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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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新しい仲間

 《イヴ視点》


『ここからは自分で帰れるでしゅね』


 フィルはそう言うと、私達を元の湖畔に降ろした。

 私達はフィルに連れられ様々なところに行ってきたが、その間私はフィルを触ることは結局出来なかった。


「大丈夫。ありがとうフィル、また遊ぼうね」

『いーでしゅよ。また次の冬でしゅね』

「虫のいない季節だね!」

『でしゅ!』


 フィルはそう答えるともう振り返る事なく、雪の空へと消えていった。


 空を見上げながらポツリとクロが呟く。


「お空が曇ってて、何時くらいか分からないね」

「うん」


 ―――シアン怒ってるかな? ……早く帰りたい。


 そう思っても、それが言葉になって出てくる事はなかった。

 だって怒ってたらどうしよう? なんて言ったか覚えてないけど、酷い事を言った気がする。だから私は帰ってこなくていいって言われたら……。



 帰りたい。だけど帰るのが怖い。



 何も言えず縋る様に雪のチラつく曇天を見つめていると、ふと温かいものが手に触れた。―――クロの手だった。


 見ればクロは片腕でキールを抱えながら、私の手を握って笑っている。


「帰ろうイヴ。父ちゃん待ってるよ」


 クロは呑気だ。


「……待ってないかも。怒ってたよ?」

「じゃあ帰って確かめよう? 怒ってたらおれ謝るね」

「でもまたキールを追い出されそうになったら?」

「追い出さないでってお願いする」

「……」


 クロがすぐにそう答えたことに、私は感心した。

 ……クロは意外としっかりしているかもしれない。とはいえ、私の方がしっかり者のお姉さんなのだけど。

 私は小さな声でクロに尋ねた。


「……クロが謝るなら、私も一緒に謝っていい?」

「いいよ!」


 やはりクロは即答した。

 私は頷いてクロの手を握り返すと、その手を引っ張った。


「じゃあ帰ろう! 帰り道にまたおばけや魔物が出たら、私がやっつけてあげるね」

「うん、ありがとうイヴ!」


 何故か私もありがとうと言いたくなったけど、何がありがとうなのかよく分からず、代わりにクロの手を牽いて走り出した。




 ◆◆◆




 私とクロが【ハウス】へと向かって半分ほど進んだ頃、突然上空から背筋の粟立つような気配がした。

 ……さっき森で戦った魔物達より、一線を画した強さを感じる。


 私は咄嗟に進路の方向を変え、クロに注意を促した。


「クロ、こっちだよ! 上から何かが追って来たっ!!」


 方向転換をした直後、私達がさっき迄進んでいた進路の直線上に、凄い勢いで何かが降りてきた。



 ―――アレは強い。でも絶対クロを守らなきゃ……。



 振り返って確認する事すらせず、私達は走って必死に逃げる。

 何としてでも【ハウス】に帰り着かなきゃ。



 そしてまたシアンに……―――。




「待ってくれ!」




 ―――逃げようとしていた私達の背後から、ふと聞き慣れた声が響いた。


 私はピタリと足を止め、そのまま身体を硬直させた。

 クロは若干つんのめり気味に急停止をすると、ハッとしたように後ろを振り返る。


 私も恐る恐るチラリと振り返れば、白い息を吐きながら黒麒麟のルドルフが佇んでいて、そしてその背には……。



「……父ちゃん?」



 驚いたようにクロが声を上げた途端、シアンはルドルフの背から飛び降り、こっちに向かって駆けてくる。

 シアンは隙だらけに雪を蹴って、一生懸命叫びながら走ってくる。



「待ってくれ! 謝りたいんだ! クロに……クロの友達に酷いことを言った事っ、キールにもだ!」



 ちょっと待って。シアンが現れるのが急すぎる。まだ何も考えてない。なんて言えばいい? ごめんなさい? 会いたかった? 帰りたい? ―――嫌いにならないで……。


 何も言えないままただ立ちすくんでいると、シアンはあっという間に私達のすぐそばに来た。

 そして、目線の高さを私達に合わせるようにしゃがみこむ。


「イヴもごめん。オレがクロとキールに怒鳴った時、止めようとしてくれたんだよな。オレが間違ってるって、教えてくれようとしたんだな。なのに怒鳴ってごめん。―――イヴはホントに強くて、優しいお姉さんだった」

