騒動の後始末
本日二投稿目です。( `・∀・´)ノ
ムナクソ注意です……(汗)
《シアン視点》
辺りが薄暗くなってきた頃、あれ程降っていた雪の勢いも少し弱まり始めていた。
ぼたん雪がハラハラと舞う中、精霊達はオレンジ色の光を篝火の様に放ち、子供達の帰りを待っている。
ポツポツと帰ってきた【樹】の住民達は、気を遣ってくれているのか、何も尋ねずそっと静かに家に帰って行った。
そしてオレとこの捜索に参加してくれた者達は、雪が降りかかるのも構わずじっと森を見詰め、立ち尽くしている。
「―――来た」
ふと森を見詰めていた叔父さんが、何処かホッとした声でポツリと言った。
オレも耳をすませ、意識を集中させる。
聴こえてきたのは、キシキシと雪を踏みしめる小さな足音。
オレは思わず走り出した。
「イヴ! クロ!!」
銀糸のブランケットに、仲良く二人で包まりながら駆けてくる元気な姿。
それを見た瞬間、なんかもう、ただひたすらに嬉しかった。
「父ちゃん! イヴがいたよ!」
「おぉ! 凄いぞクロ!!」
そう言ったクロはオレにとって、本物の勇者よりも頼もしい存在に思えた。
駆け寄って、オレはブランケットごと二人を抱き締める。
「本当に心配したんだっ、何より先ず無事で本当に良かったっ」
すると二人は同時に顔を見合わせ、申し訳なさそうに謝ってきた。
「ごめんなさい……」
「うん、一人で森に入っちゃ駄目だったのに……ごめん父ちゃん」
「いやいいんだ、本当に無事ならもういいんだよ。オレの方こそ、イヴの気持ちも確認しないで、勝手に『こうしたらいい』って思ってごめんな。二人に約束破らせたのはオレなんだ。……だからごめんっ」
この一件の事の発端は、オレの不用意な一言だったんだ。
オレの謝罪にイヴは一瞬キョトンと首を傾げ、何かを思い出したように頷いた。
「うん! 今度からね、私ガラムおじさんに教えて貰う事にしたの。シアンは弱いから、明日からイヴが守ってあげるね!」
「ぶふっ……」
「……プ」
「―――……うむ!」
「……」
一瞬背後から、幾つかの笑いを噛み殺し吹き出した声と、まるで春のお花畑を思わせる歓喜のオーラを感じた。
―――……てか、ハッキリ言われるとキツイなぁ……。マジで。
ガツンガツンと削れるオレのHP。
……もはや、立つことすらままならないと思ったその時だった。
「っでもね、私お魚のパイも作れるようになるの。だから作り方教えてね、お父さん」
―――!?
お
おとう……?
「イヴ! それ内緒っ!!」
「あっ、そうだった! ―――……あれ? おとう……じゃなくてシアン、どうしたの? 瞳孔開いてるよ」
「っごは……っんな、なンデモナイヨォ!」
っていうか『内緒』って何!? 森の中で何があったの!!?
しかも『おとう……じゃなくてシアン』って言った……? やっぱオレの事ですか?
―――オレの事ですか!!?
「大丈夫?」
「うんっ!」
もうね、何ていうかね…………不意討ちはダメですっ!
◆◆◆
……そしてオレが何とか立ち上がるまでに回復した頃、クロが声を上げた。
「父ちゃん、腹減った!」
「あぁ、そうだな。うん。もう出来てるぞ。今日はクリームシチューだ。雪だるまさんパンも焼いたんだ」
「わぁーい!」
「早く食べたい!」
オレは頷き、捜索に協力してくれた皆に礼を言った。
「―――ありがとうございました。また後日、お騒がせしたお礼に行きます」
「いいよ、構わないで。本当に」
ミアが笑顔でそう手を振った。
オレはホッとして踵を返す。
「父ちゃん。おれね、森でスライムテイムしたの。キールって言うんだよ」
「そうなんだ。凄いじゃないか。……変わった色のスライムだな?」
「ねー? おれも思った」
―――そんな話をしながら歩いていると、また背後からミアの楽しげな声が聞こえてきた。
「ねえ皆。今回の騒動の責任と謝罪だけど“薬局のおじさん”がしてくれるんだって!」
……何?
