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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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魔境(ジャック・グラウンド)に現れた異次元魔境①

※現在の話は“最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】”の“プロローグ”から読んで頂ければ一応分かるように書いています。

また、それ以前の話は“裏話”となります。そちらも読んでもらえれば『あー、それがこうなってるのか』と、読んでいただけると思います。


 《ロロノア視点》


 僕はロロノア。なんてこと無い一般人だ。

 とある片田舎で平凡に育ち、親の勧めで学園都市【ノルマン】に入学した。

 そこで魔獣学を選考し、卒業後倍率の厳しい教師枠に運良く准教授として滑り込ませてもらえた。

 そして更に准教授として二年の下積みをした後、ジル教授の後継が出来るようにと、四ヶ月前に獣達の大陸【ジャック・グラウンド】にやって来たのだった。


 僕は実を言えば、この辺境ノ地【ジャックグラウンド】の大地を踏むことをとても楽しみにしていた。

 もとから獣好きというのも一つの理由であるが、最大の理由はやはり、ノルマン始まって以来『“大魔法使いガルシア”の再来』と噂されるシアン教授が、この大陸に居たからだ。

 シアン教授はこの世界に【鑑定】と神官達による【神降ろしの儀】を普及させた大教皇ファーシルが、晩年に引き取った里子にあたる。

 教会で仕込まれた教義や礼儀作法は完璧で、幼少の頃から神童と呼ばれる程に文武に類稀なる才能を発揮した。

 七歳で学園に入学してからもその勢いは衰えず、十歳で最年少卒業を認定され、十一歳で名誉教授に認定されたそうだ。

 様々な躍進的な論文を発表し、十五歳の頃には学園側がその才を手放すことを恐れる程の存在となった。

 そこで学園側は、シアン教授を手放さない為、シアン教授に【自由】を与えた。

 何をしても良い。だからどうか籍を学園に置くようにと提示したそうだ。

 シアン教授はその提示を受け入れ、何にも縛られることなく、かと言って奢ることもなく学園への貢献に勤めた。


 そして十八歳になった頃、シアン教授は新たな伝説を打ち立てた。


 テイマー資格試験に挑み、かつて誰一人なし得たことのないパーフェクト回答をしてみせたのだ。

 そして初めてテイムした獣と言うのが、かつて大魔法使いガルシアの側に寄り添っていたと伝えられている、伝説の【黒き聖獣】だったのだ。

 ……ただ、黒き聖獣には不吉な噂もある。

 かつて世界を巻き込んだ大戦のさなか、仲間を裏切り聖獣達を諸共に地に沈めた獣とも言われていて、裏切りの象徴でもあるだとか……。

 とはいえ【黒き聖獣】は【学園都市ノルマン】に於いてはそんな不吉さよりも、より重要な意味をもった。

 そしてそれ以降、シアン教授は“ガルシアの再来”と謳われるようになったのだった。


 それは誰もが憧れる、雲の上の存在。

 その生き神の様な人が研究の為にと腰を据える、獣達の大陸【ジャック・グラウンド】に行くとなって、胸踊らない筈が無かった。



 ◆



「よう、ロロ! すまんなぁ中々飯に誘えなくて」

「あ、いえいえお構いなく。クロくんの具合は如何でしょうか?」

「いやそれがさぁ。本来まだ面会謝絶状態の筈なのに、もう医者に外出許可まで貰ってさ? 四歳なのに、大人でも辛い症状に精神力で耐えてんだって。もぅ天才過ぎて参るよなぁっ!」


 この目に涙を浮かべながら熱弁する親馬鹿……。

 この方こそが、僕等の憧れて止まなかったシアン教授その本人だった。


 ―――何だか想像してたより気さくな人なんだよなぁ。あ、いやいい意味でね。


 なんせ、僕がジャックグラウンドに踏み込んで、初めて僕の名前を覚えてくれた人が、なんとシアン教授だったのだ。

 僕なんか本来教授にとって、取るに足らない小さな存在であるに関わらず、油断をすればいつだって向こうから先に挨拶の声を掛けてくれた。

 だからとりあえず、僕から先に声を掛けねばと、僕は辺りの気配を読むことを覚えた。……まあ、この時鍛えた気配察知の能力は、別のシーンで役立ったりもしたんだけど、それはまた別の機会にでも話そう。

 ともかく今では僕も、シアン教授から“ロロ”と愛称で呼ばれるほど、お近づきになれていた。



 ―――……うん。ほんと、ジャック・グラウンド(ここ)に来てよかった!!



 まあ、そんな僕の感動はさて置き、そんないつも気さくなシアン教授だけど、その実力は噂以上なのであった。

 以前目の当たりにした、シアン教授とその親戚の方との模擬戦は、目を疑うほど壮絶なものだった。

 そしてシアン教授と相対した“親戚のおじさん”とやらがまた化物みたいに強い。

 以前『あれ程の強さで、なぜ世に名が上がらないのか』と尋ねてみれば、シアン教授は『シャイな人なんだ』と笑っていた……。

 ……そう言う物なのかなぁ?

