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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 2 ードワーフの聖地ディウェルボ火山③ー

 

 ドワーフ達が妙なテンションの盛り上がりを見せ始めた頃、イヴ達はギリクの工房に二つ返事で招き入れてもらっていた。


 ギリクの工房は広く、十基の炉が備えられており、ギリク本人を始め15人の筋骨隆々とした逞しいドワーフ達が、工房に立ち込める熱気を物ともせず、鉄を打っては鍛冶に精を出していた。

 ギリクの弟子は総勢で45人。ただ、弟子とは言え、彼等は既に自身の工房を構えている一流の職人達でもあった。

 ギリクの弟子達は自身の工房を回しながら、交代でそれぞれ月に10日程ギリクの工房に顔を出し、実践の中で技術の指導を受けていたのだった。

 そしてそんなギリクの弟子達の更に下には、彼等を師と仰ぐ弟子や見習い達がいる。それこそが、今回イヴ達を案内してきたボルボスであった。

 ボルボスはギリクの45番目の弟子であるガスバルの弟子となる為に、見習いとして工房に出入りしている、ドワーフ族にとってはさして珍しくもない少年の一人。


 そんなボルボスが、滅多に見れないギリクの御業にイヴ達と共に目を見張っていると、突然背後からボルボスはチョンマゲのようなドレッドヘアをワシャワシャと撫で回されたのだった。

 驚いて振り返れば、そこにはまだ青年と言っても過言ではない若いドワーフガスバルが、ニヤリと笑いながら立っている。


「ほほぅ、ボル坊。マジで面白い客人連れてきたなぁー。俺はてっきりあんなの言い伝えだけかと思ってたぜ。まぁ、あれだ。でかしたでかした!」


 長く年季の入ったドレッドヘアーを揺らしながら、豪快に笑うガスバルに、ボルボスは身を屈めながら抗議の声を上げた。


「ガスバル親方、撫でるのはやめて下さいっ! 髪が乱れるっ」

「へっ、小せえ事に目くじらを立てんな。だからお前はまだまだなんだ。ドワーフってのはいつだって当たり前にキメてはいるが、そうじゃない時だって余裕を見せながら笑い飛ばすもんだぜ」


 ボルボスは頬を膨らまし、そんなガスバルを睨みあげていたが、ふと思い出した様に報告した。


「そう言えばガスバル親方、コウモリさん達のお連れのダークエルフ様が、ゴーラおばさんとダンバル姉者に誘われて、西門前のパブで酒盛りしてましたよ。親方も覗きに行きますよね?」


 そう。シアン達を酒の席に誘ったのは、ドワーフ達の間では美女と称される母娘、ゴーラとダンバルだった。

 ……そう言えば、シアンはあまり女性からの酒の誘いには乗らないのだが、ローレンの説得があったとはいえ、ことの他すんなりと承諾したなぁ。―――もしかして彼女らの性別に気づいていなかったのかな……? 俺はふとそんな事を考えていた。


 と、ボルボスの情報に、ガスバルの目がキラリと光った。


「ほほぅ、まじかよ! っしゃ、丁度仕事も終わったし俺も行ってこよ。こりゃぜってー美味い酒が飲めるぜ……」


 だけどその時、ふとギリクに見入っていたイヴが思い付いたように、ボルボスに声を掛けた。


「ね、ボルボス君。私も何だか鍛冶してみたくなっちゃった!」

「あ、俺も! ボルボスも鍛冶するんだろ? どうやるのか教えてよ!」

「え、……えぇ? 僕が? だけど……」


 簡単そうに鋼を打つギリクを見ていた二人が、ボルボスに無茶振りを始める。

 しかしまだ見習いのボルボスは、実際鋼を打ったことがなく、目を白黒させながら困惑した。

 たが直後、ボルボスの頭にさっき払いのけたはずの大きな手が、再びポスンと落ちてきた。


「ほほぅ? コウモリくん等も打ってみたいのか! いいぜっ、俺の炉に火を入れてやろう。―――ただし、いきなりギリク師匠みたいな打ち方が出来るとは思っちゃいけねーぜ?」


