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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ー平原の一本松②ー

 

 ―――逆の発想。


 そのシアンの言葉に、ガラムは首を傾げた。

 まるで理解不能と言いたげなガラムに、シアンは苦笑しながら続ける。


「人間って生き物は、()()()()()()()()()()()()()じゃなくて、実は()()()()()()()()()()()()なんですよね」

「何?」

「ついでに言えば()()()()()()()()()()()()()も、少し違う。ま、防衛本能が働いて警戒は始めますけどね? 実際は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()となります」


 ガラムは目から鱗が落ちたようにパチクリと目を瞬き、シアンを見た。


「人間の中に生まれる感情は、他者からの感情はあまり関係ないんです。受け身のように見えて、実はすべて自己完結。全て自分の行動に起因してるんですよ。だから誰にでも優しくする奴は、周りの奴らが皆好きだし、逆に周りを貶めようとする奴は、周りの奴らを嫌いになっていく。そして何もしない奴は周りに無関心。人の心って難しそうに見えて、全然複雑じゃないんです。単純どころか、最早どんだけ単細胞なんだって話ですよねー」


 馬鹿にする様にそう言ったシアンだが、その表情に嫌悪はない。寧ろ、何処か誇らしげですらあった。


「だが、愛された子は優しい子にと育つなどとも言うではないか?」

「愛された子はどうすれば優しくできるかを、小さい頃からよく知ってますからね。それに虐げられた子だって、優しさとは何かを理解すれば、生まれに関係なくすぐ善人になれますよ」


 ガラムはふと考える。

 高位の魔物や魔族は、他の者を気遣う素振りを見せることがある。

 だが結局の所それは気紛れで、所謂“崇高な行い”くらい自分にもできると、誇示の為の真似事でしかない。

 だから己の利になるのであれば手を差し伸べるし、縄張りを侵すなど気に触る事があれば問答無用で嫌悪し敵対する。

 それが普通だ。


 ―――だが、人間は違う。


「因みに正教会なんかに行けば、他人に優しくする善行を“徳を積む”なんて言ったりします。そして“徳を積んだ者は救済される”と教えています。―――まぁその教えも“人に優しくしてりゃ見返りに神様が助けてくれる”なんて勘違いする奴もいますけど、そんなもん無くても人間は救われてるんです。与えれば自然とその心が救われるように出来てる。そしてどんな大義があろうと、人を憎めばその心は堕ちていく。それが人間なんです。……どうです? 叔父さん。“魔物”には分からないでしょう?」


 そう言って申し訳なさそうに苦笑するシアンに、ガラムは鼻を鳴らして言い放った。


「ふん、真理に於いての人間の在り方など、神のみぞ知る事象だ。その見解、思い上がりも甚だしいやもしれぬぞ」


 だけどシアンは自信有りげに、自分の腰のポシェットに視線を落とすと断言した。


「いえ、人間を創った神様は優しくて親切なんです。妙な解釈をしようとするから色々誤解が生まれますが、初めっからストレートに解りやすく、そして端的に、神は人間に道を示してくださっていた。“人の子よ。隣人を愛し、死者を尊べ”って。神様がそう生きろと言って人間を創ったのなら、つまりそれが、人間という存在のあるべき在り方なんですよ」


 ―――シアンはかつて“大教皇”となる為、ありとあらゆる経典を紐解いていた。

 その中で、ゼロスの説いた“隣人を尊び、死者を敬え”という最初の教えの答えを探求し、最終的に素直に受け止める事にしたんだろう。

 その教えに従った時、人は最も心安らかな時を過ごせるのだと、心と理屈その両方で理解したのだった。


「それにオレだって、あの二人を何が何でも型に嵌めようって思っちゃいないですよ。ただ人間の人格を育てるには、多くの人と触れ合うことが必須となる。そしてそんな人間のコミュニティーの中で“常識”とはつまりマナーであり、先人達の築き上げてきたルール。そして人としての普通規格とは、互いに互いが安全だと安心する為の目安なんです」


ガラムはふと顎に手を充て、考え込む様に首を傾げる。

シアンはガラムに笑いかけながら、自説を提案した。


「叔父さんの言う通り、人間は工夫すれば一人でもやっていけます。自分には合わないと思えば、思い詰めて死ぬ前にコミュニティーを離れ、また新たなコミュニティーやはぐれ仲間なんかを探せばいい。勿論一人でいるのだって全然構わない。ただ、常識を身に着けるという事は、決して我をあの子達の可能性を抑え付けるのではなく、あの子達が更に成長する為の一つの挑戦になるのだと、オレは考えてるんです」


