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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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立教

 俺がマスターの無言の睨みに少し気まずくなって、静かに葉を揺すっていると、マスターが小さな溜め息とともにポツリと言った。


「……別に隠してるつもりはありませんでした。気付いたところで彼らにはどうする事も出来ませんし、また彼等にとってあれに何かすべきメリットが欠片もない。そもそも僕は彼らとの約束をきちんと守ってますからね。ジャック・グラウンド、そして魔窟には手を出さないと。()()()()()()()()()()()()という事でもある」

「相変わらずだね。それにちょっと気付かれてビックリしてる事には変わりないんだろう?」

「相変わらずはアインス様です。何でそう何時までもしつこく抉ろうとするんですか? そういう所嫌いです」

「じゃあマスターの理屈から言えば、()()()()()()()ということでもある……ということだね?」

「この話は終わりにしましょう」


 俺の素朴な疑問は、マスターに一刀両断にされてしまった。

 なので俺は仕方なく別の話題にする。


「―――しかしすごい景色だったね。光に溢れていた。ゼロス達は肉を捏ねながら、あんなに沢山の文字を書き込んでいたんだね。凄いよ。まさに神業だね」

「そうですね」

「だけど、少し寂しかったこともある」

「そうですか」

「大地も木々も、獣達やマスターも光になったのに、俺だけが何一つ変化しなかったんだ」

「神々の肉から出来てませんから当然でしょう」

「またそうして俺をのけ者にする……」

「していません」


 俺がマスターとのそんな穏やかな会話を楽しんでいると、ふと森の方からこちらに近づいて来る気配があった。


「こんにちは、アインス様。そして賢者殿。お楽しみの所フェリがお邪魔いたします」


 それはマスターにとても懐いている、腹黒ハイエルフ少年のフェリアローシアだった。


 俺は枝を揺らし歓迎した。


「やあ、フェリアローシア。邪魔だなんてとんでもない。きてくれて嬉しいよ」

「別に僕は何一つ楽しんでおりませんでした。相変わらずおかしな目をお持ちですね。そして、僕はアインス様と違い、嬉しくなどありませんので勘違いなさらないでくださいね」


 マスターは一瞬にして臨戦態勢に入ったようだ。

 嘲るような笑みを浮かべてフェリアローシアを見据えながら、その心を折ろうと悪意の籠もった言葉を並べていく。


「……自身の一人称を“フェリ”にするには、年齢を考えられた方がよろしいですよ?」


 だけどフェリアローシアは嬉しそうに笑うだけだった。


「ふふ、185歳はハイエルフの中ではまだ幼子(おさなご)の部類です。最低でも200歳を超えないと話しにならない……そうですよね? そもそも賢者殿がこのフェリを恥ずかしがらずに“フェリ”と呼んでくだされば、こうして自分で“フェリ”と名乗る事などありませんのに」

「……呼ばないですよ。さも僕のせいの様に言わないで下さい。このあざとジジイ」


 そうだね。185歳ともなれば、人間なら3回は定年退職を迎えてまだ余る年齢だ。

 マスターは目を細め、心底嫌そうにフェリアローシアを見やりながら吐き捨てた。


「今日はここには一体何のようで? また手紙ですか? そうじゃないなら、僕はあなたとは一言も口を利きたくないのですが」

「今日は手紙の件ではないのです。なので賢者殿がフェリと口を利いていただく必要はありません。お気遣いありがとうございます。お優しいですね」

「気遣ってねーよ」


 マスターの言葉が乱れ始めた。

 しかしフェリアローシアはそんなマスターを華麗にスルーすると、俺の前に跪いてくれた。


「本日はアインス様にお願い事があって参りました」

「そうなんだ、言ってごらんフェリアローシア。俺に出来ることならなんだってしてあげるよ」


 途端にマスターがビクリと肩を震わせ、フェリアローシアに唸るように言う。


「お待ち下さい。世界樹を守る為に存在する種であるハイエルフ様が、何を血迷ってアインス様に“お願い事”など?」

「…………ふふ」


 フェリアローシアはそんなマスターを華麗に無視した。

 マスターは苛立ちに紛れ、荷物袋から長い【大賢者の杖】を取り出すと、フェリアローシアの眉間に突きつける。


「―――今、神々より御神木の護りを言い遣っているのはこの僕です。世界樹の守り人であるこの僕を無視してアインス様の力を得ようなどとすれば、神威の下に僕はあなたを排除致します」


 いつも変化球で脅しに掛かるマスターの、珍しいストレート勝負。

 だけどそんなマスターの威嚇に、フェリアローシアは困った様に微笑んだだけだった。


「フェリとは一言も口を利かれたくないのでしょう? それともやはりフェリと仲良くお喋りしたいのですか? 構いませんよ。賢者殿の望むままにフェリは致します。お喋りしたい? ……フェリとお喋りする?」


