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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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成長と芽生え ②

 

 シアンが子供達の痕跡を読んで後を追い、やがて森の奥の小さな一軒家に辿り着いた時、あまりに想定通りの光景にシアンは小さな苦笑を溢した。




「ねぇソラリスにミック。早くローレンさんを探しに行こうよ」

「イヴ……引っ張んなって……俺のケツの皮が全治3週間なんだ……」

「グァー」

「大丈夫、ダッキーのせいじゃないよ。これは馬やランナーバードに乗り始めた人達が必ず受ける洗礼だから。……でもソラリスは乗ってないでしょ? なにしてるの? 早く行こうよ」

「クロ……あんたわざと言ってるでしょ? 私の脚だって全治一ヶ月なのよっ! ちょっと休ませなさいっ」


 どうやら魔王が強大すぎて、聖騎士は討ち果たせなかったようだ。

 シアンは笑いながら子供達に歩み寄り、上着の裏に縫い止めてあったハイポーションの瓶をソラリスとミック、そしてダッキーに差し出した。


「“おぉ、勇者よ。バテてしまうとは情けない……”なんてなw。ほら、教皇からの差し入れだ。初めてなのに魔王城まで到達してるなんて凄いじゃないか」

「クッ、次は必ず仕留めてやるわっ。覚えてなさい!」


 ソラリスは悔しげにそう言ってクロを睨むと、ハイポーションの小瓶を呷った。

 ソラリスとミック、そしてダッキーの体力が強制回復されて一息つく最中、シアンはふとイヴに尋ねた。


「そう言えばローレンさんは? 留守だったのか?」

「うん、そうみたい。ノックしたけど出てこないから多分お出かけしてるんだよ」

「おかしいな。一応“今日中に着く”とは連絡入れておいたんだけど……」


 シアンはそう言って家の周囲を見回す。すると、クロの隣に座り込んでいたフェンリル(ラーガ)が、フイと鼻面を一方の森に向けて振り、何か物言いたげにシアンを見つめて喉を鳴らせた。


「クキュン……」

「どうしたラーガ。―――あっちにローレンさん居るのか?」

「ァウゥン」


 イエスともノーとも付かないフェンリル(ラーガ)の応えに、シアンは警戒しつつもそちらに足を向けて歩き出した。


「あ、待ってシアン! 私も行く」

「いや、イヴはソラリスちゃん達と一緒にいてやってくれ。大丈夫。ちょっと様子見たらすぐ戻ってくるから」


 後を追おうとしたイヴにシアンはそう手を振ると、フェンリル(ラーガ)の指し示した方へと向かった。



 ◇◇◇




 シアンは森の中の細い小道を歩いていく。

 というのも、フェンリル(ラーガ)が示した方向には、何処に通じているのか草が綺麗に取り払われた小道があり、小道には歩きやすいように小石が所々、タイルの様に埋め込まれていたのだ。

