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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ーカロメノス水上都市③ー

 シアンは子供達にこう言った。



 ―――絶対に動くなよっ!



 ……かつて俺はシアンに冗談混じりに警告した筈なんだけどね。


 そう。“押すなよ? 絶対に押すなよ!”の後に来る未来は、最早お決まりなんだと。



「―――父さん遅いね」


 船の周りを泳ぐ銀色の魚を見ていたクロが、ソワソワと街を見上げるイヴに声をかけた。


「うん……だけどきっともうすぐだよ」


 行き交う人混みを見つめながら、イヴは自分に言い聞かせるように言った。

 ……因みにシアンが船から降りて、まだ5分程しか時間は経っていない。


 クロはじっとイヴの横顔を見つめた後、不意に立ち上がりそのまま桟橋へと飛び移ってしまった。

 イヴは驚いてクロに声を掛ける。


「クロ!? 駄目だよ、ここで待っててって言われてるんだから!」

「でも俺飽きちゃった。ちょっと街を見に行こうよ」

「でも、シアンすぐ帰ってくるよ!? きっと怒られるよ!」

「じゃあ俺達はもっとすぐに帰ってくればいいよ。バレなきゃ怒られないし、イヴはあんなに頑張って“常識”を覚えたんだから平気だよ」

「うーん……」


 イヴは賑やかな街を見上げながら、眉間に深いシワを刻んでいる。本心では行ってみたいが、シアンとの約束がある事に葛藤しているのだろう。

 そんなイヴに、クロが少し自信なさ気な素振りで頼みこむ。


「お願いイヴ。俺どうしても行きたいんだ。だから父さんの話を聞いてたイヴに、()()()()しないか見張ってて欲しいんだ」


 そう言ってクロは、桟橋から誘うようにイヴに手を伸ばす。

 イヴは一瞬キョトンと目を瞬かせ、それから困ったように笑って言った。


「もー、しょうがないなぁ。シアンが帰ってくるまでだからね」

「うん!」


 クロは嬉しそうに頷くと、ラーガを始めとする獣達に声をかける。


「じゃ、すぐに戻ってくるから皆は船の見張りを頼むね。また後で布を買ったら、皆で回ろうね」

「ウォン!」

「キキっ!」


 獣達は任せておけとでも言うように返事を返した。


 イヴも軽やかに桟橋に飛び移り、興奮気味にキョロキョロと街並みに目をやりながらクロに尋ねる。


「じゃあ行こっか! 何処に行く? クロは何を見たいの?」

「ん? イヴの行きたいところに行こう。俺は楽しそうなイヴが見たい」

「……? 私なら別に小舟(クーフ)を降りなくても見れたでしょ?」


 そう言って首を傾げるイヴに、クロは何も言わずただ笑い返していた。

 イヴは気を取り直し、クロの手を引く。


「クロがどこでもいいならあっちに行ってみよう! 私達が前にやったみたいなお店がいっぱい並んでるよ!」

「ホントだ。うん、行ってみよう」


 イヴとクロはそう言って、雑貨や絵を売る露店の並ぶ通りへと歩いて行った。



 ◇



「いらっしゃい。淡水真珠だよ」


 イヴとクロが訪れたのは、歪な形の真珠が付いたブローチやら指輪やらアクセサリーが置かれた雑貨店。

 露店を覗くと、あぐらをかいたまだ若い店主がにっと笑って声を掛けてきた。

 イヴが首を傾げて店主に尋ね返す。


「綺麗だねぇ。たんすいしんじゅって?」

「おぅ、お嬢ちゃん達はこの街が初めてかい? これは湖で飼ってる胡蝶貝から採れる真珠さ。カロメノス湖は神の祝福の強い土地だから水の浄化力が高いんだか、こうも人が行き来しちゃ汚染が上回っちまう。そこで、浄化力のある貝を飼ってるんだ。この真珠はその副産物でな、今やこの街の特産の一つさ」


