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番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件⑧〜

 あれからメンタル的な意味で命からがら学園を後にしたオレは、御者を雇うと1頭だての馬車でリーナと共に西へと向かって早急に出発した。

 目指すは当然グリプス大迷宮だ。


 因みに馬車と御者は物々交換で手に入れた。

 オレの作った雑貨や木彫り細工が信じられないくらいの値段で引き取って貰えたのだ。 


 金銭的な問題については学園長から袖の下を渡されたりもしていたが、それに手を付ける気は一切ない。

 いつかリーナを送り返すついでにお返しするつもりだった。

 もうな。これ以上人間関係で揉めたくない。マジでもう……繋がりたくもない……。


 というのも、それはオレ達が街を出る直前の事だった。

 あのマリーネットお嬢様が例の騒ぎでドMと勘違いされ、ならず者に襲われそうになっている所に遭遇したのだ。

 当然助けたよ。

 いや、不本意ながら一応オレのせいで勘違いが発生したわけでもあるし、人として助けるよね? 普通。


 ……だがそしたら何故か求婚された。


「妾はいくら取られても構いませんわ。ただ……また私を叱って、そして叩いてくださいまし♡」


 逃げたよ。

 当たり前だよ。



「ご主人、どうかされましたか?」


 俺の大きなため息を聞いてか、御者が声をかけてくれた。


「何でもないです。少し考え事をしていただけですよ」


 御者をしてくれているのはジュリさん。

 年齢は確か二十歳と言っていた。

 どこかまったりとしていて、鼻にそばかすを浮かせた、牧歌的で朗らかな女性である。

 動物好きがたたってこの職についたそうなのだが、女という事で中々雇用先が見つからず、そんな時にオレ達と出会ったとの事。

 だが俺の見立てでは、ジュリさんはかなり動物の扱いに長けているし、何より馬を大切にする。

 その情熱と経験は、きっと金では買えない価値があるとオレは思った訳だ。


 オレの返しにジュリさんはほのぼのした口調で馬の調子について話してくれた。


「そうですかぁ。いやね、馬車酔いでもされたかと思いましたよ。ご主人の馬はいい馬なんですが、どうもなにかストレスを感じやすいみたいで集中してくれないんですよぉ。だから手綱握ってても、あっちへフラフラこっちへフラフラしてしまいましてねぇ」


 そう言えば、さっきから静かと思ったらリーナが青い顔して蹲っている。

 馬車酔いか? ちょっと可哀相だな……。


「ちょっと止めてくれ」

「え? は、はい」


 馬車から降り、オレは馬の方に回った。

 そして馬を観察する。


「あぁ成る程。確かに気になるよな」


 俺は馬に一言そう話しかけると、自分の荷物袋から使い慣れたブラシとナイフ、それから精油とハードワックスを出した。


「ご主人? ……何してるんですか?」


 不審げにオレを見守るジュリさんに、オレは手を動かしながら説明した。


「コイツ、自分の鬣が気になって集中出来てないんですよ。ジュリさんなら分かると思うけど、動物達にもそれぞれ個性や好みがあるんです。俺の友達にも鬣に凄い拘る奴がいて、ストレスにならないように、よくこうして手入れしてやってましたよ」

「いえ。不思議なのはそこじゃなくて、なんでスタイルがリーゼントなのかって所です」


 あれ? だめだった?

 ルドルフには“タイマンの時にいい”って大ウケだったんだけどな。


「……センスはともかく、ご主人は凄いですねぇ。この子すっかり落ち着きましたよ。ちょっと見ただけで見抜けるとは、素晴らしい慧眼ですね。ご友人と言うその馬とも、きっとご主人と強い絆で繋がってたんでしょうねぇ」


「あー……馬じゃないっすよ。馬鹿だけど」


 ジュリさんの優しい言葉にオレはふと、無性にルドルフに会いたくなってしまった。

 だけどまだ別れて2月程だ。

 こんなに早くに会いたいなんて呼び出したら、絶対ルドルフに「ダセェ」と笑われてしまう……。

 しばし葛藤と闘いながら考え抜いた俺は、ひとつジュリさんに尋ねてみた。


「……ジュリさん。俺のダチに会ってみたいてすか?」

「そうですねぇ。私動物は大好きなんで、機会があれば是非会いたいですねぇ」


 その言葉にオレは小さく笑い、空砲を空に三度打ち上げた。

 オレとルドルフだけに意味の分かる合図だ。


 呼び出したのはオレが会いたかったんじゃなくて、ジュリさんが会いたがったんだ。なんて、アイツにそんな言い訳が通じるかな?


「わぁ、びっくりしたぁ。急にどうしたんですか? ご主人」

「いえね、オレの親友に会わせてあげようと思いまして。ま、ちょっと癖のあるやつですけど」

「は?」


 と、その時。晴天の空に一筋の雷が走った。

 そしてそれを合図に黒い雲が湧き始め、あっという間に辺りが暗くなっていく。

 ジュリさんが不安気に空を見詰める。


「な、なんですか? コレは一体……」


 ―――ドドドドーーーーン!!


 ジュリさんが口を開いた次の瞬間、目の前に雷が落ちた。


 おーい、ルドルフ。

 これ、めちゃくちゃレイス様のお披露目会を意識してパクってるだろ。

 お前がやるとなんか……見てて恥ずかしいわー……。


 心にやるせないような痛みを感じつつも、オレの胸は嬉しさでいっぱいになる。


「おう、呼んだか? ガルシア」


 土煙の中佇む、泣きたくなるほど懐かしいその影に。

 だけどオレはその感情を隠し、からかうように答える。


「あぁ。でも思ったより速かったな? 近くに居たのか?」

「なっ! ちがっ、別に気になって見に来たとかじゃねーからな!! たまたまだよっっ!!」



 どうやらルドルフには、あの薄っぺらい言い訳は言う必要はなさそうだな。

 久しぶり! 相棒!