 そう答えたのは、今しがた酒場に向かおうとしていたガスバルだった


「いいの!? ありがとう!」

「ありがとうございます! えっと……」

「ガスバルだ。ボルボスの親方分だ」

「ガスバルさん!」

「“親方”って職人っぽくてカッコいい!」


 興奮気味に喜ぶ二人を他所に、ボルボスは驚いた様にガスバルに尋ねた。


「え、僕なんかが親方の炉を借りてもいいんですか?」

「バカ言え。炉は俺の命だ。お前なんぞにまだ貸すかよ」

「だ、だけどガスバル親方はこれからパブに行くんじゃ……?」


 オロオロと困惑するボルボスに、3度の飯より酒が好きなガスバルは、ニッと笑って見せた。


「そりゃ酒盛りは気になるぜ? だがなボルボス。本当に一等美味い酒を飲もうと思えば、絶対に飛ばしちゃなんねぇ段取りってもんがあんのよ」


 ガスバルはそう言うとボルボスの頭から手を放し、代わりに慣れ親しんだ柄の長い鉄鎚を手にすると、踵を返し、ゆっくりとした足取りで歩き出した。


「さ、付いて来いよ、コウモリさん達にボル坊。俺が責任持って“鍛冶の極意”って奴を教えてやろう。そっちの金髪のコウモリのお嬢さんはどうする?」

「私は結構よ。巨匠の打ち出す命をもう少し見ているわ」


 話に加わることなくギリクの手元を見詰めて続けていたソラリスは、ガスバルの誘いを目も上げることなく断った。


「命? ……そうかい、ならいいや。俺達は向こうの炉に居るから、気が向いたら来てくれよ」

「わかったわ!」


 ソラリスの言葉に少し首を傾げながらも、ガスバルはイヴ達を引き連れて、少し離れた所にある1基の炉に歩いていった。


 ギリクはそれからも暫く無言で鋼を打ち続けていたが、変わらず飽きもせず自分の作業を食い入る様に、見詰めるソラリスにポツリと声を掛けた。


「……さっきこの鉄塊を“命”と呼んだな。―――言うておくが、鋼に命は宿らん。どう形を変えようが結局は鋼。結局はただの物でしかない」


 ギリクは何度も何度も真っ赤な鋼を炉に入れ、折り返しては叩き、水につけてまた炉に入れるという単調な作業を繰り返し続けていた。

 鋼の形だってまだなんの形も成してはいない。

 ソラリスはそんな鉄塊を見詰めながらギリクに返した。


「そうなの?」

「当たり前じゃろ」

「確かに私も始めは、巨匠がただ鉄を曲げては叩いてるだけにしか見えなかった。だけど途中から、何だかその鉄が巨匠と話をし始めたみたいに見えたわ」


 語呂の少ないソラリスの説明に、ギリクの眉間に皺が寄る。


「話じゃと? 一体何が見えおったのだ?」

「何って……少し失礼な表現になるけど、始めは喧嘩みたいだったわ。巨匠が“言うことを聞け”って怒鳴り散らして、それにずっと鋼は反発してた。だけどだんだん心を開いてきて、巨匠の言葉に耳を傾けるようになってきて、それからは巨匠は優しく磨く様に育て始めた。そして今は、その鋼が最も真価を発揮する瞬間を、一緒に相談し続けてるみたいに見えるわ」


 ソラリスがそう言った時、ギリクが手は休めることなく突然笑いだした。


「ガハハッ、確かによう見とる! まさか儂の弟子達より鋼の声を聞き取れとるとはな! もしや鍛冶の経験があるのかい? お嬢ちゃん」

「ないわ。だけど剣に携わる職業(ジョブ)持ちなの。業物となまくらの見分けくらいなら出来るわ」

「なるほどのぅ」


 ギリクはそう頷くと、何処か上機嫌に大鎚を動かし続けていた。

 暫し続く沈黙の後、今度はソラリスがポツリとギリクに尋ねた。


「……―――巨匠は何故、ここまで想いを込めて打ちあげた鋼を“ただの物”なんて呼ぶの? その子はきっと、私なんかには到底生涯触れることも出来ない業物になるわ。それをそんなふうに呼ぶなんて、正直巨匠と言えど私には納得できない……」