 まぁ疑問に思えど、納得するより無かった。


 そんなシアン教授が、目に入れても痛く無いとばかりに溺愛しているのが二人の子供、共に四歳のイヴちゃんとクロくんだ。

 二人はシアン教授がこのジャック・グラウンドに来て5年目の年、捨て置かれていた所を拾われ、保護されたそうだ。

 以来教授は、二人を我が子のように育てている。

 いや、我が子のようにというのは、少し違うかも知れない。

 だってその絆はもう“本物の家族”で何ら間違いはないんだから。


 まあそれからも、クロくんに病気が見つかって手術を受けたり、何やかんやあったのだけど、それはまぁクロくんも元気そうだから良い。

 そしてこの10月に入って間もなくの頃、シアン教授は僕達を誘いに来てこう言ったんだ。


「今日、クロの誕生日なんだ。下でオレの知り合い誘ってちょっとしたホームパーティーみたいなのしようと思っててさ。よかったらみんなも来てくれよ。リリーの店の酒、今日は全部オレのおごりにするから」


 まぁ当然、断る理由なんてなく僕は頷いた。

 だけどその瞬間ジル先輩を含め、【ハウス】の皆の顔には緊張が走った気がした。

 僕は不思議に思い、シアン教授が鼻歌交じりに去って行った後、ジル先輩に尋ねてみた。


「どうかしたんですか? ジル先輩」

「……お前は、相変わらずだな。シアンの話を聞いてなかったのか?」

「え? ホームパーティーですよね? 楽しみですよねぇ、プレゼント何にしましょうか……あ、そうだ。僕が前に作った魔物のフィギュアとかいい……」

「バッカ!!」


 僕の趣味は陶芸だ。この前、サーベルタイガーの置物を焼いたななんて思い出していると、突然ジル先輩から拳骨が降っていきた。


「え? なっ……痛いです!」


 僕は抗議の声を上げたが、ジル先輩は無視して、尚も緊張した面持ちで僕に言う。


「シアンの奴……『オレの知り合い誘って』って言ってたろ?」

「え? あぁ、例の凄く強いおじさんの事ですかね。後、黒い聖獣ルドルフ様とか?」


 僕がふと思い出しそういえば、ジル先輩は首を振りながらポツリと言った。


「それだけで済むわきゃねぇ……」


 ジル先輩、今なんて? 伝説の黒き聖獣ルドルフ様を“それだけ”って……?

 僕がなんとも不遜な発言だと一歩引いていると、ジル先輩は僕に確認するように聞いてきた。


「あの夜……七色に輝く髪を持つ少年を見なかったか?」


 僕はふと三ヶ月程前に、リリーさんのお店でそんな子を見た事を思い出した。


「あぁ、ええ。一度見ました」

「それな、この世界の精霊と妖精を束ねる【精霊王】なんだぜ」

「!?」

「シアンにくっついてるロゼは、その【精霊王】の愛し子だよ」


 え!? あのちょっと残念な妖精、食いしん坊ロゼくんが!? 愛し子!!?


「しかもシアンって【大教皇ファーシル】の里子だろ? それが五歳……つまり【神降りの儀】の年に、ホームパーティーって言いやがったんだ……」

「……え、知り合いって……まさか……」

「……」


 僕は顔を上げ、他の【ハウス】の皆さんを見回したが、誰も僕と目を合わせてくれようとはしなかった……。



 ◇




 そして夕方六時半を回った頃。

 黄昏の残照も消えようかというその時、淡く光る鈴を持った妖精達がどこからとも無く集まり始め、辺りをほんわりと照らし上げた。


 空には2つの満月が輝き、シアンさんと運送屋のグレイちゃんが、テキパキとテーブルセッティングを進めている。

 二人の子供は臆することなく、妖精や精霊が描く光の軌跡を追い掛け遊んでいて、リリーさんと女医さんは、セッティングされたテーブルに皿やグラスを並べていっている。


 僕はハラハラとその様子を眺めながら、いても立ってもいられなくなり、声を上げた。


「シアン教授! 僕も手伝います!」

「すげぇなお前!」


 ジル先輩がすかさず目を剥いて突っ込んできた。

 だって、何かをしていたほうが、まだ気が紛れる。

 シアン教授は僕に笑顔で答えてくれた。


「サンキュー、ロロ! んじゃ、椅子運ぶの手伝ってくれるか?」

「喜んで!」

「やっぱすげぇなお前!」


 そして僕はこの魔境(ジャック・グラウンド)に完成しつつある、より濃い魔境を生み出す手伝いに従事したのだった。



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