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番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件⑩〜

「―――テメェ、2度と魔物の事を醜悪とか抜かすんじゃねぇぞ」

「ば……バカな……この僕が……僕は勇者、だぞ」


 ―――あれから一刻半。

 オレは魔剣ツヴァイ様を肩に掛け、しゃくれ顔で勇者を見下ろしていた。

 勇者はオレの足元でうつ伏せに倒れ込み、起き上がる力さえなくし呆然としている。


「おー? バカはおめーだろーがよ勇者様。呆れる程に魔法の使い方がなってねー。まるで最高級の絵の具を100万色渡された幼児だ、テメーはよ。宝の持ち腐れもいいとこ過ぎんだろ。な、オレみてーな鉛筆1本使いにこてんぱんにやられちゃって恥ずかしくねー訳? なぁオイ!」


 口調がルドルフっぽくなってるのは分かってる。

 だけどレイス様の創作品を貶められた怒りで、この時のオレはもう自制というものが出来なくなっていた。


「え、絵の具?」

「マナ保有量と使い方の例えだよ、頭ワリーな。力押しだけで全然的外れなんだよ。絵の具ぶつけるだけで絵なんか描ける訳ねぇだろ。なんとなくで魔法使ってんじゃねぇ。ゼロス様が見たら悲しむぜ?」


「このっ……魔人め! 僕に、勝てたのは、その禍々しい剣のおかげだろう!」

「禍々しいゆうな、このボケが!」

「ぐはっ」


 オレは地に伏す勇者の頭を踏んだ。


「確かに魔剣ツヴァイ様には素晴らしい技が記録されてる。だがそれはオレにゃ使えねー。アンタとの勝負は全部自前だよ。鍛錬怠り過ぎだ、このどぐされ……いや、ドグサイ勇者様? はっはー」


自分のつまらないギャグに乾いた笑いをこぼしていると、足の下からまた呻き声が聞こえてきた。


「バカなっ、僕は見たぞっ! 貴様は確かに剣を掲げ空中を駆けていた! いや、あれも魔法か!? 魔法なのだろう! この人外の化け物め!」

「……あ・の・な」


 この空想力だけは地上最強の勘違い勇者に、オレが更に優しい解説をしようと口を開き、頭に乗せた足に力を込めようとしたその時。

 不意に別の声がオレの言葉を奪った。


“―――違う。勇者よ、あれは瞬歩という体術だ”


 それはいつもは寡黙な聖剣ヴェルダンディ様の御声だった。


 オレは思わず勇者の頭から足を除け姿勢を正す。

 そして勇者も驚いたように声を上げた。


「ヴェルダンディ!」

“勇者アレンよ。ガルシアは正真正銘唯の人の子だ。彼の者は数奇な巡り合わせと、弛まぬ努力であの力を得た。見ろ、魔剣ツヴァイに“瞬歩”や“牙突”、更には“連翔斬り”等という技をお前より先にツヴァイに覚えさせたではないか。主も弛まず強くあれよ”


 勇者を嗜めるそのダンディーな物言いに、オレの勇者に対する怒りは徐々に収まってゆく。


「ヴェルダンディ、教えてくれ! あいつは、あいつは何者なんだ!?」


“ガルシア。 それは我らの誕生を見届けし者……”


 そう、懐かしいな。

 それはオレが聖域で目覚めた、まさにその時にこの2本の剣が神々によって創りあげられたのだ。


「聖剣の……誕生を!? そんな、まさかこの方が聖剣を創り者だったのか。 ……はは、は……そうか、僕は愚かにも神に刃を向けていたということか……敵わない、はずだ……な」


 勇者はそう言うと、美しく尊み溢れる顔でフッと笑い意識を手放した。


 ……って、違う! ちょっと寝るな、勇者!

 オレは神じゃないぞ! ヴェルダンディ様も“唯の人”ってちゃんと言ったじゃん! 聖剣とか創ってないからね?!

 なんでコイツは1を聞いて、1から10まで間違えられるんだ?

 そんなんだからレイス様に“人間は賢くない”って言われるんだってば!


