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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 〜一本松の下で⑤〜

「医学界では神とも呼ばれる貴婦人だけど、他の界隈では案外その知名度は低い。というのも、同時期に活躍した大賢者羚瀏が、その存在を霞ませるほどの数々の偉業を、各界で叩き出したからなんだ。魔法を刻み込んだ武器の設計をはじめ、使用者を選ぶ武器“宝貝”を作りだしたり、神薬と言われる“エリクサー”を完成させたのも賢者羚瀏その本人だ。難攻不落と言われるグリプス大迷宮ダンジョンを複数回に及び攻略したり、呪われた黒い森に赴いて、アンデッドを調伏させたなんて記してある書もある。それに勇者を導いて、失われた聖剣を共に発見したって伝説も有名だな」


 概ね間違いはない。当時の彼は頭脳派要員でありながら、かなりアグレッシブで先ず行動するタイプの人間だった。


「留まる事を知らず各分野で活動を続ける一方で、賢者羚瀏は華国の山中にて広大な土地を手に入れ、そこに塾を開いた。それが蓬萊山だね。賢者羚瀏はそこで自身の知識を余す事なく公開し、後世への人材を育てる事にも尽力したんだ」

「へー、賢い人は何でもできるんだね」


 イヴが感心したように頷いた。

 そうだね。そしてそんな賢者が唯一手出しする事を恐れたのが君だということを、イヴは当然知らない。


「そうして様々な分野に貢献した賢者は、人々から“後世幾千年に渡り、人々を救い続ける叡智を遺した英雄”として今尚人々から讃えられている。……だけどな、不思議な事に賢者に親しかったとされる当時の人達の手記には、尽く賢者を非難する言葉が残されているんだ。例えば共に聖剣を見つけた勇者が、賢者に宛てた手紙にはこう残ってる。“―――悪魔に謝れ お前こそ 真の悪魔だ ゲス野郎”」


 ……一応当時の勇者の為に追記しておくと、当時の勇者アマルフィンは牧歌的で朗らかな、おっとりとした性格の勇者であった。

 決して普段からそんなハードバイオレンスな人物ではなかったと、ここにきっちりと明記しておこう。


 しかしそんな事を知らないクロは、不思議そうに首を傾げながらミックに尋ねる。


「え? 勇者にとって悪魔って敵だろ? なんで勇者が悪魔の肩を持ってるの?」

「さぁそこまでは……。まあ、普通に考えてあり得ない手記だからな。多くの学者は多分何かの隠語か、冗談だろうって方向で解釈してる。こんな毒舌の冗談を言い合える程、仲が良かったんだろうってね」

「ふーん」


 クロがそう頷いたのを見届けたミックは、次に声のトーンを少し落として話を続けた。


「まぁ、そんなんで人類最強とも謳われた賢者だけど、押し寄せる老いの衰えには逆らえない。晩年となる頃、賢者羚瀏は病を患ったんだ。エリクサーを使うにしても病に冒された箇所を切除しなければならない。そこでその執刀に、兼ねてから懇意にしていた貴婦人が執刀に当たることになった。当時の貴婦人は57歳。マリアンヌの日記には“体力的にも、おそらくこれが自身に出来る最後の執刀になるだろう”という覚悟が記されていたそうだ。それ程の大手術。―――だけどいざ執刀の日、賢者は忽然と病床から姿を消してしまった」


 いいところで話を切って、ふぅと息を吐くミック。


 エリスやイヴは堪らずミックに続きをせがむ。


「え、なんで? なんでいなくなっちゃったの!?」

「手術が怖くなっちゃったのかな? クロは平気そうだったけどね」

「うん、俺は手術怖くなかったよ」


 ミックの話に真剣に耳を傾ける子供達から少し離れた場所で、コッソリ聞き耳を立てていたシアン。

 子供達のそんな無邪気な反応に、シアンは懸命に何かに耐えるように肩を震わせていた。


 ミックはたっぷり子供達を惹き付けてから、その先を話し始めた。


「怖かったかどうかはさておき、その時賢者は蓬萊山から更に東にある小島へと旅立っていたらしい。今で言う、鬼神の塒と言われるダンジョン【天洞山】があるムサシ列島だな。賢者はその小島で“水の神龍を見た”と手記に残してあったそうだ」

