神は悪魔を創り賜うた
森の奥深く。
その日、整理整頓の得意なゼロスが探しものをしていた。
そんなゼロスにレイスが言う。
「ゼロス。手伝って欲しい」
「何? 僕忙しいんだけど。……あれぇ? ねぇレイス、アインスのジョーロ知らない? 絶対ここに置いたんだけど」
「……し、知らない。アインスも大きくなってきたし、そろそろ新しいのを創ったらいいと思う。肉いっぱいあげる。はいっ、だから新しいの創ろう」
「ええ? まぁ良いけど」
俺はくすくす笑いながら仲の良い2柱の様子を見ていた。
最近レイスは色んな物を集めては、グリプスの地下深くに隠しているのだけど、それをどうやらゼロスには知られたくないらしい。
「それで僕に手伝って欲しい事って何?」
「レイスは最近、愛と信仰に目覚めた。だからレイスへの愛と信仰に溢れる者を創りたいと思う」
「愛と信仰? 自愛じゃ無くて博愛って事? レイス、大丈夫?」
ゼロスが心配げな顔でレイスの額に手を当てる。
と、3秒ほど沈黙していたレイスがハッとしたように暴れ出した。
「……レイスっ、どこも悪くない!」
「あはは。ごめん、珍しいことを言うからつい」
プンプンと怒るレイスに、ゼロスは手のひらを見せながら謝った。
まぁ神であるゼロスとレイスが熱なんか出す筈ないんだけどね。
「聞いてゼロス。この前レイスはガルシアという人間に、ちょっとした頼み事をしてみた」
「ガルシア? ああ、一時聖域でハイエルフ達と暮らしてた子だね」
ゼロスが頷く。
この前とはいえ、それはもう今から120年前の話になる。
「ガルシアは人間にしては珍しい奴だった。なにせこのレイスを崇拝したから」
うん。ガルシアは確かに珍しい子だった。
レイスの事が大好きで、俺の所にもよくレイスの事について聞きに来たりしてた。
特に“レイスが過去に何を創ったか”という質問が多かったね。
「うん。知ってるよ。僕の創った人間は何故かレイスのことを怖がるから、仲良くしてくれる子がいて良かったと思ってたんだ」
「そう。だからちょっと頼んでみた。とはいえ人間は賢くないから、また何か勘違いするだろうと然程期待もしてはいなかった」
「まぁ、未だにレイスは地上の人間に邪神と勘違いされてるもんね。ごめん」
レイスが下唇を噛んだ。
「……。レイス、気にしてない。ともかく、今重要なのは期待してなかったにも拘わらず、そのガルシアがレイスの言ったことをちゃんと理解しグリプス大迷宮を人気スポットにして見せたという事。奴の働きにレイスはとても感心した」
グリプス大迷宮は、今やレイスの言う人気スポットどころでは無い。
ガルシアの遺した神の宝(本当は俺のなんだけど)を目指して入る者以外にも、魔石やドロップアイテム、宝箱を求める冒険者達で賑わいを見せ、グリプス砂漠のダンジョン周辺には新たな街まで建設中なのだ。
特に魔石は重要な資源として、今や人々の生活に欠かせぬものになりつつあった。
「確かにね。元々人は弱過ぎたから、魔石とルーン文字の組み合わせで力の底上げを図ったことは、とても良かったと僕も思う。学校っていう施設もうまく利用して後世にまで上手に普及させたよね」
「そう。そこでレイスは分析してみた。ガルシアはなぜ、ここまで上手くできたのか」
レイスは腕を組み少し勿体付けて言う。
「レイスはこう結論付けた。奴には愛と信仰があったからだと。つまりレイスのことが大好きになってくれたら、きっとレイスの困ることをしないのだ。愛と信仰。これは偉大!」
ゼロスの顔が渋くなった。
「うーん、それはどうかな? 僕も信仰はあるけど勘違いはされるし。……でも何か創りたいならラムガルは? 手伝ってくれなかったの?」
今度はレイスの顔が渋くなる。
「ラムガルは今、勇者の様子を見に地上に降りてる。だからレイス、独りで頑張ってみた。……だけど上手くできなかった」
レイスがそう言ってチラリと背後を見た。
その視線の先にはヤギの頭をした男の子や、蛇の尾を持つ女の子、ゴブリンに羽をはやした小鬼の様な姿をした仔達がいる。
と、その仔達がふとレイスの視線に気付き、ササッっと膝を折ってこちらに挨拶をしてきてくれた。
「私共はレイス様の忠実なる下僕にして、皆の望みを叶える者。但し、その望みを叶える為にその心意気を見せてもらうことを条件とします。大いなる野望には、大いなる代償を」
「あぁ。それでいい。―――という感じで、こいつ等はレイスを崇拝してる。力は基本的に強くないが、誰かの為に願いを叶えてあげる時だけは、特別に無限の力が出せるようにした。云うなればそれはつまり“愛の力”。……とは言え、一応条件として願いにはそれに見合った心意気を見せてもらう事にした。じゃないとこいつ等も節操なくお願いされ過ぎて大変だろうから」
―――こうして、デーモンとデモネスがこの世界に誕生した。
レイスはここに辿り着くまで、本当に色々考え抜いたんだろう。
そしてそれを形にしようと、独りで苦手な成型までやってみたんた。本当によく頑張ったよ。
「……だけど、レイスは上手に出来なかった。これじゃいくら愛しても、こいつ等は上手じゃないから皆に愛しては貰えない。だからゼロス。手伝ってほしい」
落ち込むレイスのお願いに、ゼロスは胸を叩いて宣言した。
「わかった! 良いよ僕に任せて! レイスの為にとびきりカッコいいのと、とびきりかわいいのを創ってあげるねっ」
うん。流石、お兄ちゃんだ。ゼロスが一番格好いいよ!