 人懐っこい笑みでマスターに詰め寄るフェリアローシアに、マスターの顔は引き攣った。―――だけど世界樹の守人としての立場が、マスターを逃してくれない。


 マスターは冷や汗をかきながらジリっと2歩後ずさり、頭を押さえながら頷いた。


「くっ、……せざるを得ないでしょう」

「さすが賢者殿。二重否定ですね」

「っだからなんだよ!? 早く話せって言ってるだろ!? まじで消すぞこのヤロー!」


 俺はそんなやり取りを、感心しながら見入っていた。


 ―――凄い。フェリアローシアが完全にマスターを翻弄している。一体何をすれば心理戦であのマスターをここまで追い詰められるのだろうか……。―――いや待てよ、確か以前フェリアローシアは言っていた。

 何だっけ……確か、俺を参考に……―――。


 ……。



 いや、ないな。

 俺がマスターを翻弄したことなんて無いもの。

 あってもたまにデレてくれるくらいだから。


 俺はかつてのフェリアローシアが言ってくれたリップサービスに惑わされる事なく、また二人のやり取りを黙って聞いていた。


 フェリアローシアが天使の笑顔を浮かべ、マスターに言う。


「では世界樹の守り人として、フェリの願いを聞いてください。―――フェリはアインス様の一枚(ひとひら)の御聖葉を戴きたく、本日はここに参った次第に御座います」


 勿論。葉っぱくらい幾らだってあげるよ!


 だけど俺の代わりにマスターが睨みを効かせてそれに答えた。


「何故御聖葉が必要なのか?」

「勿論食する為です」


 即答したフェリアローシアに、マスターが一層低い声で尋ねた。


「―――その意味を……知らないはずがありませんね? つまりそれは呪われ、この聖域を追い出されるということですよ?」

「やはり二重否定ですか。かっこいいですね」

「……」

「勿論存じております」


 フェリアローシアは余計な一言を挟みつつ頷いた。

 だけど次の瞬間、フェリアローシアの天使のような笑顔から、底冷えのするほくそ笑みが溢れた。


「っ!!?」


 ―――全ては予定通り、とでも言いたげな勝ち誇った様なその笑みに、マスターもまた緊張の表情を浮かべた。

 そして今度はフェリアローシアが、マスターに穏やかな声で尋ね返す。


「フェリはこの聖域を出て行きます。―――賢者殿こそこの意味が分かりますか? フェリはこの四年で聖域内を掌握いたしたという事。この地での成すべきことを終えたのですよ」


 フェリアローシアの満足げな言葉に、マスターの顔が青褪めた……気がした。


「―――……いえ? おっしゃる意味が分かりませんね」


 そう答えたマスターの声はどこか震えている……ような気がした。

 だけどフェリアローシアはその幼い身から、マスターに負けない黒きオーラを噴出させながら無邪気に微笑む。


「ふふ、そうやって認めない振りをして下さっていたお陰で、手間取らず事を運ぶ事が出来ました。ですが本当は気付いてらした筈ですよ? 事実、今やこの聖域内にはもう賢者殿に嫌悪の目を向ける者は既にいない。何故なら私が賢者殿の行った数々の所業の顛末を調べ上げ、無邪気に暴露してやったからです」

「!!?」


 マスターの額に大粒の汗が浮き上がる。

 というか今この仔、自分で自分を無邪気と言った? それはもはや一周回って真っ黒なのではないか?


 フェリアローシアは心から嬉しそうに、その続きを語りあげた。


「フェリは心から賢者殿を崇拝しております。賢者殿は偉大な方です。もっと敬われ、尊ばれて然るべき存在。聖域内の皆には理解してもらえました。今は賢者殿に気を遣って沈黙していますが、フェリが一声あげれば皆は直ぐに賢者殿をを祭り上げる準備を整えるでしょう。―――だからフェリはこれから外の世界へ教主として羽ばたき、賢者殿の偉大さを布教に行ってまいりますっ!」

「マジでやめろ」


 自身の夢を朗々と語るフェリアローシアを、マスターはとうとう杖の先でどついた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ふふふ…はぁ…フェリくん、さすがですのねー でも、わたし的には、マスターの素晴らしさは独り占めしたい気分ですわー でも、みんなに好かれるマスターも、憧れますけれどもー? マスターを手玉に取る…
[良い点] フェリさんまじでいい性格してるわ レイルがこんな素の状態で喋ってるの、生前の時くらいじゃないだろうか いいね、いいね。尊い
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