表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
435/582

世界樹の下で③

 


「―――って、なんでオレが怯えるんです!?」



 あまりに想定外だったその言葉に、オレは驚いて返す。

 口から出たその声は予想より大きく、静かな森に長々と木霊した。 


 だってなんだそれ? オレはイヴとクロを取り戻したい、それだけだ。焦りはすれど、怯えることなんてなにもない。


 だが世界樹様は、欠片の動揺もなく葉を揺らす。


『だって俺はシアンの決断を責めてはいない。責められてると思うのであれば、それは君の心にある“自分を裏切る何か”がそう思わせているんだろう。よく自分と向き合ってみて。そして、心のままに行動してみればいい。君は強いから、きっとどんな困難な事だって成し遂げられるよ」

「……オレは強くなんてありません」


 ―――ポツリと吐き捨てた自分の言葉に、オレの気持ちは更に沈んだ。

 そう。オレは強くはない。

 力で言えば中の下の下。オレより賢いやつだって、いくらでも知ってる。

 ただ、こんなオレでも仲間だけは裏切らないようにしようと、それだけは突っ張ってここまで来た。

 ……でも、それもここ迄……。


 だがそこでふと、世界樹様から『怯えている』と言われた理由に合点がいった。



 何も知らないイドラは、オレを信じて擦り寄ってきた。

 何も知らないオレは、イドラを撫でて歓迎した。

 そこで、オレとイドラとの間に【敵】としてじゃない“縁”が出来上がってしまったのだ。

 どうしようもなかった。オレは既にイドラに手を差し出してしまっていた。


 ―――だから、オレはイドラの人格を認めない事にした。昨晩の遣り取りを無かった事にしようと、知らないふりを決め込んだのだ。……過去は戻せない。だから、誤魔化そうとした。


 イドラ(仲間)に顔を背け、それを切り捨てる為だけに、今オレは動いている。イヴとクロが泣いたって、怒鳴って抑えこもうとした。




 ―――そうだ。世界樹様の言う通り、オレは怯えてる。自分の信念を曲げてる事に……。





 だがその先の思考を振り払うように、オレは頭を振った。

 そして自分に言い聞かせる。

 ……世界樹様の言葉は聴くな。オレ達と感覚が違うんだ。―――絆されてはいけない。


 オレは拳を握りしめ、上空を睨みあげた。


「……アインス様にはオレ達の事などきっと分からないでしょう。―――聞きましたよ。アインス様や神々は()()()()()()()を持つ存在なのだと。アインス様のその巨大さは神々によりマナを注がれたからであって本来は……そう、ただのリンゴの木と然程変わらない大きさだと、以前賢者から聞きました」

『梨かもしれないよ』

「どっちでもいいです」

『あ、うん。そうだね』

「……」


 ……いや、今なんで突然梨の話が出た? 何か拘るところだったのか?

 ―――この方の拘りは、オレには分からない……。


「たとえ世界が()()()()()()()()によって食い尽くされ、闇へと還されたとしても、アインス様は【始まりの砂】と共に残るんでしょう。そしてオレ達のいない、また“違う世界”を創り直される。そしてそれを愛し始められるんだ。―――……ですがね、オレにとって大切なのは“この世界”なんです。アインス様のように“次の世界”など無いんですよ!!」


 世界樹様は何時だってご自身の事より、オレ達に意識を向けてくださってる。

 だけど、多分本当に世界が終わってしまった時、同情すべき相手がいなくなった時、世界樹様は悲しむ事なく、静かに枝を揺らし続けるんだろう。



 今のように。




『―――そうだね。その通りだね』



 それが、オレには理解できない。受け入れられない。


 オレは声を荒げてしまった事に気まずさを感じ、俯いてポツリと言った。



「……イドラにも、確かに心や権利がある。そして出来る事ならその権利を守ってやりたいとも思いました。なのに実際は守れない。それどころか全力で裏切ってる。そんな自分に怯えてると仰りたいんですね。―――でも、それらを理解した上で、やはり無理なんです。あれを認めると言う事は、今の世界の終わりと同義ですから。アインス様とオレ達では感覚が違う。物事を見る目線が完全に違うんです」


