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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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武神降臨

 クロの腕を引くイヴに、オレは小さな息を吐きながら引き止めた。


「イヴ、オレは疲れてなんかないから……。それに森に子供だけで行ったら駄目だって言っただろ」


 イヴがまっすぐオレを見て言う。


「なんで?」

「え……」

「危ない事があったら私がクロを守るよ」

「まぁ、そりゃ……。だけど今はまだ、クロと話をしてるんだ。イヴは退屈だろうけど、もう少し待ってくれ。オレは大事な話をしてるんだ。終わったら、皆で一緒に散歩に行こう。な」


 そう言ってオレはイヴに手を伸ばすが、イヴはその手から逃げるように身を引いて後退った。


「シアンは来ちゃ駄目! 私はクロに優しくしてあげるんだよ。今のシアンはクロを泣かしてる。だから……」



 ―――多分、その時オレもだいぶ限界だったんだ。



「……っんにも分かってない癖にさ……。それがクロの為になると思うのか? 残念だけどそれは優しさじゃない。なぁイヴ、我を通させてやる事だけが優しさじゃないだろ?」


 嬉々としてクロを庇おうとしていたイヴの目が、大きく見開かれてオレを見た。

 口を突いて出た言葉は止まらず、大人気(おとなげ)なく出た本音を、止めてくれる者は誰もいなかった。


「そりゃオレだってなぁ、優しくしてやりたいよ? 大事な家族だ。誰が泣かしたいもんかよっ! でもだからこそ、ソレだけは駄目なんだよ!! そのイドラはオレが大事にしてるものを全部壊すんだ! 人間が飯食って寝る様に、当たり前にイドラはこの世界を壊す。そういう存在(もん)なんだ!」


