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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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閑話 日常集のSS(ショートストーリー)集

 この閑話は端折ったSSのまとめで、喫茶店は関係ありません。(`・ω・´)ゞ





■■■ くじ引き ◇シアン視点◇ ■■■



 秋も深まり、色付いた木々の葉も残すところ僅かとなった今日この頃。

 今日も【ハウス】では、穏やかな時間が流れていた。


 朝のひと仕事を終えたオレは、学園都市ノルマンへ提出する為の資料づくりに勤しんでいた。

 大部屋の片隅ではジルとロロノアがクロの図鑑を熱心に読み耽り、その前でイヴとクロが、キャンディーの包み紙に何かを熱心に書き込んでいる。

 最近文字を覚え始め、文字や絵を書くことにハマっているのだ。


 書類がバラけないよう紐でまとめ終えたオレは、さっき迄子供たちに本(図鑑)を読んでやってくれていたジルとロロノアにコーヒーを淹れてやった。


「あ、ありがとうございます教授!」

「すまんなシアン」

「いやいや、イヴとクロが遊んでもらって喜んでるし。飴までもらってサンキューな。昨日採ってきた栗でこれからガレットを焼くんだ。折角だから食ってけよ」

「相変わらずマメな奴だな」

「いただきます!」


 オレは頷きサイドテーブルにコーヒーを置くと、イヴとクロのうずくまって作業する小さな机のそばにしゃがみ込み尋ねる。


「何を作ってるんだ?」


 するとイヴは顔を上げることなく答えた。


「くじ引きだよ」

「へぇ?」

「おれはねぇ、イヴが書きやすいように、紙のシワを伸ばすかかりなの」

「そうなんだ」


 クロは小さな紙切れを頑張って伸ばそうとしてる割に、あんまり伸びないその不毛な作業を微笑ましく見守っていると、イヴが真剣な顔のまま紙切れを睨みながらオレに言う。


「私、文字書けるようになったの。だからねぇ、嬉しい言葉をかくの。シアンも後でくじ引きしていいよ」


 嬉しい言葉? よく分からないが、オレは頷いた。


「そりゃ楽しみだ。ありがとな」

「ハズレはね、なんにも書いてないの」

「そうなんだ」

「大当たりの人にはねぇ【だいすき】って書いてるの」



 ―――!?    なにそれ、超当たりたい!



 オレが絶対それ欲しいと思いながら、イヴの手元の紙のシワ一つ見落とさないよう凝視していると、イヴがふと顔を上げてクロに言った。


「でも外れた人が可哀想だから、やっぱりクロなにか描いて」

「いいよ」

「あと、シアン見ちゃだめ」

「……はい」


 オレはすごすごと引き下がった。




 


 やがて、イヴとクロが立ち上がり歓声を上げた。


「できた! くじ引き屋さんですよぉー!」

「わあー、楽しそうですねぇ! お客さんに引いてもらいましょう!」


 ……なんだろう。クロはサクラ役かな?

 オレが焼き上がったガレットを皿に並べながら、ニコニコとその様子を見ていると、二人はオレに背を向け駆け出した。


「ロロノアお客さん、引いてくださいー!」


 ってかそっちから先に行くのか!! 絶対オレの大当たりは引くなよ、ロロノアァ!