 いつの間にか、世界樹様の葉の揺らぎは止まっていた。

 静寂の中で、オレの情けない声だけがよく響く。


「だから……オレは……ここで賢者を待ちます。フィルから子供達を取り返す方法を教授してもらい、あれを隔離する為のコアを貰い、解除の時まで入れておく。この件はそれで終わりです。アインス様の助言はいりません」



 オレがそう言って肩を落とし溜息を吐くと、少しの間が空いたあと、世界樹様は深く頷くように仰った。



『そうかい。―――本当に……どうして今この場にマスターがいないんだろうとオレも思うよ。感覚は違えど、思いは同じだね』



 世界樹様はポツリとそれだけ言うと、しんと押し黙られてしまった。……いや、オレが突き放したんだ。

 世界樹様は何もしていない。……なのにオレが感情的に一方的に線引きをして、暗に“もう話しかけて欲しくない”と態度で示し、壁を作ってしまった。


 ……だから黙られた。

 こんなオレに、もう声をかける意味もないと呆れられて……。



『―――…………』

「……」




『―――でも一つ弁明させてらっていいかなシアン』

「……」



 ……って掛けてくるんかいぃ!!



 頭を抱えたくなった。

 ……てかそうだよ。今更だけどこの方は深淵(アビス)をも愛しいと言ってしまう方なんだ。

 オレ如きが何を言おうが、その芯を揺るがす筈はないんだ……。


 オレは俯いた顔をあげ、遠くに視線を向けた。


 ―――もうなんか何でもいいや。

 そうだ、オレは聞きに徹しよう。なんかもう、疲れた……。

 さっき迄イキってた自分を思い返しても、只々虚しさだけしか感じない。


「弁明も何も……いえ、いいです。どうぞお話ください。ご自由に何でも」

『ありがとう。君は本当に優しいね』

「いえ、そんなこと欠片もないんで」

『しかも謙虚だ!』


 そう、こういう御方なんだよ。

 なんかいっぱいいっぱいで忘れてた……。


 それから世界樹様は嬉々として話し始めた。


『―――確かに俺はね、無限の虚無を抜けることのできる頑丈さを持ってる。だけど“この世界が滅んでいい”なんて欠片も思わないよ。もしこの世界が終わりを迎えようとした時、そうならないように俺に出来ることがあるのなら、なんだって言ってくれて構わない。それこそオレが身代わりになれるものなら、喜んでなるだろう。俺に出来る事なら何だってしてあげるよ。……とはいえ、ただの樹の俺に出来ることなんて、たかが知れてるけどね』


 最早突っ込む気力もない。


「……へえ、何だって出来そうですけどね」


 オレの適当な相槌に、世界樹様は気合を顕に聖葉を高く鳴らせた。


『見誤らないで頂こうか。俺は枝を揺らし、林檎を実らせ、たまに花を咲かせて種を残し、落葉する事しか出来ない。どうだい? 至って唯の樹だろう!』

「……」



 ……。



 あれ? 嘘だろ? 言われてみれば、本当に唯の樹だ。

 ―――いや待てよ。騙されるな、そんな筈ない。

 だってアビスの時は…………たった一枚の葉を落葉しただけで……。いやでもラタトスクの時は……実を……あれ? 戦争の時だって最後に実を実らせただけで……ハデスの時は種を…………



『ね?』



 優しく、促される様に尋ねられれば、何かがおかしいと思いつつも思わず頷いてしまう。


「え? ええ……、確かにただの樹……―――いや、そんなわけ無いでしょう!?」


 いや、自分をしっかり持て! 流されるなっ!


『ソンナワケナクナクナクナイヨー』

「……」


 思わず気合を込めたツッコミに、まるでオウムの様な片言で返され、オレの“もう何でもいいや”という気分に拍車がかかった。



「……そうですか」



 オレはまた遠い所に視線を戻し、じっと彼方を見つめながら頷いた。

 世界樹様はオレが上手くごまかされたと思ったのか、ほくほくと嬉しそうに話しを続けられる。


『あぁ、そうだ。もう一つ俺にも出来る事があったね。それは君達を見て、覚えておく事だ。みんなが忘れてしまった事だって、俺は全部覚えているんだよ』


 そう。確かにこの方の記憶力は信じられないくらい良い。

 だけどもうオレは何も突っ込まん。……突っ込まんぞ!

