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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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ドワーフの聖地編のおまけ 〜ラディーの日記〜

おまけということで、時間軸が少し戻ります。

 

 ―――ラディーの日記―――




 4月7日。晴れ

 漸く湖の周りも寒さも緩んてきて、春の気配を強く感じるようになってきた。

 ところで僕には、最近少し気になっている子がいる。

 春になるとやってきて、友人の家に出入りしているエルフの女の子だ。目を布で隠しているのは盲目だかららしい。いつも若草色の着ているのだけど、それがとても良く似合っている。

 その子は盲目だというのに決して笑顔を絶やさない。純真で可憐で、まるで見ているだけで心癒される風に揺れるヒナギクのようだから、僕はその子の事をこっそり“春の君”と呼んていた。


 4月10日。晴れ

 今日も春の君は僕の友人と親しげに話しをしていた。だけど、僕が春の君に声を掛けることはない……いや、僕に勇気がなく、掛けることが出来なかったんだ。

 だから僕はいつも遠くから、春の君と友人が話している声にそっと聞き耳をたてている。

 今日の話の内容は、どうやら春の君の仕事の話しのようだった。

 ただ、その話しによれば、春の君の仕事とは“誰にも知られてはいけない仕事”らしい……。まさか危ない仕事じゃないよね? とても心配だ。


 4月11日。晴れ

 今日僕は、勇気を出して春の君に声を掛けた。

 するとなんと、そのままお茶に誘われたんだ! もしかして春の君も僕を!? ……なんてあり得ないね。だって春の君はとても優しい子だから。それできっと僕に気を遣って誘ってくれただけなんだろう。―――とは言え、正直今でも手が震えそうな程、僕は舞い上がってしまっている。だって、例え友達未満だとしてもあの瞳が僕だけを捉えてくれていたのだから!

 だけどお茶をしている間は流石に、この叫び出しそうになる気持ちを必死で押えてたよ。「楽しい時間だったよ」とだけ言って、なるべくクールを装ったさ。弟が言うには、がっつく男は嫌われるそうだからね。

 ……だけど、やっぱ次の約束ぐらいは取っておけばよかったなあ。あぁ、もう……! 後悔に押し潰されそうだ。


 4月15日。曇り

 今日は珍しくフィル様が僕達の家にやって来た。とはいえ、相変わらず酒臭い。

 フィル様は例の“神様との決戦”以来、毎日毎日フラフラと酒を飲んではだらしなく過ごしている。

 フィル様いわく“休暇中だからゆっくりしてる”らしいけど、これじゃあ“幸運のラベンダー・ドラゴン”じゃなくて“口臭のアルコール・ダラゴン”だ。

 とはいえ、僕なんかが言って聞く様なドラゴンでもないから、何も言わないけどさ。


 4月16日。雨

 今日、春の君にどうやって声を掛ければいいか弟に相談していると、フィル様が酔っ払った勢いで僕を冷やかしてきた。「若いんだからガンガン攻めろ、自信ある男らしさってヤツを見せてやれ!」なんて言ってたけど、フィル様のアドバイスはロマンスに欠けるので参考にしない。聞き流すことにした。


 4月20日。晴れ

 やった! 明日、春の君を誘って皆でピクニックに行くことになった! 二人きりではないが、これを期にもっと仲良くなりたい。

 弟もフィル様も、僕が春の君と仲良くなれるよう陰ながら僕に協力すると言ってくれた。ああ、楽しみだ。


 4月23日。快晴。

 話が違う。訳がわからない。どうしてこんな事になったんだ?

