表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/582

番外編 〜隣のお兄さんは魔王でした。僕は勇者なんですが、この想いを伝えても良いですか?④〜 

深い森の奥。

鋼鉄の鱗に覆われた巨大な狒猿(ひひ)に向かって駆け出した。


「すまない。苦しみはさせない。神の聖腕に抱かれ眠るが良い」

「グゴアァアァァァーッッッ!!!」


 咆哮をあげながら迫りくる魔物の急所に、寸分の狂いなく僕は聖剣ヴェルダンディーを突き立てた。

 狒猿(ひひ)の姿をした魔物は「カヒュ」と小さな息を溢すと絶命し、地響きを上げながらその場に倒れ伏した。


「おぉ、やっぱ勇者はすげえな! A級を一撃かよ!」

「こら、ダンドル。よそ見しないの! まだ敵は他にもいるでしょ。集中して!」

「はいよ。ったく、シエルは相変わらずお硬いねえ」


 魔物討伐の旅を続けている内に、僕には旅の仲間ができていた。

 その一人であるダンドルは「やれやれ」と呟きながらも、後ろから来たゴーレムの攻撃を避けてカウンターを繰り出す。

 だけどゴーレムの頭を見事に砕いたダンドルへ、食って掛かる者が居た。

 

「いーや、ダンドルが油断し過ぎにゃよ。ミィだって戦闘中はネズミのおもちゃを封印してるにゃっ」


 それは鋭い猫パンチで吸血コウモリ達を仕留めていくミイ。


「おぉ……ただミイにその口調で説教されても締まらねぇんだよなぁ」

「んにゃ?! にゃにぃー! ミイはいつだってふざけてなんかないにょよぉ!」


 この拳闘士(モンク)のダンドルと治癒法師(ヒーラー)のシエル、それからアニマロイドのミイは、この旅の中で出会ったかけがえの無い大切な仲間達だった。


「ハイハイ、そのくらいにして。ほら、終わったから処理と片付けに入ろう」


 僕は最後の魔物にとどめを刺すと、今にもやる気満々のミイの頭を撫でて落ち着かせて皆に言う。

 頭を撫でられ気持ちがいいのか、ミィは喉を鳴らしながら頷いてくれた。


「ゴロゴロゴロ……勇者が言うにゃら仕方にゃい。今回ばかりは引いてあげるにゃあぁ……ゴロゴロゴロ」


 そして僕達は早速魔物の処理に入る。

 このまま放置すれば腐敗し、疫病の原因となりかねない。

 毒を持つ魔物は特に、毒の処理もしておかないと大地を汚染させてしまう危険性すらある。

 グリプス大迷宮のモンスターに関しては、不思議とその遺骸は光の粒となって消えてしまうのだが、普通の魔物はそう都合良くは行かなかった。

 魔物の処理方法については、ノルマン学園の薬学部で学んだ経験が役に立った。

 薬学にも深い見解を持っていた大魔法使いガルシアはどうやってそれを知ったのか、信じられない事にSS級の魔物の処理方法すらその手記に残していたのだ。


 ―――ガサっ……


その時、不意に近くの茂みが揺れ、ダンドルが低い声で唸った。


「おい、勇者。どうやらまだヤリ損ないがあったみてぇだ」

「ヒぃっ?!」


 それは魔族の子供だった。


「たっ……たすけっ……殺さないでっ」


 目に涙を溜め命乞いをするその姿は、かつての幼い僕の姿そのものだった。


「そうはいかねぇな。ガキといえどデカくなれば人を殺して食う」

「あっ……やぁ……」

「―――待て」


 無情にその拳を振り降ろそうとするダンドルを僕は止めた。


「んだよ」


不服げにダンドルが僕を睨むが、僕はそれを手で制し魔族の子に尋ねかけた。


「魔族の子供よ。お前は人を殺したこと、若しくは食べた事があるか?」


「? ……い、いえ」

「そうか。今後も食べるな。そして殺すな。人の育てる植物や家畜も襲ってはいけない。それが出来るなら、……―――行け」

「え?」

「にゃ?!」

「はあぁ!?」


 僕の言葉に魔族の子を含む全員が驚愕の声を上げた。


「ちょっと何言ってんだ勇者!」

「そうです! 魔族を逃がすなんて正気ですか!? たとえ幼子といえど魔族なんですよ!」

「フシャーッッ!!」


 仲間は口々にそれを止めようとしてきたが、僕は聖剣を真っ直ぐ魔族の子供の喉に突きつけ言った。


「僕の言ったことが出来ると、今ここでお前の神に誓え。そして生きるがいい。―――それが出来ぬと言うならこのまま斬って棄てる」

「あ……う、ち、誓い……ます。神に誓って、出来ま、すっ」


 魔族の子供の答えに僕は剣を収め、代わりにとある王国の姫君から賜った王家の紋章が刻まれたペンダントを差し出した。


「ならば行け。これを持って誓いを守り続けろ。そしてもし、無抵抗の内にに人間に襲われる事があったなら、これを人間に見せて“勇者アーサー”の名を使うがいい」


 魔族の子はペンダントを受け取ると、転がるように逃げて行った。

 その背を呆然と仲間達が見送る。


「……マジかよ」

「もしあの子が誓いを破るなら、その時は僕が必ずどこまでも追いかけて仕留める。そして被害者の家族にこの生涯をかけて償う。神の聖名(みな)に賭けて」


だが僕の言葉にダンドルは舌打ちした。


「気に入らねぇ。いくら家族に償おうか死んだ者は生き返らねえぞ」

「……あぁ。その通りだ」


 この行動はタダのエゴだ。

