雪遊び
《シアン視点》
新雪の積もった真っ白な大地の上で、ロゼと二人の子供が楽しげに追いかけっこをして走り回っていた。
オレは少し離れた雪の上に佇んで、その様子を眺めている。
「待ってよイヴ! 追いつけないよ」
イヴとロゼを追いかけていたクロが、とうとう音を上げ立ち止まった。
クロは先日、とうとう驚異的精神力で飢餓状態を抜け出し、ようやく心身ともに安定して過ごせるようになったばかりだった。
クロがこうして力いっぱい身体を動かせるのは、実に半年ぶりだ。
一方その間にイヴは、既にオレすら超える高みへと至ってしまっている……。
だがイヴはクロに容赦なく言った。
「えー、運動不足だよクロ。もっと身体を動かさなくちゃ」
「わかったよ。頑張る」
「あんまり無理しなくていいよ、クワトロ」
「大丈夫だよロゼ。おれまだやれる」
……うん、頑張れ。倒れた時は担いで帰ってやるからな。
ロゼとクロがそんな一言二言の会話をしてる間に、イヴは何故か突然雪だるまを作り始めた。
……あれ? 追いかけっこは? 今の流れ、追いかけっこを再開の流れじゃ……?
「私お顔のパーツを探してくるから、クロは雪を丸くしておいてね。大きくだよ」
「わかったよ」
クロも何の疑問もなく頷く。気の移りが迅速過ぎて、もはやオレの思考が追いつかない。
「イヴ、雪だるまにねこちゃんの耳つけていい?」
「いいよ」
「今度は雪だるまー? じゃあ僕、猫用の美味しいお団子を雪で作るね」
「いいけどロゼは食いしん坊だねぇ」
……まぁ、いいか。
ふとオレは忙しない二人の中で、蹲って黙々と雪を集め出したクロの【ステータス】を確認した。
半年前の施術後以来、毎日欠かすことなくチェックしてきたステータス画面。
そしてその都度懲りもせず『見間違いならいいのに』と思い続けてきた画面でもあった。
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種別 半獣人 [属性【聖】【魔】]
名前 クワトロ
Lv 1
職業 【テイマー】
HP: 8/8
MP: 9,107/90,072
筋力:3
防御:1
敏捷:10
知力:4
器用:21
魅力:8
幸運:81
装備
頭 :【ウールの帽子】
胴 :【綿の服】
右手:【ウールの手袋】
左手:【ウールの手袋】
足 :【革のブーツ】
装飾:【銀糸のブランケット】
装飾:【禊の鈴】
装飾:【ウールのマフラー】
スキル【なし】
称号 【獣に愛されし仔】
加護 【獣王の加護】※【ウェルジェスの加護】※【ガルドルドの加護】※【サリヴァントールの加護】※【フェニックスの加護】※【フェンリルの加護】※【リリマリスの加護】
※は加護者の意思により現在効果無効中
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……。
……ふぅ。
やっぱり今日も見間違いじゃなかったか……。
うん。また明日に賭けよう。
オレは諦め、頭を振った。
そう。色々おかしいこの画面だが、クロが五歳の誕生日に卵を贈られて以来、クロのステータスには現在未発動のやばい【加護】が書き加えられてしまったのだ。
―――もう、こんなの見たら【禊の鈴】の練習をさせるしかないだろう。
この小さな両肩に、どんだけ期待がかけられているんだろうか? オレなら間違いなく押し潰されるだろう。
そんな理由もあり、オレはクロの体調管理もあって、結構付きっ切りでクロに鈴の鳴らし方の指導をしたのだ。
オレも然程上手いわけではないが、かつて先生達から“禊の鈴は音を刻み、それに【心】を乗せる事が重要だ”と聞いたことがあった。
だからクロにもその事を言い聞かせながら教え、練習をさせた。
それから暫くした頃、ある日クロが散歩中に森でそれを鳴らしていると、妙に鳥達が集まって来ているような気がした。
初めは気のせいだと自分に言い聞かせていたが、日を追うごとにその数は増えていった。
そしてもう、その鈴の音を聴きに来てると疑う余地がなくなってきた頃、事件は起こった。
―――それは、よく散歩に出かけていた例の湖畔で鈴を鳴らした時の事。
突然湖の水面が盛り上がり、大きな水飛沫を上げながら、伝説の聖魚【アース・キャット(大地のナマズ)】が現れたのだ。
それは体長十メートルを超える黄金のナマズ。
知能が高く、魔法で人語を操り、乾いた大地を掘り進んでは“水の魔法”で巨大な穴に水を湛えて、荒野に池を作り出す【水の守護神】とも言われる【聖獣】の一種だった。
唖然と見上げる俺達に、アースキャットは魔法の声で語りかけてきた。
『―――いい音だな。今話が聞こえたのだが【ナマズ】を探しているとか?』
『……あ、いえ。キャット違いです。猫の方ですので』
『……そうか。ナマズに乗り換えた際は呼ぶといい』
『ええ、お気遣いありがとうございます』
―――そんなやり取りをしたのが十日前。
その帰り道、SS級の魔獣【ウガルルム】(獅子の魔獣)に後を尾けられ、オレは速攻で叔父さんに相談したのだった。
そんな事があった夜、クロのステータス画面には新しく称号【獣に愛されし仔】が書き加えられていたという……。
「クロー持ってきたよー! ……あれ? 猫ちゃんって言ってなかった? 狸にしたの?」
「してないよ。ねこちゃんだよ」
「何かおかしいよ。私がやってあげる!」
「ありがとうイヴ」
「待ってイヴ、余計変になってるよ!?」
オレはふと、そんな声に意識を引き戻された。
子供達は何やら謎の生物を、楽しげに雪で作っている。
オレはクロの頭上の画面を手で振り払って消し、二人に声を掛けた。
「おーい! 二人共、それが出来たら、少し練習と訓練をして帰るか!」
「「はぁーい!」」
「ちょっとぉ、シアンも一緒に作ろう!? この二人じゃいつまでも終わんないよ」
「おぅ!」
そしてオレはロゼに誘われ、雪だるま作りに参加したのだった。
◆◆◆
―――やがて、立派な猫ちゃんの雪像ができた頃、クロとロゼは木の根元に移動して【鈴】を鳴らし始め、オレはイヴと向かい合った。
「よし、じゃあイヴ。今日は弓矢の訓練だ。練習はしてきたな?」
「はいっ!」
イヴの元気な返事に、オレは頷き荷物袋から二張の大小の弓を取り出し、小さい方をイヴに渡した。
「今日の訓練は、的当てだ。オレが二十球の雪玉を魔法で誘引して動かすから、イヴはそれを撃ち落とすんだ」
「はい! ……でも矢は?」
そう言って首を傾げたイヴに、オレは小さな魔石を一つ渡した。
「これを渡す。これで好きなものを“矢”にしていい。だけど込められてるマナはMP10だけ。せいぜい十球を撃ち落とす程度のマナしかない。上手く考えて使うんだぞ」
「はいっ!」
イヴはそんな無茶振りにも嫌な顔一つせず、目を輝かせながら頷く。
「じゃ、開始の合図は無し。何時でも来い!」
オレはそう言うと同時に、魔法を込めた二十球の雪玉を雪原の中から生み出し、縦横無尽に空中に舞わせた。
「はいっ、よろしくお願いしますっ!」
イヴはそれは楽しそうな顔でそう言うと、軽いステップで一歩跳び下がり地に落ちた小枝を拾いあげ、強く弓をしならせた。




