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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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歴史を巡る旅 ーカロメノス水上都市①ー

 

 高く聳え立つディウェルボ山脈最高峰と言われる、ディウェルボ火山の麓に広がる広大な湖カロメノス湖。

 そこに浮かぶカロメノス水上都市は、湖底に立てた支柱を軸に浮草で大小の小島を作り、その上にディウェルボ火山周辺の山々から採れる良質の翡翠と、大理石よりまだ白い白雪石で造られた美しい街並みの並ぶ商業都市だ。

 そこで取引されるの専らが、ディウェルボ火山の山腹に住むドワーフ達が生み出す武器や工芸品。

 だけどその町並みの美しさを観に観光で訪れる者も多く、そういった者達をターゲットにした、土産物も多く売られている。

 観光者達が目的とするのはその街そのもの。街に並ぶ家々の壁は曇りない純白、そして屋根や石畳は水底の様な波紋の入った蒼翠の翡翠。それらの隙間を縫うように水路が巡らされ、各々に趣向を凝らされた美しい小舟で、澄んだ水路行き交う。

 ただそれだけで、生涯忘れ得ぬ記憶になると謳われる程の美しさだった。



 そんな街を、小高い丘の上にある展望台から見下ろしていたシアンが言った。


「いいか二人共。これから街に入る。これまで話をしてきた通り、まずは問題を起こさないよう落ち着いて何もしないという事をしようか。まず、普通の人間達の暮らしぶりをよく観察して、それから……」


 だけどシアンの話が終わらない内に、クロがうんざりと口を挟んだ。


「……父さん、それもう10回以上聞いたから」

「なっ、だけど本当に大切な事なんだ! いいか、クロ。人間たちを舐めちゃ駄目だぞ? なぁイヴ!」


 面倒臭そうに溜息を吐くクロに、シアンは言い返しイヴに同意を求めた。

 イヴは緊張した面持ちで深く頷く。


「うんっ、人間は弱い。私が力を込めてデコピンしたら死んじゃうし、水深3センチの水溜りがあれば死ねる生き物だから最新の注意を払って傷つけないようにする。……街の中では道以外を歩いちゃ駄目。塀の上や屋根の上、あと壁や水の上も駄目。それに……」


 イヴは真剣そのもので、ここ10日の間にシアンから教えられた事をブツブツと繰り返した。

 そんなイヴにクロは肩を竦め、話題を逸らせる様にシアンに尋ねた。


「父さん、ロゼは?」

「ロゼなら相変わらず寝てるぞ。森を出てからよく寝る様になったけど、船を降りてからはまた一段と寝るようになったな。……きっとイヴも緊張してるんだよ」

「イヴが? それって、前に言ってたイヴの心とロゼが繋がってるっていうあれ? ……もしそれが本当なら、ロゼが寝てるのは父さんのせいだ」

「何言ってんだ? オレはお前達を心配して言ってるんだぞ。なんでオレのせいなんだ」


 シアンが首を傾げそう返せば、クロはそれ以上何も言う事なく、口を尖らせてソッポを向いた。


 そんな不機嫌に口を尖らせ黙り込むクロに気づいたイヴが、クロの背をポンポンと叩きながら声を掛ける。


「クロも緊張してるんでしょう。大丈夫だよ、クロ。シアンが言った事全部、私が覚えておいたから。もしクロが忘れてても、その時は私がちゃんと教えてあげるから安心してね」

「そういうんじゃないけど……」

「イヴは偉いな! クロの為に人一倍しっかり聞いてたのか!」


 なおも頬を膨らませていたクロの横から、シアンがそう言って感心した様に笑えば、イヴは得意げに頷いた。


「私はお姉さんだからねっ! 何でも出来るようになって、みんなに優しくしてあげるんだよ」


 いつもの様にそういったイヴにクロもとうとう笑い出し、3人はまた楽しげに街に向かって歩き始めた。



 ◇



「商業要審査は右に、一般審査は左の列にお並びくださぁーい!! 馬車は停留サービスをご利用いただけますが、船に載せられる方は後方の受付に申告してくださぁい!!」


 カロメノス湖に近づけば、渡船場の桟橋付近からそんな元気な声のアナウンスが響いてきた。

 カロメノス水上都市に入るにはこの桟橋から行き来する船に乗るしか道はなく、またその際に誰一人漏れず、荷物袋の検査と体重チェックが行われる。

 それは船の積載重量規定を計る為という理由もあるが、もう一つの理由は、違法な物品の持ち出しを禁止する為でもあった。……というのも、カロメノスの街を造り上げている資材である白雪石や翡翠は当然高価なものであり、それらの無断持ち出しなどの窃盗を防ぐ為でもあったのだ。


