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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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6年間のダイジェスト

 

 ―――それからの彼らの旅の話を少ししよう。


 ジャックグラウンドを出て海を渡り、ドワーフ達の山を越え、魔物達の国を見て回った彼等は、南東にある砂漠に向かった。

 そう。原初のダンジョンと呼ばれる地下大迷宮をその懐に抱えたグリプス砂漠である。

 そこで彼らは先ず、冒険者達やダンジョンから上がってくる品々の買い付けに来た商人達で賑わう砂漠の都市“グリムポリス”を軽く観光し、その後早速地下迷宮へと足を踏み入れた。

 シアンの完璧かつマニアックな案内の下、一行は迷うことなくダンジョンを進む。

 そして立ちはだかるモンスター達はイヴが喜々として打ち倒し、クロにミックやソラリスはそれは安全にダンジョンを最下層まで踏破したのであった。

 地下200に到達した彼等は、俺のオーナメントの破片を見物し、それからシアンは最奥にひっそりと置かれた“賢者の書”を見つけた。

 するとシアンは何度もその本に声を掛けては首を傾げる。

 そんなシアンの様子にイヴ達は「本が返事をしないのは当たり前。シアンは何をしているんだろう?」と不思議そうに囁き合っていた。

 たがシアンは子供達の反応など気にせず、どこか深刻な面持ちで「また来るよ。じいさん」と、最後まで声をかけ続けていた。


 その後グリプスのダンジョンを出た彼等が、次に目指したのは教皇と聖女のいる聖都シュノックだった。

 だが海の向こうのシュノックは遠く、その長い道中で彼等は移動民(ジプシー)達に相乗りさせて貰ったり、草原の民や、森の民、浜辺の民に宿を借りながら、その行程を進み続けた。

 その際の彼等の様々な住居様式や食事、歌や踊りは、子供達にとって多様な文化に触れる稀有な体験となったのであった。


 やがて到着したシュノックでは、かねてから約束していた通り、正教会本堂を貸し切ってダーク・エルフ達の挙式が厳かに執り行われた。

 純白の美しいドレスを身にまとったローレンが、小さいながらも完璧なエスコートをこなすフェリアローシアと誓いを交わし、手を取り合って花弁の舞う花道を歩く。

 ロゼを筆頭に多種多様な種族の面々に祝福される二人の様子には、イヴ達も子供ながらに“幸せという概念”のはっきりとした一つの形を思い描いていた。

 こうして身内だけの、かつてない程に盛大な挙式を見た後、彼等は聖都の中心区に建つギルド本部を見学したり、空に浮かぶ楽園(エデン)を眺めたりしながら一週間程の時をシュノックでゆるりと過ごした。


 それから彼等はまた船に乗りこむと大海を越え、鬼達の住処があると言われる東の小さな島国に向かった。

 そこでイヴは天洞山に住む鬼達によって、産まれて初めて完膚なきまでの敗北を味わう事となる。

 SS級の魔物ですら及ばぬ強い鬼達に、イヴは立ち上がれない程に転がされ、その到底手の届かない存在と自分との力量差に“悔しい”と言って一晩中泣いていた。

 だけどその後島を去る頃には、イヴは“また来たい”と言って名残惜しそうに笑っていたのだった。


 島を出たイヴ達は船で更に西に向かい、西のノルマン学園都市国家に対をなす、東の学びの地に足を踏み入れた。

 そこは険しい山中の修行道場。

 かつて西国からやってきた賢者が、文武や人としての道徳的思想を伝導し人々を育むために開拓した、という言い伝えを残す蓬来山だった。

 ―――ここで道を探し学ぼうとする者は皆“道士”と呼ばれる。     

 シアン達が蓬来山に来ると、そこ道士の一人が彼等にこんな話しを聞かせてくれた。


 “この蓬莱山の山頂の更に上には、開祖の賢者が浮かべた浮島“崑崙山”があり、そこに伝説の宝玉が安置されています。修行を積んだ道士がその宝玉に触れると、稀に宝玉が輝くことがあり、宝玉にその輝きを宿せし者は仙人と呼ばれるようになるのです。そして仙人は不老不死を得る事が出来る。―――……まぁ実際は仙人も寿命はありますが、そんな言い伝えがあるのです”と。


