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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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世界樹の下で①

 オレが肩を落とした時、ふと一際高く聖葉のざわめく音が鳴り響いた。

 オレは上を見上げて、世界樹様に声を掛けた。


「ご無沙汰しておりますアインス様。すみませんがアイツが戻ってくるまで、少しここで待たせて貰っても宜しいですか?」


 すると葉音の響きに混じって、不思議な声が降りてきた。


『勿論。でも待たなくても、マスターの居場所くらいなら俺は分かるよ。転移装置(ゲート)の向こうは流石に無理だけど』


 優しいその声にオレは思わず微笑み、頷きながら答えた。


「そうですね、しかし遠慮させて頂きます」

『……』

「……」


 流れる沈黙。


 ……オレ、なんか変なこと言ったか? 続く沈黙に少し不安になってきた時、また世界樹様の消え入りそうな声が聞こえた。


『……シアンは……俺のことが嫌いなのかな?』

「っ何でですか!?」


 意味が分からないっ!

 世界樹様はたまに、オレ達の想像の及ばない思考をされる。

 オレが慌てて上を見上げれば、世界樹様はそよそよと葉を揺らしながら、胸が苦しくなるような寂しげな声でブツブツと理由を話しだした。


『だってこんな俺にも出来そうなことがあるのに、君は頼ってくれない。……以前に似たようなことがあった時、俺は“きっと皆は俺の特技を忘れているんだろう”と思ったものだ。……だけど本当は分かった上で……いやいいんだ。気にしないで。はは、ただの樹が一体何を思い上がっていたんだろうね。―――そう。俺に出来る事と言えば、そよぐ風に葉を揺らせるだけ……』


 ……因みに“以前”とは、おそらく6500年以上前の話だ。

 世界樹様はそれをまるで数日前の出来事の様に、当たり前に話される。感覚が違うのだろう。根本的な話が合わない。


 ……と言うかどうしたんだ? 今日の世界樹様はまるで“面倒臭い構ってちゃん”だ。


 オレは肩を竦めて、自分の考えを世界樹様に話した。


「違いますよ。これはオレなりのケジメです」

『ケジメ?』

「はい。……神々は例の戦争以降、この聖域を除いた世界を人々に与えられた。レイルはなんだかんだ言ってこちら側ですが、聖域の主であるアインス様に、こちら側……オレ達の厄介事を持ち込むのはルール違反でしょう」


 オレが肩を落としながらそう言うと、世界樹様は暫く何かを考えるように沈黙し、やがてポツリと言った。


『気にしなくて良いのに』

「気にしますよっ!」 


 気にしない筈がないっ!! 本当にこの方は……もぉっ!!


 思わず声を荒げてしまったが、気を取り直してまた断りを入れた。


「―――それに昔、オレはアインス様へ『二度とリンゴを与えないように』……こちらに干渉しないようにとお願いをしました。それを今更、こっちの都合のいい時だけ干渉してくれなんて言えないですから」

『……君にそんなお願いされたっけ?』

「……」


 すっとぼけてくる世界樹様を、オレはじとりと見る。

 すると世界樹様は直ぐに折れて、枝を揺らしながらまた声を響かせた。


『ごめんごめん、確かに昔そう言われたね。だけど俺はその約束を破る事を前提に約束した筈だ。実際破っているし。だから気にしなくていいよ』

「……。いえ、気にします」


 そう。この優しさはトラップだ。

 ここで頷けば神々の好意然り、後にとんでもない事になるのは、過去の歴史の中で実証済みだった。

 だからオレは首を横に振ってキッパリと断った。


「確かに現状緊急事態ではありますが、アインス様には頼るつもりがありません。ここでアイツを待たせてもらいます」


 世界樹様は『そう』とだけ優しく答えると、また枝を揺らし始めた。


 そして少しの沈黙の後、世界樹様が何故か少しおどおどとした口調でポツリと言った。


『だけどシアン。もしかしたらマスターは……君の思う程“すぐ”には戻らないかもしれない』

「え? “世界樹の守人”を言い使ってるのに? 何やってんだあいつは」


 オレが腕を組んで眉間にシワを寄せると、世界樹様は慌ててレイルのフォローをしてきた。


『あ、でもマスターを責めないであげて。悪いのは俺……いや、俺達(?)なんだよ。少し怒らせてしまってね。“もう一秒たりともここには居たくない”と叫んで飛び出して行ってしまったから……』

「……怒らせた? アインス様が?」




『―――……うん。つい、愛しさのあまり駄目だと思いつつ、優しくしすぎてしまって……』

「……」


 ……なる程。オレは全てを理解した。


 世界樹様はお優しい。

 この世界の者達全てに、分け隔てなく愛情を注いでくださる。だがその優しさも過ぎれば、時に残酷にオレ達の闇を抉ってくる事があるのだ。


 ……そう。あれはかつてオレがバンド活動をした時の事。

 世界樹様はオレ達の奏でた歌を絶賛され『自分が在り続ける限り、その歌を記憶しておこう』と言われたのだ。

 まぁ当然、オレは膝から崩れ落ちた。

 しかも世界樹様は膝を突くオレに、更に『自分も口ずさんでいいか』と了承を求めてこられたのだ。

 まぁ当然、オレは泣きながら断った。……それはもう、必死で断固として断ったのだった。


 ―――オレは小さな溜息を吐き、世界樹様に言った。


「あまりアイツを虐めないでやってくださいね?」


 途端、何故か慌てふためく世界樹様。


『なっ、なんの事かな!? けけ、賢者殿とっ、俺はお話したいだけデスっ!!』

「……“賢者殿”?」


 世界樹様らしくないその呼び方に、ふとオレは顔を上げた。

 しかし世界樹様は、急に白々しく聖葉を重ねて草笛を吹き始めたかと思うと、オレのその問に答える事なく、沈黙されてしまった。



 

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