 シアンが小道をズンズンと進んで行くと、やがて森が開け、ヤマツツジに似たバージルと呼ばれる低木の群生地に出た。

 バージルは初夏に白と桃色の花を枝いっぱいに付ける。

 蜜蜂達が忙しげに飛び交う、満開のバージルの茂みを横目に更に進むと、突然森が開け、目の前に輝く湖畔が現れた。


 萌える緑に縁取られた、空を映し込んだように青く澄んだ雄大な湖。

 人里の街から見た景色とは、また違って見えるその美しい風景に、シアンは思わず「ほぅ」と小さな歓声を洩らした。

 ―――……だがその直後、視界の片隅に映った()()に、シアンは思わず「げっ」と引き攣った声を洩らす。


 そこにはローレンの他にもう一人、イヴ達とさほど見た目の変わらない幼いダークエルフがいた。


 幼いダークエルフとは、当然フェリアローシアの事。

 フェリアローシアは、美しい湖が一望できる湖畔に置かれたテーブルセットの椅子に立ってローレンど目線を合わし、ローレンの顔にそっと手を伸ばしていた。


 と、その時シアンの背後から、元気なイヴの声が上がる。


「シアン! ソラリス達が元気になったから来たよー」

「ちょっ……今、子供はこっち来ちゃ駄目ですっっ!!」


 シアンは肩を大きく震わせ、慌てて小声でそう叫ぶと、後を追ってきたイヴに飛びついて、その目を手で覆い隠した。

 そしてシアンがイヴの目隠しした事を見て、何となく状況を察したミックもソラリスの目を手で覆う。

 ―――直後、初めてとは到底思えない程の自然な動きで、ダークエルフ達の唇が重なったのであった。



 輝く静かな湖畔。

 その時、悠久の時を経て、互いを求め続けていた魂達が再び触れ合う。

 だが数拍後、ローレンが焦った様に身動ぎをしてその身を引いた。


「フ、フェリ……ちょっと待って……」

「ひどい事を言わないで下さい。ローレン、私が既にどれ程の時を待ったと思ってるのですか?」

「でもっ、人が……」


 ローレンはシアン達の存在に気付いていた。

 シアン達は元々気配を消してなどいなかったのだが、ローレン程の手練なられ例え消していたとしても気付いて当然だった。

 そしてフェリアローシアも気付いている筈なのだが……。


「ふふふ、恥ずかしがっているローレンはなんて可憐なのでしょう……。もどかしいな。踏み台がなければこうしてローレンの唇にも届かない自分の幼さが。きっと少しでも強く振り払われれば、途端に私は引き剥がされてしまうでしょう。―――ねぇ? だから私の事が本当に嫌なら、抗えばいいのですよ、ローレン」


 哀しげな笑顔を浮かべ、ローレンをじっと健気に見詰めるフェリアローシアに、俺はあざとさしか感じ取る事が出来なかった。

 だがローレンはその手を振り払う事なく、心底困り果てた様に身動き出来ずにいる。


「うぅ……そ、そんな事……」

「そう、出来ないですよね。何故ならローレンも、私を愛してくれているのですから……」

「ちょ……」


 泣き出しそうな顔でローレンはか細く抗議の声をあげようとしたが、フェリアローシアは一度嬉しそうに微笑むと、再びローレンの口を自分の唇で塞いだ。


 堂々と濃厚にイチャつくダークエルフ達を、ミックが珍獣でも見るような視線を送りながらポツリと呟く。


「……なんか、ダークエルフって思ってたのとイメージと違うっすね。兄貴の知り合いだっつーんで普通にここまで来たっすけど、魔王軍幹部とかも言われてるし俺、正直結構身構えてたんす」


 するとシアンも同じく珍獣を見るような視線をダークエルフ達に向けながら頷く。


「そうだな。……取り込み中みたいだし、スルーして旅を急ぐか。ほら、クロもジロジロ見ちゃいけません。行くぞ」


最後尾についてやってきたクロは、シアンの目隠しが届かずほぼ一部始終を見てしまっていた。

シアンに声を掛けられた、ハッと我に返ったクロは、慌ててシアンに視線を移して首を傾げる。


「あ、うん。……ローレンさん達、何やってたの?」

「それについては今度ゆっくり話そうか。兎に角今は、早くここから離れよう」


 シアンがそう言って、一行がぞろぞろと踵を返して歩き出した時、ローレンがとうとうフェリアローシアの束縛を振り切って、一行に向かって手を伸ばしながら叫んだ。


「な、ま、……待たれよっ、シアン殿!」 

「ひぃっ、人違いですっ! 道を間違えましたすみませんどうぞお気遣いなくっっ!!」

「何を言う!? 人違いなはずがないだろう!」

「皆走れっ、後ろを振り返るなっっ!!!」



 ▶シアン一行は逃げ出した。




 ◇◇◇




 まぁ、結論から言えば、その後すぐシアン達はローレンに捕まった。


 戦力的にはシアン一行……と言うかイヴ(個人)の方が上であったのだが、そこは“智謀のダークエルフ”との異名を持つローレン。

 一瞬の内にソラリス、ミック、ダッキーにキールといった最弱層を捕縛してイヴの動きを封じ、更に“甘いお茶菓子用意している”という提案で、その心をも調伏したのだった。


 そしてローレンの家に戻ってきた一行は、タッフィーやヌガー、そして山と盛られたドライフルーツを差出しながら、深々と頭を下げるローレンの言い分を聞いていた。


 ―――ローレンとフェリアローシアが、世代を越えて想い続けてきた恋人同士である事。

 生涯逢える筈がないと思っていのに、フェリアローシアがダークエルフにその身を変えて迄会いに来てくれたという事。

 そして、その数千年を越えた感動の再会のタイミングが、まさかのシアン達の訪問時間と被ってしまったというミラクル……。



「―――ぉ、お見苦しいところを見せした。せっかく立ち寄って下さったというのに本当に申し訳ない……。あんな所を見せておいて何だが、もしよければ予定通り今晩は我が家に泊まっていただき、明日ディウェルボ火山内部を案内させてもらえたら幸いなのだが……」