「水の神龍! 俺も見てみたいな」


 クロがこの話の中で、そのキーワードにかつてなく目を輝かせながら食い付く。

 その時ふとウェルジェス(テン)がクロの鞄からヒョコリと顔を出し、上機嫌に「クオォン」と声を上げた。

 ミックがクロに苦笑しながら頷いた。


「会えるといいな。だけど神龍とは即ち神域に住む神獣だ。難易度は高いと思うぞ」


 深く頷くクロの隣では、ウェルジェス(テン)がピンと小さな身体を伸ばし、メトロノームのように身体を左右に大きく振っていた。

 ミックは気にせず話を続ける。


「賢者の身体を蝕む病はその旅の間に全身に転移して、再び賢者が帰ってきた時にはもう、その病状は貴婦人にも手の施しようがない程になってたらしい。こうして貴婦人の最後の執刀は行われる事なく、以来メスを置いた貴婦人はその3ヶ月後自宅で眠るように亡くなったんだそうだ。で賢者は更にその2ヶ月後、病でこの世を去る事となった。―――貴婦人の言葉通り、何者も“死”に打ち勝つ事は出来ずにね」


 そう締めくくられたミックの話に、辺りは少ししんみりとした沈黙に包まれた。

 少し離れた所では、シアンも何処か感傷深く目を閉じている。

 だが次のミックの一言で、シアンの目はカッと大きく見開いた。


「―――ほんでここからは俺の憶測なんだけど、実はこの二人、結婚こそしてないがデキてたんじゃないかと俺は思ってる」


 お年頃なエリスも突然始まったかもしれない恋愛話に、目を輝かせて食いついた。


「え! なんでなんで!?」

「うん。貴婦人は多くの人の死を目の当たりにしてきた人物だ。おそらく自身の死期も、結構正確に悟っていたんじゃないかと。―――となれば、日記に記されてた“最後の執刀”という言葉に込められた意味とは、ズバリ自分の命を懸けて、最後の大手術に挑もうとしたということになる!」


 ビシリとそういったミックに、エリスが黄色い悲鳴を上げながら注釈を入れる。


「キャー、素敵っ! 貴婦人にはもう手術に耐えられるだけの体力なんてほとんど残ってなかった筈……なのに、それでも自分の生命を燃やして愛する人を生かしたかったって事なのね!」


 シアンとガラムはポカンと口を開けて、子供達の様子を凝視していた。

 語に夢中になっているミックは気付かず、悲しそうに目を伏せながら言う。


「そう。貴婦人は命を懸ける覚悟を持っていた。たけど賢者はそれを拒んだんだ」

「なんでよ!? ずっと懇意だったんでしょう!? 貴婦人の決死の想いを受け取らないなんて酷すぎるわっ」

「そうだよ! 神龍がそんなに大事だったの? 貴婦人が可哀想だよ。ねぇクロ」

「え!? う、うん! 俺ならイヴとの約束を破って神龍を見に行ったりなんてしないよ!」

「クキュゥ……」


 盛り上がる子供達。

 ウェルジェス(テン)は少し寂しげな声を上げて、そっと鞄の中に戻っていった。


 何故賢者は手術当日に旅立ったのか?


 子供達の視線を……ついでにシアンとガラムの視線も一身に受けるミック。

 ミックは、騒ぐ女子達をすっと手で制して静かにさせると、まるで恋する王子の如き物憂げな表情で、歌劇の主人公のように()()を作り空に手を掲げた。

 そして光のエルフ特有の天使の様な甘いマスクで、切なげに手を伸ばした空に向かって尋ねる。


貴婦人()が先に逝こうとしている事を、まさか賢者である僕が知らないとでも?」

「!?」

「!!」


 息を呑む女子達と、唖然と目を見張るオッサン達。

 賢者を演じるミックはフッと優しく微笑むと、流し目を女子達に向けながら呟いてみせた。


「―――賢者()は延命を拒む。だって貴婦人()のいない世界に、賢者()がこれ以上留まり続ける事に意味はないから……」



 ……。



 ……いやぁ、ないない。彼に限ってあり得ない。



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― 新着の感想 ―
[一言] マスターに限って)ないね~! え、ないよね? え…え?
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