表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
420/582

初めての契約

本日二投稿めです(о´∀`о)

 《クロ視点》


 イヴとマリーが、おれの目じゃ追うことすらままならない決闘(遊び)をしてる間、おれは胸に抱えたブランケットを床に降ろし、そっと開いた。

 中にはここに来る途中で見つけた、黒いスライムが入っている。

 ……て言うか黒い? スライムは確か様々な色で【半透明】が基本だった筈だけど……? ―――まぁいいか。


 ブランケットを開けると、さっきより幾分が元気になったのか、黒いスライムは少し柔らかさを取り戻してダレていた。

 だけど一拍後、急にブランケットを開かれたことに驚いたのかキュッと収縮し、丸いボールみたいになってしまった。


 ―――これも図鑑に書いてあった。

 スライムは怯えると丸くなる。体内にある【核】を守る為の本能的な行動だと考えられている、だそうだ。

 おれは自分の肩掛けカバンから、ロゼにあげようと思っていたガラムのおっちゃん特製クッキーを出し、スライムに近づけてみた。


「怖がらなくても良いよ。君を傷つけるつもりはないんだ。ほら、これ。君にあげる」


 黒いボールは暫くじっとしていたが、とうとう気になるのかにゅっと細い触手のようなものを伸ばし、ペタペタとクッキーを触った。

 だけど黒いボールはクッキーを触れども、中々食べようとしない。


「……君もしかして、食べ方わからないの?」


 あまりに不器用な仕草におれが尋ねると、ボールは驚いた様に触手を引っ込めた。

 そしてまた、ただのボールの様になってコロコロとブランケットの上で転がった。


 ……ていうか、捕食の仕方を知らないスライムなんて始めてだ。

 それにこの怖がり様、サイズこそ成長しきったスライムと変わらないけど、案外“生まれたて”なんて可能性も無くはない。

 怖がってるけど逃げようとしないのは、逃げ方がわからず、どこに行けばいいかもわからないから……?


 おれはボールにになってしまったスライムを、とりあえず撫でながら、どうしたものかと考えた。


 ……あの雪の中、満足に食事が出来ていたとは思えない。

 と言うか本来スライムは雑食なのに、あの捕食の下手さを見る限り、今迄何かを食べた事って無いんじゃないだろうか?

 生まれたてという説がいよいよ有力になってきた。


 ボールはおれの手の中で、緊張からかはたまた恐怖感からか、より一層身を硬くさせ、弾力のあるゴムボールの様になっていた。

 ……このままでは餓死してしまうかもしれない。

 おれは何か役に立つものがないかと、鞄の中を漁ってみた。


 ――――クッキーにキラキラシール、水の革袋にハンカチに、石のナイフ、それに火打ち石……


 どれもさほど役に立ちそうに無かった。

 だけど鞄の一番奥に小さな小瓶を見つけた時、おれはハッとしてそれを取り上げた。


 それは以前、ジルさんとロロノアさんから『本をシェアしたお礼に』と貰ったインク瓶だった。

 勿論ただのインクなんかじゃない。【テイマー】達が魔物を捕獲する際に必要な【契約紋】を描く時に使うインクだ。

 その顔料には砕いた【魔石】が使われていて、術者の血と水で溶いて使う。


 おれは悩む事なくその瓶を取り上げ、蓋を開けた。

 石のナイフで親指を突き、ぷくリと出てきた一滴の血を、顔料の粉の中に落とす。

 水筒から少しの水を更に足し、指で捏ねてインクを作った。


 契約紋には基本の形があると、このインクをくれたロロノアさんは教えてくれた。


 先ずは紋の形。【始】を意味するルーン文字で円を描き、最後に【結】を意味する句点をつける。

 その円の中に契約内容を書き込んでいくのだが、現在の【テイマー協会】で教えられていると言う基本文はこうだった。


 一、汝契約者を傷つけてはいけない

 二、汝契約者の命令は絶対である

 三、汝契約者の許しがない限り、捕食をしてはいけない

 四、汝契約者を裏切ってはならない

 五、汝契約者の許可無しに契約を反故にしてはならない


 これが獣に渡す契約紋。そして、契約者であるテイマーは、これに対となる契約紋を手に焼き付けるのだ。


 ―――だけどおれは知ってる。


 父ちゃんの契約紋はこれを完全に無視して、ルドルフと契約してる。

 そこにはたった一文だけ、こう書かれていたんだ。



 “一、汝、契約者と永久に対等なる友であれ”