「うん。……いや、じゃなくて……まぁ、確かに少しはビックリしたけど……」


 懸命に、衝撃の目撃をしてしまった事への心の折り合いをつけようとするシアン。

 だがその時、今までローレンの隣で沈黙していたフェリアローシアが、突然ローレンに抱き付いた。

 そして目に涙を浮かべて訴える。


「ローレン! なぜ君が謝るの!? ローレンは見苦しくなんかないっ! 何をしても美しい!!」


 そう叫びながら、見かけ十歳にも満たないフェリアローシアがローレンの豊かな胸に頬を擦り付けた時、とうとうシアンがキレた。

 シアンは怒りの青い炎を立ち昇らせながら、絶対零度の視線と声でフェリアローシアに警告する。


「―――やめろエロガキ。見苦しいぞ」

「何処がですか。幼子の戯れですよね。それよりもシアン殿こそ空気を読んでいただけませんか?」


 フェリアローシアはキリッとシアンに言い返すが、 ローレンの胸に顔を埋め、くびれた腰を撫でながらなのでまるで説得力がない。

 そもそも自分で“幼子の戯れ”と言ってるあたりで完全にアウトだ。

 そんなフェリアローシアに、シアンは額に青筋を浮かべながら静かに告げた。


「ああ分かった。そして決めた。―――ローレンさん、予定通り今晩一晩お世話になります。でも子供達の手前だという事を忘れないでいただけますか?」

「もっ、勿論だ!」

「ぁ、悪魔ですか!?」


 力いっぱい頷くローレンとは対象的に、フェリアローシアは愕然と青褪めている。

 シアンはニヤリと不敵に笑うと、ローレンに抱きついたままのフェリアローシアにヌッと手を伸ばした。


「そういう事だエロガキ。だから早くローレンさんから離れてもらおうか」

「いっ、嫌です! 例え悪魔にだって、もう私とローレンを引き裂くことひょわぁぁぁっ、ほゎ!? にょあぁあぁぁぁ!」


 シアンがフェリアローシアの脇に触れた瞬間、フェリローシアがかつてない間の抜けた悲鳴をあげだした。


「ほれほれ、抱きついたままだと脇がガラ空きだぜ?」

「やっ、やめれっ! くだしゃっ、ヒャハぅ!! やめぇ―――!!」


 泣き叫ぶフェリアローシアを横目に、ミックがハーティーのお茶を啜りながらクロに訊く。


「ダークエルフって脇弱いのかな?」

「さぁ? でもダークエルフに限らず、父さんのこちょこちょは物凄くくすぐったいよ。未だにイヴでも父さんに脇取られたらギブアップするからね」

「うん。あれは無理」


 イヴもヌガーを齧りながらそう頷いた。


「なぁ、エロガキ。お前、ローレンさんにこれ以上自分の恥ずかしい姿を晒す気か? 勇気あるなぁ、えぇ?」

「ごっごめっ、なしゃひ!! ぶひゃっっ、が、がまんしましゅからっ、もっ、やっっやめれぇえぇぇ―――!!!」


とうとうフェリアローシアは、身を捩って泣きながら降伏した。

そこでシアンは漸く手を離し、ぺしょりと力なく床に崩れ落ちたフェリアローシアに鼻を鳴らして言い放つ。


「よし。―――だがもしその約束破ったら、こんなもんじゃ済まさねぇからな」

「は、……はひ……」



 ―――こうして、数千年を超えて育まれた愛すらも、シアンの前には敢え無く敗れ去ったのであった。




あれからフェリアローシアは、真っ直ぐローレンの下に向かいました。

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