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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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魔境(ジャック・グラウンド)に現れた異次元魔境④

ニ投稿目です!

 ―――時は間もなく、七時になろうとしていた。


 会場の準備は整い、そこにはシアンの客達が和やかに話をする“異空間”が出来上がっていた。

 そして【ハウス】の住民達はその光景にヒソヒソとささやき合いながらも、まさかこれ以上の混沌(カオス)はもう無いだろうと信じていた。

 ……その時迄は。


 そう、その時突然、妖精や精霊達が灯す明かりという明かりが、全て消えたのだ。


 俺達は何事かとざわめき始め、何が起こったのかを理解しようと努めた。だが、闇の中で一際大きな悲鳴が上がる。


「うわぁ! ちょっと急に消すなよ!? 今、麺を茹でてるんだからさぁっ!!」


 ……そんなシアンの呑気な声のおかげで、俺達はパニックに陥る事は無かった。

 皆が息を潜め辺りの様子を伺っていると、ふと闇の中から鈴の鳴るような美しい声響いた。


「……フン、来てやったぞ」


 不機嫌そうなその声は、何故か俺達の上から響いてきた。

 俺達は一斉に月の浮かぶ空を見上げる。


 そこには、ゆるいウェーブのかかった金の長い髪を靡かせる美しい少女が、空に浮かんでいた。

 見かけはクロやイヴとはさほど変わらず、まぁ五、六歳といったところか。

 だが驚くべきはその背後に、禍々しい深紅の翼が伸びている事。

 そして慄くべきは、自身の手に嵌めた漆黒のつけ爪(指甲套)を弄びながら、不遜な態度でこちらを見下ろすその邪悪なる存在の全て。


 ―――明らかに人外だった。


 俺達が唖然と見上げていると、ロロノアが震える声で言ってきた。


「……先輩……、あれ……もしかしてヴァンパイアの始祖【夜の覇王ルナ・シー・エルム】じゃ……?」

「んな馬鹿な……」


 【夜の覇王ルナ・シー・エルム】

 それはかつて、もう一体のいたヴァンパイアの始祖【ドン・シー・ラース】と覇権を掛けて争い、単騎で打ち勝ったと伝説を残す闇の女帝だ。

 そしてヒューマンタイプの魔物の、最強の一角でもある。

 目の前の存在が信じられず、息すら忘れ俺達が空を見つめていると、シアンが少女に向かって声を掛けた。


「エル、来てくれのは嬉しいけど言ったじゃん。ちょっとは自重してくれよ。あ、精霊達もエルに気を遣って、明かり消さなくても大丈夫だぞ。あいつ“太陽の光”以外は平気だから」


 シアンの言葉と共に、また辺りがふわりと光に満ち始めた。

 だが空に浮かぶ少女は、口元をへの字に歪めながらシアンを睨んでいる。


「はっ、誇り高き妾が人間の真似事? 笑わせるでないわ」

「じゃあ来るなよ……。……あ! 住民の皆さん! すみませんこの子はちょっと厨二病の気が有る、ただの女の子なんです。ご安心くださいっ! 背中のは飾りだし……飛んでるのは多分、糸か何かです! イリュージョ……」

