表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
428/582

そのスライムは飼えません

 《シアン視点》


「クロ、朝食が終わったら話がある」


 オレは壁に背を付け立ち、子供達の座るテーブルを眺めていた。


「うん。……父ちゃん、大丈夫?」

「……。大丈夫だ。まぁ食え」

「うん」


 クロとイヴはオレをチラチラと気にしながらも、静かに朝食を食べ始めた。

 クロの座る椅子の下には、例の黒い猫耳ボールスライムもどきがころころと転がっている。


「いただきます」

「いただきます……シアンは食べないの?」

「……うん、今オレはそれどころじゃないんだ」


 そう。オレは今、朝食どころじゃなかった。 

 日が昇ってから、妙に調子が悪い。……どう悪いかと言えば、とにかく“運”が悪い。

 始めは昨日からのストレスから、注意力が散漫になっているんだろうと思っていた。だがどうもそうじゃないらしい。

 朝から三時間の間に六回……六回も、足の小指を家具の角でぶつけて、地味に悶た。

 そして『もう二度とぶつけるか』と大きくそれを避ければ、今度は子供達の片付け忘れたブロックを踏んだ。

 朝食を作ろうと思えば調味料が切れてるし、子供達を起こそうとすれば、寝ぼけて寝返りをしたイヴから、目に裏拳をくらった。―――なんで目?


 ……兎に角、不運だ。


 オレは意味不明なこの不運に見舞われながら、ふと昔とある奴が言っていた言葉を思い出した。


『―――(そんなもの)に頼らなくても、全てを把握すれば何にだって対処できるさ……」


 最早それしか道はなかった。



 と、その時突然、オレの右手の壁の窓が大きな音を立てて割れた。


「うわぁ!?」

「シアン! 窓がっ……危ない!」


 降り注ぐ破片にクロとイヴが驚愕の悲鳴を上げる中、オレは思った。―――やはり来たなっ!


 何かをしても何もしなくても、何故か今日は全てが裏目に出て不運が起きる。

 椅子に座ればその脚が折れて転び、立っていればこうして窓から飛行物が飛び込んでくる。あぁ、分かってたともっ!


 オレは余裕を持って、その飛行物体をキャッチした。


 ……それはなにか白い……ベタベタとした糊のようなもの……? 何だこれ。糊はベタベタとオレの手にくっつき、オレはそれを剥がそうと藻掻いた。


「大丈夫? シアン」

「父ちゃんナイスキャッチだね。……それなに?」

「さあ、なんだろうな?」


 オレ達が首を傾げていると、玄関の方からロロノアの慌てふためいた声が聞こえてきた。


「っす、すみませんシアン教授!!」


 手に付いた糊を剥がし取りながら、オレはロロノアに声を返す。


「どうした、ロロ。今手が離せないんだ。鍵は空いてるから入ってきてくれ」


「はいっ、スミマセン。今、魔獣捕獲用のトリモチ投石機を誤作動させてしまいまして、トリモチがここに飛び込んだかとっ」

「ああこれな。気をつけろよー」

「申し訳ありませんっ! あ、教授。そのトリモチは致死性はないのですが、皮膚吸収性の強力な神経毒が含まれてますので、絶対に触らないで下さ……」

「え?」

「あ……」


 部屋に駆け込んできたロロノアは、手にべっとりとトリモチを付けたオレを見て絶句した。


「何をなさってるんですか!?」

「え? いや、何ってキャッチして……」

「こんなとこで超人並みの反射神経とかいりませんよっ! 手をっ、はっ、早く手を洗い流したくださいっ!」

「……だ、だめだ。腕がしびれて水のまほうりんはかけなひ……」

「ああっもう既に呂律まで……ちょっ、先輩ー! 助けてくださいぃ!!」


 ―――……本当に……最悪だった。




 ◇




「いやぁー、すまんなシアン。投石機のネジが緩んでたみたいでよ。こんな事なんて初めてなんだが」

「いや。多分オレは今日そういう日なんだ。……まぁ気にすんな。ホントに気にすんな。そして今日はオレに近づくな」


 解毒剤で何とか起き上がれるまでに回復したオレは、手を合わせ近づいてこようとするジルから後退って逃げた。……絶対禄なことがない!


「そうか? んじゃクロ。朝から騒がせて悪かったな。お詫びにこれやるよ」

「何? これ」

「スライム用のフードだ。テイムしたんだろ? いっぱい食わせてやれ」

「うん! ありがとう! ジルさん」


 目を輝かせてジルの差し出した小袋を受け取るクロ。……ってかそれ、一番欲しくないものなんだけどっ!! 

 ホントになんて日だ!