 そう。ディスピリアは世界を消す為に存在してる。

 継続を望む俺達が、終焉をもたらす者との共存など出来るはずない。



「クロを守りたいからこそ、この世界が好きだからこそっ、オレはイドラ(そいつ)が存在する事を絶対許さない……絶っっ対に駄目だ!!」



 威嚇するようにそう怒鳴ったオレを見て、イヴの顔が歪む。

 続いてイヴの目に込み上がってきた涙が溢れた時、オレはハッと我に返り後悔した。



 ―――しまった……。



 思い返せば、この時が初めてだった。イヴに声を荒げ怒鳴ってしまったのは。


 慌てて訂正しようとしたが、イヴは泣きながらオレを睨んでいた。

 怒りを顕にしたイヴは、涙と一緒にポツリと言葉を零した。



「―――だったらもう、優しくなんかしてくれなくていい。行こう。クロっ、キール!」



 そしてイヴはクロの腕を問答無用で引っ張り、扉に向かって駆け出した。


「イヴ!」


 慌ててオレも追いかけたが、イヴとクロは素早く階段を駆け下りて行く。

 オレは小さく舌打ちをすると、扉から跳び出して階段を使わず雪の積もった大地へと飛び降りた。 


 ひんやりとした外気で頭を冷やしながら深呼吸をする。



 ―――落ち着け。……落ち着け、オレが怒ってどうする。



 そして階下で二人を待ち、駆け下りてきたイヴとクロに、なるべくゆっくりした口調で話し掛けた。


「待てイヴ、怒鳴って悪かった。クロ、もう一度話し合おう。な?」


 まずは二人を落ち着かせるんだ。そしてイドラをクロから引き剥がす……。



 だけどオレは忘れてた。―――この日、オレはとことんツイてなくて、何をしても裏目に出るんだ。



 イヴは階段を降りきってもその足を緩める事をせず、前に立ちはだかるオレに真っ直ぐ突っ込んでくる。

 刹那、イヴがクロの手を離し、雪を蹴って跳躍した。



「っ!?」



 あっと思った時には目の前にイヴがいて、避ける間もなくオレはイヴの頭突きをくらった。


「イッ……」


 目から火花が出るような衝撃の直後、オレの身体は宙に浮く。

 イヴの攻撃は単発では絶対に終わらない。頭突きの直後、イヴはオレに足払いをかけていたのだ。


 空中でその姿を目で追えば、イヴは再びクロの腕を掴んで駆け出している。

 そのままオレは受け身も取れず雪の上に倒れ込み、慌てて身体を起こしたが、時既に遅し。二人の姿は森の中に消えていた。



「―――って、またこのパターンかよっ!」



 オレは苛立ちに任せ雪を殴りつけ、スレに書き込みをするとその後の書き込みを確認する事なく、二人を追って森の中へと走った。









 ■■■■■


 スレタイ: 【緊急】子供二人が逃げた誰か捕まえてくr



 1: 名無しのダディー

 すまん逃した

 また森に入られたから誰か取り押さえてくれ

 オレも追う




 ※クロとイドラは攻撃しないように

 ※イヴは強い A級以下は多分瞬殺されるから手を出すな




 2: ok


 ■■■■■■




 ◇




 《クロ視点》


 おれはイヴに手を引かれるまま、泣きながら走っていた。


 腕に抱えたキールから、契約紋を通じて戸惑いの感情が伝わってくる。

 父ちゃんがキールに何を言っていたのか、そしておれが何で泣いてるのか、キールは何にも分かってないんだ。


 でもだからこそ、切り離しちゃ駄目だ。

 大事にしなくちゃ……裏切っちゃ駄目なんだ。


 おれはキールを抱えたまま肩で涙を拭うと、無理やり笑った。


「ごめんね、キール。大丈夫だよ」

「キヒィ」


 おれはキールの返事に頷いて、おれの手を引くイヴにも声を掛ける。


「イヴもごめん。おれもう大丈夫だよ。……もう泣いてない。ねぇ、一回帰って父ちゃんともう一回話をしよう? ちゃんと話せばキールの事も、きっと父ちゃん分かってくれるよ。おれ、今度は泣かないでちゃんと話すから」

「帰らないっ」


 だけどイヴはおれの腕を離すことなく、まっすぐ前を見たままそう怒鳴った。


「シアンなんかもう知らないっ!」


 泣きながら、自分に言い聞かせる様にそう言い放つイヴ。


「じゃあ、何処に行くの?」


 おれはそう尋ねたけどイヴは答えず、代わりに走る速度をゆっくりと落とし、しまいにはとうとう止まった。

 おれはぜぇぜぇと荒い息をしているが、イヴは平然としている。

 立ち止まり、俯くイヴがポツリと言った。


「……分かんない。―――でも帰らない。帰ったら、クロはまたシアンに泣かされるよ。シアンはキールが嫌いで、キールに意地悪なことを言う。そしてクロとキールが離れ離れにされて、悲しい目に遭うの」

「でも、今のままじゃ父ちゃんと離れ離れだ。……イヴが泣いてる。おれ、イヴが悲しくなるのも嫌だよ」

「……」

「おれ、頑張って泣かないで父ちゃんに言うよ。キールはいい子だって、後、イヴはおれの為にしょうがなく父ちゃんに頭突きしてコケさせたんだってことも言う。ちゃんと話したら、イヴも父ちゃんと仲直り出来るから」


 イヴが顔を上げておれを見る。


「……でも、“もう優しくしなくていい”って言っちゃった」


 不安そうにそう言うイヴに、おれは笑って言った。


「大丈夫だよ。父ちゃん、イヴが大好きだもん。“しないで”って言ってもやっちゃうよ」

「嫌いになってない?」


 チラリと上目遣いにそう聞いてくるイヴに、おれは自信を持って断言した。


「なってない。―――だからかえ……」



「っクロ、どいてっ!!!」



 その時、突然イヴがおれを突き飛ばした。

 直後、おれがさっきまで立っていた場所に、なにか大きな物が飛びかかってきた。


「……え?」


 それは真っ白な毛皮を持つ、体長五メートルを超えるアイスサーベルタイガー。頭から背中に掛けて生やすのは毛ではなく、氷で出来たクリスタル。霜の浮いた一メートル近くある巨大な犬歯に触れた物は、全て凍り付かせてしまうS級の魔物だ。

