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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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別れ、そして森への誘い(いざない)①

 シアン達一行を乗せた船は無事に入港し、上陸の為の橋が渡された途端、迎えの一団が我先にと船を取り囲んだ。


「シアンさん! 旅に出られるとか! 旅の支度を揃えておきましたのでどうぞ我が商会の準備した馬車へ!」

「いやいやお子様連れだとか! こちらはお子様の楽しめる玩具等を満載した馬車を用意してます! 楽しい旅になる事間違いありませんよ!」


 幟や垂れ幕を掲げながら口々に勧誘の言葉を叫ぶ一団に、乗船員達は引き気味に下船していく。


「あのっ、シアンさん達はまだ中ですよね!」

「知らねーよ。邪魔だ邪魔だ。降りられないだろ」

「シアンさん達はまだでしょうか? この船に乗ってるんですよね!」

「お前達が張ってるから出てこれないんだろ? どけよ、しっしっ」


 一人、また一人と乗組員達は降りていくが、送迎の一団は一向にシアン達を見つけることが出来ない。

 そしてとうとう最後の乗船員である足の悪い老人が、若者に支えられながらヒョコヒョコと出てきた時、老人は一団にとって信じられない事を言った。


「何やっとるんじゃ? シアンならとっくに降りたぞ? わしらで最後じゃ」

「んなっ!!?」


 一団は老人が降りると同時に船に乗り込み、シアン達の姿を探し始めた。―――結論から言えば老人の言った通り、船内にはとっくにシアンはいなくなっていたのだけど。




 ◇





 送迎の者達が血眼になってシアン一行の所在を探して駆け回り始めて、半日が経った頃。

 夕暮れが迫るなだらかな丘が続く人気のない小道を、4つの人影が仲良く手を繋いでトコトコと歩いていた。

 もう間もなく分かれ道という所で、先頭を歩いていた男が最後尾のフードを被った人影に声を掛ける。


「ここまでくりゃもう平気なんじゃねぇか、シアン!」


 その声に、シアンは被っていたフードを取り払って苦笑しながら頷いた。


「おお、サンキューなキアラ。しかし凄いな。お前と手を繋いでるだけで、本当に気付かれずにあの人だかりをすり抜けられるとは」

「まぁな。気づかれにくい体質なんだ!」


 ―――そう。シアン達は実はあの人混みの中を、普通に通り抜けてきていたのだった。


 上陸前のシアンは、徐々に陸へと近づく船の中で盛大すぎる歓迎を前に、海竜達に頼んでとりあえず入り江を破壊してもらおうか……などと本気で考えていた。だけどそんな時、キアラがひとつの提案してきたのだ。


『アレに捕まりたくないんなら、俺が手を繋いで降りてやろうか?』

『え? 手を? オレそんな趣味はないんですけど』

『俺もないぜ! ほらアレだよ。俺の体質で触れてるものが全部人から忘れられやすくなるんだ。どんな派手な服着てたって俺が触れてる半径2メートル内の物は、皆から無視されちまうんだぜ!』


 その解説にシアンは涙目になりながら、キアラの提案に頷いた。


『……そうなのか。なら頼む。お前に全てを任せる! そしてもし失敗したとしても、オレは絶対にお前を責めないから。―――寧ろ“良かったね”って声かけてもいいかなっ!?』

『何言ってんだよ。絶対に見つからねぇから心配すんなって! まぁ念の為、顔隠す程度の事はしとけよ!』


 ―――そしてシアン達は、キアラを先頭にクロ、イヴ、シアンの順で手を繋ぎ俯き加減に下船すると、誰にも呼び止められる事なく、ごった返す人並みと馬車の群れを難なく通り抜ける事が出来た……いや、通り抜けてしまったのだった。




