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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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思い出セール㊦

 

 クロは自分の隣にポンと絵本を置いてイヴに言った。


「オレ、全部覚えたからこれはもういい。置いていこう」

「クロがいいなら私はいいけど。……石は?」

「石は今貰っていい? 俺の荷物の方に入れとくよ」


 クロはそう言うと、大きな硝子瓶を例の袋から取り出した。

 その中には、泥団子やキラキラ光る小石が入っている。

 そしてそれを見たイヴが嬉しそうな声を上げた。


「あ! それ私とロゼが今までクロの誕生日にあげた泥団子と綺麗な小石だ! まだ持ってたの?」

「うん」


 クロは頷くと、イヴから小石を受け取り瓶の中にコツンと落とした。


「俺の荷物はこれと、銀糸のブランケットといつもの肩掛けバッグ。後はロロノアさん達に貰ったキメラの人形に……着替えかな。イヴも俺の事は気にしないで、自分の欲しい物をまず選んでみたら?」


 クロの言葉にイヴはうーんと少し悩んだあと、小さな手帳を手に取った。


「これかな。キラキラシール手帳。あと着替えだけでいいや」

「少なっ!」


 クロが絡まなくなった瞬間に見せた、イヴの物欲の無さに、ロゼは思わず声を張り上げた。


「あれ、イヴまだキラキラシール集めてたの? 俺は置いていこうかなと思ってたからあげよっか?」

「え、いいの? うん、欲しい!」

「じゃああげるよ。代わりにそれ以外の荷物はもう置いてこ? 他のも全部、俺覚えたし、遊び尽くしたから」

「そう? ならいいよ」


 イヴはクロのキラキラシール手帳を受け取りながら、蓋事返事で頷いた。

 そんなやり取りを見ていたロゼが、感心したようにボソリと呟やく。


「……最近クワトロのイヴに対する扱い方が、シアンに似てきたね」


 ……まぁ、親子だしね。


 俺がロゼの呟きに同意していたちょうどその時、部屋の扉の向こうからシアンと来客の話し声が聞こえてきた。


「お邪魔します教授。頼まれていたものを持ってきました」

「おお、サンキューな。クロならそっちの部屋にいる。帰りにまたスクロールを持って帰ってくれな」

「はいっ、分かりました」


 ―――コンコン……


「クロ君こんにちは。入ってもいいかな?」

「ロロノアさん! ちょっと散らかってるけどどうぞ」

「おじゃましま……うわぁ!」


 カチャリとドアを開けたロロノアが、足の踏み場のない程に散らかった部屋に驚愕の声を上げた。


「こ、これはまた……すごい量の物ですね。これを選別するのは大変でしょう」


 クロは座ったまま床に散らばった物品を寄せ、ロロノアの侵入スペースを作る。そして雑然と積まれた絵本の隙間から分厚い本を抜き出し、ロロノアに差し出した。


「もう持っていくものは分けたよ。ここに出てるのは全部置いていく分。これも置いていくつもりなんだけど、ロロノアさん要る?」


 ロロノアはその差し出された物を目にし、身体を硬直させた。


「―――って、これっ! 獣図鑑(ジャックザビースト)!! えぇ!? これも……置いていくんですか!!?」

「うん。もう全部覚えたし、旅の邪魔になるから」


 クロが頷いて答えると、ロロノアは慌てて開けられたスペースに正座して、差し出された図鑑を両手で受け取った。


「こんな貴重な物を……売れば路銀どころじゃない額になりますでしょうに」

「ろぎん? って何?」


首を傾げるクロにロロノアは指を立て、隠すことなくリアルを説明した。


「旅をすれば何かと物が入用になるんです。それを手に入れる為、物々交換をするんですが、それ等の流通価値を【貨幣】と言うもので数値化しているのです。自給自足が基本のこの大陸には意味の無いものですが、外の世界では役に立つものなのですよ」


