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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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成長と芽生え ①

 シアンはそんなロゼの変化に戸惑いつつ、そっと小声で質問した。


「……お陰さまって、オレ何かしたっけ?」


 首を傾げるシアンに、ロゼはスッと目を細めて言う。


「うん。まぁ、シアンには随分眠らせて貰ったかな。ジャック・グラウンドを出たのは、まだ雪の残る春の初めだったのに、もうすっかり初夏じゃない」

「……え?」


 無邪気に笑うロゼの言葉に含まれる刺々しい嫌味に、シアンは後ずさった。


「僕言ったはずだよね? シアン達がキールを見つけたあの夜に、“イヴを幸せにしてあげて”って。なのにガッカリだよ」


 ロゼはとうとう苛立ちを隠せないように、そう言ってシアンに背を向ける。


「え? 待てよロゼ。何を言ってるんだ? オレはこれ迄イヴが人間として生きれるようにって必死で……」

「“人間として”なんて気を揉んでもらわなくても、今のイヴは十分人間だよ」

「ゔ……まぁ、そりゃそうかもだけど……。でもガッカリって? 旅の間中、イヴはいつも通り楽しそうに笑ってたぞ」

「そうだね。でも僕が眠ってる時点で、シアンは気付くべきだった」

「っ」


 シアンの言い分をロゼは淡々と両断にしていった。

 そして言葉を詰まらせるシアンを、ロゼは振り返って睨む。


「イヴは今でこそ感情豊かに見えけど、それは人体構造特有のホルモン信号のおかげなんだ。ああしてよく泣いて笑っていても、その本質は実は変わっていない。―――昔っからあの子は、人見知りだけど結構寂しがりやで、誤解されやすく自己主張が強いけど、案外周りの意見にも耳を傾けてくれてたりもする。それに不器用だけど、僕の知る誰より妥協を許さない努力家でもあったよ」


 ロゼの語るその本質とは、おそらくイヴがイヴになる前の話。だけどシアンは、その姿を今のイヴに容易に重ねる事が出来た。

 シアンはふとかつての神話の時代に思いを馳せながら、思わず改まって答える。


「えぇ、まぁ。分かります」

「そんな性質を持つイヴが、やり過ぎて少し人間の規格より外れて強くなった事なんて想定内。寧ろいつも通りだよ」


 想定内なんだ。


「―――それよりイヴの努力の賜物の中で、驚くに値する成長を見せているものといえば、僕は先ずコミュ力の進歩だと思っている」


 コミュ力……コミュニケーション力……。



 ―――った、確かにぃぃっ!!



 イヴが可愛過ぎて見過していたけれど、確かにあの頃から比べれば、その成長率は8歳にして人類最強になった事なんて目じゃないくらいに、確かに突き抜けているっ!


 最早流石ロゼとしか言えないその見解に、俺が幹を震わせる。

 勿論歓喜の驚愕による震えだ。そしてその間にも、ロゼは嬉しげに微笑みながら話を続けた。


「本当によくもここまで成長しだよ。ジャック・グラウンドという開放的かつ閉鎖的なその中で、多くの人達から愛情を受けたおかげだろうね」

「え、ええ。確かに健やかに育っていると、オレも思います」

「イヴは他人に優しくされて、様々なシーンでのシアンの対応を見て、学んで、優しさの返し方を学んだ」


 だがそこでふと、ロゼの顔から笑顔が消える。

 イヴの心に寄り添っていたロゼが見たものは、決して健やかな部分だけではなかったのだから。


「だけどね、学び、成長したイヴは様々な事を考えるようになった。例えば“もしかして、シアンがいるから自分は大切にされてるじゃないか?”とか、“シアンの子供でなかったなら、皆がこんなに構ってくれる事はなかったかも知れない”……とかね」

「な、何ですって? そんな事ある訳無いじゃないですか。ハウスの奴等はそんな差別をする様な奴等じゃないし、叔父さんやリリーに至っては、最早オレを邪魔げにすら思ってた節すらありますよ?」


 シアンは驚いて慌てて抗議を上げたが、ロゼはやはり聞き入れなかった。


「そうだね。だけどこの場合、事実も仔細も関係ないんだ。唯一重要なのは、それに対し()()()()()()()()()()()()()という事だけ」


 この世には揺るがない真理に基づいた万象の答えが存在する。

 それを人は“事実”と呼ぶが、それにまつわるストーリーを人は“真実”と呼んだ。

 揺るがぬ事実はいつも1つ。だけど真実とは、いつだって語り上げる人の数だけ答えがあった。

 ロゼは言う。


「人間の心はね、形に例えると歪な球体。それが膨らんでいく様に成長するんだ。そして光の当たる面は美しく光り輝くけれど、その深部と裏側には必ず影が生まれる。やがて心が育つに連れ、その影の部分も大きく、濃くなっていく。―――イヴがシアンに憧れると同時に羨み、時に不安や妬みを感じるという訳だね」