 ◇◇◇




 《キアラ視点》



 ―――不思議な旅だった。


 大家族の末っ子として産まれた俺は、昔っから居場所がなく、隅っこで隠れるように過ごしてきた。

 なるべく大人しく、血気盛んな兄弟たちの喧嘩に巻き込まれないように……だけどいつの頃からか、何をせずとも誰も俺を気に留めようとしない事に気付いた。

 いや、そんなもんじゃない。()()()()()誰も俺を気に留めなくなってたんだ。

 それに気付いた俺は必死でここに居るとアピールを始めてみた。だがある日、学校から帰った俺の顔を見て親は『誰?』と言った。

 その時、全て諦めた。


 それからすぐ学校を卒業する事なく家を出て、冒険者登録をして、日銭を稼ぎながら俺は一人で生きてきた。


 寂しくないか? 寂しいに決まってんだろ。

 だけどこういう体質なんだ、どうしようもない。……そう笑い飛ばすしかなかった。


 こんな体質なら盗みなんかしたって、きっと誰にも気づかれない。……だけど、そうはなりたくなかった。

 この体質にはきっとなにか理由がある。そう自分に言い聞かせ、空元気に踏ん張ってきた。


 そんな時、ちょっとした有名人に出くわした。

 大教皇ファーシルの孫シアンだった。

 前に一度見た事があったが、その時のシアンは鬼気迫る程の緊張を持っていって、俺はおろか他の何も目に入ってないようだった。―――それが、俺が3度目のチャレンジとなるテイマー資格試験の会場での事だった。


 あれから年月は過ぎ、何の巡り合わせか再びシアンと出会った俺は、いくらシアンでも絶対に覚えてないだろうと思いつつも声を掛けてみた。

 まぁ、結論から言えば案の定俺の事を覚えては無かったシアンだが、ものすごく申し訳なさそうな顔をしていた。

 ―――こっちとしては最悪、嘘を吐いて馴れ馴れしく近付いて来た奴なんて思われるかもと身構えていたから、正直拍子抜けだった。


 何度か話してみて、シアンはいい奴だと思った。

 声をかける度首を傾げられ、3回に一回程しか名前を思い出してもらえなかったが、その都度申し訳なさそうな顔をされてしまい、逆に俺の方が申し訳なくなったりもした。

 だから俺は“そういう体質だから気にするな”とシアンに打ち明けた。するとシアンは……なんと泣いて俺に同情してくれてたんだ。

 まぁ本人はそんな事を気取らせない為か『ゴミが入った、空気が乾いてる』なんて言ってたが、船の旅で空気が乾燥なんてするもんかよ。

 天才なんて言わせてるくせに、案外抜けた奴だった。


 シアンと話してる間は、いつぶりかな……いや。生まれて初めてかもしれんな。―――“寂しい”と感じなかった。


 シアンは俺を仲間と言って、通信魔道具をくれた。

 それを使ってみると、信じられないくらい高度な技術が用いられていて、更に信じられないくらいぶっ飛んだジョークの効いた書き込みがされていた。

 そんなぶっとんだ奴らの遣り取りは、見てるだけでなんか元気が出たし、その内俺も書き込んでみようと思っている。


 そして俺は結局船旅の間、ずっとシアンの周りをうろついていた。

 周りの奴らも声をかけたそうにソワソワしてたが、俺程隙きあらば声を掛けてた奴はいなかったな。


 そんなこんなで船旅もいよいよ終わりとなった時、シアンが青褪めた顔で陸を見つめて言った。


「ちょとマジかよ。オレは家族水入らずで旅をしたいっていうのに……」


 見れば、これ迄ジャックグラウンドに踏み込めなかった者達が、シアンを取り込む為に我先にと待ち構えていたのだ。

 こうして見ると、シアンはやはり特別な奴なんだと実感してしまう。

 ともあれ3週間を共に過ごした俺の目に映ったシアンは、言うほど特別でも天才でもなかったように思う。

 周りの奴らと同じように笑い、たまに調子にも乗るが謙虚で、あまり派手な事を好まない。料理がうまく、自他ともに認める親馬鹿で……つまり、普通の良い奴だった。

 だから“シアンなら出来るだろ”じゃなく、なんかシアンの力になってやりたいと思ったんだ。

 だから……産まれて初めて、この体質を意識的に利用してみようと思った。


「アレに捕まりたくないんなら、俺が手を繋いで降りてやろうか?」

「え? 手を? オレそんな趣味はないんですけど」


 やっぱアホだな、シアン! でもそんなとこも嫌いじゃないぜ!




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