「―――……っ」



 もう、勝手に体が動いていた。


 私は振り向きざまにジャンプすると、シアンの肩に抱きつく。

 シアンはそんな私を突き放したりせず、いつもの様に腕で抱き止めてくれた。ホッとして、その肩に顔を埋めながらコクコクと頷きながら、小さな声で謝る。


「転けさせてゴメンなさい」

「いいよ。おかげで目が醒めた」


 シアンはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれる。


 暫く頭を撫でて貰っていると、クロが少し緊張した声でシアンに言った。


「……父ちゃん。あのね、キールを追い出さないで欲しいんだ。おれ、ちゃんと面倒見るし世話もするよ。だから……」

「うん。一緒に帰ろう。キールも一緒にだ」

「え……」


 穏やかな声で頷いたシアンに、クロは不意を突かれたような声を上げた。

 困惑するクロに、シアンは今度は少しキツイ口調で言う。


「だけどクロ、キールと一緒に居る為には条件がある。キールを成長させない事だ」

「成長させない?」

「そう。今朝言ったように、キールは危険な力を秘めてる。それは成長すれば、この世界の全てを食い尽くしてしまう力だ。ハッキリ言って、クロが面倒見切れる代物じゃない」


 クロは緊張したように、キールをキュッと抱きしめた。

 そんなクロにシアンはすっと手を延ばすと、その肩に手を乗せる。そして、にっと笑って言った。



「―――だから、オレ達も協力する。クロがキールとずっと居られるように、一緒に面倒を見るよ。キールがずっと一緒に要られるように、皆でキールを守ってやろう?」

「うんっ! 父ちゃん!!」


 クロはそう言うと、弾けたような笑顔を浮かべると、目に涙を浮かべながらシアンに飛びついた。

 悲しくも痛くもないのに泣いてしまうなんて、クロは本当に泣き虫だ。

 私は早く泣き止めばいいと思いながら、私の隣でシアンにくっつくクロの頭を撫でてあげた。




 ◇◇




 ―――それから少しして、私とクロはシアンと手を繋いで、雪の森をサクサク歩いていた。

 少し後ろには、ルドルフがゆっくりとした足取りで付いてきている。

 私とクロは歩きながら、今日あった事をシアンに話し続けていた。


「あんな数の魔物達見たことなかったよ! すっごく強くてね、でもねぇ、私負けなかったんだよ!」

「そ、そうなんだ。凄かったなぁ」

「本当に凄かったんだよ父ちゃん。イヴはとっても強かったんだ。……だけど不思議なんだよ。襲ってきたのは、もっと森の深層ににしかいない筈のS級の魔物達ばっかりでね。A級以下は逃げちゃったのか出て来なかったの。こんなことってあるのかな?」

「―――……あー……うん。ごめんな」


 どうしてシアンが謝るんだろう?