 イヴ達は不思議そうに道士の話を聞いていたが、その話しの間中、シアンだけはどこか所在なさげにソワソワしていたのだった……。

 そして話を聞き終えた彼等は、そこで道士体験なるものをして簡単な修業を受けて蓬来山を満喫した後、シアンに連れられ蓬莱山の裏手にある共同墓地に向かった。

 それは悠久の時を思わせる大樹の森に抱かれながら、整然と墓石が並ぶ静かな墓所だった。

 シアンが皆を連れてきたのは、その端にひっそりと置かれた一際小さな墓。

 誰が置いたのかも記されていないその墓石には、短く鎮魂の言葉が刻まれていた。 


 “―――ダンジョンで散った魂達が 善き輪廻の輪に還らんことを”


 子供達が首を傾げる中、シアンは誰かが置いたその無縁仏の墓に長いこと手を合わせていた。

 そして最後に、とても申し訳無さそうに「あいつにばっか任せて、本当に悪いと思ってるんだ……」と、そっと呟いたのだった。


 そして彼等が蓬莱山を後にして間もなく、季節は秋へと移り変わり、クロの誕生日がやってきた。

 イヴはいつか約束した通り、クロに手編みのマフラーを贈った。

 旅の道中、イヴはシアンに教わり少しずつ編み貯めていたのだ。

 黒く太い糸で編まれたそのマフラーは、あまり良い形の出来ではなかったが、クロはとても満足そうに冬中そのマフラーを首に巻いていたのであった。


 そうして一年。

 ミックとソラリスにとっては少しキツイと感じる行程だったかもしれないが、のんびりとした家族旅もとうとう終わりを迎え、終着の地ノルマン学園都市国家へと辿り着いた。

 因みに、この旅で彼らが訪れなかったのは“聖域”と“黒い森”だ。

 なぜ行かないのかと子供達が尋ねたところ、シアンは「聖域は“この世界“ではないから。そして、暗い森は“生きた人間”の踏み入るべき場所ではないから」と答えたのだった。


 新たな出会い。旧友達の新たな一面の発見。

 それらはイヴ達にとって、以前は恐ろしいほどに大きいと思っていたこの世界が、まるで庭のように感じるには十分な経験だったという。



 ―――そして春。

 子供達は無事に全寮制のノルマン学園へと入学し、シアンが受け持つ教室で、沢山の子供達と共に勉学に励み始めたのだった。

 ……まぁ、その子供達の多くが転移者(トラベラー)であった為、当初は多少のトラブルも起こった。

 しかしそれらは事前に決められていた各担当者達によって鎮められ、その時の被害といえばシアンの胃に穴があいた程度だったので、その話に関しては割愛しよう。


 こうしてノルマン学園で子供達は多くの人との共同生活を送りながら、5年間の初等部での学業をつつがなく修めたのだった。



◆◆◆




 ―――やがてイヴとクロが14歳となり中等部への進学を果たした頃には、二人もすっかり人としての生き方に馴染みきっていた。

 そんな二人にシアンもすっかり安心し、教員室で副担任の教員とお茶を啜りながら駄弁る余裕すら見せるようになっていたのである。


「ねぇシアン先生、聞いてくださいよ。さっきイヴちゃんと廊下ですれ違ったんですが、笑顔でご挨拶してくれたんです。生徒達の前で個人を褒めるわけにはいきませんけど可愛いですよねー、天使かと思いましたよぉ」


そうお茶を啜りながら報告するのは、茶色のもふもふな癖毛が特徴的な、23歳で特殊クラスの副担任を務める女教師、メリー・ミシュリフだ。

だが和やかなメリーの話の振りとは裏腹に、シアンは硬い表情で首を横に振った。


「いやメリー先生。あの子は天使なんかじゃないですよ」


 厳しい口調でキッパリと言い切るシアンに、一瞬副担任のメリーの表情が強ばる。

 張り詰めた空気の中、シアンは厳かな口調で神妙に言った。


「―――メリー先生、いいですか? あの子は天使ではなく女神なんです。まじでっ!」


力強いシアンの演説にメリーは破顔した。


「あははー、まじですか。相変わらずシアン先生の親馬鹿っぷりはやばいですねー」

「あはは~、まじですけど親馬鹿ではないですよぉー」


 シアンも釣られて破顔し、教員室はまた和やかな空気に満たされた。

 ……メリーは苦笑と共にシアンの話を流したが、シアンは間違いなく本気で言ってるし、実際別に間違ったことも言ってはいない。

 ただ傍から聞く分には、ただの目も当てられない非常に残念な親バカでしかなかった。


 メリーはまたお茶を啜りながらシアンにふと話を振る。


「そう言えばもうひとりのクワトロ君って、……小さい頃はどんな子だったんですか?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に年月立ちますね… いや、あったことがマジで楽しそう… ああ、結婚式か…いいですね 私は見に行ったことないんですが、お二人共、きっと素敵だったのでしょう あのお爺さんが喋らなくなっ…
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