 クロはロロノアの説明に、少し考え込むように沈黙すると言い直しをした。


「ふーん。じゃあ、それは売らない。ロロノアさんにプレゼントする!」

「って、いいんですか!? ありがとうございます! しかし何故!?」


 価値を教えて尚、自身に譲ると言ってくれたクロに、ロロノアは図鑑を抱き締めながら叫んだ。

 するとクロはニコリと笑って嬉しそうに言った。


「だってロロノアさんは俺の友達だから」


 そしてロロノアは号泣した。


 図鑑を胸に抱いて大泣きするロロノアを他所に、ふとイヴがいい事を思いついたとでも言うように、手を上げて言った。


「ねーねー、クロ。ならこれ、ここで売っちゃおうよ!」

「俺達の小さかった頃の玩具とかだよ? 要る人なんて居るかな?」

「居ますよ! 居るに決まってるじゃないですか! みんなクロ君とイヴちゃんが大好きだったんですからっ!! 皆思い出に欲しがりますよっっ!!」


 イヴの提案にクロは難色を示したが、直後に泣きながら叫んだロロノアの言葉で、それらの品はリリーの店の前で売りに出される事になったのだった。



 ◆◆◆



 それから二人はいそいそと荷物を運び出し、リリーに借りたテーブルやシートの上にそれらを並べ始めた。

 そんな二人の様子を見て、シアンが面白そうに声を掛ける。


「おぉ! ガレージセールか。いい事考えたな。オレのも出していいか? 食器や調理器具、それに家具なんかも最終日引き渡しってことで売っちまおうぜ」

「いいよ!」


 積み木セットを並べながら、イヴは笑顔で頷いた。

 そして二人がせっせと並べる中、シアンは静かに大型家具の引き換えチケット等を、背中を丸めて作り始めた。

 そんな家族の作業を、通りすがりの住民達は微笑ましげに眺めている。


「やぁイヴちゃん。ガレージセールかい。もう開いているのかな?」

「まだ並べ終わってないから駄目なの。全部並べたらまた来てね」

「それは残念。楽しみにしているよ」


 そしてまたせっせと陳列に勤しむイヴに、クロが声をかける。


「ねぇイヴ。値段はどうする?」

「分かんないけど、銅貨が一番小さいお金だったよね? お店屋さんごっこしたいだけだからそれでいいんじゃない?」

「分かった。じゃ、全部銅貨1枚だね」


 銅貨一枚といえば、日本円にして10円程度の価値だ。

 クロは頷き、また商品の陳列に戻った。



 ―――……そして。



「できた! お店屋さん開店です!」


 イヴが楽しげに声を上げたその瞬間だった。


「ここにある全ての商品、買い取らせて頂くわ」


 カッとヒールを響かせて進み出たのは、【樹】の一階で酒場を営む強欲の女店主リリーだった。

 その微笑ましいガレージセールに、欠片の大人気もなくそう言い切ったリリーに、シアンと集まった住民達が絶句する。


「わーい! クロ、全部売れたよ! ありがとうリリー。ちょっと待っててね、全部だと幾らかな」


 取り敢えずイヴは気にせず喜んでいた。

 そして商品の個数を数えようとし始めるイヴに、リリーは美しい大粒のエメラルドが付いたイヤリングを差し出した。


「イヴ様、これは【エリザベート王妃のイヤリング】と言って、歴史的価値を抜いても銅貨200万枚分の価値がありますの。クロ様と片方ずつお持ち下さいまし♡」

「わぁ……綺麗。だけど200万枚だとお釣りがないよ?」

「あらん。じゃあお釣りはいいので、代わりに身体で返してくださいましな」

「お、おい。リリー……お前何を言ってるんだ……?」


 シアンは慌ててリリーを止めようとしたが、それより早くイヴは頷いてしまった。


「いいよ、イヴ強いから何でもできるよ!」

「まぁ素敵♡ ならクロ様と売り子をして下さいます? 主に商品の説明を」

「?」


 イヴとクロは首を傾げたが、リリーはペロリと唇を舐めるとニヤリと笑って言った。


「ふふ、これからこのジャックグラウンドを出るにあたって、物の価値と商売と言う物を教えて差し上げますわ♡」



 ◇◇◇



 そしてリリーの競売は日が暮れる迄続けられた。


「ふふ、次の商品はクロ様のお気に入りの絵本、【ドラゴンとウィル】ですわ。――市場定価小銀貨1枚。中古品にして銅貨5枚。これにクロ様が重い病から立ち直るきっかけになった歯型の思い出価値が付いて小金貨3枚からとなりますわ♡」

「高っ……!」


 シアンがリリーの付けた値札に思わず声を上げた。

 因みに、小銀貨一枚は千円程で、小金貨一枚は5万円程である。つまり15万円…………高っ!


「うーん……ボーナス入るし、この辺にしとこうかなぁ」

「わしは買うぞ!」

「あら、では競売ですわね」

「小金貨3枚、大銀貨5枚」

「ふん、小金貨5枚じゃ」

「……」

「はい、ではクルファ会長様が小金貨5枚でお買い上げ〜♡」

「リリーちゃん、もう少し安いものはないのか!?」

「思い出の値引きはできませんわぁ♡ 他に欲しがる方は幾らでもおりますのよ。この競売はハウスの皆様への特売価格ですの♡」

「くっ……。じゃあ積み木バラ売りで……」


 そんなボッタクリ全開なリリーに、シアンは一言物申したが『もうこれは自分の私財だから口は出さないで欲しい』と、真顔で断られた。


 ―――とはいえ、ここで販売された想い出の品々は、クロやイヴの匂いが染付いていた為、ジャック・グラウンドに残された獣達を慰める効果を発揮した。

 そしてそれらのアイテムは後に、獣の心を鎮め襲われなくなる効果を持つユニークアイテム【テイムマスター護り】と呼ばれ、ここで販売された10倍からの価格で取引されるようになっていくのであった。



 ◆◆◆



「楽しかったねー!」


 上手く完売させることの出来たイヴが、上機嫌でシアンとクロ、そしてロゼに言った。

 シアンだけは乾いた笑いをこぼしていたが、クロとロゼは笑顔で盛り上がっている。


 だがその時、階段を昇るシアン達の背後から呼び止める声が上がった。


「クロ君! ちょっと待ってください!」


 ロロノアだった。

 ロロノアは4人に追いつくと、クロに木箱に入った大きな壺を差し出した。

 クロは不思議そうに首を傾げる。


「こんばんわロロノアさん。……これ何?」

「これは、契約紋を描く塗料粉です。教授に渡すように頼まれていたのを、うっかり忘れていました」

「そうなんだありがとう」




 ―――かくしてその日の晩、残り5個の卵の内に4個の卵が孵化した。

 クロは喜び、生まれたての手のひらサイズの獣達に名前を付けて迷う事なく契約をした。

 緑の鱗を持つ、山吹色の瞳の手のヘビさんは“ルナ”。

 白いサラサラとした生糸のような尻尾を生やした六つ目のカメさんは“ドル”。

 身体が透明な水の肢体を持つ不思議な龍さんは“テン”。

 そして虹のように色とりどりの羽毛を持つピヨちゃんは“フィー”。

 かつて卵をプレゼントしてくれた者達の、名前の一部を取って名付けたらしい。



「クロチャン イヴチャン ダイスキ ダイスキ!!」

「凄い! フィーはモノマネが上手だね!」

「俺も大好きだよ!」

「ピヨーッ!」

「……」


 新たな仲間達に喜び合う子供達を、シアンは何とも言えない微妙な表情で静かに眺めていたのだった。

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