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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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おままごと 下

お久しぶりです!

「“規則があるからおもしろい”―――つまりこれは、定められた規則の中で、それを守りながら生きていく人間社会そのものなんだ。そしておままごとはその練習にもなるから、とってもいい遊びなんだぞ」


 シアンの言葉にクロとソラリスが顔を見合わせ、同時に顔を顰める。


「「……社会?」」


 そして二人から視線を向けられたシアンが、二人の顔を交互に見ながら話しだした。


「そう。クロもソラリスちゃんも、その内何処かしらの組織やコミュニティーに入って、社会集団の中で生きてい多分くことになるだろ? 貴族社会か冒険者ギルドかテイマー協会……いや、それ以前に学校とかな。兎も角、そんな集団にはそれぞれ違いはあるが、もれなく規則ってやつがあるんだ」

「知ってるよ」

「知ってるわ!」


 シアンはクロとソラリスの元気のいい返事に満足気に頷くと、更に言葉を付け加える。


「そこでだ。そんな規則まみれの社会の中で、ソラリスちゃんみたいに“下らない”と言って不貞腐れる者もいれば、クロの()った“意地悪王子”の様に、規則の隙を突いて卑怯な事をする者もいる。勿論、正直に真っ直ぐ努力する人もいるぞ。ただまぁぶっちゃけ何をしようが、規則を守ってさえいれば、その集団に属している事は出来るって事だ。―――だがそれが守れなくなった瞬間、どんな正直者の善人だったとしても、その社会やコミュニティーから淘汰される事になるんだけどな」

「淘汰……追い出されるということ?」


 眉を寄せながら聞き返すソラリス。

 シアンはそれに頷くと、子ども達に質問を返した。


「そうだ。社会のルールを守れなかった奴に、社会は容赦しない。……例えば、この国で“殺さず”の法を破った者の処遇をお前達は知ってるか?」


 シアンの問い掛けに、またもや顔を見合わせ言葉を詰まらせる二人。

 その時、ふと今まで沈黙していたミックが、苦笑を浮かべながら割って入ってきた。


「兄貴ぃ、ンナのまだ10歳そこらの子供に振る話じゃないっすよぉ」


 ―――ミックは外見こそ幼いが、一応27歳である。

 ミックはソラリスを横目に見ながら、シアンを非難するように言葉を継ぐ。


「この国の法律じゃ“殺人罪”はいかなる理由があろうと“死罪”っす。つまり極悪犯と罵りながら自分達は善人面で同じ事してる、とでも言いたいんすか?」


 シアンは肩を竦めながらも深く頷いた。


「おう、ミックは賢いなぁ。……ま、それは極端な例ではあるけど、ソラリスちゃんは貴族社会の中きで、その残酷さをよく見てきた筈だ」

「まぁ……貴族(あの人)達は、私を同じ人間と扱おうとすらしなかったことは確かね」


 そう、唇を突き出しながら頷いたソラリスだったが、シアンは首を横に振って指摘した。


「いや、これはソラリスちゃんの話じゃなくて、叩かれていたお父さんのカイロン伯爵の話だよ」

「……え?」


 訝しげに眉を寄せ顔を上げたソラリスに、シアンはさも当然と言わんばかりに言い放った。


「だってソラリスちゃんは生まれてこの方、今現在に至るまで、貴族社会からは始めっから認められてなんかいない。つまり、追い出すべき存在ですらなかったわけだ」


 ソラリスはグッと言葉を詰まらせ、よく口癖のように言われ続けていた嫌味を思い出す。


 “思い上がるな”


 そしてふと、あの言葉は彼らにとって嫌味ですらなかったのだと思い至り、思わず皮肉った微笑をその口元に浮かべた。


「……バカみたい」

「はは、あの社会に属さない者はみんなそう言う。―――そしてあの社会で弾かれようとしてたのは、他でもない私生児(ソラリスちゃん)をこの世に生みだしたカイロン伯爵だった。貴族社会(あそこ)は歴史も古く特殊な分相当キツいだろうに、よくもまぁ、その地位を貶すことなく耐えたもんだよ」