 あの日僕達は湖の畔の現地で待ち合わせをしていた。

 僕が一番に到着し、続いて友人、弟、春の君、そして最後に遅れてフィル様が到着したんだ。

 フィル様と春の君は初対面だった筈。

 だけど春の君を紹介した途端、突然フィル様の様子が変貌したんだ。

 いつものどこかトボけた様子からは打って変わり「“ヒナギクの様な春の君”って、そいつのことだったのかアァァ!!」などと怒鳴りながら、魔法で木々を薙ぎ倒し、僕のモーニングスターを奪うと僕の頭を叩き割ろうと本気で振り回してきたのだ。

 一体何が気に入らなかったのか……フィル様はまともな説明もくれず、ピクニックを台無しにしてしまった。

 頭にきた僕は、逃げながら「若いんだからガンガン行けと言ったのはフィル様でしょう!」と、思わず言い返した。だけどフィル様は「ふざけんナッ! そんなチョロ軽い奴、絶対に認めん! そこに直れえぇ」とか更にブチ切れて、怒鳴りながら更に凄い形相で追いかけてきた。

 本当に訳がわからない。

 そしてその戦慄の追いかけっこは2日にも及び、今漸くここに事のあらましを書くことができた訳である。

 僕は悪くないよね?



 4月24日。雨(強風)

 今日は時期外れの春の嵐がやってきた。

 雨と強風のせいで飛べない為、ギルドから頼まれていた依頼は延期させてもらった。ついてない。

 ついていないと言えば、今日は朝からやることなす事うまくいかない。

 ま、たまにはこんな日もあるか。今日は家でゆっくりしよう。



 5月5日。豪雨


 助けて……。


 僕は呪われてる。あの日から僕は呪われてたんだ!

 そして僕は知ってしまった。“神”と呼ばれる存在の本当の恐ろしさを。

 その存在の真価は“与えられる恩恵”より“下される神罰”にあるのだ。

 たすけて。ごめんなさい。幸運なんていらない。いりません。だからどうか、僕の日常を返してください。


 5月8日


 助けて。助けて、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて、たすけて……たすけ…………







 5月9日。晴れ


 今日、僕はフィル様と和解した。

 未だに自分の何が悪かったのかは分からないけど、ともかく春の君をそういう目で見ないとフィル様に強制的に約束させられ、僕も僕でそれに頷いた。

 つまり神竜の試練を前に、僕の心は呆気なく挫折してしまったんだ。


 たけどこの約束を期に、僕に降り掛かっていた厄災は嘘のようになりを潜めた。

 そしてフィル様はと言うと、春の君に悪い虫が付かない様に今後は春の君の家に居候……じゃなくて守護するとか言い出し、春の君を困らせていた。 

 僕は春の君にコッソリと“フィル様とどんな関係”なのかを聞いたけど、詐欺まがいの幸運の押し売りをされただけの関係だと迷惑そうに言っていた。

 フィル様はフィル様で、春の君の若干冷ややかなオーラなどどこ吹く風で、勝手に今後の予定を決めている。

 守護者だか保護者だか知らないけど、フィル様が春の君へと向ける他者の介入を許さない過保護っぷりに、僕はまるでモンスターペアレントの様な執念を感じて少し怖くなった。




 ◇◇◇◇



「―――……何これ?」


 ソラリスが怪訝そうに顔を顰めながら、そう俺に言ってきた。

 って言うか、読んでとか言っときながらなんで俺を睨むんだよ? だからソラリスに読んであげるのなんか嫌だったんだ。

 俺は頬を膨らませ、ソラリスを睨み返す。


 そんな殺伐とした空気を壊すように、ミックとイヴが明るい声をあげた。


「まぁまぁ! ソラはなんてゆうか武勇伝的なものを期待してたんだよな! だけどこれはこれで人間味みたいなのがあって俺は好きだからっ、面白かった!」

「うん! 目隠しした緑のドレスのエルフって、なんだかクーちゃんに似てるね。クロ、読んでくれてありがとう。読むの上手になったね!」


 ……まぁ、いいか。


 俺はイヴとミックの明るい声に肩を竦めると、ソラリスを睨むのをやめてミックに尋ねた。


「人間味って何? 怒られたから好きでいることをやめたとか、格好悪くて俺は嫌いだな」

「いいや、クワトロ。こういった色恋沙汰には相手がいるんだ。なのに“一方的に思い続けるのが至高”って言い切るのは、そりゃ独りよがりってもんさ。見初めたからと言って死ぬ迄一途である必要はないし、出会いの数だけ縁はあるんだから」


