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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 2 ードワーフの聖地ディウェルボ火山⑦ー

 

 あれから、彼らの間でトゥーリノの話題が広がることはなかったが、夜が更けて尚話のネタが尽きる事もなかった。

 しかし5杯目の茶をシアンが飲み終えた時、ローレンが言った。


「そろそろ夜も更けた。シアン殿も休まれるといい」

「ああ、もうこんな時間ですか。そうですね。ローレンさんとフェリは?」

「私達はまだいい。私達は人間ほど睡眠時間を長く取る必要がないから」


 そう言ってフェリアローシアに目配せを送るローレンに、シアンは肩を竦ると早々に去ろうと立ち上がる。


「そうですか。じゃ、オレはお先に休ませてもらいます」

「あぁ、おやすみ」

「ゆっくり休んでください」


 ローレンとフェリアローシアに見送られながらシアンは踵を返した。しかし3歩も進まない内に、シアンはふとまた二人の方を振り返る。


「あ、そうだ。そう言えばお二人は“結婚式”なんかを行う予定はありますか?」

「結婚式?」


 ハイエルフ達はそもそも“結婚”という概念が薄い。ローレンとフェリアローシアも困惑気味に顔を見合わせ、首を横に振った。

 そんな二人にシアンは笑いながら提案する。


「そうだと思いました。ハイエルフにはそんな行事はありませんでしたからね。―――知ってるかとは思いますが、結婚式ってのは生きる上で(つがい)を必要とする人間の風習の一つなんです。だけど結構面白くて楽しいものなので、よかったらお二人もやってみませんか? アズーに言えば聖都の大聖堂とかも貸し切りで使わせてくれるだろうし」


 そんなシアンの話にフェリアローシアはキョトンと目を瞬かせているが、ローレンは眉間に深いシワを刻みながら低い声で呟いた。


「―――せ、聖都の大聖堂か……規模が大きいな……」


 ローレンの表情はかなり深刻そうで、シアンはひらひらと手を振りながら苦笑した。


「いや、そこはオレとアズーの仲ですからね! その辺は深く考えなくていいですよ。神前で愛を誓う儀式とか言われてますが、ぶっちゃけ大掛かりなホームパーティーみたいなもんなので気軽に、ね」


 シアンは言葉通り深く考えてはいなかった。ただ今回世話になった人達への恩返しのつもりで、ちょっとした記念になればいい程度の軽いノリでそう提案したのだ。


 だがその時だった。

 子供達が眠る寝室の扉が少しだけ開き、その隙間から鈴の音を響かせながらロゼがふよふよと飛びながら入ってきた。

 そしてテーブルの上にちょこんと降り立つと、親指をグッと立ててローレンとフェリアローシアに言う。



「いいよ! 聞くよ“誓いの言葉”!」



 ―――刹那、シアンの表情が凍りついた。


 自分が気楽に提案したつもりのその内容が、世界規模で見て超重量級の意味を持つ事に、その時になって漸く気付いたのだから。


 そしてとっくにその意味に気付いていたローレンが、淡々と状況を正確に言葉にする。


「―――なる程。聖都の大聖堂で、先代大教皇及び現教皇立ち合いの下、()()()()()の御前で誓いを立てるという事か。……来賓には獣王殿と魔王様、天使長様達に、精霊王殿も呼ばねば角が立つな。それにシアン殿と共にクロが来るならば当然神獣様方も同席されるのだろう……」


 ……重い。ひたすらに重い。

 ホームパーティー()で呼ばれる身内のメンツも、半端なく濃い。


「わー、皆も呼ぶの? ならウエディングケーキはガラムに頼めばいいよ。―――いいかい? 大きなやつにして貰うんだよ!」


 呑気なロゼとは裏腹に、シアンの顔はもう真っ青だ。


「あ、あの、すみません! そんなつもりじゃっ……やっぱ……」


 震える声でシアンが言葉を撤回しようとしたその時、ローレンはチラリとフェリアローシアに視線を送り、ブツブツと何か言った。


「い、いいんだ。いや、いいとは言い切れないか……。だがしかしもし……その……」


 シアンは慌てふためきながらも、何とか取り繕おうとブツブツと呟くローレンに勢いよく顔を向けたが、次の瞬間シアンは思わず言葉を失った。



「っだから! も、もしっ!」

「……え? あの、ローレンさん大丈夫ですか? やっぱり……」

「いやっ、撤回はしなくていいのだ! つまり……だからっ、もしフェリが構わないと言ってくれるなら……っ、私はやぶさかではないと言うか……興味深ぃ……? いや、その、つまり謝る必要はなく……私はや、やってみたいとおも……ぅ……訳で……。あ、あくまで私個人的にではあるのだがっ……!」