「ありがとうゼロス。ラムガルも上手だけど、ゼロスがやはり一番上手」
そしてゼロスはレイスの為に3人の兄弟と、3人の姉妹を創り出した。
兄弟姉妹達はそれはそれは美しかった。
―――長男の名はアスモデウス。
漆黒のビロードの長い髪を湛えた八頭身の長身。金の妖艶な瞳には、熱い情熱と叡智を称えている。
―――次男の名はベリアル。
肩ほど長さでのウェーブのかかった金髪を持ち、どこかの王子のような気品を纏いながらも、口元には軽薄そうなイタズラ心が浮かんでいる。しかしよく見れば、金の瞳の奥には真実を求める切実な光が揺れていた。
―――三男の名はセーレ。
短い銀髪のまるで少年のような姿。だけど幼い見た目に似合わず、誠実を絵に描いたような凛とした佇まいをしている。
麗しくも凛々しい兄弟達に対し、姉妹達は艶めかしく可憐であった。
―――長女の名はリリス。
締まった体つきなのに信じられない程の豊満な胸を持つ、長くウェーブのかかった桃色の髪の美女。妖艶でありながら全てを包み込む慈愛に満ちた表情を兼ね揃えている。
―――次女の名はラミア。
短い青髪に褐色の肌。身体は小さく少年のように凹凸は無いが、クルクルと動く愛らしい大きな金の瞳は、無邪気で純粋に楽しいことを探しているようだ。
―――三女の名はグレゴリー。
長い真っ直ぐな黒髪で、長女程では無いものの立派な膨らみを持ち、健康的でバランスのいい身体つきをしている。笑顔を見せずツンと尖らせた唇からは随分気が強そうな印象を受けるが、時たま見せる健気で献身的な優しさが何とも言えずいじましい。
「どうかなレイス」
ゼロスが胸を張って得意気にレイスに見せる。
「流石ゼロス! 完璧っ! コレはきっと皆が好きになる!」
レイスが嬉しそうに頷き兄弟姉妹達に魂を込めると、彼等はレイスに跪き自己紹介を始めた。
「「「―――我等こそは究極の愛を与えし者」」」
「「「―――私達こそは究極の愛を欲せし者」」」
レイスはワクワクと胸を弾ませ、堂々とした態度で兄弟姉妹に告げた。
「そうだ。お前達は愛の化身。この世の全ての人間共を愛し尽くすがいい。……ときにレイスは、以前アインスからサタンと言う者の話を聞いてとても感銘を受けたことがある。サタンとは幸せを望む全ての者に分け隔てなくプレゼントを配り、喜ばせる者なのだそうだ。―――レイスはいつの日か、この世界のサタンとなるつもりだ! よってお前達もこのサタンの名のもとに、皆に愛を配り喜ばせるがいい!!」
「「「「「「「賜りました。サタン様!」」」」」」」
兄弟姉妹達は気合一発いい返事で応えると、一斉に散り散りに飛んでいった。
きっと愛を求める者達の所に愛を配りに行ったんだろう。
その様子を見ながら、俺はレイスに一言だけ言った。
「ところでレイス。クリスマスの夜にプレゼントを配るのはサタンじゃなくてサンタだよ?」
「……え」
―――こうしてインキュバスとサキュバスが出来た。そしてついでに、俺はレイスの将来の夢を知ることになったのであった。
だが後に、この愛を求めすぎたインキュバスとサキュバスに対し、ゼロスからクレームが入ることとなる。
彼等にはラムガルから口頭注意がなされたが、レイスによって本能に書き込まれた性は修正が
効かなかった。
結局、最終的には“聖女への神託を通じて人間達
への注意喚起を呼び掛ける”と言う事でその件は終わりとなった。
ただ教会側は神からの注意喚起があったと云うことで、デーモンとデモネス、それにインキュバスとサキュバスを徹底的に排除しようと世間に働きかけ、結果彼等は人間達から蛇蝎の如く嫌われるようになってしまった。
……よく話し合えば、本当はそんなに悪い子達じゃないんだけどね。
ブクマありがとうございます。
また、本編で新たな役者が揃い次第、番外編やります!