 カイロンはいつも、まるで仮面のような笑顔を貼り付けながら、狡猾な貴族達と話していた。

 何故言い返さないのかと、ソラリスですらもどかしくなる程、自慢や嫌味を受け流していた。

 自分なら、果たしてあそこまで耐えられるだろうか……? ソラリスがそんな事を考え沈黙した時、ふとミックが念押しする様に、ソラリスに声を掛けた。


「同情するなよ? どんな事情があろうが、ソラが一番の被害者なんだから」

「え、えぇ! 勿論よっ!」


 ソラリスは慌ててそう頷くと、腕を組んで鼻を鳴らす。


「それにっ、私別に貴族なんて興味ないし? 私はこれを期に、冒険者としての名を更に上げていくの。目指すは伝説の冒険者・蒼穹のラディアンことラディー様の様なSS級冒険者よ!」


 と、そう意気込むソラリスにシアンは残念そうな笑顔を無言で向けた。


「……」

「な、何よ?」

「……いや、勿体ないなーっと思ってさ。せっかく適性職種(ジョブ)がウルトラレアな【聖騎士】なのにな……。まぁただ本気で【騎士】を目指すなら、無名の冒険者じゃまず無理か。でもナンチャッテでも貴族の肩書があったなら、可能性はかなりあるのになーって……」


 実際、ソラリスとて憧れなかった訳ではない。ただこれまでの環境では、とても夢見れる状況ではなかった。―――だけど、シアン(ノルマンの伝説)が後見人となってくれたこの状況では……


「くっ」


 ソラリスは女騎士らしい呻き声をひとつ漏らすと、悔しげにシアンに尋ねた。


「―――どうすればいいの?」

「まぁ焦るな。本気でやりたいなら、旅の間色々教えて、貴族達に認めさせるには十分な力をつけさせてやるからさ」


 ……つまり“力が欲しいか? ならばくれてやろう”ということか。流石シアンだ。


「時間が惜しいわっ。何か今すぐ出来ることはないの!?」

「んー? つっても、焦って詰め込ませるのはオレのやり方じゃないしなぁ……。あ、そうだ。とりあえず最初だし、気張らず気軽にイヴ達との“おままごと”で【上級貴族】の役を貰える事を目標にしてみようか」


 ……―――それ、気軽に出来る事なのかな?

