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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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神竜降臨

 《シアン視点》


 ストレスダメージとイヴからのダメージなど合わさり、足元がふらつく中、オレは雪の上に点々と残った足跡を追った。 


 だが間もなく、森の奥から凄まじい轟音が響き渡る。

 おそらく、イヴとイヴを取り抑えようとする者達が闘っているのだろう。

 絡みそうになる足元をもどかしく感じながら、オレは音の鳴り響く方へと足を進めた。



 ◆



 そして、その先に見たものにオレは目を見開き、思わず足を止めた。



「っなんだ……これっ」




 深い森を進んだ先に俺が目にした物は、屍累々という表現がまさに合う、凄惨な景色。


 抉れた大地の所々に、泥の混じった雪が点々と山となり、そこに埋もれるかのように、巨大な魔物や魔獣達が倒れていた。


 真っ白な毛皮を赤く血で穢したアイスサーベルタイガーに、巨木の杭で顎を貫かれ、口を縫い止められて藻掻くリンドヴルム(巨大ワニ)


「っアイちゃん! リンリン! どうなってるんだ!?」


 オレは直ぐ様【重力球】でリンドヴルム(巨大ワニ)の顎に刺さった大木を破砕し、泡を吹いて倒れるアイスサーベルタイガーに駆け寄った。

 この二体の魔獣は、魔獣達の集まり【チームルドルフ】の中でも、頭角を現しつつある若手だ。

 メキメキと力をつけていて、もう後数十世紀もすればS級からSS級への昇格は間違いなしと言われていたこの二体。


 アイスサーベルタイガーに掛け寄り状態を確認すれば、出血の原因は眼、気を失っているのは後は軽い脳震盪を起こしている為のようだった。


「アイちゃん! アイちゃん大丈夫か!?」


 オレの呼び掛けにアイスサーベルタイガーがピクリと反応し、無事な左目をカッと見開くと、急いで立ち上がろうと腕を振り上げた。


 オレは慌てて声を張り上げ、それを押し留める。


「アイちゃん無理すんな、まだ起きなくて良い!! だけど何があった!?」


 オレがそう尋ねればアイスサーベルタイガーは腕をおろし、マナを操ってとぎれとぎれに答えてくれた。


『ル……いえ、シアンさんですか。―――……イヴ様達を押さえようとして、返り討ちに……あいました……』


 オレはその言葉に拳を握りしめた。


 確かにイヴは強くなった。しかし、アイスサーベルタイガーをここまで打ちのめす程とは……。

 そしてそのイヴを怒らせ、解き放ってしまってのは間違いなくオレの失態なのだ。


 つまりこの傷は……オレのせいなのだ。


 オレが後悔に打ちのめされていると、アイスサーベルタイガーは大きな息を吐いた。



『―――に、人間の肉体の限界を超えてました……はぁ♡ 強かったぁ……』

「……」


 何処か恍惚とした表情でそう言ったアイスサーベルタイガー。……もしかしなくても、変なスイッチが入ってしまっているようだ。

 オレは気付かなかった振りをして、立ち上がった。


「……アイちゃん、目の方は大丈夫か? 急いで出てきたから回復アイテム持ってないんだが」

『いいですよ。【部位欠損】なんていうダメージを負うのはA級以下迄です。私達くらいになれば眼は勿論、腕を切り落とされても数日で生えてきますからね』

「……そっか、相変わらず生命力強いなぁ。リンリンも平気か?」

『おおスマン。世話を掛けたなシアン。この程度、同じく数日で治るよ。……ただ、一撃目の不意打ちで脚を潰されてな。これでは流石に、今すぐ追う事は難しい』

「……そ、そうか」


 イヴの奴、容赦ねぇな。


『私もリタイアとさせてもらいます。完全に片目が使えないので、今は戦力になれそうにない。……目を貫かれた時、眼球を潰されただけじゃなく、視神経を千切っていかれたので多分これ、ちょっと回復に時間かかりますね』


 イヴの奴……ホント容赦ねぇな!

 オレとの訓練の時、どんだけ手加減されてたんだ!?


 胃痛に耐えながら、オレは二体に言った。


「いや、こっちこそそんな傷を負わしてすまなかった。オレのミスで逃しちまったせいで……」

『いいよいいよ。楽しかったからな。それより早く後を追うといい。俺達ならこの程度、どうってことないから』

『ええ。―――それにこれは獣の勘なのですが、なにか良くないことが起こる気がします。イヴ様に負けた事はともかく、今朝から妙な失態続きで。……何か……そう、私達の手の及ばない様な【神々の領域の力】が働いている気がします』

「……」


 アイスサーベルタイガーの言葉に、オレの胸にふと不安が過ぎる。


 ―――運が悪いのは……オレだけじゃ無かった……?