 苦笑するロゼに、シアンは訝しげに訊き返した。


「いや、しかしイヴがオレなんかに憧れますか? そりゃまぁ、オレだって随分虚勢張っては“いい親”に見てもらえるよう、日々努力はしてますけど」

「イヴだって同じだよ。寂しがり屋で努力家なイヴは“誰よりも完璧ないい子”になって皆に認めてもらおうとしてきた。でもこの旅に出て、シアンはイヴに何度もこう言ってたね」


 ロゼがそう言ってフッと笑った瞬間、シアンの額に一筋の汗が伝った。


「“もっと普通にしていなさい。自分を隠すんだ”ってさ。覚えてるよね?」

「―――っ」


 頑張った事への全否定。

 悪意なく、よかれと思い放ったその一言の持つ鋭利な刃に、シアンは漸く気付いて絶句したのだった。


「可哀想に、イヴは心の内では随分困惑していたよ。人の集団の中では、確かにある程度の能力水準を揃える事だって必要かもしれない。だけど最近のシアンのやり方……1から100までの全てを教え、正解以外の声を上げられない様に監視するっていうのは違うよね? だってそんなの無理だもの。人間は必ず間違いを冒すんだから」

「あ……はぃ……」


 ロゼの指摘にシアンは小さな呻きのようなものを溢すと、しゅんと俯いてしまう。

 ロゼはそんなシアンを、言い訳でもするようにフォローした。


「言っとくけど、今は別に人間の愚かさを責めてるわけじゃないよ? 僕は昔、人間を創るにあたって、()()()()()()()()()()を教えた。だけど人間としての()()()()()()は教えなかったんだ。―――分かるかな? つまり正解がないんだから、誰も正解のしようがないって事だ」


 自分のせいで悩み続けていたイヴの心情に思い至ったシアンは、そわそわと視線を泳がせ始め、やがて深々とロゼに頭を下げた。


「すみません……オレはただ、イヴに悲しい思いをさせたくなくて……」


 するとロゼはそんなシアンの頭にポフンと飛び乗り、シアンの天パをもふもふと叩いた。


「反省したならいいよ。それにクワトロが途中、イヴが思い詰め過ぎない所でガス抜きをしてくれてたからね。そのおかげで、僕はたまに目覚めることが出来てたんだよ」


 シアンがふと頭を上げる。


「……クロが……?」

「そうだよ。それに今回、シアンの助けを借りずにイヴが自分で“人間の友達”を作れた事が、イヴに自立の自信を付けさせ、結果僕がこうして話せる程度までに安定したしたんだ。―――初めはどうなることかと思ったけど、流石シアンの育てる子だね。クワトロにはいつも助けてもらってるよ」


 そう言ってロゼが飛び上がり、またシアンの顔の前で満面の笑みを浮かべた時、シアンは漸くホッとしたように息を吐いた。


「そう……ですか。―――クロの奴もいつの間にかデカくなってたんだなぁ」


 シアンはそう言ってとても嬉しそうに……たけど少し寂しそうに笑った。

 それからシアンはすぐにまたロゼに視線を戻すと、不思議そうに尋ねる。


「ってか、えっと……“安定してきた”という事はつまり、もしかしてロゼ様は今後もこの様な状態でいられると言う事でしょうか……?」

「うん。とは言っても、本来の状態を考えれば眠ってる時と誤差の範囲でしかないけどね。創造や生成は出来ないし、魔法も使えないに等しい。まぁ、ある程度昔の記憶は鮮明に思い出せるかな。って言うかシアン、今僕呼ぶ時“様”って言ったでしょ? じゃ、約束通り後で祝福を……」 

「いっ、言ってねぇし!? そんな事、全然欠片も言ってねぇよ!! 記憶が鮮明なんてホントかなぁ? まったくロゼったら冗談がキツイゼ☆ ァハ、アハハハッッ」 


 目には星を、額には冷や汗を浮かべつつ、全身全霊全力で否定するシアン。


 そんな哀れな仔羊の愚かな嘘に、ロゼは「そこまでか?」と小さく呟き、悲しげな笑みをふっと浮かべたのであった。



 ―――こうしてシアンは無自覚に悪意なく、他者を傷つけていく。

 ロゼか悲しげにポシェットへと戻って行く様子を眺めながら、俺は思わず届くはずのないエールを呟いた。



「ロゼ……ドンマイ!」



 こうして俺は、いつかロゼが帰ってきたら、ロゼと“祝福のしあいっこ”をきっとしようと心に決めたのだった。



「―――よしっ、んじゃオレもローレンさんの家に向かうか」


 ロゼがポシェットに潜り込んだことを確認したシアンは、ポツリとそう独り言をこぼすと、また森の奥へと向けて小走りに脚を進め始めた。


お兄ちゃん、ちょいおこでした。

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