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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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世界樹とはぐれ者

本日二投稿目です!(*´ω`*)

 世界中で一番に一日の始まりの光が差し込むのは、この聖域だ。


 俺は聖域の森からぽっかりと枝を出し、世界が色付いていくのを見るのが好きだ。

 もちろん宵闇も、昼下がりも、黄昏時も全部好きなんだけどね。


 ともかく、空が明るみ始めて間もなく、マスターが聖域に帰ってきた。

 俺はいつもの様に枝を揺らせて出迎える。


「おかえりマスター。【見守り設定】をつけに行っただけなのに、大変な目にあったね」


 マスターはいつも通り淡々と、何処か身構えるように答えてくれた。


「いえ、別に。奴等と相対している時はこの体の神経組織の八割を不能にしておきましたので、ご覧になられていたよりかは大したことありませんよ。少し小突かれたようなものです」

「……本当に?」


 マスターが嘘をつかない事を俺は知っている。

 だけど俺はマスターに聞き直した。

 マスターはにやりと笑って頷いた。


「ええ。あの程度でこの結果を出せたなら、寧ろ僕にとって最良の事件でしたよ。よくやったとマリーを褒めてやりたいくらいです」

「だけどね、“最良”が必ずしも“最善”や“最幸”ではないんだよ」

「……」


 眉間にシワを寄せ、黙り込むマスター。

 俺は葉を揺らせながら励ますように言った。


「小突かれた程度……そう思い込もうとしてるね? 思い込んでしまえば自分の中では、それが“真実”になるから」


 そして暫くの沈黙の後、マスターは深い溜息を吐いて憎々しげに言った。


「……思い込まさせてくださいよ。何でそんなこと聞くんです?」

「いや、辛そうだったから。リアリストだろうが、君は人の仔だもの。プライドも心もある。どう足掻いたって辛くないはずがないよ」

「……っプライドなんてとっくにゴミ箱に捨ててますよ」


 マスターは吐き捨てるようにそう言うと、まっすぐ俺を見上げてきた。


「僕のつまらない誇りなどより、僕は何をしてでも大切な物を守り通します。例え世界の全てから嫌われようとも、必ず守る。それこそが、僕の誇りとなるのです」


 俺は葉をザワリと揺らし、その言葉を噛み締めてからまた尋ねる。


「……聞いたことのある台詞だね?」

「―――そうです。かつて僕の大切だった人に、教えられたのです。そしてその時から、自分の心もそう在ろうと決めたんです」


 俺は感心して、思わずマスターを褒めちぎった。


「凄いね。とてもカッコいいと思う。誰にでも真似の出来ることでは無いよ。本当に凄い志だ!!」


 まっすぐと俺を射抜いていたマスターの視線が、げんなりと座る。


「……何を言ってるんです、アインス様。そんなに褒めたって何にも出ませんよ?」

「いや、俺は何もいらないよ。君達が居てくれるだけで、こんな幸せなことは無いんだから」


 俺はそう言って枝を揺らせた。

 マスターがまた深い溜息を吐いた。


「はぁぁぁー……っ。……いいですよ、分かりました。たまにはお話しを聞きましょう。話をされたいんでしょう? お茶を入れて差し上げますので、どうぞ心ゆく迄お話ください」


 マスターはそう言うと、どこからとも無く出したカートの上で、お茶の準備を始めた。

 ……え? うそ、『何も出ない』って言ってたのに、お茶出してくれるの!? 何というツンデレ!?


 俺はドキドキと喜びに打ち震えつつも、枝をフリフリと振ってマスターに断りを入れた。


「ありがとうマスター。だけどね、俺はただの樹だ。折角だけどお茶は飲めない。本当に心から申し訳ないのだけど、出来ればただの水を注ぐ方向でお願いしたいかな」


 するとマスターはニコリと俺に笑顔を見せてくれた。


「そうでしょうね。しかしもう淹れてしまいました。だから僕が淹れたお茶を無駄にした罪悪感で、精々苦しんで下さい」


 なんと! デレたと思わせてからの、まさかの手の込んだ八つ当たりの嫌がらせ!? 

 俺は枝を大きく震わせ、笑顔のマスターに叫んだ。


「いいよ! 俺に出来る事なら何だってしてあげる。最近落葉のコツは掴んだから、取り敢えず悲しみに打ちひしがれて落葉をして見せる……」

「いい加減にしてくださいっ、本っ当に冗談の通じない樹ですねぇ!?」


 ……だけど俺が落葉する前に、マスターはまた鬼の形相でそう怒鳴ってきた。

 俺は困ってしまい、オロオロとマスターに尋ねる。


「マスターは一体、ただの樹に何を求めているんだい?」

「沈黙です」

「心ゆく迄話していいって言ってたのに……?」

「……(ブチ)」


 ……とうとうマスターから、何かが切れる音が聞こえた気がした。

 まぁ、多分樹のせいだ。よくある事だしね。


 俺は枝を揺らしながら、マスターに言った。


「まぁ、俺から君に話したい事なんて一言だけだよ。―――本当に頑張ったね、“魂を引き裂かれる痛み”によく耐えたね」


 俺を睨んでいたマスターはふと首を傾げ、俺の言葉を訂正する。


「魂に痛みはありませんよ? 他にも尋ねてみてください。魂を司るルシファーも、神々もそう言います」

「いや、あるよ」

「……」


 俺が即答すれば、マスターはまた険しい表情で俯いた。

 だけどそんなの慣れっこな俺は、気にせず話を続けた。


「特に悪意を以て打ち砕かれた時なんて、どんな英雄だって立ち上がれない程の痛みを受ける」

「……妄想ですよ」

「うん。痛みなんてね、結局のところそれを経験した者にしか分からない。だからルシファーも神々も、そう言ったんだよ。……だけど、別にそれは無情だからでも愚かだからでもない。―――知らないという事、それはただ“幸せな事”だと俺は思うんだ」


 俺がそう言った時、マスターの表情からふっと険しさが抜け落ちた。

 そしてどこか憐れみの籠もった、穏やかな声で尋ねてくる。


「……。アインス様は、それを知ってるとでも言いたげな口ぶりですね。何か御経験でも?」


 俺は葉を揺らしながら、少しはぐらかすように答えた。


「樹はいいよ。そんな痛みは感じないから」

「……そうでしょうね」


 マスターはそう言うと、カップの紅茶を俺の根本に溢してくれた。

 俺はじわりと土に染み込んだ紅茶を見て、また葉を揺らす。


「だけどちょっと残念だね。樹は匂いも味も感じないから」

「そうでしょうね」


 マスターはそう頷いて自分のカップに口を付けた。

 そして一息ついたあと、マスターは顔を上げて森に向かって、呼び掛けた。





「……ハイエルフ様、そこで見ていらっしゃるんでしょう? どうかされましたか?」





聖域編、もう一話続きます。

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