「黙れっ! お前にだけは言われたくないわっ!!」


 俺達に向かって、突然笑顔でそう言い出したシアンだったが、もはや疑う余地は無くなってきてる。

 少女は苛立たしげにシアンに怒鳴ったが、パスタを茹で続けるシアンのと少女の間に、すっと立ちはだかる人影があった。

 教皇アスモディア様と大神官セレン様だ。

 聖なる御二方は、真っ直ぐと少女を睨みながら言い放つ。


「付け上がるな。今宵の主役、貴様では無い!」

「ほぅ? お前達、まだ達磨にされ足りんか。いいぞ? 貴様らなぞ腹の足しにもならんが、いい余興にはなる。何度でも斬り裂いてくれようぞ」


 教皇様達が構えと同時に、少女のつけ爪(指甲套)が突然姿を変えた。

 伸び上がり姿を変えたそれは、三日月の形を映した巨大な大鎌……【デスサイズ】。

 その鎌を見て、ロロノアが震えながら俺の服の裾を引っ張ってくる。


「ほらほら先輩! あれ、ヴァンパイアの始祖が愛用してるって言う“デスサイズ”じゃないですか!? やっぱ本物ですよっ! はっ、はわゎぁっ……」


 ちっ、だから言うなってんだよ。世の中分かってても認めたくない物ってのがあるんだ。


 デスサイズを構えた少女と教皇様達から、凄まじい覇気が溢れ出す。

 シアンとガラムの手合わせを見てる俺達は、流石にその程度じゃ倒れることはしない。

 ただ、ふと思う。


 ―――……これって、何の集まりだっけ?



 俺がそんな現実逃避をしていると、突然辺りが日が差したように明るくなり、一触即発のその場に目が眩むほどに眩しい光の球が降りてきた。

 それは白く柔らかな、何処か“聖なる物”を感じさせる光……。


 ―――……って、今度はなんだ? いやもういい。何も突っ込まん。俺はもう知らん!


 光の球はふわりふわりと降りてきて、少女と同じ高さに留まると、ゆっくりとその光は収まっていった。

 やがて光の中から現れたのは、四対の純白の翼を背に生やした……。


「天使様!? しかも四対の翼って、最高位の天使長様……大天使様っ! なんで!!?」


 ……うん。もう、俺の心の代弁はお前に任せた、ロロノア。


 ……まさかこれもシアンの知り合いか? そう思ってシアンを見れば、シアンはパスタの湯切りをしながらポカンと口を開けていた。そしてハッと我に返った様に、大天使様に声を掛ける。


「……あの、どちら様ですか?」


 ―――っ知り合いじゃなかった!


 俺が心からホッとしていると、大天使様はどこか焦ったようにシアンにまくし立て始めた。


「ちょっ、イノンセラよ! せっかく来たのに失礼でしょ!?」


 ……イノンセラ……聞いたことある。確か天使団№6弓兵団を率いる天使長の名で……。


 いやいや、嘘だろ?


