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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 3 ー人と生きる魔物の国①ー

 ―――トゥーリノのウエストブリックに向かう途中、真珠のような鱗を持つ真っ白な飛竜の背では、ミックがトゥーリノの歴史についてを、子供達に話して聞かせていた。


「魔物達の国トゥーリノの起源は、遥か昔、伝説の勇者・アーサーの時代にまで遡る。かつてアーサーはその柔軟な思想で一部の魔物や魔族に権利を与えたんだ。―――魔王軍を瓦解させた後、アーサーはミヨルド王国のルナシェルム姫と婚姻を結び、政務の傍ら、人との共存を求める魔物達を自国に受け入れた。アーサーは魔物達にいくつかの制約を誓わせると、王国内に自治領を与えて開拓させ、そこを絆の街(トゥーリノ)と呼んだのが始まりなんだそうだ」


 だがミックの話しに、ソラリスが首を傾げてポツリと言う。


「でも、不思議な話よね。いくら勇者アーサーが偉業をなしたからって、そんなことがまかり通るの? 王様になったからって昨日まで戦ってた魔物に土地を与えるなんて、王家や貴族から相当な反発が出るはずよ」

「まぁ確かにな……。でも何千年も前の話だから、そこ迄の詳細は残ってないんだよ」


 頷きながらも、耳を垂れさせて答えるミックのやり取りを見て、飛竜の手綱を持っていたシアンが横から口を挟んできた。


「あ、それは“姫様が勇者アーサーにべた惚れだったから”なんだと。二人はどこに行くにも、何をするにも常に一緒。更には勇者が右と言えば、全国民を右向かせる程の狂愛ぶりだったらしい」

「え、何それ怖い……」

「つか兄貴、それ初耳なんすけど! その史実、何処に書いてあったか教えてもらっていいっすか?」

「書いてねぇよ。アズ……じゃなくて、以前出会った大悪魔アスモデウスがそう言ってたんだよ」

「あ、アスモデウスって、まさか始祖の悪魔にして悪魔長の一人っすか!? どんな経緯があれば生きてその姿をおがめるのか……兄貴流石っす!!」

「いや……はは……」


 シアンは乾いた笑いを溢すと、また前を向いて操舵に集中し始めたのだった。


 ―――また余談になるが、シアンがアスモデウスから聞いたという話について、一部正確ではないので訂正しておこう。


 かつてアーサーが統治したとされるミヨルド王国は、実はアーサーが魔王討伐の旅を始める以前から、既にヴァンパイアに乗っ取られた土地であったのだ。

 旅の途中でミヨルド王国に立ち寄ったアーサーは、すぐさま王国の内情を把握し、ミヨルド王国の姫の姿に扮したヴァンパイアの始祖、ルナ・シー・エルムと対峙する。

 だがまだ若かったアーサーは、強大な始祖の力には及ばず、為す術なく地に伏したのだった。

 そして、瀕死のアーサーにエルは提案した。


 ―――この餌場(ミヨルド王国)を容認しろ。そして、勇者としてのその使命を終えた時、妾と婚姻を結び、更に家畜(人間)を増やす事を手伝うと約束するなら、今は見逃してやる。


 アーサーはヴァンパイアが人間を食する時、その命までは奪わない事を条件に、その提案を受け入れた。

 ……人間を飼いたい者と、魔物との共存を望む者。その利害が一致したのだった。

 とはいえ、エルは人間を始終餌としか見なかった為、共存を掲げるアーサーの思想とは相いれず、アーサーが死を迎えるその時まで、彼等は世界最高の仮面夫婦を演じ続けたのであった。


