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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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世界の対応と親の対応

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします(^^)

 ―――フェリアローシアがマスターの追跡から無事逃げ仰せ、聖域の境界を抜けた頃、世界中では当然の事ながら大騒動となっていた。

 時間にして3分28秒もの間、この世界に生きる者たちの目に映る世界が一変してしまっていたのだから。

 だが、何れこうなることを予測していた者達のお陰で、この騒動はすぐさま収束へと向かった。



 ―――その理由は今から約二十年程前、現在最大勢力を誇る主神ゼロスを祀る正教会の伝説の大教皇ファーシルが、今際の際に一つの予言を残していたからだ。


 その予言とはこうだ。


 “遠くない未来、世界は光に満たされる。そして遠くない未来、世界に炎が渦巻き、凍り付き、水が溢れ、風は吹き荒れ、大地が割れるだろう。だが恐れる事なかれ。例え世界が闇に沈もうと、神の加護が我等をお守り下さるだろう。加護に見放されぬ為にも仔等よ、決して慌てる事なかれ”


 ……まぁ、上手い方法だと思う。


 予言(笑)にある“光”、“火”、“氷”、“水”、“風”、“土”とは、現在の魔法の基本となる要素全てが入っている。

 更に言えばその予言には明確な時や明確な場所、そして明確な現象とその範囲、その回数制限など何一つ記されてはいない。

 つまり、何かやらかした時は予言通りと世間に公表し、慌てず行動するようにと注意喚起を促す事が出来る。

 そしてその現象が怒らなかった場合は“よかったね、もしかしてあれがそうだったんじゃない?”とでも言っておけば十分なのだ。また、万が一それにより不都合が出そうな場合、ガラムあたりに予言に似たような現象を起こして貰えば十分なわけであって……。


 そんな涙ぐましい彼らの仕込み準備が功を奏し、今回のちょっと何も知らなければ理解し難い事件にも拘らず、人々は慌てふためく事はなく、ただ神に祈りを捧げ、正教会へ多額の寄付が寄せられただけで収束したのだった。

 ……因みに、人々が神へ一心に祈っているちょうどその時のロゼだけど、シアンに貰ったフルーツクッキーを食べ終わって満足したのか、うつらうつらと船を漕いでいただけだった。まぁ、実際なんてそんなものだ。



 ―――そしてシアンたちの乗る船の上でも、例にもれず驚く人々が声を上げていた。


「これが……大教皇ファーシル様の予言……! そうだよな、シアン!!」

「そ、そうですね」

「やっぱりそうか! 大教皇様の孫のシアンが言うんだから間違いない! みんな祈れ! 決して慌てるな!!」


 得意げに声を張り上げる乗船員に、シアンが引き攣った笑顔で指示を頼む。


「そうだな! 慌てず急がず、頼んだぞ! えー……と、誰だっけ?」

「キアラだぜ」

「そうだった。斜め後ろのキアラだったな」


 シアンは苦笑いを浮かべながら甲板でざわつく人々の波を足早に抜け、首を傾げる子供達と共に船室に戻ってきた。

 そして先日の扉をパタリと閉めたシアンは、子供達に背を向けたままペンダントのクリスタルを立ち上げて簡単な事情を書き込み、また子供達に向き直った。


 何やら並々ならぬシアンの形相に、子供達は首を傾げながらもおずおずとシアンを見上げて口々に言う。


「えっと……俺がイヴにやってって言ったんだ。魔法のコードが見れるって聞いて……だから俺が……その……やって欲しいって」

「クロは悪くないよ。さっきのは範囲は広く設定したけど、ガラムおじさんと訓練してた時はいつもしてた事で……ああしてコードの流れを読んでおかないと自然界からマナも集められなくて……だから別に悪い事してない……よね?」

