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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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隠しダンジョン ㊥

 レイルさんの答えに啞然とするミック。

 だけどイヴは絶句するミックにヒソヒソと尋ねかけた。


「ねぇ、ミック。ダンジョンマスターって何?」

「あ、あぁ。えっと、―――ダンジョンは知ってるか?」

「ううん、よく知らない」

「そか。ダンジョンとはよく洞窟の中なんかに発生してる不思議な空間で、大抵迷路のようになっているんだ。更に、謎解きやトラップなんかが仕掛けられてる事が多い。―――で、その仕掛けが明らかに人為的なものなんで、いつの頃からか“この世界のどこかには、ダンジョンを創ってる奴が存在してる”って噂されるようになって、その存在をダンジョン・マスターって呼び始めたんだ」


 ダンジョンを創る者……ダンジョン・マスター。―――レイルさんが?

 俺はまさかと思いつつレイルさんを見上げたが、イヴが弾む声でレイルさんに言った。


「レイルさんはお薬だけじゃなくてダンジョンも作れたんだね。凄いね!」


 欠片の疑いもない。


「いやぁ、それ程でも」


 レイルさんもレイルさんで普通に照れながら謙遜している。

 直後、ミックがとうとうツッコミを入れた。


「ってかイヴ、順応早すぎるだろ!? ダンジョン・マスターだぞ!」


 イヴは人を疑うという事をあまりしない。

 父さんはよく俺達に“世の中には悪い人もいるからな”なんて言うが、イヴはその時は頷いてもやはり疑おうとしないのだ。

 そして今回も、ミックのツッコミにイヴは少し考える素振りをしたが、すぐに笑って言い返していた。


「でも、レイルさんはレイルさんだよ! ねぇ、クロ」

「うん」


 俺はそんなイヴが好きだった。

 イヴは昔の様にレイルさんに駆け寄り、目を輝かせながら質問を始めた。


「レイルさんはお仕事中、怖い顔するんだね。ビックリしちゃった。でもそれよりダンジョンってどうやって作るの? 私も作ってみたい!」


 ユウヒやミック達は物怖じせず訪ねるイヴを、不思議な物でも見るような目で眺めている。

 まぁ、イヴの好奇心とチャレンジ精神は俺も世界一だと思う。一度興味を持った事にはどんな難解な事にも、とことん追求していくのだ。

 そして、そんなイヴにジャックグラウンドの皆ははぐらかす事なく教えてあげていた。―――勿論、レイルさんもだ。


 レイルさんは手にしたクリスタルのキューブに一度目を落とすと、ゆっくりとした口調でイヴに説明を始めた。


「そうだね……ダンジョンを作りたいならまず、空間を認識し、理解しておかなければいけない。空間とは即ち無数の点の集合だ。線や平面や立体として捉えてはいけないよ。空間内を移動するなら点を繋ぎ、そこで初めて線という概念が生まれる。そして空間内で物質を存在させようとすれば、4つ以上の点を繋ぎ、立体をもとめなければならない。線で軌道を描き、立体を組み合わせる事で、世界やダンジョンといった僕らの活動領域が完成している訳だ。ここまでは分かるかい?」

「うんっ」


 レイルさんの説明に頷いたのはイヴだけだった。

 ソラリスとミックは眉間にシワを寄せながらヒソヒソと話をしている。


「……わかった?」

「いや、分かんない……。でもなんかすごい基礎中の基礎みたいに話してるな……」


 レイルさんは気にせず手にしたキューブをカシャリと捻り、イヴの目の前にブリキの馬車の玩具を出した。


「さて。じゃあ、この馬車の玩具が一つのダンジョンだったとよう。出来上がったダンジョンを動かすには、少し計算をしなければいけないよ。どの方向に、どのくらいの速度で、どの角度でどう動くのか」


 レイルさんがそう言ってまたキューブを撚ると、ブリキの馬車はキィキィと音を立てて進みだした。

 イヴが歓声をあげる。


「動いた!」

「そう。ダンジョンの中ではこの動力を生む計算を“時間”と呼ぶ。―――計算するんだよ。どう動き、何と連動し、何を考え、何を望むか……」


 レイルさんの話の途中、ブリキの馬車の扉が突然パカリと開き、中から何故かさっき消えたお店のおじさんが降りてきた。

 おじさんのサイズは俺の小指くらい。そして辺りを見回す表情には困惑と恐怖が浮かんでいた。


『な、なんだここは!? なんで俺の店がこんなに大きい……いや、俺が小さくなったのか? ―――な、何をしたお前ら……俺を一体どうする気だ!?』


 おじさんは俺達を化け物でも見るような目で見上げ震えているが、レイルさんはおじさんを一瞥しただけでまたイヴと話し始めた。


「人はこのサイズで出現させると、まずは驚きと恐怖に震える。それから状況を確認しようとし、今回は悲鳴をあげさせることにしたよ。その後は逃げる為の逃走経路を確認して辺りを見回すが、めぼしい経路が見つからないのでとりあえず手近にあった馬車の影に隠れる。……そんな風に計算して(時間を与えて)あげればこうなる訳だ」


 おじさんはレイルさんの言葉通り、ブリキの馬車の影で身を小さくしてカタカタと震えていた。

 ……ユウヒはダンジョンの中で創り出されたこのおじさんを“人形”だと言っていた。でも俺にはどうしてもそうは思えず、いたたまれなくなってレイルさんに言った。


「決められた通りの事をさせられてるだけなんて信じられない。ねぇ、レイルさん。もうやめてあげて。おじさんが可哀想だよ」


 するとレイルさんはキューブを捻り、ブリキの馬車と小さなおじさんをまたあの“光”に変えて消すと俺に言った。


「あのおじさんは間違いなく決められた通りに動いただけだよ。……だけどあのおじさんは動かされているとは知らず、自分がダンジョンの一部だなんて思いつきもしない。そういう風に作ったから」

