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番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件11〜

 目覚めたリーナとジュリを連れ、オレ達は更に下階へ進んだ。


 だが地下190階からは空間の様子が一変していた。

 自然界をトレースしたわけではなく、何も無い広大な部屋に魔物が1匹。但し、階段へと続く扉の前に鎮座している為、戦わず避けると言うことは出来なった。

 ランクはどれもSS級に分類される超大物。回復補給のスペースがないまま、それが地下198階層まで続いた。


 しかし偽物と分かっていても、森で仲良くしていたケロリン(ケルベロス)や、ヒューちん(ヒュドラ)、バハムートパイセン達が相手だったから、オレは倒す毎に若干鬱になってしまった。

 しかもレアドロップなのか、パイセンを倒した時バハムートの鱗がドロップされ、ルドルフの分も合わせ“マジかよ、2個もいらねー”とか思ってしまった。


 そうして辿り着いた地下199階。


「うわぁ! 何でしょうここは。ハーティの草原? モンスターはいないみたいですね」

 

 オレ達はそのあまりにも穏やかすぎる光景に驚き、声を上げた。

 風に波打つ明るい緑色の絨毯。

 山も海もない平らな大地に、ハーティの草原が360度地平線の彼方まで続いている。

 突き抜けるような青い空には巨大な入道雲が立ち昇っている。

 そんななんの争いもなさそうな大地にポツリと立つのは、白磁の幹に硝子細工のような星型の葉を茂らせる宝樹。


「ガルシアさん、あそこに不思議な木がありますよ。まさかあれがモンスターでしょうか?」


 いや、あれは……―――


「世界樹、アインス様だ」


 ただその御姿は実物とは比べ物にならない程小さい。

 その時オレはふと、ここがなぜこんなにも穏やかなのかを悟った。

 ここは、まだ世界は生まれたばかりなんだ。

 争いも繁栄も、悲しみも喜びもまだ存在しない、ただ安寧だけの世界。

 

 オレはこの人も魔物も存在しない神々の世界を前に、何故かここに隠されているという宝の名を思い出した。


「“歴史の道標”……そうか。オレ達は 創世の記憶を旅していたんだ」


 この時漸くオレにもレイス様が何故こんなダンジョンにしたのか、その狙いが読めたのだ。

 だって人が歴史の道標と名付けた宝を隠すのに、これ程相応しい場所はない。

 創世の記憶を共に歩んだ者だけが、それを手にする事が出来る。そういう事なのだろう。


『よく頑張ったね、ガルシア。こんなに遠いところまで本当によく来てくれた。ここでゆっくりしていくといい』


 かつて聞いたことのある、アインス様の声が響いた。

 胸の奥がジワリと熱くなり、“ただいま”と叫びながら駆け出したい衝動に襲われる。

 だけどその衝動に身を任せる前に、オレは二人の声で現実に引き戻されたのだった。


「ガルシアさん。なんだかここ気持ちのいい場所ですね。安全そうですしぃ……少し休憩していきませんか?」

「ん?」

「リーナ様に全面同意に御座います御主人様。いえ、少しと言わず何ならずっとここにいましょう。 宝物は逃げませんし、この穏やかな地で私共の楽園を築きましょう……」


 ……明らかに二人の目がイッてしまっている。


「……なる程。ここはそう言う階か。確かに物理的な危険は無さそうだな。精神的な試練だ。さ、行くぞ」


 オレは綺麗に誘惑にかかったバカ二人を引っ張って、アインス様の根元にある階段を降りたのだった。


 この程度の誘惑、オレにはどうってこと無い。

 なんせ既に本物に別れを告げてきたんだからな。


 ◆


 地下200階層。


 そこは闇だった。

 ちゃんと息はできるのに、空気が振動せず、声が出ない。全くの無音。


 オレは闇の中で2人とはぐれないように手を繋いでいるのだが、今や手から伝わるその温もりしか、ここにオレと2人が存在している証は存在しない。……そんな事を思ってしまう程に、その闇は凶悪で重厚だった。


