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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ー平原の一本松⑨ー

 

 クワトロが錫杖を握る手を返し、シャリンと鈴を鳴らした。

 水と気圧の渦壁が、一層激しくうねる。


 イヴがボールを振りかぶり、私が歯をギリッと鳴らした時、クワトロがまた鈴を鳴らして獣達に指示を出した。


「ドル【硬い岩壁(スチールクリフ)】っ!」


 イヴがボールを投げ放った瞬間、外野に居る亀の尻尾がまるで血管が脈打つ様にドクンと揺れる。

 それに呼応する様に私とクワトロの背後で、大地を砕き、黒い鋼鉄のクオーツの結晶のような華が咲いた。


 凶悪なボールが私に迫ってくる。


「っっく!!」


 ―――ボールから目を離すな!


 恐怖に尻込みしそうになりながらも、私はクワトロの声を頭の中で反芻させる。

 そしてボールが私の胸の中に飛び込んだ瞬間、バフ上げされた視力や反射神経、腕力能力の全てを最大限活かし、それを腕で抱き込んだのだった。


 体がちぎり飛びそうな球威……の割には、あまり身体への衝撃やダメージを感じない。不思議な感覚だった。

 だけどダメージはなくても、私と私を支えるクワトロはその威力で後ろへと押される。

 このまま場外へ出てしまえば、ルール上ボールはイヴの元へと返される事になるのだが、私達の背後に咲いた黒い鉱石の華がそうはさせなかった。


 バキバキと背筋の凍る音を立てながら、背後で砕ける鋼鉄の華。

 私はクワトロと黒い岩の華に深く沈み込みながら、その花弁が儚く散っていく様を眺めていた。

 それは、おおよそ人間という生き物が生き残れる筈のない空間。

 その真っ只中で、私はふと教会のミサで聞いた説教の一つを思い出した。



 “―――遠くない未来、世界は光に満たされる。そして遠くない未来、世界に炎が渦巻き、凍り付き、水が溢れ、風は吹き荒れ、大地が割れるだろう。だが恐れる事なかれ。例え世界が闇に沈もうと、神の加護が我等をお守り下さるだろう。加護に見放されぬ為にも仔等よ、決して慌てる事なかれ”




 ―――あぁ、もしかしてあの予言は…………。




 私は目の前に広がる終末の刻とも呼べる光景を、凪いだ気持ちで見つめながら、慌てず騒がす落ち着いて、ぎゅっと胸のボールを強く抱き締めると神に祈りを捧げたのだった。





 ◇◇◇




 ―――イヴが投げ放ったキールを、なんとソラリスが受け止めた。


 ファイブズ家の面々とミックが目をひん向いて見守る中、クロがガルドルドに(ドル)に大地を元通り均させて、ソラリスの肩から手を離した。


 そして何か悟りでも開いたかの様な穏やかな顔付きでボールを抱えるソラリスに声を掛けた。


「ナイスキャッチ、ソラリス」


 続いて見ていただけのシアンもガッツポーズを取りながら、ソラリスとクロに声を掛ける。


「ナイスガッツ! ナイスフォロー!」


 ついでに相手チームであるイヴも嬉しそうに声を上げる。


「すごーい! ナイスチームプレー!」


 とうとうミックも叫んだ。


「なっ、“ナイス”じゃないっす!!」


 ナイスじゃナイス……だと? ―――な、ナイスギャグ! ナイスリアクションンー!