「父ちゃん見て。ジルさんにキールのご飯貰ったよ!」


 オレの思いなど知らず、嬉しそうに報告してくれるクロ。

 ……この輝く笑顔が辛い。オレはこの笑顔を奪い取らないと駄目なのか。


「そ、そうか。良かったな…」


 取り敢えずその悲劇は後回しにして、オレはどこから切り出そうかと考える。

 黙ってクロをみつめていると、ふとジルが立ち上がった。


「じゃ、シアンも大丈夫そうだし、俺達はもう行くか」

「あ、はい!」


 続いてロロノアも立ち上がる。

 そして去り際、ジルがクロの抱えるスライムもどきを撫でた。


「キールか。よろしくな」

「キヒ」


 スライムもどきは小さな鳴き声を上げ、クロの腕の中で小さく縮こまり、潜り込んだ。

 その様子にジルは呑気に笑う。


「すっかりクロに懐いちまってるなぁ。大事にしてやれよ? クロ」

「うん!」


 クロは誇らしげに答え、二人を見送った。


 そしてその扉がパタリと閉ざされた時、オレはとうとう話を切り出した。



「その件なんだけどな、クロ。……そのスライムはな、……その、危険なんだ」

「?」


 クロがスライムもどきを抱えたまま、オレに目を向けた。 


「今は小さいし、何の力もない様に見える。だけどな、それが成長してしまった時、そいつはお前自身を喰らい尽くしてしまうんだ」

「スライムにそんな力は無いよ?」

「うん。でもそいつはスライムじゃない。【黒いスライム】なんていないんだよ。オレも不思議に思って黒いスライムについていろいろ調べたんだ。そしたらな、なんとそいつは【イドラ】っていう化物だって判明したんだよ。……それに、食われるのはお前だけじゃないぞ。オレも、この家も、森も、湖も、全部……何も無くなるまで、そいつは食い尽くしてしまうんだ。そうなったら困るだろ?」


 クロの顔に不安の色が浮かぶ。

 オレはクロに視線を合わせるようにしゃがみ込み、なるべく不安を取ってやれるようにゆっくり話しかけた。


「そうなる前に、一度契約を解約しよう。な? 例え契約解除権がそいつにあるにしてもさ、クロが何度も何度も語りかければ、そいつも契約を破棄してくれるかもしれない」


 クロがじっとスライムもどきを見つめた。


「でも父ちゃん。契約解除しちゃったら、キールはきっとお腹が空いて死んじゃうよ」


 そう言って顔を上げたクロは今にも泣きそうな顔をしていた。


 分かるよ。


 初めてテイムした魔獣を、昨日の今日で捨ててこいなんて言われたら、誰でも辛いよな。

 オレも酷いことを言ってる自覚はある。

 契約紋で心を通わせた相手を見殺せって言ってるんだ。


「―――でもなクロ。オレはクロとこの世界を消すか、それともそのスライムを消すかと聞かれたら、クロと世界を残す方を取る。ゴメンなクロ。だけど頼む。……どうかそいつと別れる方向に、その雛を育てて欲しい。お前にとって辛いだろうけど、それでもお前の為なんだ」


 クロの顔がオレの言葉に青褪め、凍り付いていく。

 そして震える声でオレに言った。



「おれ、父ちゃんみたいなテイマーになりたかったの」

「そうか」



 次の瞬間、見開いた目からぽろぽろと涙が溢れだした。

 泣きながらクロはオレに尋ねてくる。


「―――なのに、なんでそんな酷いこと言うの? 昨日は父ちゃんもキールを撫でてたのに……」

「事情が変わったんだ。それはスライムじゃない。そいつとオレ達は、一緒にいられないんだよ」


 泣きながらでも、クロには納得してもらうしかなかった。

 今は辛いだろうけど、今後きっと、もっといいパートナーを見つけられる筈……。


 スライムもどきを抱えてハラハラと涙を溢すクロ。だけどその悲しげな姿を見ても、オレの意思は変わらない。

 何時間だって、何日だってクロが納得してくれるまで言い続けるつもりだった。


 だけどその時、今迄沈黙を通していたイヴがクロの腕を引いた。


「もう行こう、クロ」


 オレは首を傾げ、イヴに尋ねた。


「行くって何処に?」

「お散歩だよ。シアンは来なくていいよ。シアンは朝から不幸が続いてるから、ちょっと疲れてるんだよね。ゆっくりしててね」


 相変わらずのマイペースな持論を放ちながら、イヴはグイグイとクロの腕を引っ張った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] シアン、悪魔や魔物達、飢餓状態のクロとの生活を思い出すんだ!と思った。大変な生活に加えて幸運竜の想いが降り注ぎ、疲れてるだろうな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