 無限の闇。


 無限の孤独。


 オレはこの旅を始めた時、リーナとジュリの存在が正直不満だった。

 だけどこの震え上がる闇を前に、この手を握ってくれる2人へ心からの感謝を抱いたのだった。



 ―――よし、行こう。



 オレが意を決して前へ踏み出すと、リーナとジュリは強く手を握り返してくれた。


 大丈夫。

 オレは……オレ達は独りじゃないから。


 それからオレ達は一体どれくらい進んだんだろう。

 果てしない距離だった気もするし、ごく僅かだった気もする。


 だけどソレを見つけた時、オレ達は辿り着いたんだと直感した。


 ソレは光だった。

 精霊よりももっと、もっと小さな光。まるでひとつの輝く砂粒だ。

 ソレはオレ達が近づくとあっと思う間に弾け、2つになった。

 2つになった砂粒は闇の中を愉しげに飛び回り、その軌跡で光の文字を描いてゆく。

 何を描いているのかオレには全く読めないがその文字のことなら知ってはいる。それはかつてのオレが研究しようとして直ぐに諦めた、魔核に、魂に、遺伝子に、この世の全てに書き込まれ、この世の全てを構成する原初の文字。―――神の文字(ディオス文字)だった。


 光の文字は闇を瞬く間に別の物に創り変えていった。

 そうして浮かび上がってきた物に、オレ達は歓声を上げる。


 眼の前に現れたのは、青く透き通った鉱石の壁に囲まれた洞穴。

 そしてその空間の中央に安置されている物こそ、白金に輝くオーナメント……いや、歴史の道標と呼ばれるオベリスクだった。



『―――まさかお前達、攻略者か?』

「「「!」」」


 しかし喜ぶのもつかの間。

 突然その空間に響いた聞いたことのない声に、オレ達は一斉に身構えた。


『いやすまない、驚かすつもりはなかったのじゃ。私はかつてソルトスと呼ばれた者。そして神との約束によりこの場を監視する者だ』


 辺りに生き物の気配は無いのに声だけが不気味に響く。

 オレは警戒を解くことなく声に語り掛けた。


「ソルトス? 確かレイス様が言ってた爺さん(枯れかけた男)の名だ。だがその人は死んだ(枯れ果てた)と聞いた……」

『レイス様の名をご存知なのか!? そうか、姿が見えなくて驚かせてしまったのう。私はここだ、この部屋の横穴を抜けたところにあるテーブルに置かれた“本”じゃよ』

「本?」


 オレ達は声に導かれるままに横穴をくぐり、そちらに向かう。

 岩壁が剥き出しになったその横穴を抜ければ、魔法の光に照らされた研究室のような広い人工的な空間に出た。


「わぁー!! 本がいっぱいです! それに研究材料やら器具やらも! 学園より充実してるかも‥‥」


 その部屋を見たリーナが、目を輝かせながら声を上げる。

 更に部屋を見渡せば、ガラス管やフラスコ、走り書きメモや何かの資料が山積みされた雑多なテーブルの上に、確かに1冊の本が置かれてあった。


 金で縁取られ真紅の塗装処理を施された古書。表紙に書かれた文字は読めないが、何やら荘厳な飾り文字が掲げられている。

 そしてその文字の下には何故か眼の絵がデカデカと浮き彫りにされ、その目が不気味にギョロギョロと動いていた。

 ……何だ、この本は。

 ……―――めちゃカッコいいんだけどぉぉ!!! ふおぉぉぉぉおお!!


『よく来たな、勇者よ。待っていたぞ。まず、そなたの長き旅の1つの終点に、賛辞を贈ろう』

「あ、オレ勇者じゃないすよ」

『…………ん?』


 違うよ。

 そしてあの勇者じゃ、多分力不足でここまで来れないと思うぞ。




 ◆




『そう、確かに私は数年前に死んだ』 


 それからオレは事のあらましを何故か本になってるソルトス爺さんに説明し、ソルトス爺さんからその姿の説明を聞いていた。


『だが神の定めた“絶対の死”というものには実は抜け穴があったのだ。そもそも死とは神々が世界を成長させるために定めたもの。そして死の基準とは、肉体の腐敗か、魂の霧散消失とされている。そして死の間際、これ迄の生きた証となるものというのが肉に刻まれた“記憶”であるわけだ』


 なる程、理解した。


「ほー、んじゃ爺さんはつまり、寿命通り死んだが死ぬ前にレイス様に泣きつくかをして、記憶だけそのヒヒイロカネ塗装の素敵な書物に移してもらったんだろ。表紙の瞳が魔核になってるようだから、それでマナ操って手足代わりにして研究を続けてるとか、かな?」


『な……何故分かったのじゃ!? レイス様に泣きついたという細部まで!』


 いや、だってレイス様結構お優しいから、お願いしたら基本何でも叶えてくれるだろうし。(オレは恐れ多いからお願いはしないけど)