 俺が遠い森の中でツボに嵌って枝をわっさわっさと振り回していると、突然俺の根本にある小さな扉がキィと音を立てて開いた。

 そして中から出てきたマスターが怪訝そうな顔で俺に尋ねてくる。


「……何事ですか?」

「やあマスター。実はね、今ミックが“ナイスじゃないっす”って……」

「あ、やっぱりいいです」


 マスターは冷めた声でそう言うと、一瞥もくれる事なく再び扉の中に消えていった。


 ……。


 

 ……うん。まぁ、笑いのツボが合わないことなんてよくある事だ。


 ―――場所を戻して一本杉の前。

 コートの中で静かに瞑想していたソラリスが、突然カッと目を見開いたかと思うとギンっとクロを睨んだ。


「っ覚えてなさいよっ、クワトロ!」

「え? 俺なんかした?」


 はて?と首を傾げるクロ。ソラリスはそんなクロにツッコミも入れず、次にイヴを睨む。


「イヴも!」

「私?」

「そうっ! ついでにシアン、あなたもよっ!!」

「つ、ついで?」


 腕を振り上げ、シアンファミリーに怒鳴り散らすソラリス。


 ……あぁ、なるほど。

 どうやら結構堂々とキールを受け止めていたように見えたけれど、本当は結構怖かったんだね。

 だからこうしてボールを受け止めてホッとした今、重度のストレスを発散しようと手当たり次第に当たり散らしているんだろう。


 ―――かつてゼロの支援を受けてとは言え、レイスと正面から対峙した、あの子の魂の欠片を持っているというソラリス。

 だからボールくらい案外平気なのかと思っていたけど……まぁ別人だし無理だったようだ。


「バカあぁぁ!!!」

「な、何だよっ、ソラリス」

「取り敢えず落ち着いてボールを投げよう、な! せっかく受け止められたんだし……」

「もーいやっ! シアンが投げなさいよっ! イヴを仕留めてっ! ほら! ほらぁ」

「む、無理っ! クロ! へい、パス!」


 何だかんだで文句を言いつつ、無意識に試合続行を受け入れるソラリス。

 一方でマルクスはガタガタと震えながら、そっとシアン達に提案をした。


「……こ、このままボールを投げないでキープしたまま30分やり過ごせば、ルール上勝てる……んじゃないですか?」


その瞬間、わきゃわきゃと楽しげだった空気の温度がスンと下がった。


「……え? 何言ってるのマルクスくん。それじゃあつまらないよ(イヴ)」

「ルール上は問題ないけど、じゃあ君は何の為にここにいるんだい?(シアン)」

「マルクスって卑怯だね(クロ)」

「……」


 最早言葉も無くすごすごと引き下がるマルクス。

 その後マルクスは、ひたすらシアン達から距離を置こうとコートの端っこで蹲っていた。


 ―――マルクス元気を出して。君は何も悪くないから。


 そしてそんなマルクスから目を逸らしたクロは、再びイヴを見た。


「どこからでも来ていいよっ!」


 イヴのそんな掛け声に、クロは肩を竦めて軽くボールを空中に投げた。


「だけど俺もイヴには当てられそうにないね。……フィー! 代わりに投げて」

「ピョッ」


 クロに応えて飛び出してきたのは、極彩色の羽を持つ雀程の小鳥の姿をしたフェニクス(フィー)だ。

 フェニクス(フィー)はヒラリと軽やかに空中で宙返りをすると、ふわりと空中のキールに舞い降りた。



 ―――そして、蹴る。



「ピヨッ」



 フェニクス(フィー)はクロの契約獣の中でも、光を司る獣であり、その真骨頂はサリヴァントール(ルナ)をも上回る“スピード”だった。


 可愛らしい掛け声とは裏腹に、その球速はイヴの投げたボールの比ではなかった。



 ◇◇◇



 ―――やがてドッジボールの試合も後半へと差し掛かった頃、悪魔がニヤリとほくそ笑んだ。


「―――くくっ、予定通りだな……」


 腕を組んでそう言ったのは、言わずと知れた“いないと困るが、いても実践では役に立たない男”投票でダントツNo.1のシアンだった。

 シアンの見据える先にはビスマルクを背負って、懸命にボールから逃げるイヴの姿。

 それを狙うのは、コート内にいる豪速球担当のフェニクス(フィー)と、外野にきた球を大地に呑み込み、大地に開いた無数の穴から大砲よろしく撃ち出すガルドルド(ドル)だ。

