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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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引き継ぎ業務

 パンパンと被せた土を叩くシアンに、グレイが不思議そうに尋ねる。


「手紙、なんて書いてあったの? 誰からか分かった?」

「あぁ、分かった。内容については今晩にでも叔父さん達を集めて相談した後、追って話すよ」

「……ガラム……? ふん、まぁいいけど? 別に興味ないし私はただ仕事をこなすだけよ」


 そう言ってそっぽを向いて髪を払うグレイに、シアンは笑う。


「グレイは相変わらずクールだな。もうちょい趣味とか持っていいんだぞ?」


 グレイはそんな笑顔のシアンをじっと見据えたあと、また鼻を鳴らした。


「余計なお世話よ。趣味ならちゃんとある。―――でもシアン様には絶対に教えない」


 その時グレイは少し顔を赤らめてそう言い放ったのだが、俯いていた為、それをシアンに気付かれることはなかった。


「まあまあ、そんな膨れるなよ。そのうち手紙の内容だってちゃんと教えるから」

「っ膨れてない!」


 ……このなんともいじましい“ツンデレ仕様”はグレイの売りの一つであるのだが、鈍感なシアンが気付くには少しハードルが高過ぎたようだった。


 そしてシアンは暫くグレイから放たれる、猫パンチのような攻撃を躱していた後、少し神妙な顔でグレイに言った。


「……来年の春、イヴ達をノルマン学園に入学させる事になるだろう。グレイもそろそろ()()を固め始めておいてくれ」

「!」


 シアンの言葉に、一瞬グレイは驚いた様に目を見開き、それからニンマリと笑ってコクリと頷いた。

 そして腕を組み、目視出来そうな程の気合いオーラを立ち昇らせながら言う。


「あの程度の()()()()なら余裕よ。必ずシアン様の受け持つ特別クラス枠に()()()

「い、いや。寧ろあんま気合入れすぎるなよ。……程々にな。程々に」


 シアンはグレイがかつて無い程受験に燃える様に、思わず後退ったのだった。




 ◇◇◇




 あれからグレイは、ミアにもその事を知らせてくると上機嫌で帰っていった。

 そしてその後シアンはクロと合流し、ベーコンを仕上げてそのまま昼食を取り【ハウス】へと戻ってきた。

 しかし二人が向かった先は5階の我が家ではなく、ロロノアの住む6階の【ハウス】だった。


 シアンが扉をノックしながら声を掛ける。


「おーい、ロロー居るかー?」

「はい! おります、少々お待ちをっ」


 扉の向こうから、相変わらず新人の気配が抜けないロロの声が上がり、間もなく扉は開かれた。


「シアン教授にクロ君! こんにちわ」

「こんにちわ」

「すまんな、急に訪ねて。ちょっと頼みたい事があってさ」


 クロが少し控えめに、そしてシアンが頭を掻きながら挨拶したちょうどその時、ロロノアの後ろから弾む声が上がった。


「あー! チョー良い臭いすると思ったら、シアンパイセンじゃねっすか! チィーす!!」


 出てきたのはソフトモヒカンヘアをしたお洒落な若者。ロロノアの後輩に当たる、研究員のジェムだった。


「よぅジェ……」

「なんの匂いすか? 燻製? 燻製!? まじチョーやりぃ! ゴチっす!! 昇進の近道だからってこんな辺境に来たッスけどメシマズでもう! シアンパイセンの飯だけが俺の心の支えっすわ!!」


 とても嬉しそうにそうまくし立てるジェムに、ロロノアの堪忍袋の尾はあっさりと切れた。

 ロロノアは慣れた手付きでジェムのソフトモヒカンを鷲掴むと、怒声を上げた。


「話を聞けっ! あとパイセンじゃない。教授を付けなさいっ! も、申し訳ありません、シアン教授! 僕の教育不足で失礼をばっっ!!」


 何も悪くないのに謝るロロノアをシアンはスルーし、じっとジェムを見つめると問うた。


「ジェ厶。【E=mc2】ってなんだ?」

「ん? 相対性理論の有名な式すよね? それが何スか?」

「だからっ、シアン教授にその口調はやめなさいって!!」


 キョトンと首を傾げるジェムに、ロロノアはまた睨みながら注意する。

 だがシアンはとても優しげな視線をジェムに贈りながら、ロロノアを止めた。


「や、いいんだロロ。その口調、髪型、その性格で普通に賢いとか、オレにとって癒やし以外の何物でもないんだ。そう目くじらを立てないでやってくれ」

「えぇ……シアン教授の癒やしポイントが謎すぎるんですが……」

「つーかシアンパイセン、マジで俺のこと好きすぎません? んなフォロー初めて受けたスわー」


 シアンは「いーんだいーんだ」とにこやかに微笑みながら、乱れたジェムのソフトモヒカンを直してやった。

 そしてお裾分けのベーコンを渡したところで、ロロノアが溜息を吐きながら話を本題に戻す。


「―――それで、シアン教授。頼みたい事ってなんでしょう?」

「うん。実はな、ちょっと有給休暇を取りたいと思って、引き継ぎを頼みたいんだ」

「……へ?」



 一瞬ロロノアの表情が固まった。

 そして室内でベーコンを抱え小躍りをしていたジェムも、再びこちらにやって来きて笑う。


「有給休暇? 何言ってんスかパイセン。いつも子供と遊び呆けて、これ以上どう休むっていうんスかー!」

「っこの馬鹿。シアン教授はぶっちゃけ仕事しなくても給料を貰える【特別枠教授】なのに、皆勤賞な上かつて有給申請を出した事の無い非の打ち所のない真面目な方なんです。人類の進歩を100年は早めたと言われる研究結果をいくつも出されているし、自分達とは比べる事すらおこがましい真の天才なのですよ!」


 ロロノアは苛立たしげにジェムを睨んだ。そして少し不安げにシアンに尋ねる。  


「……それで、どのくらいの期間休まれるご予定で?」


 シアンは少し申し訳なさげに、だけどはっきりと言った。


「うん。一年くらい」

「長ぁっ!?」

「はぁ!? その間俺の飯どうするンスか!!」

「自炊しろ」


 ロロノアとジェムは、各々に絶望の表情を浮かべてシアンを食い入るように見つめた。


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― 新着の感想 ―
[一言] どんな人達がやってくるのか…とても楽しみですね!
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