ガラムは肩をすくめ、腕を組むと突き放すようにシアンに言った。


「まぁ、理解は出来んが神々がお前に託したのだ。私がお前を止める事はせん」

「いや、おかしいと思ったら言ってくださいよ!?」


 慌てて縋るシアンに、ガラムは頷いた。


「うむ。理解は出来んがおかしくはないように思うぞ」


 その一言にホッと胸をなでおろすシアン。

 そんなシアンにガラムはニヤリ一人笑って付け加えた。


「それに何れにせよ、お前がどんな育て方をしたとしても私がそれに口出すことはない。神々がお前を指名したのだからな。ならばこの際、人間の愚かさや尊さ、全て監視し尽くしてやるわ」

「うわー、プレッシャーが半端ないですね」

「今更何を言ってる」


 シアンとガラムが笑いながらそんな会話をしている内に、2台の馬車馬車が一本松の前に止まる。

 そして狩猟祭にでも行くようなの装いをしたファイブズが、前の馬車からいそいそと降りてきた。


「ごげんよう、シアン殿。いやー、参りました。突然の霧に迷ってしまいましてな。シアン殿より早く到着しているつもりが、申し訳ない」

「ごきげんよう、ファイブズ侯爵。災難でしたね。しかし、私達も今着いたところなのでどうぞお気遣いなく」


 いけしゃあしゃあと好青年スマイルで頷き返すシアン。


「そう言って頂けるとありがたい。―――おお! これがかの有名なシアン殿の従獣、黒麒麟ですか! 素晴らしい! なんと見事な獣でしょう。これ程の獣を従えさせるとは流石シアン殿ですな!」

「ははは、従獣じゃありませんよ。契約獣。そしてオレの親友」


 そう笑って返したシアンの声は笑っていなかった。


 ファイブズはほっとした様に礼を述べ、子供達や使用人に馬車から降りるようにと声を掛けた。

 5人の子供たちは、ファイブズと似たような恰好をしており、ソラリスだけが昨日と変わらない駆け出し冒険者のような装備を纏っていた。

 ファイブがふとガラムをチラリと見上げ、シアンに尋ねる。


「シアン殿、こちらの方は?」

「私の叔父のガラムです。そして叔父さん、こちらが話していたファイブズ侯爵。近くに来ていたので誘ったんですよね」

「うむ」

「そうでしたか。どちらにお住まいで?」

「定住はしておらん。まぁ、来年からはノルマンの学園食堂での採用が決まったから、暫く定住する事になるだろうが」


 そう。ガラムは来年から“食堂のおじちゃん”になる。

 とは言え、貴族のファイブズからしてみれば、決して良い職とは思えなかったので、社交辞令で「それは良かった」と呟いただけだった。

 だがその情報をビッグニュースとして拾い上げ、歓喜したのがイヴとクロだった。


「先生、ノルマンの食堂で働くの!!? 私もね、ノルマンに行くんだよ! 毎日先生のご飯食べれるんだ! 楽しみぃ!!」

「叔父さん! 俺も手伝いに行っていい!? 何でもするから叔父さんがご飯作ってる所を見たいんだ!」

「はは、クロ。私は構わないが学生は学業が本分ということを忘れるなよ。それからイヴ。期待しておくといい!」

「わーい!」

「やったー!」


 小躍りしながら歓喜する二人に、ファイブズは困惑気味にシアンに囁いた。


「完全に胃袋を掴んでおられますな」


 シアンは哀愁を漂わせながら、ガラムに群がる二人を眺めながら頷く。


「ええ。でもいいんです。かつて神々すら唸らせ、今後も食物を献じる様にと言わせしめた人です。それはもう張り合うのも馬鹿らしくなるほどの実力者ですから」

「ガラム殿ですか。しかし聞いたことがありませんな」

「逆に二つ名が有名すぎて、仮名を使わざるを得ないのです。ま、あまり詮索しないでやって下さい」

「はぁ……」


 ファイブズは煮えきらない返事を返したが、それ以上何も言う事はなかった。

 そして、ガラムの二つ名が“魔王”であり、神々にその料理を献じる為に、世界を征服しようとし続けてきた張本人である事は、ファイブズは生涯知る事はなかった。




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