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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ーカロメノス水上都市⑥ー

「……知り合い?」


 エルフのあまりに必死の形相に、オレは思わず訊き返した。

 エルフは悔しげに頷く。


「……そっす。昔はよく裏路で遊んでた子なんすけどね、何か5年程前に偉いとこの隠し子だったことが分かって、引き取られていったんす」

「なんでわざわざいい家行った子を、連れ出そうとすんだよ?」

「……あそこ行ってからソラの奴、笑わなくなったんす。街の奴等はソラの事をシンデレラガールだって僻んでは、あるコトないコト噂してるし、ソラの家の奴らだって、ソラの事馬鹿にして“家門の品位が下がるから喋るな”なんて言ってるみたいなんすよ」

「……」


 確かに金持ち連中は、総じて幼少期から教育に力を入れる傾向がある。

 ある程度年齢がいってから迎え受けられたのであれば、まぁそれなりに苦労はあるだろう。


「俺、そんなソラを見てらんなくて、助ける為の“力”を探しに行こうって思ったんす。で、旅に出るって言ったらソラも行くって言ってくれたんす。―――だけど普通に考えてソラの家が許す筈ない。命がけで夜逃げでもしようかとも考えてたんすけど……」

「……へぇ」


 ……ただの雑魚いエルフかと思ってたら、存外にロマンチックバイオレンスな奴で驚いた。

 俺がこっそりと尊敬の眼差しを込めて小さなエルフを見下ろしていると、エルフはオレを見上げ切実な声で言う。


「でも兄貴は名実ともに有名人でしょう!? だから兄貴が俺達を旅に同伴させるって言ってくれるだけで、ソラの家の奴らは手が出せなくなる。したら俺達は追手もなく、また昔みたいに自由になれるんす。だから、街の外迄でいいから……」


 必死に懇願してくるエルフに、オレは首を振って言葉を遮った。


「なんだ。結局オレの後ろ盾狙いじゃねーか。―――悪いが加担はしないぞ。オレはオレで忙しいし、無理してお前とそのソラって子がここを出たとして、その先幸せになれる保証なんて何処にもない。これまでいろんな奴を見てきたが、大抵どこに居たって平々凡々それなりに生きれるし、行動する奴は誰に手を差し伸べられなくてもやっちまうもんだ」


 ……だからやりたいなら自分でやれ。

 オレはその言葉を呑み込み、ちらりとエルフを見下ろせば、エルフは一瞬悲しげにオレを見つめ、そして俯くとトボトボとオレの一歩後ろを歩いていた。


「ふん、付いてきても頷かねーぞ」


「……わかってますよ」


 エルフは完全に項垂れている。

 その姿があまりに不憫で、オレは言い訳がましく付け加えた。


「……それにぶっちゃけて言うとオレは結局小さい存在なんだよ。お前のでっかい人生の分岐点になってやれる自信がないんだ」

「いや、なって下さいよ。兄貴程の人なら出来るっすから」

「買い被るなよ。オレはそんな大それた奴じゃない。無理だ」

「色んな伝説打ち立ててる癖に、滅茶苦茶気が小さいっすねっ」


 ……うん。ま、それはよく言われる。


「それにやっぱ優しいすよね。こんだけ俺を邪険にしてる風な癖に、わざわざ俺に歩幅を合わせてくれてる。放っときゃいいのに、俺が裏通り抜けるまで送ってくれるつもりなんでしょ」