 得意げに語る店主に、イヴは興味深そうに耳を傾けている。


「真珠って丸いものかと思ってたら、色んな形があるんだねえ」

「そう。淡水はこれだから面白い。元々貝が真珠をつくんのは殻の中に入ってきた一粒のゴミが始まりなのさ。それが長い年月をかけてこんな宝石になる。唯一無二の形のな。どうだい一粒。今日は特売日(セール)でどれでも全部10ゴールドだよ!」


店主のノリのいい喋りに、イヴはサクラさながら目を輝かせた。


「すごい! 私達いい日に来たんだね!」


 因みに1ゴールドとは100円程度の価値で、10ゴールドだと少銀貨一枚に値する。


 イヴとクロが、敷物に並べられた真珠細工の数々を眺めていると、隣で端切れを売っている露店の中で、年老いた店主が笑った。


「クク、お嬢ちゃん達。その店は毎日がセールなのさ。明日も来てごらん。やっぱり10ゴールドで売ってるから」


 イヴが驚いた顔で店主を見ると、真珠屋の店主は慌てて言い募った。


「ちょ、婆ちゃん。いらない事言うなよ。な、お嬢ちゃん。

 別に騙したわけじゃないぞ? セールストークって言ってな、商売人にとって嬢ちゃん達“お客様”に会えた事が、何にも変え難い特別な日って事さ。一期一会ってな。な?」


 年老いた店主はその苦しい言い訳に、またククッと喉を鳴らしたが、イヴは納得した様に深く頷いた。

 そんな中、ふとクロが店主に尋ねる。


「ねぇ、おじさん。物々交換って出来る?」

「ん? 金持ってねぇって事か? 何と交換したいんだ?」


 その会話に少し不安そうにクロを覗き込むイヴ。

 クロは「大丈夫」と笑いかけて気に入った物を探すようにイヴを促すと、肩に掛けていた大きな鞄を地面に下ろしその口を開け始めた。


 そして先ず取り出したのが大きな硝子瓶。中には泥団子と小石、そしガルドルド(ドル)が入っていた。

 真珠屋の店主は首を傾げ苦笑する。


「小石に泥団子? 亀の飼育セットか? 悪いがそれじゃあ交換してやれねぇなあ」


 やはり子供の荷物かと、店主は肩を竦める。

 だけどクロは首を横に振って言った。


「これは交換しないよ。俺の宝物だもん。後ドルは飼ってるんじゃなくて、俺の契約獣だよ。ストーンタートルだから石が好きで、いつもここに潜り込んじゃうんだ。……待っててって言ったのに来ちゃったんだね」

「コフーッ」


苦笑したクロに頷くように瓶の中で顔を上げたガルドルド(ドル)に、店主は感心したように声を上げた。


「へぇ。坊っちゃんその年で契約獣がいるのか。凄いな」

「別に……」


 クロはそう言いながら次に契約紋を描くインク壺と、キメラを象った陶器の人形を取り出し並べた。

 途端、店主の目がパッと輝く。


「へぇ、それもしかして契約紋用のインク壺か? 初めて見るけど高価なものなんだってな? まぁ、俺には必要ないもんだけどさ。その人形は結構よく出来てる。ちょっと見ていいか?」

「駄目。これも俺の宝物だから」


 クロに断られまた肩を竦める店主。

 いい加減少し店主が面倒になり始めた頃、漸くクロの手が何かを探り当てたように止まった。


「あ、これならいいよ」


 そう言って取り出したのは小さな皮の巾着袋と、クロの人差し指ほどの小瓶。小瓶の中には琥珀色の液体が揺れている。

 差し出された二つの品を、店主は少し億劫気に受け取った。


 だがその一つである皮の巾着袋を開けた瞬間、店主の身体が強張る。


「……な、何だこりゃ……え? も、模造品……だよな?」


 巾着袋から転がり出したのは、巨大なエメラルドと輝く希少石の散りばめられた一粒のイヤリング。

 絶句する店主に、クロは無垢な顔で説明を始めた。


「それね【エリザベート王妃のイヤリング】って言うんだよ。リリーは“それ片方で10万ゴールドくらいはする”って言ってたから足りると思うんだけど」


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