 僕はダンドルに何も言い返す事は出来なかった。





 ◆◆◆



《魔王視点》



 ―――魔王城。


 その最上階に備え付けられた大きな魔王の王座に、余は小さな人の姿をしたまま身を沈めていた。


 その時、開け放たれた窓から月を背にして黒い影が舞い込んで来る。


 ―――バサバサッ


「たっだいまー! 帰ったよぉー♫」

「ラミア。魔王様の御前よ。慎みなさい」


 途端、間髪入れずリリスが帰ったばかりの妹のラミアを嗜めた。


「はぁーい。―――では御報告致します魔王様」


 ラミアは普段子供のようにふざけるが、命令に対しては非常に忠実だった。

 淡々と語られるその報告を、余は微動だにすることなく聞いていた。


「勇者一行はグリプス大迷宮に一月潜り、レベルアップを図った模様。攻略階数は128階。期限を決めていた為の撤退でした。その後はこの魔王城を目指し、我等が配置した魔物の群れを撃破しつつ真っ直ぐとこちらに向かって来ております。前線の魔物共の奮闘次第にもよりますが、おそらくこの魔王城への到着は後10日程かと」


 そこで余は目を閉じ、それを応えとした。


 “期限を決めての攻略”。余はこの報告に満足した。

 グリプス大迷宮は己の経験値を稼ぐにはこの上なくよい場所だ。

 だがグリプスのモンスターは魔物と違い、疑似生命体のモンスターである。いくら狩ろうが地上の魔物達を狩った事にはならない。

 つまり勇者の使命からは外れているのだ。

 勇者アーサーならば時さえ掛ければ、間違いなくグリプス大迷宮を完全攻略出来ただろう。

 だがその欲を抑え、あくまで己のスキルアップのみに殉じ完全攻略を断念した事は、流石と思わずにはいられなかった。


余はまた目を開ける。

するとラミアは何処か迷うように、夜の顔色を窺っていた。


「なんだ。言ってみろ」


 眉間にシワを寄せ、黙り込むラミアに余はさらなる報告を促す。


「はっ! ……実は一つの、勇者が奇妙な行動をとっているとの報告があるのです」


 ラミアは緊張した面持ちで、慎重に言葉を選びながら報告を続けた。


「その……行く先々で命乞いをする魔族や魔物達に、人間に害を為さないと誓わせ殺さずにいるらしく……」


ラミアはそう言ってまた、余の顔色をちらりと窺ってきた。

余はまた目を閉じた。


「―――そうか」


 なる程。

 勇者アーサーは、かつて魔物を殺したくないと言っていたか。

 その時はそんな勇者を余は嗜め、そんな絵空事が叶うのは限られた箱庭の中だけだと言ってやった。

 だが確かに魔物達が己の意志で自らを律し、その輪の中に組み込まれると言うのなら、それもまた1つの答えだろう。


「あやつらしいな」


余はそう言ってフッと笑った。

すると余の顔を窺っていたラミアが恐る恐るに尋ねてくる。


「勇者に寝返った軟弱者共を処罰致しますか?」


 余は首を横に振った。


 ―――それもまた魔物共の1つの正しき生き方なのだ。


「構わん、捨て置け。―――よいか、その者共には一切関わるな。仲間、ましてや身内などと間違っても思うなよ」


 ラミアにそう告げると余は立ち上がり、城全体響く声で言い放った。


「よいか者共!! 勇者に寝返り寿命を全うしたき者は、今すぐここを去れ! そして2度と我が前に戻ることは許さぬ!!」


 城が静まり返り静寂に包まれた。


「貴様等は何方(どちら)にせよ(やが)ては死ぬ。雑魚として寿命を全うするも良いだろう。だが誇り高く命を燃やし、神に愛されし魂を持つ勇者へ立ち向かいたき者は我と在れ! 我らが女神にその輝きを献じたき者は残るがいい。余はその輝きを! 誇りを! 永遠の雄姿を!! この胸にいつまでも刻みつけようぞっっ!!!」


「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」


 幾十万の魔物共が歓喜の咆哮を上げ城を揺らす。

 そんな中、ふと見ればリリスが妹たちを従え余の前に跪いていた。


「魔王ラムガル様。私共も勇者との決戦に参加したくお願い申し上げます」


 だがこのサキュバスはつい最近レイス様に創られた者達だ。

 まだ子孫も眷族もおらず、ゼロス様も手をかけられたというこの者達をここで滅するのは忍びない。

 余は敢えて蔑むような視線を送り言い放った。


「思いあがるな。この若造が。貴様らは去れ。最低でも五百の軍勢を手にしておらねば話にもならぬわ」

「くっ……」


 リリス達が悔しげに唇を噛む。


「聞こえたのか? 貴様らは1週間以内にこの城を去れ。目障りだ」

「―――……れ、……いずれ五百と言わず一万の軍勢を従えてみせます!」


 リリスは悔しげにそう叫ぶと、妹達とともに飛び去った。

 いや、まぁそんなに頑張らなくて良いのだが……―――まぁいいか。




 余は未だ熱の冷めきらぬ広間で、余はまた王座に座り目を綴る。


 勇者との決戦の時は、もうすぐそこに迫っていた。









次回、いよいよ完結なるか!?


まだ一文字も書いてないので謎です。



ブクマ、評価ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