 ―――……カッコいいと思った。


 その時、おれも父ちゃんみたいなテイマーになって、無二の相棒を見つけたいと思ったんだ。


 おれはまた硬いボールと化している、ビビリなスライムに目をやる。

 おれは硬いボールを撫でながら、独り言を呟いた。


「まあでも、おれと君はさっき出会ったばっかりだ。“友達になれ”っていきなり言われてもきっと困るよね」 


 そしておれは、インクで文字を書く。

 この時の為に、幾つかの文言をずっとこっそりと練習してきてたんだ。



 “一、汝、契約者のマナを食せ”

 “二、汝、この契約を放棄する権利を与える”



 おれはその二つの契約を書き込んだ契約紋を、ボールにじゅっと焼き付けた。 


「はい。自分で捕食できるようになるまで、おれと契約しよう。何処かに行きたくなったら、すぐに解約してくれればいいからね」


 そう言って、おれももう一つの契約紋を握り込んだ。

 その時一瞬だけ目眩を覚えたが、何とか踏みとどまった。

 これでボールがこの契約を拒否すれば、この契約紋はすぐに剥がれ落ちる筈だ。だけど、どうやらこのボールは破棄せずにいてくれたようだった。

 おれは手に握り込んだ契約紋に、意識を集中させてみる。

 すると、おれの意識が吸い込まれるような感じがした。


 契約紋とは不思議な物で、そこを通じて契約対象者の感情を共有出来る。

 初めは突然の契約に戸惑っていたボールだけど、次第にその感情に安心と喜びが混じってくる。

 そしてその感情が高まるにつれ、ボールの形がもにょもにょと変わり始めた。

 やがて最終的には、元の丸いボールから二つの三角が突き出すような形でその変形を止めた。

 おれはその姿に思わず笑った。


「あっは、それもしかして【キメラ】のつもり? その三角、ねこちゃんの耳つもりでしょ。おれの記憶を読んだの?」

「キヒッ!」


 驚く事に、スライムが返事をした。

 口はないから、多分外皮膜を擦り合わせて、鳴き声をあげたのだろう。そう。昆虫が鳴くのと同じ手段だ。


 どこか得意気に転がるネコ耳スライム。

 おれはスライムを抱き上げ、耳の間を撫でた。


「よろしくね。おれクワトロ。皆にはクロって呼ばれてる」

「キヒ?」

「あ、そっか。君、名前ないんだよね。じゃあ“キール”ってよんでいい? キメラのフリしてくれるし、ボールみたいだから」

「キキッ」


 こうして、この子の名前はキールに決まった。

 キールは暫くおれの手に、身体を擦り付けてきていた。

 だけどその時テイムのせいか、ふと何とも言えない疲労感と空腹感に襲われた。


「あー、なんだかテイムしたらお腹空いちゃったね」


 おれはそう言ってキールを膝の上に乗せ座り込むと、残っていたクッキーを食べる。


「……全然足りない」


 おれがそう笑いながらキールの頭を撫でていると、やっとイヴとマリーがやって来た。


「負けたぁー! マリーちゃんすっごい強い!」

「えへへ。イヴちゃんも流石だね」

「うんー。あれ? クロ、それなぁに?」


 イヴがキールを指さして尋ねてくる。


「うん、キールって言うんだ。今テイムしたスライムだよ」

「ふーん。変なの。たぬきの耳がついてるの?」

「キヒ!?」

「ちょっとイヴ!? ねこちゃんの耳だよ!? 全然狸じゃないじゃない! キールがおれの為に頑張って生やしてくれたんだから、そんなこと言っちゃ駄目だよっ」

「えー、でも……」

「これだけはイヴでも譲れないよ! これはおれの為のねこ耳だっ!」

「キヒ……」


 イヴの一言に、おれの手の平の契約紋から一気に悲しみのオーラが吹き出し、おれは慌ててキールを抱きしめながらフォローしたのだった。


大人組がきな臭い雰囲気なので、子供組を書くとホッとします(*´ω`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