 ……。


「っうるせぇな! そこは気付かない振りしろよ!」

「気付かない振りしたって変わりゃしませんて。そんなさり気ない優しさ見せるから皆落ちるんすよ? 自覚あります?」

「もーいいっ、もうお前なんか放ってくからな!」

「ってもうこの突き当たりが大通りじゃないすか……」


 そんな話をしながらオレはこの食えないエルフと、とうとう桟橋の大通りへと戻ってきたのだった。

 大通りの向こうの桟橋に着けられた小舟(クーフ)の中に、さっきと変わらず大人しく座り込んで待っているイヴとクロを見つけ、オレはほっと胸を撫で下ろし声を掛けた。


「イヴ! クロ! お待たせ。ちゃんとお留守番してくれてたんだな」

「う、うん! 勿論だよ。ちゃんと待ってたよっ」

「お帰り父さん、遅かったね」


 オレは素直な良い子達の歓待に、思わずニッコリと顔をほころばせた。


「じゃな、エルフの少年。オレはオレの天使達が待ってるから」


 オレはそうエルフに言って、イヴとクロの下に駆け出したのだが、数歩進んだところで聞き慣れない声が背後から聞こえてきた。


「イヴ! クワトロ! 待ちなさい!」


 オレは振り向いて目を見張る。

 そこには金髪碧眼の少女。

 年こそまだ12〜13歳程だが、見事な金の髪に曇りのない強い眼差し。花より大剣の似合う背筋の伸びた剣士だった。

 オレはその随分懐かしい姿に、思わずその娘の名前を呼んだ。


「ジャンヌ……ちゃん?」


 すると少女は立ち止まって、息を切らせながら首を傾げた。


「ジャンヌ? 違うわ。私はソラリス・フォン・ファイブズよ」


 ……だよな。

 オレは誤魔化すように謝った。


「えー、すみません。よく似てる人が知り合いに居たもので……」


 そして謝りながら、目を細めてソラリスを見つめる。

 様々な魂を見てきたオレにとって、よく目を凝らしてみれば、その人の持つ魂の色が見えてくるのだ。

 そしてソラリスの中に見えた色は“橙色掛かった金色”。


 ―――やっぱりな。


 オレは納得した。たまに居るんだよな。過去の英雄の写し身の様な容姿を持って産まれてくる者が。

 そしてそういう肉体には、比較的その本人の魂の破片が集まりやすい。オレはそんな者達の事を【魂の受け皿】と呼んでいた。

 ……とはいえ、魂は繊細だ。欠片でも足りなければ、かつてのその人本人とは足り得ない。

 つまり、この子はやはりソラリスなのだ。


 そんな事を考えていると、ふとソラリスが何か……オレを通り越した背後の誰かと、ジェスチャーで会話をするような身振りをしていることに気が付いた。

 オレがふと後ろを振り返れば、そこには何故か手の平を団扇にして、顔を扇ぐイヴとクロが居る。


 と、その時。またオレの隣から別の声が上がった。


「ちょっと兄貴! 何ソラに色目使ってんすか!? 今見つめてましたよね!? 絶対見つめてた! だけどいくら兄貴でもソラはそんなんじゃ落ちないすからね!」


 エルフ少年ミックだった。

 オレはミックとソラちゃんを交互に見ながら言う。


「お前は何を言ってるんだ。てか、その娘がソラちゃん? で、何? そのソラちゃんがなんでイヴとクロの知り合いっぽいんだ……?」


 俺がそう言って首を傾げると、突然いつもは比較的物静かなクロが声を上げた。


「いまっ! ここで知り合ったんだ!! 父さん待ってる間にここで話してて、友達になったんだよっ!」

「そうだよっ、()()()! 今迄話してたの。どっ、どうしたのかなぁ? ソラリス忘れ物?」


 ……と、イヴ。明らかに二人の様子がおかしい。

 オレが確認すべくソラに視線を向けると、ソラは明後日の方向を見ながら胸を張って答えた。


「そうよ! 忘れ物をしたのっ。だから慌てて戻ってきたのよ!」

「何を忘れたんだ?」

「っ、……忘れたわ!」

「……」


 この娘もなにか隠してるな。

 オレがまたじーっとソラリスを疑惑の目で見ていると、ふとこちらに視線を戻したソラリスが何かに気づいた様にオレを指差してきた。


「……っ、ちょっと待って。濃紺の髪に、オッドアイの瞳……。―――貴方もしかして、今世界に7人しかいないっていうS級冒険者のシ……っむ!」


 オレはソラリスの口をポフンと手で押さえた。


「ちょっとここでその名前大声で言わないでくれるか? 目立ちたくないんだ。よし分かった。ちょっと船に乗ってくれ。イヴとクロのお友達になってくれたみたいだしなっ」

「ちょ、兄貴!? それ人攫いすよ! てかソラに触るなっ」

「うるせー、お前もこい! あ、そうだ。みんなでケーキでも食べに行こうか!」

「「「「ケーキ!? 行く(わ)っ!」」」」

「ちょっと兄貴、それ賄賂……ってか今、なんか答えた声が多かった様な……?」

「あ、ロゼが起きた」

「って、妖精!? ああ、あ、兄貴!? まさか密猟!?」

「違うわ。もういいから兎に角お前も船に乗れっ」


 そしてオレは、なんだかグダグダになってしまったこの空気を全部船に詰め込んで、俺自身にも現状がよくわからないままに船を出したのだった。







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