 まるで憐れむような視線を視線を鋼に向けるソラリスに、ギリクも何処かさみしげに答えた。


「物に命を見い出す事は、ドワーフにとって()()()なんじゃよ」

「タブー?」

「そう。幾ら想いを込めようが、儂らは完成したそれらを“(かね)”でやり取りする。それに“命”なぞ認めれば、売る事が出来んようになるじゃろ。どこぞの見知らぬ冒険者に粗暴に扱われ、折られる事を看過なぞ出来ぬ。 さりとて、ホコリを被って飾られておるのも許し難い。……“物”と見ねば、どう扱われても儂らは後悔せねばならんのじゃよ」


 ギリクの言葉に、ソラリスはハッとしたように自身に携えたボロボロに使い込まれた大剣を見る。

 それは到底業物とは呼べない剣だったが、ソラリスと共にあり続けた大切な相棒だ。

 ―――それでも、今ギリクが鋼に向ける想いの、十分の一も思いやってやった事がないのは確かであった。


「……ごめんなさい」


 ソラリスの口から、思わずそんな言葉が漏れた。


「構わん。言うたじゃろう。儂らが世に出す品々は、全てがただの“物”。お主等がどう扱おうが、儂らの関与する事ではない」


 淡々と答えたギリク。

 だが、ソラリスは突然熱意いっぱいに拳を握りしめて言った。


「そう。―――決めたわ。だったら私、関与出来ない巨匠や他の匠達の分まで、これから剣を大切にする! そして、その剣が“あぁ、この人が使い手でよかった!”って感動する程の、凄い聖騎士になるのよ!」

「……おかしな子じゃのう。鋼に命は宿らんて」

「ドワーフの中ではタブーかも知れないけど、私はドワーフじゃない。素晴らしい剣には間違いなく命は宿るって、私はそう信じるわ!」


 ギリクは可笑しそうに苦笑を零すと、今までとは違う穏やかな声で言った。



「そうかい、勝手にするといい。―――あぁそうじゃ。爺のつまらん話を最後まで聴いたご褒美に、おぬしには後で良い物をやろう」




 ◇◇◇




 ―――そして同時刻、岩壁に位置するディグルドの部屋では、ミックが歓喜の悲鳴を上げていた。


「凄い! これっ、本当に原本だ! 状態もめちゃくちゃ良いしっ!!」


 ドワーフとは鍛冶の種族。その歴史は石と共にあり、繊細な管理作業も得意であった為、数千年の時を経て尚、その石版は美しく形を保ち続けていた。

 ディグルドが歓喜するミックに得意気に提案をする。


「ほっほ、触ってよいぞ」

「ええ!? 畏れ多いですっ! でもっ、あの良かったら……この刻まれている記号を書き写させていただいても?」

「駄目じゃ」

「ですよねぇー……」


 ディグルドに即答され、納得しつつもガックリと肩を落とすミック。

 そんなミックにディグルドは3枚の大きなアルミ板を放り投げ、木訥に言い放った。


「じゃが、儂が昔作った作ったその石版のレプリカをやろう。―――みんなには内緒じゃぞ」


 そう言ってディグルドはミックに片目を瞑ってみせた。

 後にミックの話によれば、その仕草は、ローレンが今朝方行ったそれとは、同じに見えてまるで別物だったという。


「ええ! どういうことっすか!? いっ、いいんですか!?」

「うむ。だってそんなサイコ文字を書き写しとったら日が暮れるじゃろーて。ちゅう事でそのレプリカはやるとして、後は儂の遠い先祖が、当時の“声なし”という歌い人のファンでな。それも色々あるんじゃが見るかの? 儂にはよう分からんまま取ってあるんじゃが、歌集(サイン入り)やら、当時の記事の切り抜きやら、コンサート限定配布の非売品レアグッズやら……」

「見ます! そりゃもぅ絶対に見ます! なんっっすかこの宝の山はあぁぁっ!!」


 ミックは祈る様に両手を胸の前で組み、また歓喜の悲鳴をあげた。


 ―――……うん。おそらくミックが誰より、ドワーフの里を満喫していた……。




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