 オレが緊張の面持ちでそちらを見つめていると、ロロノアはイヴの手の中から、クシャクシャに折られた紙の一枚を抜き取った。


「どれどれ……。わぁ! 耳の短いうさぎさんですね」

「違うよ、ロロノアさん。ねこちゃんだよっ!」


 すかさず抗議の声を上げるクロ。

 中はどうやら、クロによって描かれたものだったようだ。

 ホッとオレが胸をなでおろすのも束の間、イヴは隣のジルにくじ引きを差し出している。

 ハラハラとオレがその光景を見つめる中、ジルはヒョイと紙片を取り上げ、眉をしかめた。


「俺のは……何だこりゃ。スライムか?」

「あ、それは宇宙だよ」


 またもや、クロが答えた。どうやら今回もクロが描いたものらしい。

 ジルはじっと紙片を見つめながら、感心したように言う。


「……。凄いな。宇宙ってこんなんなんだ……知らなかったぜ。どうりでコスモを感じたはずだ……」

「でもスライムでもいいよ」

「いいのかよ!?」


 クロとジルがそんなやり取りを交わしている内に、とうとうイヴがこちらにやって来て、掬うように両手に持った紙片をオレに差し出してきた。


「次シアンだよ。私が書いたやつを引いてね!」

「……うん」


 とはいえ紙片はまだ、イヴの手の中に6枚もある。

 ―――一体どれが……。



 オレは全神経を集中させ、一枚を引いた。


 そしてゆっくりとそれを開く。

 その時、オレを覗き込んでいたイヴが嬉しそうな声を上げた。


「あ、シアン大あたりー!」


 オレは目を見開き、その紙をじっと食い入る様に見つめる。






 【 だ  い  す  け 】





 ……誰よそれ。





「よかったね!」

「はは、ありがとう……や、やったぁー……」



 オレは、満面の笑みを浮かべるイヴを撫でながら言った。



「随分字が上手になったなぁ。うん。もうあと一息だな」






■■■ イヴの誕生日 ◇イヴ視点◇ ■■■


 今日は私の5歳誕生日だ。

 ガラム叔父さんや、アスモディーさん達みんなから宝石の様なグミやチョコ、砂糖漬けのフルーツを貰って、シアンは私の大好きな唐揚げを山盛りに作ってくれている。


 そんな中、たった一人異質な贈り物をくれた人がいた。


「イヴちゃん、お誕生日おめでとう。前に野菜が好きだと言ってたね。シアンに調理して貰うといい」


 そう言って、木箱いっぱいのお野菜をくれたのは薬局のおじさんだ。


「―――……うん。ありがと……」


 私がそう言うと、薬局のおじさんはシアンとヒソヒソと話しだした。


『……あれ? 反応が薄いな。前に本人から“野菜”が好きだと聞いたんだけど?』

『……はっはっは、そんなの“素敵なお姉さん”に見せるための背伸びに決まってるだろ。“野菜好きなんだねぇ、偉いねぇ”と褒めつつ、一粒のチョコボールを渡すのが正解だ』

『……マジか』


 ……そうだ。ハウスの人達にお野菜をおそす分けすればいいんだ!


 私が名案を思いついていると、クロがやってきた。


「わぁ! お野菜がいっぱいだね。あ、イヴの苦手なカボチャもある」


 私は慌ててクロの口を抑えた。


「しっ、だめだよ!薬局のおじさんがくれたんだから!」

「え! あ、ごめんね。―――薬局のおじさん、贈り物とか苦手だものね。前にジルさんに何か渡して怒らせたって話、知ってる?」

「知ってるよ。クロの誕生日も良くわからないものだったしね。友達作るのが苦手なんだから仕方ないよ」


 私はクロとそう打ち合わせをして、薬局のおじさんにもう一度大きな声でお礼を言った。



「ありがとう薬局のおじさん! とっても嬉しいです」



 するとシアンが大笑いをしながら、私の頭を撫でてくれた。


「どうだ? いい子達だろ!」

「逆に辛いよ」


 ……薬局のおじさんは、やはり何処か寂しげだった。





■■■ 聖域の奥で ◇アインス視点◇ ■■■



「……ところでマスター、一ついいかな? シアンがね……」

「まだ言いますか。ホントに一分保ちませんね」


 静かな聖域の中で、俺はいつものように気にせずマスターに声を掛ける。


「うん。あのねマスター。さっきシアンがね、また俺には【ペンダント】を配給してくれなかったんだ。フィルなんてクリス経由でちゃんと貰ってるのに。皆にペンダントで相談すると言った時、さり気なくアピールもしてみたんだけど……―――やっぱりくれなかったんだ。どうしたら貰えると思う?」


