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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ー平原の一本松④ー

 シアンとガラム、そしてカイロンの大人組から少し離れた場所で、子供達は黒いランナーバードのダッキーを囲み、敷物も敷かず各々に腰を下ろしていた。


 イヴはジェイクと話を弾ませ、その他の子供達は、ダークホースダッキーの相棒となったミックの弾む声に耳を傾けている状態だった。

 ミックは持参した野菜のスムージーのような物が入ったボトルに口を付けながら、頬を紅潮させながら興奮気味に話し続ける。


「ダッキーってさ、本当に良いやつで賢い奴なんだ! 乗せてくれる時、俺にすごい気を遣ってくれてるのが分かるんだよな。こんな優しいやつ見たことないよ」

「グワッ」


 ダッキーもそんな話を知ってか知らずか、相槌を打つように鳴き声を上げている。

 クロはサンドイッチを片手に、そんなミックとダッキーに嬉しそうに頷いた。


「気が合ったみたいだね。良かったよ」

「いや、クワトロ。俺とダッキーは“気が合った”なんてもんじゃないぞ? ダッキーはもう俺の半身だ。こいつが居たら俺は何処へでも行ける。いや、こいつが行きたいならどこへでも行かせてやるさ! な! ダッキー」

「グワッ」


 歓喜し合うミックとダッキーだが、それは致し方ない状況でもあった。

 何故ならば、この2名は遠くに行きたいという同じ願いを懐きつつも、片や不自由な足によりその願いを奪われ、そして片や鎖に繋がれ願いを封じられていた者達だったのだ。

そんな同じ願いと、互いに足りなかった物を持つ二人が出会ったという事、それは彼等にとっては間違いなく大きな奇跡であったのだから。


 ミックは上機嫌に笑っていたが、急にふと眉を寄せるとダッキーの瞳を覗き込んだ。


「あー、でもお前兄貴のランナーバードなんだよなー。なんとか譲ってもらえないかな? 俺が兄貴の下で働けりゃ一番だけど兄貴嫌がりそうだしなぁ……」

「グクゥ」


 ミックとダッキーがそんな二人の世界を作る傍らで、今さっき迄イヴと楽しげに話していたジェイクが突然立ち上がり、何やら青い顔をしてカイロンとシアン、そしてガラムが座る場所に戻ってきた。

 カイロンが不思議そうに、俯くジェイクに声を掛ける。


「どうしたジェイク。イヴちゃんに学校の事を話してあげるんじゃなかったのか?」


 ジェイクは首を振って、震える声でぽつりと言った。


「……いえ。その…………僕なんかが話してあげられるような事なんて……何一つありませんでした……から」

「何?」


 カイロンは顔をしかめ訊き返したが、ジェイクはそれには答えず、引き攣ったなんとも言えない笑みを浮かべながらシアンに言った。


「シアンさん。―――シアンさんがイヴちゃんに、幼い頃から医療知識や技術を叩き込まれたのですね。シアンさん程の方の施す英才教育だ。そりゃぁ僕なんか話になる筈ないですよね」


 今にも泣き出しそうな笑顔でそう言われ、シアンは慌てて首を振った。


「え!? いやいや、ジェイク君。オレは英才教育なんてしてないよ? 特に医療系なんてオレは全然ノータッチで……」

「っ嘘だ!!!」


 シアンの言葉を遮って、突然怒鳴り声をあげたジェイク。

 カイロンは目を見開き、シアンはとりあえず場を収めようと慌ててフォローを開始する。


「あ、……あれかな? えっと、オレの主治医の女医さんとイヴが仲良くて、色々教えてもらってたみたいな……? それで色々知ってたんじゃないかな。でも別に医者になりたいとかはきいた事ないから! ジェイクくんはジェイクくんでしっかり学校に行って、まだまだ勉強して立派なお医者様に……」


 だけどジェイクはとうとう一筋の涙を目尻から零しつつ、全てを諦めきった穏やかな声で言った。


「もう……いいんです。―――これまで学んできた事全てを“当然”だと頷かれ、たった8歳の子の話に付いていくことが出来ず、終いには“え? 学校で何教えてもらってるの?”って、本当に不思議そうに言われたんですよ? しかもアレで医者を目指してるわけですらなかったのですか……。父さん、ごめんなさい。僕もうこの道を諦めようかと……本気でっ……」

「ちょ、ジェイク!? 何を言ってるんだ!? 諦めたらそこで試合終了なんだぞ!?」

「そ、そうだよジェイク君! 本気にしちゃだめだよ! 子供の戯言と寛容に……寛容に!」


 こうして、ジェイクはリタイアした。



 ◇◇◇



 ジェイクが抜けても、ダッキーの輪に戻ってきたイヴを交え、子供達の会話は弾む。


「イヴちゃんは凄いのね。ジェイク兄さんと話が出来るなんて、そこいらの町医者なんかよりよっぽど医療に詳しいわ。その主治医の先生のお名前は何と言ったかしら? ジョーイさん?」