 再度となるが、イヴとクロのおままごとはどこまでもリアルに近い。

 それが上級貴族……つまり最低伯爵で、侯爵や公爵の当主の役をこなすとなると……。


 俺がそんな事を考えていると、ソラリスは特に気にした風もなく胸を張って頷いた。


「……ふっ、いいわ。そのくらい余裕でやってやるわ!」


 まぁ、本人が気にしていないなら別にいいか。


「だけど、貴族ごっこは今やったばかりだし疲れたから、先に聖騎士ごっこしましょ。勿論私が聖騎士よ!」


 まぁ、いくら崇高な目標があろうと、子供の集中力なんてそんな物だ。

 そして他の子供達プラスαも、我先にとソラリスの提案に食い付いた。


「いいよ! 私は攫われたお姫様!(イヴ)」

「ならオレは教皇役かな (シアン)」

「んじゃあ俺は騎士の付き人 (ミック)」

「俺、姫を攫う魔王役 (クロ)」


 秒で決められた配役は、これ以外にないという程に完璧だった。

 そして配役が決まったところで、シアンがクロの隣に立っていたフェンリル(ラーガ)に声を掛ける。


「よーし。んじゃ、ラーガ。一足先に二人を、この森の何処かに住んでるローレンさんの所まで案内してやってくれ」

「ウォン!」

「フハハハハ! 姫は頂いた! 返してほしくばローレンさんの家(魔王城)にくるがいい!!」

「え!? も、もう始まったの!?」


 ガラムそっくりの威厳溢れる笑い声を上げて走り去るクロに、ソラリスは目を丸くして叫んだ。

 だが今度はシアンがソラリスの叫びを無視して、後光すら感じさせる迫真の演技で“大教皇”としてソラリスに縋りつく。


「あぁ、姫様が! 何ということだ……神の加護が授けられし聖なる騎士よ。どうか……どうか姫様を助けてくだされ!」

「えっと……分かったわっ! っく、ま、待て! 魔王!!」

「待てと言われて誰が待つものか。さらばだっ」

「きゃー、騎士様助けてぇー」

「行くわよ、サンチョ! そしてダッキー! 敵は強大。だけど神の名の下に必ず魔王を打ち果たし、姫君を救い出すのよっ! 帝国に平和をぉー!!」


 そうして子供達と獣達は、シアンを残して楽しそうに森の奥へと駆けていった。

 ―――因みにこの森は【黒狼王の森】と呼ばれ、勇者クラスのパーティーでなければ近付かない程危険な森とされているんだけど……まぁいいか。


 子供達が去って一気に静かになった森の中で、ふとシアンの持つ荷物の中から、シアンに声が掛けられた。


「元気だねぇ。いいの? 全然疲れてなさそうだけど」


 シアンの腰に下げられたポシェットから、チラリと上半身を出した笑顔のロゼだった。

 シアンはそんなロゼに頷いた。


「はは、あんなもんだよ。それに山中を駆け回るのは、足腰やバランス感覚を鍛えるのに最適だからな。子供の内は訓練も遊びとして、楽しみながらやってけばいい」


 ロゼはシアンのポシェットから飛び上がると、シアンの顔の前で一度宙返りをして、体を伸ばしながら言った。


「なるほどね。でもこの程度じゃあ、今のイヴやクワトロにとっては、なんの訓練にもならないでしょ」

「いや、二人も“普通はどの程度で体力の限界が来るのか”の目安を知る事ができるから」


 ―――つまり、やはりソラリスとミックには、体力の限界を攻めさせるという訳だ。

 ロゼも俺と同じ事を考えたようで、少し呆れたようにシアンに言う。


「……シアンって、優しそうに見えて案外スパルタだよね。そんなんだからシアンが面倒を見てきた子は、もれなく“英雄”だの“人外”だの言われるんじゃない?」

「―――くっ、……オレの黒歴史(ダークサイド)が……」


 ロゼから軽い精神的攻撃に、途端シアンが胸を押さえ身を屈める。

 とはいえ、シアンは何を隠そう【ノルマン学園】の創始者であり、なにより【世界一残念な仔】であったハデスを【死を司る最強ネ申が一柱・冥界神ハデス】にまで育て上げた張本人なのだ。

 マスターなんかも“世に叡智を拡めた偉大なる教育者”として知られているけど、シアンの得意とする“個を伸ばす”という点に於いては、シアンは名実共に賢者に追随すら許してはいなかった。

 ―――そう。シアンが目を付けた者は、その優しげな笑顔と言葉に唆され、嬉々として己の限界を越えて、人にあらざる力を手にしていく。

 その所業と鮮やかな手腕とくれば、さながら悪魔そのもの! ……いや、このくだりはもういいか。


 シアンはひと悶えした後、視線だけを上げてロゼに尋ねた。


「っていうかさ、ロゼなんか調子いいな。いつも食べてはうたた寝してばかりなのにさ。こんな冗談を言うなんて……」

「うん、お陰様でね」


 ロゼはニコッと笑顔で頷き、そう短く答える。


 ―――その時のロゼの瞳には、かつてクロがキールを拾ってきた日に見せた、あの明晰な輝きが宿っていた。




唐突にスランプに陥り、間が開いてしまいましたが再開しますヽ(´エ`)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 再開だ! [一言] ナチュラル訓練、シアンズブートキャンプの始まり! 実施者は死ぬ(体力の限界的意味で)
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