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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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神の裁判所

 かくして、その翌日シアン達はハウスを引き払い、ジャックグラウンドを旅立った。

 昨日のピクニックで局地的な異常気象が発生していたことに、誰一人突っ込まない、気の良い住人達に涙ながらに見送られ、ジャックグラウンドの樹海を抜けるまでにかかる三日間の道程は、別れを惜しむ様々な獣達に寄り添われながら進んだ。



 そしてとうとう樹海を抜けたその先に、木造の大きな屋敷に隣接した石垣の関所が見えてきた。


 イヴとクロは初めて間近に見る大きな人工物に、若干緊張気味に身を固くしていたが、シアンは迷う事なくその関所に向かった。

 そして歩きながら、二人に関所の説明を始めた。


「ここは獣達に誓約を交わす為の【神の裁判所】と呼ばれる関所だ。偉い神様がこの大陸に掛けた結界魔法が唯一開閉する場所で、基本この大陸への出入りはここからしか出来ないようになっている。そしてあの屋敷が【ジャックの家(ジャックハウス)】と呼ばれる、テイマー協会から選出された査問委員達が住まう家だ」


 その説明に、クロが首を傾げながらシアンに尋ねた。


「だけど父さん、俺とイヴは何回か外に出た事あるよ? ここじゃない所から」

「ルドルフと一緒だったんだろ? 獣の許可を得た者は、その獣の監視の下で結界を通過する事ができるんだよ」

「ふーん」


 そんな話をしながら歩いている内に、シアン達は関所の前にやって来た。

 すると関所の小屋から一人の小男がヒョコリと顔を出した。

 細い吊り目にイボの付いたかぎ鼻、顔のあちこちに古傷の付いた男だ。

 男はヒヒヒと笑うと、シアンに話しかけて来た。


「やぁやぁ、シアン教授! 噂は聞いてますよ。このジャックグラウンドをとうとう離れる事にしたとか? 例の子供達ってのがその二人ですかい」


 一瞬シアンの顔に緊張が走った。

 だがシアンはまたすぐに人好きのする笑顔を浮かべると、男に親しげに話し掛ける。


「よぉ、ノック。久しぶりだな。そうそう、来年学園に戻るから、その前にちょっと家族旅行でもと思ってさ。……子供達の事、何か噂になってんのか?」


 シアンの軽い探りに、ノックは気付くことなく首を横に振った。


「いいえ? 子供のことなら、シアン教授が溺愛してるとかで有名ってくらいですが」


 不思議そうにそう言ったノックに、シアンはホッと肩を降ろして頷いた。

 イヴとクロのやらかした案件については、かつてハウスの住民の一人であったジルが『ここで見聞きした事は絶対に口外しない』というルールを作ってから、それは伝統として徹底的に守られてきていた。

 まぁ万が一口外するものがいれば、リリー辺りに消されただろうがシアンを慕う者達は賢く、消された者は一人もいなかったのだった。


 ノックは次に子供達に目を向けると、ニッと笑って歯並びの悪い歯を見せながら二人に声をかけた。


「何と想像以上に可愛い子達だ。お嬢ちゃんとお坊っちゃん。名前は?」


 するとイヴは笑顔で、クロは表情を変えることなく返事をした。


「私はイヴだよ! いつもシアンに優しくしてくれてありがとう、ノックさん」

「俺はクワトロ。でもクロでもいいよ。ノックさん良い人そうだから」


 二人の答えにノックは目を丸める。そして、次の瞬間盛大に吹き出した。


「ヒッヒッ! シアン教授、アンタこんな小さな子に心配されるのかい! しかもクロ君、あっしが良い人? この顔に泣き出す子供はいても、初見でいい人だって言ってきた子供は初めてだ!」