 シアンは湯切りしたパスタを皿に取り分けながら、『あぁ』と頷いた。


「髪型変えました? 誰か分かりませんでしたよ(天使長は全員顔が同じだから)。でもそれも、とてもお似合いですね。可愛らしいと思います」


 シアンがそう言ってにこりと笑えば、途端大天使様はどこかもじもじとしながら俯き、口を尖らせながらぶつぶつと言い始めた。

 ……てか、やっぱ知り合いかよ。期待した俺が馬鹿だった……。


「そ、そんな事っ……ないし……? それにそーゆー事、シアンは誰にでも言ってるでしょ?」

「仰る意味が分かりませんが、イノンセラ様にしか言ってませんよ!(他の天使長には言ったことない!)」

「なっ!? お、落として持ち上げるとか……っもぅ! もういいわよ! 許してあげる!」


 何故か顔を赤らめ、あたふたとシアンに指を突きつける大天使様。

 そんな大天使様にその背後に浮いていた少女が、ふと思い出したようにデスサイズを突きつけた。


「どけ、小バエ。邪魔じゃ」

「あら? なんだか臭いと思ったら、夜行性の根暗さんじゃない。そんなとこにいたの? 視界に入れたくなくて気付かなかったわ」


 ―――……先程の様子からは想像もつかない、刺々しい嫌味を言う天使長様。その御肢体からもまた、凄まじい覇気が吹き出し始めた。


 俺はこの時心底後悔していた。

 ……あーあ、シアン達の練習試合なんざ見るんじゃなかった。もう、気絶させてくれよ……と。


 俺がちょっと泣きそうになっていた次の瞬間、天使様はどこから取り出したのか、目視出来ぬ速さで構えた弓から、矢を放っていた。

 そして少女も、ノーモーションで躊躇なくデスサイズを振り降ろしている。


 互いの軌道が空気の摩擦で燃え、輝いている。

 その輝きを呆然と見つめた後、俺は目を綴じ、愛する者へと祈った。



 ―――……ごめんな、息子に娘達よ。父さんな……多分もう、帰れねぇわ……。



 俺達は次に訪れるであろう衝撃に身を強張らせ、固く目をつぶって身構えた。


「―――……?」


 だがいつまで経っても衝撃は来ず、恐る恐るに目を開けてみる。

 するとそこには何故か、先程まで子供達と一緒に遊んでいた筈のクリスティーちゃんが、少女と大天使様の間に割って入っていた。

 クリスティーちゃんは腕をクロスさせるようにして、右手でデスサイズの刃を受け止め、左手で放たれた光の矢を掴み上げている。

 ニコニコと微笑むクリスティーちゃんを、少女と大天使様は微動だにせず、目を見開き見つめていた。


 互いの戦意が消えた頃、クリスティーちゃんはデスサイズの刃を離し、そして矢を大天使様に返しながら笑顔で言った。


「喧嘩は駄目ですよ? 今日はクロくんのお誕生日なんですから。ね、仲良くしましょう!」


 ……な、なにが……起きた? 


 俺はガタガタと震える身体を必死で操り、事の元凶であるシアンに目をやった。

 シアンはパスタにオタマでソースを掛けながら上空を睨見上げ、不機嫌に少女と大天使様に言う。


「―――……ていうかさ、注意書きに書いてたろエル。“溶け込める人”って。……すみませんがイノンセラ様とエルは、今回帰っていただけますか?」


 ……。


「……」

「……」


 少女と大天使様はシアンの言葉にションボリと俯き、並んでフヨフヨと力無く地面に降りてきた。

 そして例の、あの大人ひと抱えほどの大きさの箱を、それぞれテーブルに置きクロに声を掛ける。


「クロくんごめんね、これはクロくんに私()からよ。―――……私……帰るねっ」


 大天使様はそう言うと踵を返し、光の矢となり飛び去っていった。

 何か可哀想な気がした……が、多分同情の余地は無いような気がする。


 続いて少女も、鼻を鳴らしながら言い放つ。


「ふん、こんなパーティーなど、妾は来たくなかったのじゃ……。だが折角の誕生日じゃ。プレゼントの一つもなくば寂しかろうと思ってな。……クロスケよ。この箱、妾が勝ち取ったものだということを忘れるでないぞっ!」


 そして、少女も夜空の月に向かって飛び去って行った。

 何だか可哀想な……以下同文。


 子供達も唖然もそれを見送り、その姿が彼方へと消えた頃、シアンはポツリと励ます様に子供達に声を掛けた。


「天使さん達やエルちゃんの所には、また今度別の機会に遊びに行こうな」

「「……うん」」


 俺はそれを、何も聞こえなかった事にした。


 それからシアンは気を取り直すように顔を上げ、明るい声で俺達に向かって声を上げた。


「さぁ、少しゴタゴタもありましたが、丁度時間となりました! ささやかなものですが、どうぞ食べていってくださいっ」


 そう言ったシアンの前には、美味そうなパスタが幾皿も並べられている……。


 彼方此方から小さな拍手が起こり、そしてささやか(?)なそのホームパーティは始まったのだった。




 ◆◆




 妖精達が灯す光のステージで、グレイちゃんが見事なピアノ演奏をし、それにあわせてリリーちゃんがシックな歌を歌う。

 それは正に夢のような空間だ。

 そこで皆が美味そうにパスタを頬張る中、俺はふと気になって、テーブルに並ぶ例の【箱】の一つを【鑑定】にかけてみた。




 ■■■■■■


 種別 神獣〈フェンリル〉

 名前 不思議な卵シルバー(仮)

 Lv  NODATA


 職業 NODATA


 HP:NODATA

 MP:NODATA



 ■■■■■■





 ……。



 …………。




 ―――……見なきゃよかった!



メモ


エル    (ヘビさん)       

ルドルフ  (カメさん)        

ガラム   (わんちゃん)        

天使    (龍さん)        

精霊王&勇者(怪鳥さん)  

フィル   (ピヨちゃん)     

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 外伝のエルさんの話から考えると、付け爪ってレイスの爪で合っていますか? [一言] 気持ちだけのプレゼントでこれとは……完全に本気ですね。クロのテイマー生活は伝説になりそう。
2020/07/18 23:18 退会済み
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