 柄にもなく何度も言い直しながら、自分の意思を懸命に伝えようとするローレンの姿に、隣りにいたフェリアローシアが撃ち抜かれた。


「駄目な訳ないじゃないですか、ローレン! シアン殿、貴方という人脈にこれ程感謝したことはありませんっ。是非その話、進めていただけないでしょうか!!」

「え? う、うん……。イイけど、ホントにいいのか?」


 食い気味に詰め寄ってくるフェリアローシアに、シアンが後退りながら最終確認を取る。

 するとフェリアローシアとローレンは同時に顔を見合わせ、それで示し合わしたかのように嬉しそうに頷いた。


「いいも何もこの上なく光栄な事だ。本当に、ここまで生を繋いで良かったと思う」

「きっと、私のこれからの長い生涯の中でも、忘れ得ぬ記憶になるでしょう」

「そう……ですか」


 ―――それは離別を受け入れた者達が、今を全力で楽しもうという勇気と覚悟の決断。

 シアンはそんな二人の思いと願いを受け取り頷いた。


「分かりました。じゃ、早速アズーに連絡を入れおきますので!」


 それからシアンは、もう二度と“気軽に”など言う事なく、二人の仲人として真摯に準備を進め始めたのだった。


 こうして、二人の挙式は半年後……ちょうどシアン達の旅の予定で、聖都を訪れるだろうと予測していた頃に挙げることに決まったのであった。



 ◇◇◇




 翌日、シアン達は一層仲の良いダークエルフ達に温かく見送られ、ドワーフの里を後にした。


 彼等と別れ、山を下る子供達は皆無言だった。

 その足取りが少し重いのは、たくさん貰ったお土産の品々のせいではなく、きっと楽しかった思い出のせい。

 一日で発つには、ドワーフ達の故郷はあまりにも優しく、心地よく、心残りの多い土地であった。


 そしてもう間もなく山の麓に差し掛かろうというその時、ソラリスがシアンを仰ぎ見てポツリと尋ねた。


「……また、ローレンさん達に会えるかしら?」


 この2日の内に、ソラリスはローレンを姉のようにしたい始めていたのだ。

 シアンは今にも泣き出しそうに自分を見つめるソラリスに、何でも無い事の様に答えた。


「ああ、それな。半年後にあの二人の結婚式があるんだ。それにオレ達ももれなく参加する予定にしてるから」

「「「「え!?」」」」


 初耳の子供達が声を揃えシアンを見上げる。

 シアンは首を傾げ言った。


「それに郵便屋さんのグレイに頼めば、旅先だろうと手紙を届けてくれるぞ。出したらいいだろ」

「え……私もローレンさんに手紙を書いていいの!?」

「寧ろあのローレンさんが、ソラリスちゃんからの手紙を嫌がると思うか?」


 シアンの言葉に、ソラリスは自分が書いた手紙を受け取って、それを読むローレンの姿を思い浮かべてみる。

 そして次の瞬間、目を輝かせてクロの方に振り返って言った。


「書くわっ! クワトロ、私に字を教えなさいっ!」

「え……嫌だよ、何でだよ。父さんやミックに教えてもらえばいいだろ」

「だって見た感じ、あんたの字が一番丁寧で綺麗なんだもの。ローレンさんには綺麗な字で手紙を書きたいの!」


 ……まぁ、確かにシアンやミックは文字をよく書くが、その分慣れのせいで雑であった。


 ソラリスの自分本位の依頼にクロが口を尖らせ始め、またもや険悪な空気になりつつある二人に、イヴが仲裁に入った。


「ソラリス、私もローレンさんに手紙書きたい。あとクロも“教えて”って言われたら、教えてあげないといけないんだよ。もうクロもお兄さんなんだから、面倒って思っても我慢しなくちゃ」

「でもミックとかで……」

「クロがいいの。私の手紙も添削して!」

「―――……分かったよ」


 イヴの押し切りに、渋々ながらも素直に頷いたクロ。

 シアンはそんなクロを褒めちぎりながら、また歩き出した。


「うんうん、偉いぞクロ! これからみんなで旅するんだから仲良くな! よっし、じゃあ山を降りたら皆で昼食にするか!」


 シアンの言葉に皆はコクリと頷き、ミックが苦笑しながら平然と歩くシアンに突っ込んだ。


「うっす! ってか兄貴達といると、ここら一帯が魔物の出る危険な森だってこと忘れそうになるっすよね」


 と、突然シアンの目が見開かれ、まじまじとミックを見つめた。


「……た、確かに! ってか(人間にとって)魔物が驚異ってコトを忘れてたよ。流石ミックだな。今後もそんな感じで助言を頼むな!」

「うわー、マジっすか……了解っす。俺だけは変な領域に踏み込まないよう気をつけるっすね」

「なんだよその言い方。人を人外みたく言うなよ、傷つくだろー?」

「あはははー」


 そんな軽口を叩きながら、彼等はまた楽しそうに木々の茂る山道を歩き始めた。






 過去の記憶に後ろ髪を引かれながら、それでも未来へと向かう。

 どれほど懐かしんでも時は戻らないのだから、未来の為に今を後悔なく進み続けるしかない。


 それは誰しもに例外なく、当たり前の事なのであった。





次話、おまけ回と言いますか閑話と言いますか、前話でサラリと出てきた“ラディーの日記”のお話になります。

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