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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ーカロメノス水上都市10ー

 だがそんな和やかな親子の様子を、ミックは更に苛立たしげに睨んだ。


「何を御託並べてるんすか? あんな奴にそんな聖人君主みたいなフォローなんか……。ってか、さっきの他の兄弟も誘ってってのはどういう事すか!? まさか本当にソラじゃなくアイツ等を……」


 シアンは少しの間ミックの話を話半分に聞いていたが、やがて面倒臭そうに話を切った。


「……あのさぁ。いい加減鬱陶しいんだよ。どこ迄ついてくるんだ? お前ももう帰れよ」


 子供達に向けるものとは全く違う温度感。

 あの時自分を助けてくれた者とは思えない程の冷徹なシアンの拒絶に、ミックは目を見開きその顔から血の気を失わせた。

 シアンは身を強張らせるミックに畳み掛けるように言った。


「どうせあの場でゴリ推そうとしても、侯爵はソラリスを放しゃしなかったよ。大体人に御託だ何だ言う前に、お前はあの屋敷で何かしたか? 言ったか? 他力本願の癖に文句だけはしっかり言うって恥ずかしくないのか?」

「……なっ、お、俺だって兄貴くらいの力があればそりゃあ……」


 一気に威勢をなくし、どもりながら辛うじて言い返すミック。

 シアンはそんなミックをせせら笑いながら言い放った。


「でも無いんだろ? ま、愛だの正義だのを振りかざして欲しいなら勇者サマにでも頼め。オレは自分の利益の為にしか動かないから期待とかするだけ無駄だ」


 そう言ってミックを追い払うかの様に手を振ったシアンに、ミックはとうとう顔を赤くして怒鳴り返した。


「―――っもういいっす! 兄貴なんかにゃもう頼まないっ」

「そーしろそーしろ」


 ニコニコと頷き手を振るシアンにミックは鼻を鳴らすと、大きく義足の音を響かせて立ち去っていった。


 やがてその姿が人混みに消え、間もなく足音も消えた頃、じっとその様子を見ていたクロがポツリと呟く。


「……父さん、ミックにはあたりがキツイね」


 シアンはミックの消えていった人混みに目を向けながら、鼻で笑いながら答えた。


「そうか? でも人を利用しようとする奴に、優しくする必要なんかないだろ。―――“力ある奴には義務がある”なんて言う奴もいるが、まぁふざけんなって思うよな。力があろうがなかろうが、あいつはあいつでオレはオレ。それぞれの生き方に干渉してやる義務なんてある訳ない。どんな奴だって他人の為に存在してる奴なんか居ないんだから」


 クロはそんなシアンをじっと見つめ尋ねる。


「勇者様は?」

「……」


 ……勇者とは世の為人の為に尽くす運命を神から与えられた存在だ。

 地味に痛いところを突かれたシアンは、一瞬言葉を詰まらせるとしどろもどろに言い訳を始めた。


「あ、あー…………あれはそういう“職業”ってやつだよ。ほら、神様からちゃんと特別な“報酬”を貰ってるし……人間社会からもあり得ない程の待遇を受けてるし? それこそ人ん家に勝手に入って壺叩き割って家主のヘソクリを徴収していっても、誰も文句言わないくらいの高待遇だ」

「ふーん?」


 ―――クロは首を傾げながらも頷いたが、この世界に生まれ落ちた歴代の勇者は、そんな気狂いじみた行動を起こした事はない。彼等の沽券の為にも、ここはキッチリと追記しておこう。

 あ、いや。過去には、壺どころじゃなく村や街を尽く焼き尽くした勇者もいたにはいたか。ただその時は、流石に神様を含む皆から怒られてたからね。


 まぁともかく、その件を抜きにしてもシアンは何処か勇者に苦手意識を持っていた。そしてついそれが言葉に滲み出てしまったのだろう。

 シアン自身もその事に気付いたようで、直ぐに慌てて話題を変えた。


「そ、それよりクロ。移動用にランナーバードを一体買おうと思うんだがどれがいいか選んでくれないか?」


 ランナーバードとは、元々山脈と平原で群れで移動しながら暮らしていた大型の鳥だ。

 馬より馬力はないが、身軽で場所を選ばず連れていくことが出来、繁殖も容易と言う事で、冒険者達の足として人気があった。

 そんな冒険者の相棒的存在のランナーバードの話に、獣を愛するクロの目が輝いた。


「え、ランナーバード! 買うの!? うんっ、選ぶよっ!」


 ―――こうしてクロは秒で落ち、最早勇者の記憶など彼方に飛んでいったのだった。



 ◇◇◇



「クァッ! クコココッ」

「グァッ、グァッ」

「ケケケ、クェー」

「やぁ、坊っちゃん。こんにちわ、ランナーバードは好きかい」

「こんにちわ、大好きだよっ! 父さんが一匹買ってくれるっんだよ」


 街角にある大きな鳥小屋に、クロはそう言って駆け込んだ。

 店主は逞しい体つきの、日によく焼けた大男のリア。

 リアは小さなお客を、快活な笑顔を浮かべて歓迎した。


「そうかいよかったなぁ。ま、見てってくれ。ただ柵からは身を乗り出さないでくれよ? うちのランナーバードはちょっと気難しいのが多い。だが慣らせば他と比べ物にならない程強脚なんだ」