 ―――こうして、アーサーが唯一の伴侶を犠牲にしてまで築き上げたトゥーリノだが、現在に至るまで3度の滅亡を経験している。


 その一度目の破滅は、皮肉にも後世の勇者・アビスの手によるものだった。

 アビスは当時のトゥーリノで穏やかに暮らしていた魔族や魔物、そして人間達をある日突然、ことごとく殺し尽くしたのである。

 その後、アビスの蛮行に神は怒り、魔物達は1000年の沈黙を言い渡されたことにより、その沈黙の中でトゥーリノの存在は忘れ去られていった。


 だが数千年の沈黙を経て、トゥーリノは再びこの世界に出現することとなる。

 その栄華を取り戻させたのは、忌み子とよばれた魔族の少女、ライラであった。

 ライラは大きな戦争を乗り越え、覚醒した勇者と共にトゥーリノの再興に己の半生を捧げた。


 だがライラの死後300年の後、トゥーリノは二度目の破滅を迎える事となる。

 その原因はギルザムと言う名の、トゥーリノで生まれた幼い魔族の子供だった。

 人間と共に生きる事を望んだ父と母の間に生まれたその子供は、並外れた魔力と、魔族本来の人間への強い嫌悪を持って生まれてきた。

 ギルザムは成長すると、ある日突然、人間に好意を示すトゥーリノの住民全てを殺害し、更には近隣の人間の村を焼き払って暗い森の奥へと去っていった。


 だが、ライラが栄光の史実を築きあげていたことにより、それから間もなく一部の魔物達が同志を募り、トゥーリノは復活を遂げた。

 そしてギルザムの二の舞いを避ける為、子供を隔離するルールが出来たのもこの時である。


 やがて、漸く集落の様な規模でひっそりとトゥーリノが軌道に乗りだした頃、不幸にも三度目の破滅が訪れた。

 ―――人間達による組織の闇ギルドが、非公認のテイマー達を使い、トゥーリノの住民達を奴隷にしようと街に攻め入り、また彼らは奪われ尽くしたのであった。


 そう。トゥーリノの歴史は、まさに希望と絶望の繰り返しだった。幸せを訳もわからず踏みにじられ、己の子に殺され、そして歩み寄ろうとした者からも裏切られ、蔑まれてきた。

 ―――だけどそれでもトゥーリノは、今なおその時代を生きる一部の魔物達の願いによって、存在し続けているのである。


 ……と、その時。飛竜の上で同じ様な歴史の歩みをミックから聞いていたソラリスが、フッと笑って腕を組んだ。


「……トゥーリノ。なかなか根性あるじゃない。いいわ。騎士になったら魔物の討伐依頼とかも来るだろうけど、私は絶対にトゥーリノの人達の討伐はしないわっ!」


 何やらドヤ顔のソラリスに、ミックが苦笑を零しながら頷いた。


「それがいい。なんせあの国は、今や完全な“中立国家”として独立し、冥界の統治者の傘下に加わってるんだからな。人間の隷属に……なんて考えは勿論、魔王軍だって手が出せない所になってるんだ」

「冥界の統治者って……?」

「そりゃ一人しかいないだろ。魔王軍に属さない、天使長に対を成す悪魔の長達や死の神ハデスをも従える魔物。最強にして最悪の誘惑術(チャーム)の使い手“ルシファー”だよ!」


 ……刹那、シアンがピシリと固まった。


 一方で、シアンからルシファーの話を聞いたことがないイヴとクロは、勢いよくその話に喰い付いた。


「ルシファー! 私知ってるよ! 前にクロに貰ったキラキラシールに入ってたよ。これでしょ!?」

「うん、ヒューマンタイプの最強クラスの魔物だよな! ねぇ冥界って本当にあるの? どこにあるの!?」


 シアンの影が、今にも消えてしまいそうな程にスゥ……っと薄くなる。


「噂じゃ冥界への暗い森の奥深くにあると言われてる。結構有名だぞ。ほら、小さい頃によく言われなかったか? “戸締まりして早く寝ないと、ルシファーに暗い森に連れ去られるぞ”って」

「知らない」

「うん、知らない」


 首を傾げる子供達に、シアンのHPがジワリと下がり始めた。

 しかしミックはそんなシアンの様子には欠片も気付かず、トゥーリノとルシファーの関係について話し始めたのだった。


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