 口を大きく開けて、あまり見栄えの良くない顔で大笑いするノックに、クロは相変わらず真顔で頷いた。


「だってノックさんに獣達が警戒してない。怖い人じゃないからだよ」


ノックは大笑いをやめて、指で顎を撫でながらクロを覗き込んだ。


「へぇ? 獣達の気が読めるのかい。まさか獣の言葉が分かるとか言うなよ? お伽話じゃないんだから」


 そう茶化すノックに、そういった話が好きなクロは少し照れ笑いを浮かべて首を振った。


「分かんないよ。でも、分かりたいとは思う。だから、皆のシグナルを見逃さないようにはしてるんだ」


 獣を愛する純真なクロの笑顔は、ノックの胸を撃ち抜いた。

 ノックは物凄く真剣な表情でキッとシアンに顔を向けると、神妙に提言した。


「……シアン教授。クロくんをあっしに預けてみやせんか? きっと最高のテイマーに育ててみせやすぜ!」

「ふざけろ。クロはオレのクロなんだ。オレがきちんと育てますぅー」


 口を尖らせてクロを自分の方に引き寄せたシアンを見て、イヴがピトリとシアンに身を寄せた。


「……」

「ん? どうしたイヴ」

「私も、シアンのイヴ?」

「……」

「……」

「……」


 しばしの沈黙の後、シアンは二人をそっと抱きしめた。


「―――うん。大好きっ」

「父さんやめてよ、放して、恥ずかしい」

「私はちょっとだけならいいよ」


 そしてノックはそんな家族の触れ合いを眺めながら、ポツリと呟いていた。


「噂通りだなぁ。だけどこりゃ溺愛もするわ」




 ◆◆◆




 やがて気持ちを落ち着け直したシアンは、皆で荷物の検査を受けていた。


「へぇ、荷物にゃ問題ありませんね。……しかし、本当に“卵”の持ち出しをするのかい、クロ君。ここから卵を持ち出した場合、一種の呪いを受けるんだ。その卵から孵った獣はきちんと育てなければならない。その過程で、故意だろうが事故だろうが守り切れなかった場合、持ち出した者は死んでしまうんだよ」

「うん、父さんから聞いた。俺が絶対守るから構わないよ。それに、守りきらなかった場合、自分だけ生き残るなんてそんな虫のいい話はない。俺はここにいる皆と契約する時も、そのくらいの覚悟は持って契約したよ」


 そう言って、大切そうに一つの卵を撫でたクロに、獣達は震えていた。……卵も震えていたような気がしたけど、まぁ卵だし気のせいだろう。

 そしてまたノックも、そんな小さな少年の大きな覚悟に打ち震えていた。


「くそっ、シアン教授はなんて子を世に送り出そうとしてんすかいっ。クロ君のような子がいるならこのテイマー協会は安泰だ。……しかしクロ君の従魔は亜種が多いなぁ?」

「うん、【スライム】のキールと、【スノーウルフ】のラーガ。【ファイヤーバード】のフィー、【ストーンタートル】のドルに、【グリーンスネーク】のルナ。それから【多分シーサーペント】のテン!」


 クロは得意気に説明をしたが、どれ一つ正解は無い。

 ノックは眉を寄せながら感心したように頷いた。


「へえ、この年で幼体とはいえ既に六匹も……。才能の方も申し分ねぇなぁ。ちょっと触らせてもらってもいいかい?」

「ううん、駄目。……皆人見知りなんだ。俺とイヴ以外には触らせないんだよ」

「へぇ? シアン教授にもかい?」

「うん。父さんにも」

「はぁ、黒麒麟すら従えるシアン教授を……。そりゃまたなんと気位の高い獣達だなぁ」


 そう言いつつノックが手を引っ込めた時、キールがコロリと転がりだしてきて鳴いた。


「キヒ!」

「?」

「あはは、キールはいいみたい」

「はは、そうか、こいつは随分人懐っこいんだな。しかもスライムなのに随分我が強い。大事にしてやってるんだな」

「うん!」


 それから暫くノックはキールをモニュモニュと撫でていたが、荷物検査の為に台に広げていた荷物をカバンに詰め直した終えたシアンが、笑いながらノックに声を掛けた。


「おいノック、獣好きもいいが仕事もしてくれよ? 迎えの船は来てるのか?」

「船!? 船に乗るの!?」


 途端イヴが嬉しそうにシアンを見上げる。

 ノックもまた、ニヤリと笑ってシアンを見た。


「当然ですよ。しかも今回の船は凄いですよ。動力役を買って出てくれた海獣というのが、なんと大型の海竜が5匹!」

「……」

「海竜!? 海で最大の海獣の!? 」


 その報告にきゅっと口を閉ざしたシアン。打って変わって、今度はクロが嬉しそうな声を上げた。


「海竜を見れるの!? 凄いっ、でもどうして!?」


 テンションマックスのクロに、ノックは笑いながら説明をした。


「このジャックグラウンドの周りの海域は、巨大な海獣達の巣になってるんだ。だからそこを安全に抜けようと思えば、獣達に導いてもらわなきゃならん。大抵は海獣達の気まぐれに合わせて出航すんだがな。―――以前シアン教授がこの大陸にやって来た時は、大きな闇鮫が迎えに来て噂になったなぁ。だが今回はあの海竜が一月も前からここで待機してるんだ。こりゃもう伝説確定だな!」


 ノックの話にキラキラと目を輝かせるイヴとクロを他所に、シアンは暗い面持ちで頭を押さえて蹲っていた。


「……いやいや、気合入れすぎだろ。普通でいいって言ってんのに……」

「ん? なんか言いやしたか? シアン教授」

「いや、何でもない」

「そうですかい。んじゃ早速船に案内しやしょ」


 こうして様々な不安と希望を胸に、彼らの旅は始まったのだった。




レイスのもふもふ第一主義は最早呪いです。

(・∀・)

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