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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ーカロメノス水上都市⑦ー

 ―――あれから30分後。

 オレ達は小舟(クーフ)を降りることなく、桟橋の露店でクリームとフルーツがたっぷり乗ったクレープと、各々好きなドリンクを購入し、船の上で食べながら話をしていた。

 イヴとオレがマシュマロの浮いたココア。クロとソラリスがホットミルクで、ミックがコーヒー(ブラック)だ。


『……え、おま、それ飲むの? マジでそれでいいの? だってそれ、大人の飲み物で苦いよ?』

『何ゆってんすか、俺こう見えて27歳っすよ』


 ……約400年の寿命を持つエルフ族は、人間の感覚から言えば成長が遅い。


『そっか。オレももういい大人なんだけどなぁ……』

『そういや兄貴も27歳とかですよね? タメじゃないっすか』

『……いや?』


 タメなもんか。本当の年齢知ったら度肝抜かすぞコノヤロー。


『あ、あと俺クレープいらないす。卵も乳も駄目なんで』


 そう。エルフ族といえば、例外を除き草食だ。

 ハイエルフとなれば完全に植物しか身体が受け付けず、エルフ達もその名残で基本動物の体組織は一切口にしない。

 まぁ、ただその例外というのが【闇のエルフ】だ。

 アイツらはよく暗い部屋で「くく、我の魂が鮮血滴る血肉を求めておるぞ!」なんて言いながら、焼き肉をしてたりする。以前オレも闇の(ダークネス)焼き(インフェルノ)(ブラッディー)パーティー(フェスティバル)に呼んでもらった事があるのだが、その時に聞いた話では実は闇のエルフ達もさほど肉は好きではないらしい。ビジュアルの為にアイツらも頑張ってるんだよな。……また呼んでくれないかなぁ……。


 そんな事を考えながら船を操っていると、これまでの経緯を話していたミックが言葉を締めた。


「―――ってな訳で、俺は兄貴に助けて貰ったんだ。助けてもらいついでに頼んだソラを連れ出す件は、ま、無理っぽそうだけど……(じとー…)」


 そんな目で見ても知らん。

 こちらにジトリと視線を送ってくるミックから、オレがフイと視線を逸らせると、ソラリスが口の中のクレープをミルクで流し込んで声を上げた。


「構わないわ。だって私、誰かに頼もうなんて思ってなかったもの。ミックが迷惑をかけたわね、シアン」

「おお。ソラリスちゃんの謝ることじゃないって……ってか呼び捨て……?」

「だって私、貴族だもの!」

「そっか。まぁいいけど」


 ここでいう世襲制の大貴族とは、大昔の高名な勇者の子孫を指す。ただ、その話ももう大昔過ぎて、オレからしてみればそんな大層な地位でもないように思うのだが……。

 オレは小さく肩を竦めると、鼻高々なそんな少女をじっと見つめる。

 そしてついでに、俺はもはや癖のような流れでそっとソラリスのステータスを確認した。


 ■■■■■■



 種別 人間


 名前 ソラリス


 Lv  29


 職業 剣聖 騎士


 HP: 150/150

 MP: 55/55


 筋力:125

 防御:121

 敏捷:130

 知力:70

 器用:60

 魅力:80

 幸運:99


 スキル:【なし】


 加護:【なし】



 ■■■■■■



 このソラリスは11歳らしい。

 うん。多少高めとはいえ、年齢相応の普通のステータスだ。才能ある子には間違いないが、この程度なら努力で何とでもできる誤差の範囲だな。そう普通。


 オレは手で画面を振り消そうとした……が、ふとその手が止まる。



 ―――……普通? …………普通。 



 ……っっ普通!!!



 オレはステータス画面を二度見して、跳ね起きるように身を起こした。

 そして櫂を放すと、カップを持っていない方のソラリスの手をギュッと握り締める。


「ソラリス!!」

「な、何よ突然……」


 驚くソラリスにオレは真心を込めて懇願した。


「君の様な人をずっと探してたんだ。オレと一緒に来て欲しい!!」

「は? え……?」

「ちょ、兄貴!!?」


 そう。人間社会の中で優秀寄りの普通の能力。オレはソラリスのこのステータスに、今後の旅の不安を払拭する光明を見出したのだ。


 ―――是非っ! イヴとクロの為に“普通”の能力値の見本になってやって欲しい!!