「じゃ、おじさんはここで動いている間は“本物”の人間だって事……?」

「何を以って“本物”と定義するか……―――難しい質問だね。だけど昔、とある騎士も君と同じ答えを出してたのを覚えているよ。―――その時は喫茶店のおじさんではなく、お腹をすかせた子供だった。その子の役目は漸く手に入れた炊き出しの食事を過ってひっくり返し、声を殺して泣く事だった。そして、その役目が済めば、人知れず消えるだけの存在。でもその騎士は、その子にこう言ったよ。“可哀想に。一緒にもう一度貰いに行こう。だから泣くな”とね。そしてその瞬間、彼等は新たな時を得た」


 その騎士の話が、質問に対してどう答えになっていたのか俺には分からなかった。

 だけどレイルさんは少し懐かしそうに言い、また俺にニコッと笑いかけてきて話を戻した。


「―――まぁともかく。クロ君がそう言うなら、彼にはまた役目を果たし貰う時まで少し眠っておいてもらおうか。きっと次に起きた時には全部夢だったと思う筈だよ」

「おじさんは眠ったの? 消えたんじゃなくて?」

「そう。眠らせただけ。一度消してしまった場合、もう一度作ったとしてもそれは別物なんだ。見た目は同じだったとしてもね」

「へぇ」


 俺が頷くと、イヴが楽しそうに辺りを見回しながらレイルさんに尋ねた。


「じゃあ、さっきの小さいおじさんはどこにいるの?」

「いい質問だね。ここから先の話は、ダンジョンを作るだけの話ではなく、ダンジョン・マスターとしての仕事内容に関わる話しになってくるんだけど……」


 レイルさんはそう言うとまたキューブを捻り、イヴの目の前に光で出来たこの店の模型を映し出した。


「さっき空間を“点”で捉えるよう話したね。そして作り上げたこのダンジョンだけど、未だ未使用の“点”が幾つもあるのが分かるだろう。この未使用の点を使い、もう一つの違った性質を持つダンジョンを作るんだ。そして、さっきのダンジョンに重ねるよ」


 そう言ってレイルさんは光の模型の隣に、トレーに乗ったケーキとグラスに入った飲み物をまた光で描き、全く様相の違う2つの模型をピタリと重ね合わせた。―――と、突然俺達の眼の前のカウンター上に、本物のケーキと氷が浮かぶオレンジジュースが現れる。

 俺達は突然出現したお菓子に飛び上がって驚き、レイルさんを見た。


「すごい! お菓子の出る魔法!?」

「はは、魔法で出した訳じゃないよ。今見せたように空間を重ね合わせる事で、それをダンジョン内に於ける現実の理として事象化させたんだ」


「僕はその並行し交錯し合う空間を階層(レイヤー)と呼んでいる。そして今君達が立つこの喫茶スペースには、およそ1万7千層のレイヤーが組み込まれているんだ。―――そしてさっきのおじさんは、そのレイヤーの一つの中で眠っているんだよ」


 それを聞いて、俺は少しホッとした。

 レイルさんがカシャンとキューブを整えると、光で出来た喫茶店の模型は消え、カウンターにお菓子とジュースだけが残された。


「まあ、そうして色んな計算して築き上げたダンジョンの設計図だけど、最後にこのマスターキューブに読み込ませ“ダンジョンコア”というメモリーに仕上げる。それをそれを範囲指定した“世界”と結合させればそこにダンジョンが発生するという仕組みだね。―――簡単に説明すればこんな所だけど、やってみるかい? ダンジョン作り」


 もう一度話を振られたイヴの表情が曇る。

 ……だって難しそうだもの。俺だったら絶対ダンジョンなんか作れない。


 無言で黙り込み考え込むイヴに、レイルさんは悪戯げにクスクスと笑った。


「無理をしなくていいよ。実際の所、ダンジョンを作る作業過程は地味で面倒臭いものだから。それでもどうしても作りたいならキューブの操作を教えてあげるけど、やっぱりやらないと言うならマリーも呼んで、皆でお茶でもしようか」


 レイルさんがそう言うと同時に、カウンターの上には更に人数分のケーキとジュースが出現する。……数えて見れば、なんだかんだでユウヒの分も用意されていた。


 そしてレイルさんの提案に、イヴは満面の笑みで頷いた。


「うんっ! お茶にするっ、マリーちゃんに会いたい!」


 レイルさんもうんと頷いた。

 それからふと横を見れは、イヴが“それでもダンジョンを作りたい”と言い出さなかった事に、心底ほっとするソラリスとミックがいたのだった。





風邪をひきました……完治するまで更新はお休みいたします。すみません

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― 新着の感想 ―
[一言] 一応全部読み返したんですけど、一回目じゃわからなかったところがわかったりして…私も成長したんだなと思いました 風邪、早く治るといいですね… 暖かくして栄養もとって元気に過ごしてくださいね そ…
[一言] 今回も楽しませてもらいました!!! マスター!!!!悪役顔、最高ですっ!! マスター最高です! ありがとうございます!! 風邪ですか…大変ですね、お大事に… 更新されたらまた見に来ますね!…
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