙している。


「でも今はもう、デザートメニューを担当させてもらってるんだ。このフルーツカクテルは明日のメニューで出すつもりなの」

「ふーん、いいんじゃね。処理の面倒いものはコンポートにしてるから大量生産向きだし、ちゃんと旬を意識してる。ガラム先生のことだから、レシピだけじゃなく

 発注先も自分で開拓させられただろ」

「うん! 前に地理授業で習った生産地を元に、現地に足を運んで農家さんと交渉と契約してきたよん」


 明らかに家事の範疇を超えているがもはや何も言うまい。なんせ、ハイパークラスなのだから。

 彼等にしてみれば十円安い卵を求め、近所のスーパーをママチャリで5件ほどハシゴするような感覚なんだろう。


「……凄いね」


 細かな泡を立てるフルーツカクテルを見つめ、啞然と呟くユウヒに、クロは何でもないことのように指摘する。


「でもユウヒ。ガラム先生は契約農家どころか自分の農園持ってて、そこの監督管理までしてるんだぞ」

「ワァオ、流石だね。……ということは、もしかしてマオちゃんも自家栽培目指してたりする?」

「ええ勿論。私もいずれはこの世界で果樹園に農園、そらから牧場を構えたいと思ってるわ」


 サラリと即答したマオ。

 そしてマオは拳を握りしめて、その決意の程を語った。


「いえ、思ってるだけじゃない。これは最早野望よ。―――私はいつか広大な荒野に足のふみ場もない程の肥料(骸の山)を築きあげ、そこで育まれた作物(生命)を狩り尽くすの。家畜共からは一滴残らずその(体液)を絞り尽くしてバターに変える。(おや)()も関係なく締め殺し、骨の一片すら無駄にせず、食べ尽くしてくれるわ……!」


 魔王の……いや。マオの野望に二人から細やかな拍手が起こった。


「おおー、牛も飼うんだ。楽しそうだねえ」

「大成したら俺もバターとか買いに行くよ。頑張れ」


 まぁ、言っていることは至極真っ当で平和な夢だからね。

 ただそれは、かつて真の魔王がこの世界を牛耳ろうとし、歴代勇者を苦戦させるに至った理由と全く同じであることを三人は知らない……。


「えへへぇありがとっ……じゃ、ごゆっくり! 私まだ仕込み残ってるからもう行くね。よかったら後でそれの感想聞かせてよ」

「うん、絶対美味しいと思うけどね。頑張って!」

「しょうがねぇな。評価採点はしてやるけど俺は厳しいから凹むなよ」

「いやいや、クロの評価は参考になるから頼りになるよっ。じゃあねー!」


 マオはそう言って小さく手を振りながら、学食の裏口へと去っていった。

 因みにこのマオは、転生者の中で唯一クロから“クロと呼んでいい”とデレられた存在だ。


「マオちゃんっていい子だよなぁー。知ってる? 学園内でお嫁さんにしたいランキング一位らしいよ。幻の家事系スキルが一つ【シェフLv1】持ちだって一時大騒ぎされてたし」

「知らない。ってかユウヒって、女子皆にそんなこと言うよな? あんまりチャラチャラ八方美人してると、そのうち刺されるぞ?」

「え!? ちゃらついてないし!? ってか、皆んなじゃないよ。エルとかグレイちゃん姉妹は苦手だしっ」


 クロはフルーツカクテルを頬張りながら、ジト目でユウヒを見た。


「ふーん? ま、俺もそのスキルなら【Lv3】を持ってるらしいし大したもんじゃないよ」

「いや、そこは全力で否定するけど大したもんだよ」


 うん。大したもんだよ。


 そして二人はそんな話をしながら、間もなくデザートも完食した。


「ごちそうさまー。美味しかったぁ」

「ごちそうさま。なぁユウヒ。この後何か予定ある? 暇だったら中庭でサッカーしよう。エリアの使用申し込みしてるんだ」


 この学園は、事前に申請を出しておけば一部エリアを貸し切りにすることが出来るという仕組みがあった。

 本来は危険な魔法や実験の為に申し込まれることが多い。

 だがクロに関しては、自分の契約獣達を遊ばせる為に、よく申請を出しているのだった。

 ユウヒなら、クロの契約獣達ともある程度問題なく戯れられるレベルにあり、たまに一緒に遊んだりしていたのだ。

 だがその日、ユウヒは首を横に振った。


「わ、ごめん。この後、ココちゃんと図書館行く約束してるんだ」


 クロはまたジト目でユウヒを見る。


「また女子か……。いや、そうなんだ。分かったよ」

「ごめんね。あ、もしよかったらクロも一緒に行く?」

「俺はいいよ。獣達()と昼寝でもしてるから」

「そっか。じゃ、今度はサッカーしようね」


 申し訳無さそうにそう言って、そそくさと去っていくユウヒに手を振り、クロは一人中庭に向かって歩き出した。

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