思わず振り返ってみれば、ミアの視線の先には無表情に佇む一人の男が居た。
更に見渡せば、そこに集まった面々も興味深げに……否、面白そうにその男を見ている。
「―――へぇ? 責任ねぇ……どうやって取ってくれるんだ?」
ベリルがニヤニヤと嗤いながらそういった所で、オレはやっとミア達が、何の話をしているのかに思考が追いついた。
オレは慌てて声を上げる。
「ま、待てよ! そいつは関係ないだろ? 今回二人は無事だったし、そいつも知らなかったって……それに、オレが突っ走ろうとした時、みんなを呼べって言ったのは……」
だけど擁護しようとたオレの言葉は、レイル本人によって遮られた。
「そうだよ。あの子の起こした騒動は僕の責任だ」
レイルは完全にオレを無視して、淡々と話を進める。
「先ず今後の対策として、もう僕はこのジャックグラウンドには近付かない。勿論この大陸のダンジョンも全て撤去する。そしてこれから僕は【暗い森】に行く。そこで謝罪させて貰うよ。―――あんた方だって子供の前だと気が引けるだろ?」
その言葉に、ベリルやミアが愉しそうに笑う。
「わかってるじゃねぇか! いいぜ。いつもはその面なんざ見たくねぇが、今回ばかりは門を開けといてやる。……分かってるだろうな? キューブは持ってくんなよ?」
「っだからお前らいい加減に……」
オレは焦ってベリル達を止めようとしたが、その言葉を言い切る前にレイルが頷いた。
「勿論だ。但し今回の謝罪はあの子の事についてのみ。それ以外については全く以て謝るつもりはないから、それだけは了承しといてもらうよ」
「はっ、いい度胸じゃねぇか。まぁ、そんな事で手加減しねえケドな?」
誰も止めようとしないその場で、オレだけが必死に叫んでいた。
「だからベリルっ、調子に乗んなって! そんなのただの腹いせだ! レイルもよく考えろよ! おかしいって分かるだろ!!?」
「よく考えた上での事だけど?」
「ほらほら、シアン様、本人もこう言ってるんだし、謝らせてあげよ? ね!」
「……っ」
レイルとミアは、完全にオレを眼中におかずに話を進める。
その時、オレの腕を引っ張る者が居た。
「―――シアン、どうしたの? 早く行こうよ」
「……イヴ。ちょっと待ってくれるか?」
オレがその手を押し止め顔を上げた時、レイルは何でもないように笑って言った。
「いやいい、待たなくていいよ。シアンは二人に早くご飯を食べさせてあげて? あそうだ、最後にこれだけあげるよシアン」
そう言うとレイルは懐から平たい小箱を一つ取り出し、オレに投げてきた。
「何?」
「【鑑定】された時、指定してある内容を文字化けさせるアイテムだ。“卵用”も併せて多めに入れてある。今後要るだろ? あげるよ」
「いや要るけど……」
「代わりに一つだけ頼んでもいいかな」
「何?」
止める間もなかった。
レイルが踵を返しその姿が掻き消えた時、声だけが一拍遅れて響いてきた。
「後で、僕に【魔石】の欠片をまた与えてよ。まだやる事があるから」
◇◇◇◇◇
「―――って事があったんだ……。もう、あいつ何考えてんのか分かんねぇ……」
オレは先程目覚めた、ロゼに愚痴った。
ロゼは今、子供達が寝てからオレが焼いたアップルパイに齧り付いている。
結局あれから数えて十時間後、オレはあいつに再び魔石を与えた。
ベリルやミアはオレには仲良くしてくれているが、基本その性は残忍。特にレイルのような奴がなんの備えも無く相対して、無事でいられる筈が無かった。
オレの溜息に、ロゼは深く頷いて言った。
「……うん。やっぱりガラムの作ったやつの方が美味しいね」
……相変わらずマイペースに、見当違いの回答をくれるロゼ。
ある意味予想通りの答えだった。
オレはため息混じりに頷いた。
「……はい、精進します」
また鬱々とオレが肩を落としたその時、ロゼが口元についたパイの欠片もそのままに、オレを見上げてきて言った。
「……で、何を落ち込んでるの? 話を聞く限り、僕は普通に“マスターの一人勝ち”だと思うんだけど」
「―――……え?」
オレは逆に想定外の答えに目をぱちくりさせ、ロゼを二度見した。




