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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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デート……?

 一方その頃、眼下に水平線まで大海が広がる大空の下では、クロが驚嘆の声を上げていた。



「高っ……て言うか、広い!」



 ルドルフの鬣に掴まるように背にまたがるクロの後ろでは、イヴは何故か得意気に仁王立ちをして頷いていた。

 スカートと髪をはためかせるその姿を見上げ、クロは思わず注意する。


「そんなところに立ったら危ないよ」

「このくらい平気だよ。そもそも私、このくらいの高さなら落ちても怪我しないし」

「……そう、ならいいけど」


 ……一応補足すれば、現状二人は海上から1000メートル付近の高度にいる。


 クロはまたじっと海に目をやった。

 そんなクロに、イヴはしゃがみ込むとクロに囁きかけるように解説を始める。


「ほら見てクロ。海の真ん中に黒く見えるところがあるでしょ? あれは憂いの都の跡地の大海溝なんだよ」


 クロの目が見開く。


「え! あれが!? ―――父さんから聞いたことあるよね。……確か大昔に【深淵(アビス)】がこの世界を滅ぼそうとした時に出来たっていう、伝説がある大海溝……?」

「そう。結構近くにあるでしょ? なんか、大袈裟な伝説の割に地理的に見るとお隣さんなんだよねぇ」


 あははと笑うイヴをクロはじっと見つめた。イヴは楽しそうに笑いながら、ルドルフに声を掛ける。


「ルドルフ、今度は【黒い森】に行って」

「おうよ」


 ルドルフはそう短く答えると、少し右に方向を修正して速度を上げた。

 すると間もなく陸地が見え、その陸地の上に黒い靄のような森が現れる。

 ルドルフが足を止めると、またイヴは得意げに言った。


「ここが【黒い森】だよ。さっきの大海溝の底に眠る【憂いの都】への入り口になる【魔窟】があるの」


 クロもまた、シアンから教えられた記憶を辿るように、ポツリと言った。


「【魔窟】……悪魔と亡者の住む地下大国。それに【井戸の魔物】を懐に抱く、禁忌の森」

「見た感じ、ただの森なのにね? じゃあ次行ってみよー!」



 ルドルフは子ども達を乗せて駆け続けた。

 そしてイヴはそれらの解説をクロに行い、クロは驚に目を見開きながら地上を見下ろし続ける。


「あれが【ディウェルボ火山】。昔フィルと行ったの覚えてる?」

「あはは、覚えてる。あの時『お供え物食べていいのかな?』って凄いドキドキしたよね」

「ねー! フィル元気かなぁ? あ、それからあの湖の街が、世界一綺麗な水の都【カロメノス水上都市】だよ」

「へえあれが……。あ、そうだ知ってる? 俺の薬を持ってきてくれるローレンさん、この近くに住んでるらしいよ。カロメノス湖の周りの森の中に家を構えてるって言ってたから」

「そうなの!? どこだろ? うーん、こっからじゃ見えないね」


 更に景色は巡り、空を見上げてクロが問う。


「あれは?」

「あれは聖者達のいる【楽園(エデン)】だよ。天国なんて無いっていう人もいるけど、ちゃんとこうしてある。ま、生きてる私達は入れないけどね」

「じゃあ、下のあの街は?」

「あっちは、主神ゼロス様を信仰する正教会の本拠地【シュノッキム】だよ。アスモディアさんとセレンさんがお仕事をしてる所。あと、凄い力を持った聖女様もいるんだって」

「シュノッキム……って、冒険者ギルドの総本山もなかったっけ?」

「そう、ここだよ。ギルド長のマーリスさんも、この街の何処かにいるはずだね」

「ふーん。ここだったんだ……」


 クロはそう言って、またじっと眼下の街並みを見下ろした。



 それから二人は【聖域】や【ノルマン】等も一通り周ったあと、またあの大海溝のある海上に戻ってきた。


 クロはルドルフの背で揺られながら、夢でも見たように呆けているが、イヴはやはり仁王立ちして得意げに笑っていた。


「うん! 世界一周、一時間かからなかったね!」


 クロはイヴの言葉にハッとして空を見上げた。

 確かに太陽の位置はさほど動いてはいない。


 クロはイヴに目を向け、尋ねた。


「……イヴは……つまり、世界は小さいって言いたかったの? なのに俺は、たった一時間で行って帰ってこれるこの距離に、踏み出す事を怖がってるって……?」


 そういったクロの目は、自分の不甲斐なさに今にも涙がこぼれそうになっていた。

 だけどイヴはそんなクロの頭をよしよと撫でながら、真っ直ぐ海の向こうに姿を表し始めた魔境(ジャック・グラウンド)の大陸を指差した。


「違うよ。小さいのは私達。ほら見てよクロ。私達のジャック・グラウンド(故郷)があんなに小さい。だけど、私もクロもシアンも『雄大な大自然』なんて言って、誇りに思ってるでしょ?」

「うん」

「だけど世界から見ればあんなに小さい。だけど私達はあれが間違いなく大きい物だって知ってる。近くに行って、遊んで、過ごして、かけがえの無い大切な物だって思ったから、その大きさをちゃんと理解した。だからあの土地の事を私達は自信を持って【故郷】って呼べるんだよ」