『しかし私とてまだ理解しきれておらぬ叡智の一端を、あれだけの説明でそこまで理解できるとは……。ガルシアと言ったな。是非暫しの間ここに留まり、この老いぼれの話し相手になってやってはくれんか?』

「あんまり長居は出来ないですが、少しなら良いですよ」

『それは嬉しい』


本の模様が笑うように目を細めた。

だがオレはふとあることを思い出して踵を返す。


「あ、そうだ。さっきのオベリスクの処に戻っていいか? 1つ、やってみたい事があるんだ」



◆◆◆



「わぁー!!」

『コレはなんと!? このオベリスクに、こんな仕掛けが!』


 オレはオベリスクにマナを込め、魔王ラムガル様が映像記録(ムービング)したというあの日の映像を宙に映し出していた。


『魔物も聖獣も森の守護者達も、皆が共に手を取り喜び合っている。これは奇跡か……?』

「これが世界を創造された二柱様の聖姿。何て神々しい……」


「キャアアァーっっ!! ルドルフ様! 素敵!! 尊い! あああぁぁっっ! 私の背に乗馬してえぇぇぇっ!!」


 その光景を目に、皆がみんな思い思いの感想を述べながら、感動に涙している。

 かくいうオレも懐かしさに駆られチョットだけ目尻に涙を浮かべたのだけど、それはこっそり拭って内緒にした。




 ◆




『その石版を、私にくれ!!』

「駄目だ」


 今、オレはこの強欲ジジイとルーン文字の刻まれた12枚の石版を前に、ルーン文字講座とは名ばかりのバトルを繰り広げている。


『老い先短い私めの一生のお願いですじゃ! ゴホゴホっ! この闇の中でただ一人残される私を哀れと思ったなら……全てとは言いませぬ、どうか一枚だけでも! げふん!』

「短くねーよ。もうオレより永く生きてられるんだろ? レイス様にもそう言ったのか? この強欲ジジイが!」

『はっ、ケッチィのぉ。レイス様なら全部くれるぞ? お前本当にレイス様の信者か? 信じられんわい』

「早々に本性現しやがって。っつかオレは神器をくれというその図々しい神経の方が信じられん。それにあいにくとオレは神じゃないんでね。これはレイス様がオレに下さった宝なんだ! 死んだって渡さねぇ!」

『―――人はいずれ死ぬ。ククク、ガルシアよ。おぬしまさか、レイス様に気に入られた証にそれを下賜戴いたとは思っておらぬよな?』


 オレはその言葉に一瞬ドキリとした。

 いや、オレがお気に入りとかそんな畏れ多い事思ったことないよ!?

 まぁちょっと位は認めてもらえたかもとは、思ったことも無きにしもあらずだが……。


『図星か。青いのぉ。因みに私は自分の事をレイス様のお気に入りと思っておるぞ? 度々この穴蔵に迄差し入れを持って訪れて下さるしの』


「なっ、じじいこそ、うっ、自惚れるなよ!? オレが聖域にいる頃だって……」


『ふっ。レイス様の信者なら私の言うこの意味がわかるだろう』


 たじろぐオレにソルトス爺さんは、ニヤニヤと表紙の眼を嫌らしく歪ませながらオレに詰め寄ってくる。


『私はの、生前禿()()()()()()()()

「 っ!!!!? 」


 それを聞いた瞬間オレは膝をついて崩れ落ちた。



―――敵わねぇ……っ!


 あのモフモフ好きのレイス様が、モフのモの字も無いこのじじいの所を訪れていただと?


『かーっかっかっ! 生前レイス様から差し入れて頂いた“ウメボシオニギリ”なる物。アレは衝撃的だったのぉ!』


 高笑いするじじい。

 だが言い返すことはできない。何故ならそれは、間違いなくじじいの言う通りだったのだから。


「くっ‥‥。負けた」

『わかれば良いのだ若造よ。ではその石版を寄越せ』

「それは駄目だ。ま、それはそれってことで」

『ちょ、冗談だよぉガルシアくぅん。若造とか冗談だからね? そうだ! もう一回一緒に考えよう!』


 こんな調子でオレ達はふざけながらも互いの知識を共有しあった。


 因みにその間女子2人は、ソルトス生前の生活スペースを再稼働させ、優雅に午後のティータイムを楽しみ、オレに対する不平不満を言い合っていたのだとか……。





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