 どうせ突っ込んでも“年輪的なものダヨー”とか言われるだけなんだから。


 オレは最早突っ込むまいと固く心に誓い、機械的に相槌だけを打った。


「そうですか」

『うん。例えば、フィルがまだ幸運の竜になる前に、今のシアンと同じ苦悩を抱えていた……とかね』

「そうで…………え?」



 ちょっと待って。

 今、世界樹様、サラッととんでもない事言わなかったか?


 オレが思わず上を見上げる中、世界樹様は懐かしそうに話し続けている。


『あの頃の彼も、それはもう泣きながら悩んでいたよ。シアンのように心を開いて話せる仲間もいなかったし、寝不足になりながら……』


 オレは思わず声を上げた。何なんだそのツッコミどころしかない話は!?


「え、ちょっと待ってください! まず“幸運の竜になる前”って……【幸運の竜】って成れるモンなんですか!?」

『シアンには無理だろうね。そして今となっては、誰にも無理だと思う』


 言い回し方に疑問は残るが、まぁ無理って事だ。


「じゃあ、フィルが同じ苦悩を抱えてたってどう言う事ですか?」

『うーん……それを詳しく話す事は二柱に禁止されている事項なんだけど……話していいかい?』

「っいえ!!」



 ……寒気がした。

 この方は愛しさが故、どんな罪だって犯す。

 例えそれが神々に定められた禁忌だったとしても、平気で破り、そのトバッチリが全てこっちに降りかかるのだっ!!


「禁止事項に抵触しない位、分厚いオブラートに包んで頂ければ幸いです! 何なら話してくれなくても構いませんのでっ!!」


 オレは即答した。


『分かった。じゃあ掻い摘んでね。―――フィルは幼い頃にね、キールと同じ様な檻に閉じ込められた【マイナスに片寄った存在】に出会ったんだ。だけど当時の彼はそんな仔だとは知らず、寂しそうなその存在に“友達になろう”と言ってしまったそうなんだ』


 ……マイナスに片寄った存在? 何者だろう?

 思わず詮索したくなるが、オレは頭を振って世界樹様の話に集中した。


『その仔は歓喜したそうだよ。そして“檻から出して欲しい。一緒に遊ぼう”そう言ってきた。だけどその仔の正体に気づいた彼は、その仔を檻から出すわけにはいかないと思った』


 オレは思わず身を乗り出して尋ねた。


「それで、どうしたんですか?」

『彼がね、檻の中に入ったんだ。世界を旅していろんなものを見て、聞いて、それらの全てを檻の中に再現してみせた。何も無かった荒野の様な檻の中には、いつしか様々なものが溢れ始めた。―――色付いた檻の中で、彼はその仔と一緒に笑って、それらを“壊しちゃいけない”と根気強く教え始めたんだよ』



 その悲観のない楽しげな選択に、オレは目から鱗が落ちた気分に襲われた。



「……教える?」

『そう。教えられ、学べば、誰だって成長する。この世界だって、そうして随分形を変えてきたんだよ』

「でも教えろって……どうやって? イドラに食うなと言うなんて、人間に『眠るな』と言うような物です。不可能ですよ」


 “聞きに徹しよう”と思っていたこと等キレイさっぱり忘れ、オレは口を尖らせ世界樹様に意見した。


『そうだね。自分に経験のない事を教えるなんて無理だもの。事実、フィルは未だにその仔に手を焼いているようだし』


 クスクスと優しげに笑う世界樹様だが、その内容は案外とんでもない。

 だが目から鱗の落ちたオレはの頭は柔軟になり、様々な可能性の模索を始めていた。

 そしてふと、世界樹様の紡がれる言葉に含まれる、一つの可能性を示唆する意味に気付いた。





「未経験のオレには無理でも……―――“飢餓”を克服したクロなら、イドラに教えられると?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