 ジュリさんはそんなオレ達を、唖然とした表情で見つめていた。





 ◆◆





 ―――それが一体、何でこうなった?


 ルドルフとの再会から僅かに時間後。

 オレは馬車の中で白目を向きながら、先程の出来事を脳内で反芻していた。


 オレの呻きを聞き付けてか、御者が声をかけてくる。


「いかがされました? 御主人様。もし御加減が悪いのでしたら近場の宿にて私がマッサージを施させて頂きますが。こう見えて私、ツボ押しの達人に御座いますゆえ」

「やかましい! 牧歌的なジュリさんは、どこに行った!?」

「うふふ、ジュリさんだなんて畏れ多いです。私のことはどうか“下僕”もしくは“雌馬”とでもお呼びください」


 御者台からの返しに、オレは頭を掻きむしりながら身悶えた。




 ―――時は少し遡る。


「しかしたまたまにしても早すぎだろ。なんかあったのか?」

「あぁ、1月前にラムガル様に会ってな。レイス様の依頼を快く受けてくれた礼に、コレをお前に貸してやるってよ」


 そう言いながらルドルフが背から降ろした物を見て、俺は手を叩いて躍り上がった。


「ま、魔剣ツヴァイ!? マジで!! 良いの!? いつまで!?」


 オレの言葉に、ルドルフはそっぽを向き、面白くなさそうに答えた。


「……お前が死ぬ時まで、だとよ」

「あぁ……」


 人の寿命は100年もない。比べて聖獣達は千年以上だ。更にマナの摂取量次第では、半永久的に生きる事が出来るとも言われている。

 目を合わそうとしないルドルフに、オレは笑いながら軽い口調で言った。


「心配すんなよ。オレきっと長生きするぜ? だって死んだらこの魔剣、返さなくちゃいけないんだろ?」

「そうだな。せいぜい長生きしろ!」


 そう吐き捨て、用事を済ませたルドルフはさっさと立ち去ろうと背を向けた。

 だけどオレはその背を引き留めない。

 何故なら、ルドルフが魔王様から魔剣を預かり、なぜ一ヶ月もの間オレのとこに来ず、だけど近くをウロウロしてたのかは、間違いなく俺と同じ理由だってことを知ってるからだ。


「おぅ。じゃ、またな」





「待ってください!」


 俺とルドルフは、その声に思わず振り返った。

 そこには、震えながらも必死に立つ、ジュリさんの姿がある。

 オレ達が見守る中、ジュリさんは言った。


「に、人間のメスはお好きですか!?」


 ……ん?


「……ちっ。何事かと思えばくっだらねぇ。いいや、興味ねぇよ。テメェみてぇな芋女。俺の女になりたきゃ、もっとマブくなって出直してきな」


 ……いや、おいルドルフ。普通に答えんなよ。おかしいって分かるだろ?!


「あふぅ♡」


 ほんでそこっ! クラっときてんじゃねぇぇ!!



 ◆



 ―――そして時は今に戻る。

 ……まぁ始めっから動物好きとは聞いていたよ? 聞いていたんだけどさ、こういうことだったの? 


「勘違いしないで下さいね? 以前の私の“動物好き”はあくまで愛でる為。だけどルドルフ様は違う。特別なのです。ルドルフ様を目にした時から私のメスの部分が叫ぶのです。あの方に愛でられたいと!!」


 お願いだからもうやめて。

 お友達のそんなコトやあんなコト……マジで想像したくないからっ。


「だから私は未来の夫であるルドルフ様に認めていただく為に、芋臭い自分を捨てたのです」


 捨てないで。お願いします。


「そしてルドルフ様のご友人であ御主人様のお側にお仕えさせて頂くことこそが、今の私にとってあの方に繋がる唯一の糸口。……そう。ガルシア様こそ私の赤い糸なのでございます! 何でもいたします。例えこの体が欲しいと言われれば、それすらも受ける覚悟にございます! だからどうか私を捨てないでくださいまし、御主人様!」


 捨てさせて。マジで……。


「お返事がない?わかりました。本日の宿で、お相手仕りま………」

「やめぇえぇぇぇーっっ!!!!」


 オレはとうとう立ち上がり絶叫した。

 そしてふと視線を感じ隣を見る。

 するとそこには馬車酔いから多少復活したリーナが俺を見上げていた。

 もはや嫌な予感しかしない……と思っていた矢先。


「……御主人様♡」


 リーナがそうポツリと呟き、上目遣いで寄せても上げてもまるで無い谷間をオレに突き出してくる。

 オレは平野を見下ろしながら、冷ややかに言い放った。


「張っ倒すぞ?」

「……ん♡ どうぞ」


 顔を赤らめ素直に右頬を差し出してくるリーナに、オレはもう脱力する事しかできなかった。







 拝啓


 聖域の皆様へ


 人間の世界とは本当に恐ろしい所です。

 舐めてました。

 ホント、すみません。もう、……もう帰りたい……マジで…………。






10話まで行きそうな気配‥。

文字数増やして突き進んでるのですが、終わらない‥


ブクマ有難う御座います!

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