「うん。女医さんだから小さい頃からジョーイさんって呼んでたの。でもシアンはたまに“マリアンヌちゃん”って呼んでるよ」


 エリスの質問に、イヴはダッキーの前でも気にせず鳥の唐揚げにフォークを突き立てながら答えた。

 そしてそんなイヴの答えを、饒舌になったミックが拾い上げる。


「へぇ。マリアンヌって言ったら“神の手を持つ貴婦人”と同名じゃないか」

「貴婦人……?」

「あれ? 知らないのか? 天才外科医マリアンヌだよ」

「昔の人? んーん、知らない。そういえばジョーイさんもシアンも童話やお伽話ばかりで、あんまり有名な人の伝記って話してくれた事ないよね」


 イヴがクロに話を振れば、クロはコクリと頷き懐かしそうに言った。


「うん。前に魔人ガルシア伝説聞こうとしたら、父さん急にお腹が痛いって言って寝込んじゃったんだよね」

「へぇ。タイミングが悪かったんだな」


 ……まぁ、シアンから魔人ガルシア伝説を聞き出すのは先ず不可能だろう。

 ミックはその時のシアンが仮病だったなどと思いも付かず、軽くスルーすると嬉々として“神の手を持つ貴婦人”についての言い伝えを話し始めた。


「―――遥か昔。今から6千年前に遡る太古の時代。神に魔物が封印されたという人間達の黄金時代に“神の手を持つ貴婦人”の異名を持つマリアンヌは産まれた。高貴な貴族の息女として生まれながら、マリアンヌは医師を志し、後に万を超えるの人々を執刀したと言われる天才外科医なんだ。生涯独身を貫いた彼女が設立した医学界は、現代医療の原点とも言われている。貴婦人が若い頃からメモ代わりに書き綴った【マリアンヌの日記】は有名だけど、中でも有名な一文は『メスは唯一人を生かす為の(つるぎ)である。医師と言う名の戦士達よ、訓練を怠るな。蓄積された知識と卓越された剣技を以って死を退かせるのだ。―――ただし忘れる事なかれ。我等は必ず、死に負けるという事を。そして悲観する事なかれ。私達勝ち取った生は、決して無駄ではないのだから』ってやつだ」


得意気に話すミックに、イヴが挙手して合いの手を入れる。


「あ、それ知ってる! 前にジョーイさんが言ってたよ」

「医療に携わる奴らなら、まぁ知ってて当然だろうな」


 ミックは頷いて、またイヴの言葉をスルーした。


 するとその時、ふとマルクスが不思議そうにイヴに尋ねる。


「でもさ。そんなに詳しいのにどうしてイヴちゃんはお医者さんにならないの? 勿体ないよ!」

「勿体なくはないよ。詳しいだけじゃ手術は出来ないの。―――私って不器用なんだ」


 そう苦笑するイヴ。

 マルクスは言葉を詰まらせた。……ただそれは、イヴに余計な事を言ったという後悔からではなく、その隣に座るクロに睨まれたからであったのだけど。


 一瞬沈黙してしまった場を取り持つように、イヴはまたすぐに明るい声を上げた。


「それにね、手術は出来なくても、ジョーイさんに人体の構造を教えてもらったお陰で、私“龍脈術”を上手く使えるようになったんだもん。全然勿体なくなんかないよ!」


 すると、そんなイヴの言葉に今迄比較的沈黙してきたソラリスが顔を上げた。


「龍脈術って、蓬萊山で修業する道士達に伝えられるっていう神通力の事?」


 龍脈術とはマナによる人体強化術だ。これを使える者と使えない者では、冒険者ランクが2ランク変わると言われる程に、冒険者達の間では重宝されるスキルの一つであった。

 イヴもまたこのスキルにはかなり世話になっている為、コクリと笑顔で頷く。


「うん。多分そうだと思う。蓬萊山は行ったことがないんだけど、薬局屋のレイルさんっていう人が教えてくれたの!」


 と、突然ミックが可笑しそうな笑い声を上げた。


「あはは、まじか。龍脈術を教えてくれた人も“レイル”っていうのか? 凄い名前の人が集まってるな!」

「薬局屋のおじさんを知ってるの?」


首を傾げるイヴ。

ミックは指を立てながら解説をしていった。


「いや、薬局屋は知らないけど、その名前なら有名だ。大昔にその龍脈術を考案し、崑崙という巨大な山を空に浮かべた大賢者“羚瀏(レイル)”。その偉人と同じ名前だからさ。―――あぁ、そういや貴婦人と東国の大賢者羚瀏って、幼い頃からの懇意だったとも一部の説にはあるんだよな」

「「へぇー」」


 例に漏れず、マスターも“賢者”についての話題は全力で避けてきた為、これが初耳となるイヴとクロは興味深げにミックに注目した。


 あ、因みに“羚瀏”の文字は、当時の彼が華国に籍を置くにあたって名前に使用した当て字なのだが、意味的には“涼し気な風を纏ったカモシカ”となる。

 当時の彼は、弟子達から師父(スーフ)と呼ばれていた為あまり気にしていなかったそうだが、今やこの当て字は、彼の中で黒歴史の一つになっているらしい。


 ―――……いや待って。やっぱりナシ。今のは気にしないで欲しい。これは内緒の要項だった。


 兎も角。

 ミックはまたダッキーの喉を撫でながら、遥か昔にこの地に誕生したという賢者の伝説を語り始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] マスター、羚瀏、マスターの小ネタ、嬉しい! ありがとうございます!!
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