雪玉を落とせ!!
《イヴ視点》
シアンが私を見つめてくる。
刺すような視線。一挙一動すら見逃さないように私を見ている。
……シアンが私を見てる!
私は楽しくなって、なるべく真っ直ぐな小枝を拾い上げると、マナは込めずに力いっぱい弓を弾いた。
小枝は狙い違わず一つの雪玉に当たる。
―――カッ……
だけど小枝は雪玉に弾かれ、砕けて落ちた。
「しっかり狙えよイヴー」
シアンはそう言うと、3つの雪玉を操って私に投げつけてきた。
私は横に転がってその雪玉を躱すと、雪玉は雪スレスレを掠め、茂みに突っ込んだ。
だけど雪玉は砕けることなく、茂みの枝をへし折りながら進み突っ切ると、またシアンの元へと戻っていった。
……ふむ。
私は跳ね起きてシアンから距離を取り、大木の後ろに隠れる。
そして今度はちゃんと魔石のマナを込めた小枝を【矢】として放ってみた。
―――パシャ
その矢で貫かれた雪玉は、あっけなく崩れて地に落ちた。
なる程。シアンは雪玉が誘導に耐えられるように【固化】の魔法を掛けてるんだ。
そしてそれは、一定以上のマナを込めた矢でしか貫けなくしてるんだろう。
残りの雪玉はまだ沢山あるけど、私がマナを込められるのは後九発分。もし貫通を狙えば当然、余計にマナを込めなきゃいけない。
……つまり矢数が足りない。
私は再び考える。
シアンは『よく考えろ』と言っていたのだ。
足りないマナでどうやって全部撃ち落とす? マナを調整して……じゃあないな。だってこれは【弓矢の練習】だから。
なら、どうやって全部撃ち落とす? ……シアンは他になんて言ってた?
『これを渡す。これで好きなものを“矢”にしていい。だけど込められてるマナはMP10だけ。せいぜい十球を撃ち落とす程度のマナしかない。上手く考えて使うんだぞ』
好きなものを矢にしていい。
そしてマナはMP10だけ。まあ、残りはもうMP9だけど。
他には?
『―――今日の訓練は、的当てだ。オレが二十球の雪玉を魔法で誘引して動かすから、イヴはそれを撃ち落とすんだ』
……そうだ。
雪玉を誘導してるのはシアンなんだ。
“それを撃ち落とせ”とシアンは言った。
雪玉を撃ち落とす為の“的”は“雪玉”とは言ってない。
私がハッとして顔を上げた丁度その時、木の向こうからシアンの声がした。
「考えは纏まったか?」
同時に、私の隠れている木の両サイドすれすれを、十球の雪玉が勢い良く通過した。そして私を見下ろすような位置で、ピタリと止まる。
「“的”が大人しく“的”でいてくれるなんて思うなよ」
シアンの声と同時に、静止ししていた雪玉は私目掛けて一直線に飛んできた。
私は弓を握りしめて跳び上がる。
そしてそのまま木の幹を蹴って、3メートル上の木の枝まで駆け上がった。
クロと遊んであちこち踏み固められているとはいえ、新雪の上を逃げるには足場が悪いし、動きも単調になる。
私が木の枝に着くやいなや、十球の雪玉は私を追って木の上まで飛び上がってきた。
私は試しにその一つを蹴り飛ばしてみる。
だけど手応えはなく、3メートルほどふわりと落ちかけた雪玉は、またこちらに戻って来た。
同時にシアンの声がまた聞こえる。
「ズルはだめだぞー! ちゃんと【矢】を使って撃ち落とすんだ」
……やっぱり駄目か。
私は十球の雪玉を避けながら、九球の雪玉を纏うシアンに目を向けた。
もうこのルールの中で、雪玉を落とす道は一つしかなかった。
―――矢でシアンを仕留める。
そう。十球の雪玉の攻撃を避けながら、残り九球の雪玉を掻い潜り、シアンが術を維持できない攻撃を【矢】で撃ち込む事。
それが、この訓練のクリア達成条件だ。
◆
《シアン視点》
「流石だなぁ……」
オレは雪に仰向けに倒れ込みながら、そう呟いた。
無防備に倒れ込んだオレの上にはイヴが馬乗りになって、引き絞った矢をオレの喉仏に突きつけていた。
嬉しそうに無垢な笑顔を浮かべながら、それは得意げにオレに言う。
「私の勝ち?」
「うん、勝ちだよ。そしてオレの負け」
オレがそう答えれば、イヴはオレの上から跳び下り小躍りを始めた。
そしてオレは雪に倒れ込んだまま空を見上げ、前からずっと考えていた事を実行しようと心に決めたのだった。
―――イヴを、叔父さんに預けるかぁ……。
寂しさで深い溜息を吐くと、少し離れた所からクロの声が聞こえた。
「父ちゃーん! お客さんだよぉー!」
ふと視線を向ければ、いつの間にか“薬局のおじさん”ことレイルがクロの隣に佇んでいた。
オレはむくりと雪か身体を起こし、そちらに顔を向ける。
レイルはパチパチと手を叩きながら、イヴに声を掛けた。
「流石イヴちゃんだね。幼い身体を【龍脈術】で完全にカバーしてる。武器の扱いも非の打ち所が無い」
「あっ! 薬局のおじさんだ! こんにちわ!」
どこからどう見ても善人の笑顔でそう言ったレイルに、イヴも嬉しそうに手を降った。
オレも座り込んだまま、雪を払いながら声を掛ける。
「呼んでもないのに珍しいな。何かあったのか?」
レイルはニコニコと笑いながら、オレの方に歩みを進めた。
「うん、ちょっとね。シアンに渡した【スレッド】を貸してくれる?」
「あぁ、いいけど何するんだ?」
「ちょっと“見守り設定”にしとこうと思って」
「?」
オレは首を傾げつつも、コインのトップスが付いたペンダントをレイルに渡した。
レイルはコインの裏に嵌められたクリスタルを立ち上げると、映し出された画面に何かの魔法陣を書き込んで行く。
「薬局のおじさん! 今日は泊まっていくの? また色々教えて欲しいの」
イヴがそう言って、魔法陣を書き込むレイルのコートの裾を引っ張っると、レイルは困ったような笑顔を浮かべながら、首を横に振った。
「ごめんねイヴちゃん。【龍脈術】については、もう僕が教えられる事は無いよ。本当にイヴちゃんは飲み込みが早かったからね。今日はこの設定をしに来ただけなんだ。だから、これが終わればすぐに帰るよ……と、これで良い。はいどうぞ」
「おお、よく分からんがサンキュー」
レイルはそう言うと、何らかの設定が終わったのかクリスタルをパチンと戻し、オレにまたそれを渡してきた。
見守り設定:有害サイトにアクセスしない為の設定としています。