 しかも既に二人はソラリスと打ち解けていたようだし、かの英雄の魂の受け皿ならば、余程の事がない限り信頼できる人格者な筈だ。―――オレが今求めてやまない人材、それこそがソラリスだった。

 オレは絶対にソラリスを逃がすまいと詰め寄って交渉を開始する。


「ミックの奴が言った様な一時的な関係でなく、オレはこれからずっとソラリスと一緒に世界を旅したいと考えてる。君がイエスと言ってくれるなら、オレは君の両親を今すぐ説得する。いや、説得させて欲しい! だってオレにはソラリスが必要なんだから!!」

「ちょっとぉ兄貴ぃ、例外は作らないんじゃ!?」


 ミックが驚愕の顔でオレの腕を引っ張ってきたので、オレはキッとミックを見て答えた。


「あぁ。その通りだ。だがな、ソラリスはオレにとっての例外だ。この娘を見つけたからには、もうオレは何が何でも放さん。相手が大貴族だろうが国王だろうが、絶対に渡すもんかっ」

「言ってることが違うっす! さっきまで絶対に手は貸さないとか言ってたすよね!?」

「あぁ、だがこうも言った筈だ。やる奴はやるし、やらない奴はやらない。オレはどちらかと言えばやる男だ」


 ……信じられん……とでも言いたげに唖然と言葉を詰まらせたミック。

 オレはソラリスに向き直り、跪いてその目を見つめた。


「―――なぁ、ソラリス。頼む、オレと来てくれ。ソラリスなしの旅なんてもう考えられないんだ。旅先で君に不自由な思いはさせない。否、不自由どころか必ず幸せにしてみせると誓おう! だからどうかオレと……」


 だが最後の言葉を言い切る前に、突然ミックが背後から俺に飛びかかってきてオレの口を腕で塞いだ。


「ちょい待ったぁ! その先は言わせないっす!!!」

「……ふご?」


 ソラリスへのプレゼンを邪魔されたオレはミックを睨んだが、ミックは何故かマジギレ状態の涙目でオレ以上の必死の形相でオレを睨んでいた。




「……ふっっざけんなよっ。いつか言いたかったセリフ……全部言いやがってっっ!」





 ってかお前の希望通りソラリスを連れ出そうって言ってんのに、なんでお前が泣くんだよ!? 意味分かんねぇ!!





 ◇◇◇





 ―――聖域の深層にて。


 俺は事のあらましをマスターに話して聞かせていた。

 俺の見張り……ではなく、護りを司ってくれてるからマスターはなかなか外にはいけないからね。

 また、結局マスターは例のダークエルフは取り逃がしてしまったそうで、腹いせに皆が勘違いしやすいような吹聴を撒いてきたという。


 それは兎も角マスターは今、俺の話に無言で頭を抱えていた。


「……あの馬鹿は何を考えてるんだ? 片っ端から魅了して、魅了に掛からない者は息をするが如く口説き落とそうとする……。っほんと、タチが悪いなぁっ!」

「はは。まぁ、無自覚とはいえ“悪魔の王”だし。最早(さが)だね」

「……」


 そしてマスターは一際大きな溜息を一つ吐くと、何かを考えるように腕を組んだ。

 しばしの沈黙の後、俺はマスターにポツリと尋ねる。


「まだ何か気になることがあるのかな?」

「ええ。あの馬鹿は分かってやってるのかな? と思いまして……」


 すぐに答えてくれたマスターだが、その真意を読み取れず俺は枝を傾げて再び尋ねた。


「分かってるとは?」

「いえ、そのソラリスとか言う娘が仮にジャンヌの魂の一部を受け継いでいるとしたら……」

「したら?」


 マスターは少しの溜の後、物凄く言いにくそうに言った。


「ロゼ様と旅をさせていいのかなと……」

「……」


 なる程。

 うん。確かに最早拗れた事件の香りしかしないね。



 俺はこれからの彼等の旅路に想いを馳せ、そっと呟く。



「―――俺は例えどんな結末を迎えたとしても、きっとそれを祝福するよ……」



 返事を期待した呟きではなかったのだけど、真面目なマスターは若干冷ややかな声で返してくれた。



「気楽でいいですね」

「まぁ、樹だしね」




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