 シアン達も例に漏れずその審査を受けなくてはならず、一般の列に並ぶと身分証と荷物を取り出した。

 シアン達を担当した検問所の女性が、出された身分証とシアンの顔を見比べ、淡々と言う。


「はい、確認しました。大人1名、子供2名に契約された従魔が5体ですね。手荷物に持ち込み禁止物はございません。ただ、お連れの従魔が街の者達からひと目で契約済だと分かるよう、街の中では所有の証の布、若しくは鎖を巻いておいてください。もしお持ちでないなら、市街でも販売されているのでお買い求めください」


 そんな説明にイヴがこっそりとクロに耳打ちする。


「凄いね、本当に街には何でも売ってるみたい。楽しみだね」


 クロもコクリと頷く中、検問所の女性は説明を続ける。


「カロメノス水上都市へ入るにあたっての注意事項として、カロメノスの建築物や路面舗装に使われている鉱石は全て、カロメノス商業財団の所有物となりますので、持ち出しは不可です。万が一破壊してしまった場合、そして破損部位を見つけられた場合は商業財団にお知らせください。悪質な破壊でければ、その報告で修理費を請求する事はございません。街の景観保護にご協力下さい」


 シアン達が頷くと、女性はペンと用紙をシアンの前に差し出した。


「それでは審査受けられた確認と説明を受けられた承諾に、こちらにサインをお願いします」

「はい」


 シアンは頷きサラサラと紙にペンを走らせる。


「はい、確認しました。それではあとはこのペンケースとハンカチ、それから色紙にもサインをお願いします」

「……ん?」

「“ホーリーさんへ”と入れて頂ければ嬉しいです」

「……」


 相変わらず眉一つ動かさぬ、淡々とした口調の女性職員……いや、ホーリーさん。

 シアンは言われた通りペンを走らせながら、ポツリと言った。


「ホーリーさんって言うんですか。素敵なお名前ですね」

「……あの、実は私、既に結婚していて……」

「全然そんな事は聞いていませんからっ」


 シアンはサインを終えたペンをぺシンと机に置いて、一歩後退った。

 ホーリーさんはトントンと書類をまとめ、色紙とペンケース、そしてハンカチを仕舞いながら、ニコリと営業スマイルを浮かべてシアンに告げる。


「先日からいつくかの組織の者達から“シアン様がこの街に来ていないか”という問い合わせが届いていて、もしやと思い準備しておいて良かったです。―――それではよい旅を」

「いや、“よい旅を”じゃなくて……」


 ―――それからシアンはこのサラッと図々しく公私混同してくるホーリーさんと、この件に苦情入れない代わりに、シアンを探している組織に絶対情報を漏らさないという取引をして、無事カロメノス水上都市へと足を踏み入れたのだった。



 ◇



 カロメノス水上都市での移動の基本は“クーフ”と呼ばれる手漕ぎの小舟である。

 多くの人は公共が運営する小舟(クーフ)を使い、資金に余裕のある者は、渡船組合から時間単位で船頭ごと小舟(クーフ)を借りる事が出来た。

 更に裕福な者達は小舟(クーフ)と船頭を自前で所持しているのだが、シアン達はというと……。


「―――すみません、小舟(クーフ)を一隻買いたいんですが」

「いらっしゃい。船頭は連れてきておりますか?」

「自分で漕げます。支払いはギルド金融組合からの引き落としで」

「ふぅん? 水路の操縦許可はお持ちで?」

「ええ。十年前の講習で取ったものですが有効ですか?」

「いいでしょう。保険に加入が義務ですので、この書類記入してもらえれば、すぐにお渡しできますよ」


 ありとあらゆる下調べを済ませているシアンは、こうして一隻の小舟(クーフ)を非常にスムーズに手に入れたのだった。


 そして案内された広い倉庫に、立て掛けられる様に並べられた沢山の小舟(クーフ)を見て、イヴが目を輝かせ駆け出した。


「シアン! この小舟(クーフ)カッコいいよ! 黒くて銀色の模様が入ってるこれ!! これがいい!!」

「本当だ! この倉庫の中でひときわ輝いてるな! よしそれにしよう!」


 イヴが選んたのは漆黒の船体に、銀色の塗料で燃え盛る炎が描かれた、如何にも“魔王とかが乗ってそう”な小舟(クーフ)だった。

 シアンとイヴは大いに盛り上がりながら、その小舟(クーフ)に即決した。―――ただ、その時少し離れた所でクロが茶色の船体に、伸びやかに遊ぶ白い子猫が描かれた小舟(クーフ)をじっと見つめていた事に、盛り上がる二人が気付く事はなかったという。



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