 その球威もさる事ながら、外野から来た球はなんとサリヴァントール(ルナ)からの追撃で静電気を纏っている。受けようと触るとバチンときて、地味に痛いぞ。


 イヴは球を避けながら、明るい声でビスマルクを励ます。


「大丈夫だよ、ビスマルク君。お姉さんが守ってあげるから、しっかり掴まっててね!」


 ―――だが、目を見開いて硬直するビスマルクはもう何も答えなかった。


 そんな健気な二人に、シアンが高笑いを決める。


「ハッハッハー! 優しいイヴなら、必ずビスマルク君をそうやって保護すると思っていたぞ! どうだ、手がふさがって何もできまい! そして、本当にイヴは優しくて可愛いなあぁぁ!」


 ……大人は卑怯だ。


 クロもそんなシアンに呆れたような視線を向けながら、ポソリと忠告を入れる。


「父さん、ドッジボール中なんだら腕組むのやめなよ」

「あ、うんごめ……」


 だがその時だった。イヴが高く跳躍したかと思うと、フェニクス(フィー)の放った球を頭突きで返したのだ。


「顔面セーフシュートおぉ!!」


 イヴの打ち返した球は、油断していたシアンの肩にボクンと当たり、ボーリングのピンのごとくシアンを弾き飛ばす。


「ゴフッ」

「父さ……」

「ルドルフ受けてえぇ!!」

「まかせとけっ!」


 シアンに命中した球は、勢いを衰えさせる事なく外野で待つルドルフの方へと飛んでいく。

 クロは駆け出すが間に合わず、手の平からすり抜けていくボールに、悔しげな声を上げた。


「しまった……」


 だが零れ落ちた球を受け止めようとルドルフが蹄を上げた時、その鼻先を金色の髪がくすぐった。



「―――ってゆーか、渡すわけないし?」



 不敵に放たれたその言葉に、クロが目を見開いて歓声をあげた。


「っソラリス!!」


 コートのギリギリ境目に立ったソラリスが、熱血スポーツ漫画の様にボールを胸に抱き、ブーツの裏から焦げ臭い煙を上げながら立っていた。


 イヴが楽しそうに跳ねながらソラリスに言う。


「あーっ、惜しかったのにぃ!」

「ふんっ! さっきの球に比べたら、こんなワンバウンドボールくらいクワトロのフォローなんていらないわっ!」


 ……いや? 

 この短時間でソラリスのレベルが凄い勢いで上がっている事を、本人は気づいていない。


「クワトロもシアンもボサッとしてるんじゃないわよっ!」

「お、俺じゃない! 父さんが……」

「いやだってまさか、あの状態で反撃してくるとか……」

「もう言い訳とか聞きたくないのよ。早くしないとイヴに当てられないまま制限時間きちゃうでしょ!? フィーちゃん投げてっ!」

「ピッ……ピヨッ!」


 シアンとクロを黙らせるソラリスの気迫にフェニクス(フィー)もタジタジだ。


 と、また相手コートに向かって皆が構え直したその時だった。

 突然クロが盛大に吹き出した。


「ブフッ!! ……っ、ちょっとイヴ……っ」

「クロ? どうしたの?」


 首を傾げるイヴだが、次の瞬間クロに続いてソラリスとシアンも笑い出した。


「ぷふ……ふふっ、イヴ……っ、あなたその頭……っ」

「あっはっはっ、イヴ! 髪の毛が逆だって爆発してるぞ! きっとルナの静電気が残ってたんだなー」


 イヴがビスマルクを背負ったまま、片手で自分の頭を触り確認する。


「え、え!? うっはー、本当だ! 凄い頭になってる!!」

「あっ、いけない。時間がないわっ!」

「ちょっと直す時間くらいあげようよ、ソラリスちゃん」

「いいよ、後で直すから。このままやろうやろう!」

「……も、……助けて……」



 ―――こうして、一部の者にとっては恐怖(スリル)満点の楽しいドッジボール試合は、この後も結局イヴを沈めることは出来なかったものの、クロチームが勝利を収めることとなったのだった。



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[一言] ソラリスつよい。
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