 雪に倒れ込んだおれが身を起こすと、アイスサーベルタイガーがこちらを振り向いた。

 アイスサーベルタイガーの紫がかった青い目がおれを見た時、―――……怖いより綺麗だと思った。



「クロ! 立って! 走って!」



 焦った様なイヴの声に、おれはハッと我に帰り立ち上がった。

 怯えて震えるキールを抱え直し、もう一度顔を上げると、イヴがアイスサーベルタイガーに向かって飛びかかっている所だった。

 おれはイヴに向かって叫ぶ。


「イヴ! アイスサーベルタイガーの牙に触れちゃだめだよっ! 氷の呪いを受けるからっ」


 アイスサーベルタイガーは身を翻し、イヴに噛みつこうと首を伸ばした。イヴは身を捻って牙を避けると、その鼻面を蹴って更に高く飛び上がる。

 アイスサーベルタイガーはその衝撃に一瞬頭を振ったが、直ぐにイヴの飛び上がる速さより速い速度で、イヴを捉えようと爪を剥いた前足を伸ばした。


「―――クロを虐めたら、猫ちゃんでも許さないからっ!!」


 イヴはそう言うと、自分を捉えようとしていたアイスサーベルタイガーの前足の爪を、逆にしっかりと捕まえ取り付いた。


「!?」


 驚くアイスサーベルタイガーの隙を突いて、イヴは巨大な爪を足場にまたサーベルタイガーに向かって跳んだ。

 イヴは更に勢いに乗るが、アイスサーベルタイガーは距離を見失った上、自分自身の前進の勢いを殺しきれず、成す術なくイヴに突っ込んでいく。

 イヴはマナを手に一点集中させ、その鋼の様に強化された手刀を、アイスサーベルタイガーの右目に突き立てた。



「ゴアァアァ……ッ」



 目に、肘までイヴの手を突き刺されたアイスサーベルタイガーが苦しげな声を上げる。

 棹立ちになって腕を振り回し、イヴを振り払おうとするアイスサーベルタイガー。

 イヴはその鼻面に、慌てる事なく拳を叩き込んで、その反動で腕を引き抜く。

 より一層苦しげにもがくアイスサーベルタイガーだが、イヴは止まらない。

 腕が血に染まっている事も気にせず、流れる様にくるりと藻掻く獣の顎下に潜り込むと、その巨体が宙に浮くほどの勢いで、顎を強く蹴り上げた。


「ガッ……」


 急所に鋭い蹴りを叩き込まれたアイスサーベルタイガーの目がグルンと白目になり、喉からは泡がごぼりと溢れる。

 イヴはそんなアイスサーベルタイガーにはもう見向きもせず、蹴り上げた勢いを殺すことなく、雪の大地に踵落としを叩き込んだ。




 途端大地が揺れ、雪を跳ね上げながら、雪の下から一匹の巨大な鰐が、苦しげに尾を振り回しながら飛び出してきた。



 ―――いつからそこに……?



 おれが啞然と暴れる鰐を見上げていると、イヴの声が聞こえた。




「クロッ、走って! 絶対守るからっ、走れぇー!!!」












 ■■■■■■



 60: 名無しさん

 ちょwww アイちゃんがやられた! イヴちゃん超強ぇ!

 ダディーとの訓練の比じゃないくらいキレッキレでイキイキしてるwww


 61: 名無しさん

  実戦で活きるタイプなんだね。あれは確かにダディーじゃあムリだわ( ´,_ゝ`)プッ


 62: 名無しさん

 よしきた。次は俺が相手だw(wktk)


 63: 名無しさん

 いいやお前なんか瞬殺されるよ。引っ込んでろ

 イヴちゃん僕タンが今行くよwww


 64: 名無しさん

 いいえ、僕です。スタンバイ済みw


 65: 名無しさん

 アイちゃんのやられっぷりを見る限り、もはや一斉に掛かってもいいんじゃないかというレベルw


 66: 名無しさん

 みんな待って! 本来の目的忘れてるよ


 67: 名無しさん

 そーだそーだ! その強い奴と闘いたがる性なんとかしろよ。お前らのせいで僕はテイマー資格が取れないんだからな!

 筆記は余裕なのに、実技で誰も友達になってくれない……


 お前らのせいでイヴちゃんのバースデーも行きそこねたんだからなぁ!!(´Д⊂


 68: 名無しさん

 »67 だってお前、俺らを間引くために存在してるんだろ? それをテイムしようとかハナから無理なんだよ。それより今度闘おうぜぇwwww


 69: 名無しさん

 »68 容赦しないからな。覚えとけよまじで


 もういいから、クロくんだけでも早く捕まえなよ


 70: 名無しさん

 何にせよイヴはんを抑えんと止まらんやろな


 ……しかしほんま【武神】て凄いな

 5歳でこれかい。めっちゃ闘こうてみたいわ



 ■■■■■■

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者、まだテイマー資格取れてないんかw でも勇者にテイムされてくれるのはライラさんくらいじゃないかしらん。 ダディー、本当に踏んだり蹴ったりで可哀想ですね。もはや親と言うより中間管理職の苦悩…
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