 オレは慌てて勇者の頬を腫れ上がるまで叩いたが、勇者は満足げに誰もが見惚れる笑顔(クソ腹の立つ顔とも言う)を浮かべながらすやすやと眠り続けたのだった。




 ◆




 結局あの後まる一日待ってみたが、ラスボスとの決戦でもして力を使い果たしたかの如く、勇者は意識を取り戻さなかった。

 仕方なくオレは聖剣ヴェルダンディ様に言伝をお願いすることにした。

 伝言とはつまり、誤解を解いて頂く事と馬車の世話である。

 馬は世話が無理なら何なら乗って行ってくれても構わない。いつ戻れるか分からないからな。

 ま、本来は馬は御者が面倒を見る筈だったのだが……


「私もついて行きます。その地下に納められてる宝にはルドルフ様の御姿も刻まれているのでしょう?! 駄目と言われるなら馬も連れていきます! そうでしょう、ポニーちゃん? あなた達は出来る子だもの……ね?」


「ヒヒヒーーーン!! ブルルッッ」


 ……オレの馬がなんか恍惚とした表情でジュリを見つめてるような気がするんだけど……気のせいだよな? 駄目だ、頭が痛い。考えるのはよそう。


「……わかったよ」


 というわけで、名残惜しげにジュリを見つめる馬を無視して、オレ達はいよいよ迷宮に入ることになったのだった。


 オレは迷宮の入り口で先ず、戦力としてカウントしてないリーナとジュリに賢者の石を使って強めのシールドを掛けると、荷物袋の奥底にその赤い石を仕舞い込んだ。

 賢者の石で張ったシールドだ。多分隕石が直撃するくらいの衝撃が来ても、この二人にはもう傷ひとつ付くことはないだろう。

 シールドを掛け終わると、リーナが挙手してオレに尋ねてきた。


「あの、このダンジョンで、私もガルシアさんから学んだ魔法を使ってみてもいいでしょうか」

「ああ、別に構わない。だけどオレの助けになるような行動は取るなよ」

「……分かりました。けど、普通逆じゃないですか? 邪魔にならないように……とか」

「ははは」


オレの半分本気のジョークにいちいち頬を膨らますリーナを笑っていると、何故か頬を赤らめたジュリがモジモジとしながらなにか口走ろうとしてきた。


「私もぉ、御主人様の……」  

「お前はマジで邪魔しなければ何でも良い。寧ろ勝手にして早く迷子になってくれ。探さないから」 

「……まだ、何も言っておりませんが」

「お前の下ネタはコリゴリだ。さ、行くぞ」

「御主人様ぁっ!」

「逃げろリーナ! 怒ったメイドが現れた!」

「はいっ!」


 こうしてオレ(達)のダンジョン攻略は始まった。



 ◆



 +++地下一階+++


「……なんといいますか、薄暗くて剥き出しの岩壁に奇妙な松明が掛かってて、気味が悪いですね……。慎重に行きまし……」

「すっげー!! おい、リーナ! この松明の掛け金見てみろよ! チョーカッケー!」

「……」


大人しいリーナを他所に、オレはダンジョン内の世界観に酔いしれていた。


「御主人様、宝箱を発見しました。中身はハーティの草でした。雑草ですね」

「いや待て! っっちょー! その宝箱も何!? 繋ぎ目タールでドロドロのジグジグっ。斬新すぎるだろ! コレ、完全レイス様ワールドじゃん!! うひょおぉーーーっ!!」

「……」


冷やかな視線を送ってくるリーナを他所に、俺は隠し通路すら見落とすことなく駆け回って堪能していた。


「あらあら。御主人様ったら、まるで少年のようにはしゃがれてらっしゃる」

「……」

「あら、ゴブリン。確かご主人様に聞いた、急所はココ」


 ピシッ!


「ゴブふぅんっ♡」

「あら、違った?」

「……」


早くツッコミを入れてくれと助けを求めてくるリーナを他所に、オレは夢中で探索しまくった!