 イヴはそう言って、また後ろの水平線に目を向けた。


「でも『小さい』と思いながら、いくら世界を見て周っても何にも分からない。ローレンさんもアスモディアさんもマーリスさんも、そこに居た筈なのに何処にいるか分からなかった。だけど近くから見れば、きっと見つけられる。それに他にも面白い物や、大切って思えるものだって沢山ある筈だよ」


 クロもまた後ろの水平線に目を向けた。

 一時間にも満たない世界一周の旅は、世界の狭さを知れた代わりに、そこに息づく者達については何一つ知る事はできなかった。


 クロがもう一度イヴを見上げると、イヴもまたクロに目を向けてニコリと笑った。


「ね、クロ。だからジャックグラウンドを離れる事は寂しくも怖くもない。()()()()()()からね。皆に会いたければすぐに帰って来られる。でもこの()()()()()で大切な何かを見つけた時、―――きっとそこも私達の【大切な故郷】になる」


 クロはハッとしたように目を見開いた。イヴはいつもと変わらない笑顔を浮かべながら、手を差し出した。



「だからクロ、一緒に私達の世界(故郷)を広げに行こう」



 クロは迷うことなくその手を掴んだ。


「うん!」


 イヴは掴まれたその手を握り返しながら、楽しそうにルドルフに言う。


「ねぇねぇ、ルドルフ! アレやって!」

「あれか? いいぜ」


 ルドルフはニット笑いながら頷くと同時に、自分達の周りに張り巡らせていた風圧抵抗のシールドを、躊躇する事なく解除した。






「っ!!!?」






 ルドルフは今、比較的ゆっくり駆けていたとはいえ、その速度は時速400キロ程は出ている。

 そんな中で突然シールドを外されれば、当然のことながらその小さな身体は標高1000メートルの大空へと弾き飛ばされたのだった。



 息も出来ない程の風の壁にぶつかり、身を刺すような冷気に包まれ、空気の抵抗に揉みくちゃにされながら落ちていくクロ。

 恐怖に身を強張らせ、焦りに四肢にぎゅっと力を入れると、ふと手先の一点だけが随分温かい事に気が付いた。

 身体をこわばらせたまま目を細めそちらを見れば、イヴが自分の手を掴んだまま、楽しそうに大笑いをしている。


「アハハハー!! 楽しぃねぇー! クロ―――ッ!!」


 そのイヴの姿を目にした途端、クロはこわばらせてい身体からフッと力を抜いた。そして落下に身を任せながら小さく笑う。



「ホント、俺は小さいね。でも、……―――」



 そしてクロはポソリと何か呟くと、そのまま意識を手放した。

 またその時クロが呟いた言葉だが、それは結局風に掻き消されてしまい、イヴの耳に届く事はなかった。




 ◇◇◇◇




「―――で、なんでクロが気絶してるんだよルドルフ」


 ジャック・グラウンドのハウスの前で、額に3つ程青筋を浮かべたシアンがルドルフに詰め寄っていた。

 ルドルフはシアンから目を反らせながらおどおどと蹄を叩いている。


「いやその……、……えー……あれだ。クロへのシアンの訓練が足りなかったせいだ!」

「お前今凄い人のせいにしたな!!? なすりつけ方が半端ねぇ!」


 一方、急な気圧の変化に目を回してしまったクロは、イヴに見守られながらリリーの介抱を受けていた。


「リリー。クロ、大丈夫? 」

「大丈夫よ♡ 少し気を失っているだけで内外に傷もありません。気付け薬を飲めばすぐ目を覚ましますわぁ♡」


 そう言ってリリーが黒い丸薬をクロの口にねじ込むと、途端クロの眉間に皺がより、薄っすらとその目が開いた。


「っ、あ、あれ? 俺……」

「あ、クロおはよー」

「イヴ! お、おはよう? ごめん、なんか俺寝ちゃったみたいだ」

「いいよ!」


 クロが元気そうなのにホッとしたのか、イヴは頷きクロの頭を撫で始めた。

 そんな微笑ましい様子に、リリーはクスクスと笑いながら二人に尋ねた。


「ふふふ、一体何処に行ってきたのかしらん?」

「デートだよっ!」

「まぁ♡」


 即答したイヴに、クロが注釈を入れる。


「だからそれは場所の名前じゃないんでしょ? あのね、リリー。俺達は世界一周をして、それからスカイダイビングをしてきたんだ」


 その回答に、リリーは手を口に当てそれは嬉しそうに突っ込んだ。


「あらあら♡ それはもはや“デート”というより“セレブなハネムーン”ですわね♡」

「「ハネムーン?」」


 首を傾げ、リリーを見上げる子供達。

 クネクネと体を揺らすリリーに、シアンが怒鳴る。


「だからリリー! 妙なことを吹き込むなってっっ!!」

「いやーん♡ ロゼ様助けてぇ♡」

「どうしたのリリー。シアンに怒られたの? あ、そうだ見て! ほら、シアンと苺を摘んできたの。リリーには僕が摘んだ、この一番大きな苺をあげるね。だから元気出して!」

「ゴフっ……シアン様、助けて……尊死ぬ……」

「ロゼ……」



 こうして、今日も大人達は子供達とロゼに振回されながら、いつも通りの穏やかな日々は過ぎていくのだった。


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