 オレは踵を返した。


「スマンな、アイちゃん、リンリン! オレもう行く。埋め合わせはまたその内するから!」

『気にしなくていですよ』

『それより急げよ。二人に追い付け』


 オレは頷き、また走り出した。




 道中、点々と撃ち落とされた魔物達にはもう目もくれず、オレはひた駆ける。


 この方角から察するに、イヴ達が向かってるのは、おそらく三人でよく行った湖の方だ。



 ―――二人はオレとの記憶を忘れた訳じゃない。

 そうだよ。まだ数年だけど、積み重ねてきた今迄の時間が、さっきのたった一言で壊れるはずが無い。ちゃんと話せば、きっと分かってくれる……。




 だがその時だった。


 湖の方から、高濃度のマナを含んだ衝撃波が起こった。


「!!?」


 森が揺れ、オレは反射的にシールドを張り、その衝撃波を受け凌ぐ。


「な、……なんだ?」


 衝撃波をやり過ごし再び顔を上げた時、オレは更に息が詰まるほどに驚いた。


 先程まで、僅かに雲がかっていた空から完全に雲が消え、代わりに極彩色の光を放つ“オーロラ”が降りてきていたのだ。


 青空に輝くオーロラ……その不思議な空を見回し、オレは息を呑んて駆け出した。

 なぜならそれはただのオーロラでは無かったのだから。


 それは極彩色の光を放つ、高濃度のマナで出来た実態の無い翼。

 空を覆い隠す程に巨大な、蝶の羽の様な一対の光の翼だったのだ。


 アレの正体が何なのかなんて分からない。

 ただその時、オレの直感はこう告げていた。



 ―――“アレ”はイヴとクロを連れ去ろうとしてる。



 オレは光の翼が伸びる中心に向かって走った。



「イヴ! クロ!! 行くな! 行っちゃだめだ―――!!!」



 ここから湖迄はまだ距離がある。

 叫んだ所で届く距離ではなかったが、どうか届いてくれと願いながら、オレは叫び続けた。



「行くなぁ――――っっ!!!」





 ◆◆





 ―――……シアンが【光の翼】を目撃する少し前の事。



 《クロ視点》


 おれはキールを抱え、森の中を無我夢中で走った。何処へ向かってるのかも、もう自分でも分からない。

 それでも、襲い来る天災級(S級)の魔物や神話時代(SS級)の魔物達から、ひたすらに逃げ続けた。

 おれとキールに伸ばされる凶悪な爪や牙を、イヴが弾き叩き落としていく。

 そしてカウンターや隙をうまく使って、撒いていくのだ。


 おれ達は無我夢中に森を走り抜ける。

 やがて突然、目の前が開けた場所に出た。



 ―――……それは、父ちゃんとイヴと、三人でよく来た湖だった。



「あれ? いつの間にか湖に来ちゃったね」


 イヴも驚いたようにそう言った。

 ふと振り返ってイヴの姿を見れば、元気そうではあるがその姿は真っ赤に染まっている。たぶん全部返り血だった。


「イヴ、大丈夫?」


 おれが尋ねれば、イヴは得意げに笑った。


「うん! だけどちょっと疲れたかなぁ……」


 そう言ってその場にしゃがみ込むイヴ。


「追手は?」

「撒いたから、少しの間は来ないと思う」


「……父ちゃん、森に子供だけで入っちゃ駄目だって言ってた……。やっぱ父ちゃんの言う事は正しかったんだ……こんなに……沢山魔物がいるなんて……」


 おれは肩を落としてポツリと呟いた。


「……おれ達、死んじゃうのかな? 父ちゃんの言う事聞かなかったから……」


 するとイヴがハッと顔を上げ立ち上がると、慌てて声を上げた。


「そんな事にはならないよっ! だって私がクロを守ってあげるから! 絶対……」


 だけどその時、突然イヴの足から力が抜けて、イヴはカクンと倒れ込みそうになる。

 おれは反射的にイヴを支えようと手を伸ばしたが、その拍子に腕に抱えていたキールを離してしまった。


「キヒっ」


 イヴは何とか支える事ができたけど、代わりにキールがコロコロと雪の斜面を転がって行く。


「キキッ、キッ、キッ!」

「あ、キール! イヴ、ちょっとここで休んでて!」


 おれはそう言ってイヴをしゃがませると、キールを追い掛けた。

 キールはコロコロと十メートルばかり転がり、小さく出っ張ったキラキラ光る雪の小山にぶつかって、その動きを止めた。


「キヒ?」


 キールがホッとしたように身体を身じろぎさせた時、突然キールがぶつかった雪の小山が動いた。


 よく見ればそれは雪ではなく、真っ白な……図鑑にも載っていない姿の、おれの両手に乗ってしまいそうな程小さなドラゴンだった。

 腹を上にして無防備に眠っていたドラゴンは、キールにぶつかられて目覚めたのか、コロリとその場で転がった。

 転がって晒された背中には、光で出来た虹色の蝶の様な翼が延びている。


 真っ白なドラゴンは、生まれたての子猫のように細い手足をピーンと伸ばし、プルプルと震えながら伸びをすると、隣に転がるキールに()()()




『んむ? ……あ、ハローでしゅ』




 知能の高い魔物や聖獣はマナを操って喋れると聞いたことがあるけど……この小さなドラゴンも……?


 おれが驚いてその小さな可愛いドラゴンを見つめていると、ドラゴンもチラリとおれを見た。

 そして大きな欠伸をしながら、今度は独り言のようにまた喋り始めた。


『くぁ―――……待ってる間に寝ちまったみたいでしゅね。クリシュに【(あった)か魔法】を掛けて貰ってきたでしゅけど、極楽しゅぎてヤバいでしゅねぇ……っぷギュ』


 そのまま、欠伸で伸び過ぎ、雪の上でまたコロンともんどりを打つドラゴン。


 おれは訳が分からず、雪まみれになって起き上がろうと藻掻くドラゴンの言葉を反芻して尋ねた。



「ま、……待ってる間? おれ達を?」







【こんなに沢山の魔物】……は、実は父によって放たれたと言う事を、二人はまだ知らない……。

(・∀・)


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