「分かった!」


 クロは最近ではあまり見せなくなった純真無垢な笑顔を浮かべてリアに頷くと、ランナーバードが入れられた柵の方へと走っていった。

 と、丁度その時シアンとイヴが漸くクロに追いつきてきて声を上げた。


「もー、クロったら街の中で走っちゃだめなんだよ!」

「はは、海竜達と別れて以来、契約してない子達とはあんま触れ合ってなかったからなぁ。ま、ジャック・グラウンド(クロにとっての楽園)から連れ出してきたんだ。一寸らい大目に見てやろう。あ、どうも店主。あの子の保護者なんだが一匹貰えるかな?」

「ええ勿論!」


 リアは気前よく頷くとランナーバードを紹介する様に鳥小屋を指差した。


「うちのランナーバードはちょっと気難しいのが多い。だが慣らせば他と比べ物になんない程強脚なん……」

「クルルルッ、コフーッ」

「あはは、ここ撫でてほしいの?」

「キュー、キュオォォ!」

「グワッ」

「……って、滅茶苦茶懐かれてるし何だこの子!?」


 そこには身長2メートル程の巨大な鳥達に取り囲まれ、まるで自分の雛でもあるかのように擦寄られているクロがいた。

 シアンは苦笑しながらリアに解説する。


「は、はは。いやー、昔っから動物に好かれる体質の子で……」

「へぇ……そりゃ羨ましい」


 それは嬉しそうにクロの髪を咥えて毛づくろいする鳥達を眺めながら、リアは無意識に先日噛みつかれた腕を撫でていた。


 やがて、暫く選ぶでもなく鳥達と戯れていたクロが、顔を上げてシアンに尋ねる。


「ねぇ父さん。この子達にどんな仕事をしてもらうの?」

「あぁ、荷物運びだよ」

「ふーん。なら、この子」

「グワッ!」


 シアンが頷いて答えると、クロは羽毛の黒い、中でも一番背の低いランナーバードを選んだ。

 店主がすかさずクロとシアンに相槌を打つ。


「一番小柄なのを選んだね。だけど脚が太いからよく走るよ。それに重心も低いから転けにくい。あぁ、そうだ。お客さん、鞍はどうする?」

「付けてくれ。併せていくらだ?」

「980ゴールドだ。餌は……」


 シアンと店主が交渉に入ったところでクロはランナーバード達に手を振ってイヴの隣に戻ってきた。

 イヴは可笑しそうにクロに声を掛ける。


「ランナーバードで旅って、なんだか冒険者になったみたいでワクワクするね!」

「うん。でもあの子に俺達は乗らないと思うよ」


 クロの答えにイヴは不思議そうに首を傾げた。


「え? 荷物専用だから?」

「だって手荷物なら父さんの荷物袋で事足りるよ」

「じゃあなんで……?」


 考え込むイヴに、クロは肩を竦めて言った。


「父さんは面倒くさい性格なんだよ。頼んでもないのに率先して人助けする癖に、頼まれ事……特に施し系のお願いには嫌な顔する。でも、結局断らないんだ。―――どうせ引き受けるんなら、一回断る過程が鬱陶しい。連れてく気満々なのが丸わかりなのにホントに面倒」


 ウンザリした様な表情のクロに、イヴはニンマリと笑い掛けると、突然クロの頭をよしよしと撫で始めた。


「……な、何?」


 クロは驚いてイヴを見るが逃げようとはしない。


「だって、クロも優しいから。シアンの事をそこまで分かってあげた上で、ミックの為に乗り降りしやすい背の低いランナーバードを選んであげたんでしょう?」

「……まぁ……」


 クロは口を尖らせつつも、暫くイヴに頭を大人しく撫でられていた。

 だがその時ランナーバードの綱を引いたシアンが二人の下にやってきて、そんな二人の様子に首を傾げた。


「買ってきたぞ。行こうか二人とも……て、何やってるんだ?」

「クロが優しかったから褒めてあげてるの」

「へぇ。じゃあオレも……」


 イヴがクロから手を離し、代わりにシアンがクロの頭に手を伸ばした時だった。

 クロがサッと身を屈め、その手から逃げるように素早く3歩後退った。


「……もう、父さんに撫でられるほど子供じゃないし」


 行き場をなくしたシアンの手が、虚しく宙を掻く。

 ……そして何より辛いのが明らかに避けられ、あからさまに嫌がられたという事実。

 シアンはそれでも懸命に笑顔を作って、クロに話しかけた。


「あ、そ、……そう? ……なんか最近のクロ、オレに対してのあたりがキツくないかなー……なんて?」


 そう言ったシアンは、多分“そんなことないよ”なんていうフォローを期待してたんだろう。

 だが子供に期待する事は間違いだ。

 クロが沈黙する中、イヴが無自覚にシアンにとどめを刺した。


「さっきクロがね、シアンの事“鬱陶しい”って言ってたよ」

「!!??」


 とうとうシアンが膝を突いた。


「え、だっ大丈夫? シアン」

「ちょっとイヴ! そんなの言ったら父さん落ち込むだろ!? 父さん弱いんだから。父さんあのね、鬱陶しいっていうのは本当に鬱陶しいわけじゃなくて……」


 子供から心配されるシアン。

 シアンは暫くモアイ像のような顔で固まっていたが、やがてすっくと立ち上がり、イヴとクロに震える声でこう告げた。


「よし。明日のレクリエーション、オレも参加する。や、させてくれ。オレも久しぶりに一緒に遊びたいんだ」

「え? 何急に……まぁ、俺は別にいいけど……」

「シアンも!? いいよ! 遊ぼう! いっぱい遊ぼうねっ」


 テンションも高く快諾してくれた子供達に、シアンはどこか悲愴な笑顔を浮かべ、そっと付け加えた。



「―――本気でやるよ? ただ、死んだらゴメンな……」




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