 クロはシアンのそんな不思議な相槌を気にする事なく、楽しそうに話し続ける。


「イヴも強かったんだけどね、フィルに連れて行ってもらった所も凄かったんだよ! 大きくなった時のルドルフより大きな、金色のねこちゃんがいたんだ」

「違うよ、クロ。あれは虎だよ! 私ね、レヴィアタンとお友達になったんだよ。追いかけっこして遊んだの。またシアンも一緒に、みんなで遊びに行こうねぇ!」

「……うん……」


 聞きに徹しているシアンに、ルドルフが後ろからポソポソと声をかける。


「……おい、金虎とレヴィアタンと言えば伝説の武神と鬼神の……」

「言うな……。何も言うな……ちょっともう、精神的に休もうぜ……」

「そうだな。ま、気にするほどでもなかったな……」


 どうやらシアンは、まだ少し疲れているようだ。

 シアンとルドルフの話が終わった頃、私はふと、クロの抱えるキールにちらりと目をやって尋ねる。



「キールは成長するとなんでも食べちゃうの? 湖も森もって言ってたけど、キールより大きい物を食べられるの?」

「ん? あぁ、言い伝えではそういう事になってる」

「どういう仕組みなの?」

「さぁ……神々の領域の存在だから、オレには分からないなぁ」

「それも偉い神様が創ったって事?」

「そうだぞ」


 シアンはたまに、この世界の神様の話をしてくれる。

 この世界には神様が直接創った神話時代の存在と、その子孫であるセカンド世代があるのだと言う。

 直接神様が手に掛けた者達は、人智の及ばない力が秘められているとか……。

 シアンは神様の事をとても尊い存在だと話してくれるけど、私にはよく分からない。

 私はポツリと言った。


「―――なんで神様は、そんな風にキールを創ったの? 危ないのにねぇ」

「……」

「……」


 一瞬、シアンとルドルフがじっと私を見つめた。


「どうかしたの? シアン、ルドルフ」

「……いや、なんでもねぇ」

「……うん。そうだな、何でそんな風に創っちゃったんだろうな……ホントにさ。意味わかんないよな……」


 一瞬、シアンとルドルフが私から目を反らせた。

 そして少し沈黙の後、シアンは思い出したように言う。


「あ、それよりまだご飯の準備ができてないんだ。何か食べたいものはあるか?」


 その言葉に、私とクロの言葉が被った。


「「お魚のパイ!」」

「おーけー、じゃあ取っておきの塩漬け使っちまうか」

「わぁーい!!」

「後ねぇ、コーンポタージュ!」


 それから私達は、繋いだ手を大きく振りながら【ハウス】に向かって歩いた。



 ◇◇



「ただいまぁー!」


 私達がそう言って帰った部屋は、朝出て行ったきりのままになっていた。

 椅子は倒され、朝食のお皿も出しっぱなしだ。

 シアンはそれを見て、困ったように笑う。


「はは、まずは片付けないとな」

「父ちゃん、おれも手伝うよ!」

「私も!」

「ありがとなぁ。ほんといい子達だなあ」


 シアンはそう言って、私とクロの頭をワシャワシャと撫でた。

 だけど私はふと【ハウス】の中に違和感を感じ、シアンの手から身を捻って抜け出す。

 空っぽの手を空中に留めたままのシアンが、ちょっと悲しそうに私を見て声を掛けてきた。


「どうしたイヴ」

「―――クロの部屋に何かいる」

「!?」


 そう。違和感はクロの寝室から。私はじっと閉ざされた扉を見つめた。

 見つめていると、しんとしていた扉の向こうからカリカリと控えめに扉を引っ掻く音が聞こえてくる。


「なんだろうねぇ?」


 そう尋ねながらシアンを見上げれば、シアンは何故か真っ青になって硬直していた。

 そして何かブツブツと呟いている。


「……ちょっと待って。完全に忘れてた。まだ何も考えてない。なんて言えばいい? こんにちわ? ようこそ? ―――いやいやいや……」


 扉の向こうからは相変わらずカリカリと音が響き、終いには扉に何かが飛びついたようなカツンカツンと爪の音と、元気な声が響いた。




「わんわん!」






ありがとうございます!

ディスピリア編というか、キール編というか、幼稚園さん編というか……兎も角その辺が今話で終わりになります。


次回軽く閑話を挟んで、8歳(小学生?)編が始まります!


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[一言] たまごさま!(わんわん) 生まれたんだね! おめでとう! 素晴らしい! 良かったね!
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