「……」


 シアンは尚も無言で子供達を見下ろす。

 子供達はシアンのそんな様子に若干怯えていたが、シアンはただ言葉を選んでいるように見えた。


 やがて長い沈黙のあと、シアンはイヴとクロの肩にぽんと手を置き、溜め息と共に言った。


「―――実はお前達に隠してきた事がある」


 子供達の顔に緊張が走る。


「な、……何?」

「私達に隠し事?」


 シアンは緊張した面持ちでコクリと頷くと、低い声で言った。


「そう。―――……実はな、お前たち二人は“天才”なんだ」

「……」

「……」


 沈黙の中、ポツリとロゼの声が響く。


「シアンー。それじゃただの親バカだよ。しかも今までも隠さず言いまくってるし」


 ……なるほど。ロゼの指摘は的を射ている。

 なぜならシアンは2日に一回は「うちの子天才」と、飽きもせず言ってたからだ。

 シアンもその事実をハッと思い出し、慌てて手を振りながら訂正した。


「あ、いやっ、本当にオレから見た二人は可愛いし天才なんだ。だけど親の目贔屓無しにしてもありえないと言うか……」

「?」

「父さん何言ってるの?」


 不審げな目を向ける二人に、シアンは小さな咳払いをして説明をしていく。


「―――つまりだ。今まで二人は、人間より獣の方が遥かに多いジャックグラウンドで生活をしてきた。だけどこれから行く所は獣より人間の方が多い土地だ。そんな土地で暮らす人達は、良く言えば協力しあいながらそれは豊かな生活を営んでいる。だけと悪く言えば、一人になれば普通に生きる事すら困難な程に弱い」


 シアンの説明に、イヴとクロの目に困惑が浮かぶ。

 シアンはそんな二人に尋ねかけた。


「腹が減ればどうする?」

「え? 獣を狩って料理する」

「ブブー、一般人は普通獣を自分で狩りません。猟師や冒険者という名のなんでも屋が狩るんだ。そして自分達はそれを買ってきて調理する。じゃ、服が欲しいとどうする?」

「はい! 獣から毛皮を剥ぐ!」

「違うよ、狩りはしないって父さん言っただろ。羊毛や綿から糸を紡いで布を織るんだ。それで……」

「ブブー、二人ともハズレ。服は服屋さんに買いに行くんだ。出来上がった服をな!」

「「!!?」」


「ここからジャックグラウンドの外に住み人達は、基本“仕事”と言う一つの技術に心血を注ぎ、他の事はほとんど出来ない。その点二人は苦手な事もあるが、殆どのことを自分で出来る。……特にクロ、お前のオールマイティーな技術は既に成人した一般人の領域を遥かに超えている。この前ベーコンにしたあのロックボアな、本来成人男性が15人掛かりで仕留めて、最低5人を動員して解体する様な仕事なんだ。ついでに言えば、強さ的にも冒険者ランクのC級〜B級に属する」


 クロは唖然とシアンを見た。

 しかしイヴはシアンに言い返す。


「待ってよシアン! そんな筈ない! だって……クロはすっごい、すっっっごい弱いんだよ!? まぁ、料理とかはシアンと同じくらい美味しいけど……」


 凹むクロ。

 シアンは俯くクロの肩に手を置いて、クロと同じような悲愴気な表情を浮かべながらイヴに言った。


「本当なんだ。―――聞いてくれ、イヴ。実はオレ、ジャックグラウンドの外では“人類最強”とか言われてるんだ。神に愛された子“神童”なんだとよ……」

「うっそ!!? こんな弱いシアンがっ……」

「うん、ごめんね……本当なんだヨ……。」

「でも、……でもっじゃあ私は!?」

「……うん、イヴは人外の強さって事になるから、人前でその力を見せちゃ駄目だヨ。いいね?」

「……」




 ―――こうして、シアンの捨て身の説教により、イヴとクロは世間一般の基礎の基礎を学ぶ事に成功した。



 俺はそんな、目に涙を浮かべながら微笑む献身的な英雄を見ながらポツリと呟く。





 ―――親はいつだって、己の身を削りながら子供達に生き抜く(すべ)を教えていくのだ。



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