 ―――ダンジョン内部。それはオレにとってパラダイスでした。



 ◆



 暫く走り回って、ふとオレは我を取り戻し立ち止まった。


「ん? そういや、ここ何階だっけ?」

「「……188階ですっ」」


 二重唱の声に振り向けば、そこには青ざめ、息を切らせながら顔に無数の血管を浮き上がらせる二人の般若が立っていた。


「は、はは……すまん。ダンジョン入って何日位経った?」

「「2日ですね。休憩も食事も睡眠もとってませんがっ」」


 2人はまるで打ち合わせでもしたかの様に、綺麗に声をハモらせる。

 青ざめてんのは恐怖ではなく、寝不足とハンガーノックと、あとは疲労のせいか。

 いつも飄々とした体のジュリまでもが般若になってるから、コレはマジで怒ってるなぁ……。


 オレは明後日の方向を見ながら恐る恐るに提案した。



「あー、と。ちょっとここら辺で休憩しよっか? ……なんて」

「「当たり前だぁあぁぁーっっっ!!」」


 ごめんね二人共。

 ちょっとテンション上げ過ぎたー☆



 ◆




 簡単な食事を済ませると、リーナとジュリはドロのように眠ってしまった。

 時たまどんな夢を見てるのか、叫び声を上げては泣いている。……可哀想に。

 オレも少し眠ったがこの叫び声で目覚めてしまい、今は沸かした茶をすすりながら、ここまで駆け抜けてきたダンジョンの各所を思い出していた。


 まず1階から20階迄の魔物……いや、仮想生命体だからモンスターと呼ぶべきか。

 この辺りの階層のモンスターはゴブリン等のF級モンスターばかりだった。

 下に降りれば数が増えたり連携を取ったりしてくるものの、然程問題にはならない。

 そしてモンスターを倒せは、魔石と一緒にアイテムがドロップされた。

 そのドロップアイテムの種類は豊富で、そのモンスターの特有の部位の時もあれば、鉱石や加工された武器の時なんかもある。

 更には肉や野菜、菓子類なんてこともあった。

 しかも不思議なことに、ドロップされた食い物系は今の所傷む気配がなかった。

 常温でも肉は腐らず、アイスクリームも溶けない。しかも食べるとちゃんと冷たい。

 ……多分、色々と人間の食事を研究なさってくれたのだろう。なんて、無口なレイス様の思いやりを感じ、オレはほっこりと幸せな気持ちになったのだった。


 さて、手に入れた魔石の方についてだが、こちらはルーン文字を組み込んで、魔法発動のバッテリーとして使う事になる。

 とはいえ、上層階の魔石なんてもはや石か?! って程の純度の低さなので、そこら辺の魔石はすぐ駄目になって、使い捨てもいいとこだった。


 それ以降、同じ感じで20階層ごとに魔物の強さはワンランク上がっていった。

 階層の部屋も下に降りるほど広くなっていったので、多分ダンジョンの全容としては円錐型ピラミッドみたいな造りになっているんだろう。

 また20階までは石造りの地下迷路という感じだったが、そこから下はまるで地下とは思えぬ景色が広がっていた。

 広大な森で太陽が差し込む階層、マグマが煮えたぎり間欠泉の吹き出す階層、陸のない深海の階層なんて空間もあった。

 そんな不思議空間の中でも、100階層以降からはA級からSS級までのモンスターが入り混じって徘徊しだした。

 とはいえこのA級以上ともなると、流石に魔石を使っても人の手に負えないと判断されたのか、モンスター達の防御はともかく、攻撃力の威力はかなり抑えられてた。

 各種族の特有魔法は使ってくるが、その威力は本物の3分の1もない。その辺にまた、オレはレイス様の思い遣りを感じホッコリとしてしまうのだった。


 ただ驚いたのが、このダンジョンに眠る宝箱の数々。

 中にはハイエルフ製のミスリルの武器や防具(中古品)、リアル聖獣達の部位、ヒヒイロカネやアダマンタイトの原石等など。そんな聖域でも滅多にお目にかかれない品々が入っていたのである。


 更に最下層付近に納められていた神獣様の部位や、神の爪(レイス様の体部)、アインス様の水差し(ジョーロ)が入ってた時は、思わず宝箱にそっと戻し、更に厳重に鍵を掛け直しておいた。

 ―――これは駄目ですレイス様。

 最早人のキャパを超えてます。


 180階を超えた辺りから、見慣れた聖域の風景が広がった。

 この時になってオレは漸く気付いたのだが、このダンジョンの地下21階以下の景色は、どうも全て外の世界を元にトレースされているらしい。

 183階でオレが以前小屋を構えた側の泉を見つけた時なんか、思わず辺りを見回してルドルフの姿を探してしまった程、細部に至るまでリアルが写しあげられていたのだった。



オレはダンジョン内で見聞きした事を手帳にメモし、またお茶を啜った。

 そしてポツリと呟く。


「――――レイス様。世界ってこんなに広かったんですね。オレ、いつか本物も見てみたいです」


 ……とはいえ、オレには今後このダンジョンをクリア出来るレベルまで、人間達の力の底上げをしなくてはいけないという使命がある。

 そしてその育成は一朝一夕に出来るものではなく、それを任されたオレにのんびり世界を回ってる時間など無いことも分かってはいたんだ。


 ―――だけど今そこで寝てるコイツ等と、もしあれらの景色を巡ることが出来たら……きっと楽しいんだろうな。



 そんな事を少しだけ夢想してしまったんだ。


8話くらいのつもりだったんですが、全然終わらない。


詰め込み過ぎなんでしょうね。


ブクマくださだた方、ありがとうございました!明日辺りに、最終話をアップします。

現在、張り切って執筆中!

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