 ミックは得意気にそう言って笑ったが、俺には納得できなかった。

 俺は無言でミックを見つめていたが、ミックはそれからも俺の納得の行く説明はくれず、俺の手にした日記に目を落としてボソリと言った。


「とはいえ、言い伝えによるとラディーは最終的に“シャルル”っていう森のエルフと結婚したらしいんだ。抜粋された伝承やこの日記を一見すれば、謙虚で一途で大人しそうな性格にも思えるけど、トータル的に見るとどうも嗜好に偏りを感じずにはいられないよなぁ……」

「嗜好の偏りって、つまりエルフふぇちってこと?」


 俺がそう聞き返せば、ミックは驚いたように俺を見た。


「まぁ一言で言えば……。でもエルフは総じて美形が多いから、単純に面食いだったってだけかもな……? っていうか、クワトロくん。どこでそんな言葉覚えたんだ?」

「え? リリーっていう、父さんの友達が言ってたよ」


 俺がそう答えればミックは隣の部屋でローレンさんと話をしている父さんをじとりと見つめていた。

 だけどミックはまたすぐに俺に向き直ると言った。


「ま、人生の中で“いいな”って相手は決してたった一人じゃない。そして好きになってる間だけは、その都度その子だけが世界一大切なんだ。そうやって長い人生の中で大勢と出会い、ふりふられながら、それぞれ相手を見つけていくのが普通なんだよ。―――だからクロの思うように、もしたった一人を唯一大切にし続けられるんだとしたら……」


 ふとミックの言葉が止まる。

 俺は首を傾げてその続きを催促した。


「―――したら?」

「……うん、そうだな。もしたった一人を唯一大切にし続けられるとしたら、それは“とてつもない()()な事”だと俺は思う」


 そう言って、ミックは何故か苦笑を浮かべた。

 とその時だった。ラディーの日記への興味を無くしたソラリスが、他の羊皮紙の巻物を広げながら声を上げた。


「あ、ねぇイヴ見てこの絵! 幸運の竜そっくりだわ」

「わー、本当だ。だけどこれ絵じゃなくて魚拓だよ」

「へぇ。魚拓なのね、これ」

「って“へぇ”じゃないよ!? 魚拓ってあの魚の体に墨付けて作るやつだろ? 一体何がどうなったらフィルの魚拓なんか出来あがるんだ!」


 ミックは唖然とソラリスとイヴの話に突っ込みを入れる。

 イヴは何故ミックが突然大声を出したか分からない様子で、はて?と答えた。


「さぁ? 悪ふざけ………かなぁ?」

「そうね。あのドラゴンなら、それもあり得る気もするわ」 

「あり得るの!? どんなやつなのフィルって! ってかそれ本当にまじもんなの!? なら俺にも触らせてっ、お、俺も幸運にあやかりたいぃっ!」


 ミックはそう言って、そのままソラリスの持つフィルの魚拓の方に行ってしまった。


 俺は手にしていた日記をそっと閉じ、また本棚に戻す。

 それから、後ろの騒ぎに混じることなく、本棚に並ぶ沢山の本のタイトルに目を滑らせていった。


 だって俺は別に幸運なんていらない。


 幸運なんてなくたって俺はきっともう、その“唯一”以外に目を向ける事なんて出来ないだろうから……。



フィルが何故ラディーに激怒していたのかは、当時も今も、誰も知りません……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも通りの、程よい加減のギャグに加わる個人の感情が素晴らしかったです! [気になる点] 最後フィルがラディーに激怒した理由を誰も知らないと言っていましたが、主人公は知っていますか? [一…
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