 俺は悩みを打ち明けた。【賢者】であるマスターのアドバイスを聞いてみたかったのだ。


 マスターはふむと頷くと、逆に尋ね返してきた。


「そうですか。しかし仮に貰ったとして【ただの樹】に何が書き込めるのでしょう?」

「……書き込めないね。ただの樹だもの」

「なら配給は不要ですよね? なにか問題でも?」


 問題だって? そんなの……



「……っないね。―――……何一つ無いね」



 マスターは頷くと、俺の根本の扉に向かってまた歩き出した。

 俺はしょんぼりと枝を項垂れさせて、切なげにその背中に声をかける。


「……マスター……もしかして俺のこと嫌い?」

「もし“嫌い”と答えれば、どうなりますか?」


 また逆に尋ね返され、俺は即答した。


「それはもう……勿論落葉するだろうね。バッサリと」

「なら好きです」


 間髪入れず答えてくれたマスターは、白けた目で俺を睨んでいる。

 今この時、もし俺に芽ではなく目があったなら、間違いなく涙目になっていたことだろう。

 まぁ現実問題涙目にはなれないが、それでも俺は震えながら、絞り出すように言葉を紡いだ。


「……何だろうね? 『脅されたから言わされた』感が半端無いんだけど」

「事実、そうでしょう」


 頷くマスター。その視線は、相変わらず冷たい。


 ってか、脅してないのに!

 俺はもはや我慢出来ずに呟く。


「もう……落葉していい?」

「っ駄目に決まってるでしょう!? 一体何なんですか、あなたはっ!!」


 俺の言葉にマスターは激怒を顕に怒鳴ると、ズカズカと足を踏み鳴らして歩き、扉の中へと消えて行った。



 俺は落葉してしまわないようにと枝を打ち震わせながら、ポツリ呟いた。








「―――今日も良いツンデレを、ありがとうございました……」



 この世界は、今日も優しさに満ち溢れている。






■■■ イドラ ◇クロ視点◇ ■■■


 おれは雪の森を歩いていた。

 右腕にはポヨンとした弾力のキールを抱え、左手は父ちゃんの手を繋いでいる。


 じっと父ちゃんを見上げれば、父ちゃんは笑っていた。

 いつも笑ってはいたけど、最近は少し疲れたような、そんな心ここにあらずな笑顔だった。


 だけど今は、まるで鼻歌でも歌い出しそうな……。


 ふと、父ちゃんがおれの視線に気付いてこっちを向いた。

 そして少し神妙な顔でおれに言う。


「なぁクロ、始めに言っとくぞ。―――さっきはああ言ったが、キールだって本当は成長したいと思う。強くなって自分でなにかしたいと思うのは当たり前の事だ」


 おれは頷いた。

 さっきは確かに二言返事で頷いてしまったけど、確かにそうだ。

 おれだって強くなりたいし、大きくなりたい。何でも一人出来るようになりたい。

 今朝はあんなに嫌ってると思ってたのに、父ちゃんは今、おれ以上にキールのことを考えてくれてる。…少し驚いた。


 父ちゃんは申し訳なさそうにキールを見る。


「だけどこっちの都合で、そうさせないようその自由を奪った。そう、法を定めたんだ」

「……可哀想なことをしてるね」


 おれも頷き、キールを抱える腕に力を込めた。

 すると父ちゃんも、おれと繋ぐ手に力を込めて言った。


「うん。だからさその分大切にしてあげような。キールのできない事は、代わりにオレ達で手伝ってあげるんだ」

「うん! おれキールを大事にするよ」


 おれも強く握り返しながらそう言うと、父ちゃんはまた笑った。

 おれはふと、さっきから感じていた違和感に気付き、父ちゃんに聞いた。


「そういえば父ちゃん。もうキールを【イドラ】って呼ばないんだね?」

「ん? ああ」


 そうだよ。今朝は父ちゃん、絶対にキールを名前で呼ぼうとしなかったんだ。

 父ちゃんは困った様に笑いながら、頷いた。


「先入観は取り払われ、幻は消えた。―――つまり、お前はキール以外の何者でもないって事だ。な! キール!」

「キヒッ!」


 キールは促されるように嬉しそうに声を上げたが、キールは元より、この時のおれに、父ちゃんの言った言葉の意味はよく分かっていなかった。


 父ちゃんが言ったその意味を、おれがきちんと理解する事ができたのは、おれがもっと大きくなってからの事だった。



次回から本編に戻ります。


8歳位まで飛びます!

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